ドイツのラインメタルは「12週間以内に装甲車輌の生産や修理を行う工場をウクライナ西部に開設する」と、ウクライナも「トルコのBAYKARがUCAV製造工場の建設を開始した」と明かし、ロシアはトルコの動きについて「非友好国的だ」と批判している。
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世界を西側陣営とロシア・中国陣営に分けて考えるのは無理があり、利害を共有できるかどうかを判断した方が健全
ラインメタルのパッパーガー最高経営責任者は3月上旬「ウクライナと2億ユーロの投資を必要とする戦車工場の建設計画を話し合っている。この工場ではパンターを年間400輌も生産することが可能だ」と明かして注目を集めたが、同氏は10日「12週間以内に装甲車輌の生産や修理を行う工場をウクライナ西部に開設する予定だ」と述べて注目を集めている。
パッパーガー氏が披露した計画は「ウクライナの国営企業ウクロボロンプロムと協力して12週間以内に工場をウクライナ西部に開設し、ウクライナ人労働者を訓練してフクス装甲兵員輸送車の生産や修理を行う」というもので、同工場では他の軍用車輌も修理する計画だが、噂されていたパンターの生産については触れておらず、フクス装甲兵員輸送車の生産が起動に乗った後に生産するのか、それもパンターの生産計画が行き詰まっているのかは不明だ。
ただパンターはレオパルト2A4の車体を流用しているため、ラインメタルと関係が悪化しているKMWが「我々の権利を犯している(ラインメタル側はキールの生産拠点をMaschinenbau Kielから引き継いでいるためレオパルト2A4は自社の権利に基いていると主張)」と訴えており、両社は法廷で「レオパルト2は誰のものなのか」を争っている。
恐らくウクライナでパンターを生産するためには政府の承認が必要になるため、法的な問題を解決しないとパンターの生産は開始できないのかもしれない。
一方でウクライナのカムイシン戦略産業相も「BAYKARがUCAV製造工場の建設を開始した。これは書類上の存在ではなく現実の話だ。数年前に合意したバイラクタルの大規模工場のことだ」と明かし、こちらも注目を集めている。
トルコのエルドアン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は2020年10月、国防や防衛産業に関連した21の分野で2ヶ国間協力を拡大させる法的枠組みを含む軍事協定に署名、この協定について当時のトルコメディアは「航空機用エンジン、装甲車両向けディーゼルエンジンの共同開発、TB2の共同生産に関する内容が含まれている」と報じていたが、BAYKARが製造するAkinciにAI-450S、開発中のKızılelmaにAI-25、TAIが開発中のATAK2にTV3-117VMAの供給が実際に始まっており、トルコの次世代巡航ミサイルにもAI-35の採用が決まっている。
装甲車両向けディーゼルエンジンの共同開発については情報がないが、アルタイ向けに開発中の「国産ディーゼルエンジン」にウクライナ企業が参加している可能性があり、BAYKARはロシアとの戦争が勃発してもTB2の共同生産を実行に移すため昨年8月に工場の建設用地を取得、当時のロシアはウクライナで武器を生産するというトルコの動きについて「非軍事化の対象なので建設される工場は破壊する」と脅していたが、BAYKARは「既に工場の詳細設計を終えており2年以内に工場を完成させたい」と述べていた。
つまりBAYKARは合意を守るため戦争中にもかかわらず、ウクライナ国内の何処かに「UCAVを製造するための工場を建設し始めた」という意味で、公開済みの工場イメージにはTB2だけでなくAkinci、TB3、TB4(開発中と噂されているステルス性能を重視したタイプ)が描かれているのが興味深い。
因みにロシア上院の防衛・安全保障委員会のボンダレフ委員長は「残念ながらここ数週間の動きを見る限り、トルコは中立国から非友好国へと徐々に変わり始めている」と国営メディアに述べ、ここ数週間の動きとは「侵攻500日目に合わせてトルコ滞在が義務付けられていたアゾフ連隊指揮官らのウクライナ帰国を認めたこと」と「ウクライナのNATO加盟を支持したこと」を指しており、このような行為は「背中を刺す以外の何者でもない」と批判している。
ペスコフ大統領報道官もBAYKARが工場建設を開始したことに触れ「トルコはウクライナを含むあらゆる国との関係を発展させる絶対的な権利を有してるが、その関係がパートナーのロシアに敵対しないものであることを望んでいる」と述べ、ロシアとトルコの関係について「非常に緊密な相互利益に基づいた多面的な関係だが相違点がある分野も存在する」と指摘した。
日本人の価値観からすると米国とロシアの間で立ち振る舞うインドやトルコの外交に納得が行かないかもしれないが、これは単純に個々の事案で「どちらに国益があるのか」を判断しているに過ぎず、良くも悪くも自国の国益が最優先なため、今回の事例だけを見て「トルコはロシアを見限り始めた」と考えれば直ぐに期待を裏切られることになるだろう。
欧米と一部のアジア諸国を除けば「Aという事案では米国と握手しても、Bという事案ではロシアと握手する」という国益優先の考え方は珍しくなく、このような国々を西側陣営やロシア・中国陣営に分けて考えるのは無理があり、案件毎に利害を共有できるかどうかを判断した方が健全といえる。
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※アイキャッチ画像の出典:Talha Işık/CC BY-SA 4.0
最近バイラクタルが活躍しているという話を聞かないのは、撃ち落されて在庫がないのか
使いたくても使えない状況なのか、あるいは活躍しているけども秘密にしているのか
どれなんでしょうね?
TB2に関してはわざわざ報道するまでも無くなったというのもあると思いますがロシアの電子戦の影響でまともに運用できてないという話も聞きますね。 まあハイマースでも同じような話は聞きましたが最近は改善されていると言うので妨害と改善のいたちごっこのような気がしますが。
この間のリヴィウ空襲見てるとたとえウクライナ西部でもミサイル攻撃が通用しそう。 まあそんなことはトルコだってドイツだって知ってるのでポーランド国境との超ギリギリのところに建てるのかな? 工場建設でただでさえ逼迫している対空ミサイルがさらに割かれることになるのでアメリカはもっとパトリオット供与してくれー
あるいはウクライナ侵攻から去年の5月までミサイル攻撃のなかったザカルパッチャ州など地理や政治的にロシアが攻撃しにくい地域ですね。ザカルパッチャ州は歴史的な経緯からウクライナ人に次いでハンガリー人の居住が多く、隣国ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル政権はハンガリー人の多い自治体に財政支援を行っていてハンガリー国旗が掲揚されている地域もあります。
トルコが自走砲の売却などウクライナ支援に本腰を入れつつある中でNATO加盟国でも親ロシアであるハンガリーはロシアからすると貴重な友邦であり、オルバーン首相の面子を潰すようなことはロシアとしても避けたいでしょう。
>世界を西側陣営とロシア・中国陣営に分けて考えるのは無理があり、利害を共有できるかどうかを判断した方が健全
まさに多極化の時代ですな。
西側陣営の影響力が落ちたとも言えますが。
現在進行系でロシアと距離を取り始めたCIS諸国なんかもそうですね。
弱体なロシアはどうか分かりませんが、
超大国中国と正面から対峙しようとしてる国なんて殆どありませんね
仕方ないです
いやほんと トルコ急速に西側に傾いてんな
結局 ロシアが怖くなくなったってことだろ。
プーチンの求心力があれほど低下しては
いつまでも組んでいていい相手じゃなくなったよ。
それにしても距離の置き方が露骨すぎる
親ロシア派はしきりに欧米の影響力低下を叫ぶけど、ロシアの国力低下・影響力の暴落っぷりはもう到底回復できないレベルだからね(笑)
元々トルコの最終的な目標はEU加盟なわけですから、インドや中国ほど第三者的な立場とは言えませんね。
トルコが交渉のテーブルの上に乗せてた案件が急に片付いて捕虜開放・工場建設というオマケまで付いてきた謎
スウェーデンのNATO加盟やUAV工場建設は見返りも大きいので
自国の利益のみを追求しただけとも言えるが
捕虜をロシアとの約束を破ってウクライナに帰国させたことは
中立な立場を大きく踏み越えた行為で
これまでのトルコの外交とは大きく違う
ロシアから距離を取り始めたと期待しても良いのでは?
エルドアン大統領が信用ならない人物なのはその通りですが
捕虜開放は「ロシアに対する背信行為をやりました!もう仲良くする気ありません!」という明確なメッセージですね。トルコはロシアと取引する余地を自分から無くしてみせた。
一昔前まで人権ナシ野蛮人扱いで西洋人から侵略や二枚舌外交をカマれてきたトルコやインドが、欧米手動の国際社会ルールを全面的に信用しないのは仕方ないかもですね。日本人は西洋人に裏切られた経験というのは少なく(喧嘩売ったら半殺しにされたけど降参したら経済発展できたという経験しかない)トルコとインドはもっともっと苦労してきているので、大人にネグレクトされた経験を持つ独立心旺盛なヤンキーみたいな感じ。
ウクライナが選択したにもかかわらず、積極的に口出しするなんて、未練タラタラのDV彼氏みたいでキモい
Rybarはラインメタルの新工場について、トランスカルパディアのルーマニア国境近くチョルノティシウ近郊に建設中だとしている。
リンク
少なくとも現行バージョンのTB2は対空ミサイルの的にしかならず、ロシアにとっては深刻な脅威ではなくなっています。
なので「怒るけど殴られはしない」という微妙な線を突いているわけですね。もちろん,ウクライナ側には「TB2は効果が薄くなりましたが、TB3やTB4へのアップグレードもご用意できます!(別料金)」とPR。
そして将来、ロシアがこの工場にミサイルを撃ち込むたびに、工場設備の修理交換で同じ設備が何度も繰り返し売れるという多毛作システム。
ビジネスとはこうやるものだ,と勉強になりますね。
トルコは等距離外交で実利を稼いでいましたがここ最近の動きは大分旗幟を鮮明にしているように感じる
揺り戻しも考えられはしますが
トルコの姿勢は以前と変わららないと思いますよ。
即ち自国の利益最優先。
国益優先なのは分かってる
それがに欧米側に振れてきているように感じているという話です
兵器工場新設はロシアにとっても相当苛立たしい事だと思いますよ
そこが良くわかりませんな
自己中な人がこっち(米国)に近付いて来ても、向こう(ロシア)に利益があればがあれば向こうに行くだけでしょう
エルドアン大統領の一挙手一投足を評価しても1ドルの価値もありませんよ
それとも、今回の戦争で、これでNATOからもEUからもトルコ側が引き出したいと思っていたことは全て引き出し切ったから、今までよりかはもう少しウクライナよりムーブでいこう、ということなんですかね・・?
開戦前から兵器送ること約束して実際にTB2を戦争中にも送ってるのに
ロシアの公式声明で中立国扱いだったってのがトルコの特殊性を分かりやすく表してると思う
今回のも一応文句言ってはいるけど怒るならTB2や装甲車・ロケット砲送ってる時点でもっと怒ってるだろう。工場が一年ちょいで製造開始っていっても先の話なのでおそらくロシアのライン越えはしていないだろうし(なんなら既に話はついてるかもね)
ミサイル飛んでくるかもしれんのに12週間以内に工場造るってことはトルコ仲介「役」に据えての年内での一時停戦で話進んでんじゃねーの?と思いました(小並感)
工場はトルコの顔でロシアが潰した場合は本当に距離を取る流れかな
トルコの技術者も居る工場を攻撃できるのかな?
こんなに大々的に発表しちゃって良いのかな?衛星使ってそれっぽい建物に片っ端からミサイル攻撃仕掛けてきそうだけど…
そんな攻撃精度と情報収集能力があれば、既に今ある工場や物資集積所等にもっと攻撃を加えているのでは?
それに、トルコとの関係を完全に切る気がないなら、トルコ系工場は狙えないでしょうし。
現行MBTと装輪APCではF35とTB2くらいの差があるような?同じAFVだからと言って両者に関連性があるかというとそうでもないのでは。
フクスはBTRの後継で雑多な輸入車の山が消耗された後の標準APCで整備するくらいの規模想定でもしないとあまり意味が無いように思える。
>欧米と一部のアジア諸国を除けば「Aという事案では米国と握手しても、Bという事案ではロシアと握手する」という国益優先の考え方は珍しくなく、このような国々を西側陣営やロシア・中国陣営に分けて考えるのは無理があり、案件毎に利害を共有できるかどうかを判断した方が健全といえる。
おっしゃりたいことはよくわかるのですが、ただ今回の一件は少し踏み込みすぎな気もしますし・・・。
アゾフの件は、方々で実は裏でなんらかの話があったという評判でしたが、武器製造は・・・。
逆に、今回の一件でウクライナ側に傾いたトルコは、バランスをとるためにロシア側に傾くためになんらかのことをするのでしょうか・・?(それこそロシア側に兵器工場を作る、もしくは売買とか・・・?)
どうなるんでしょうかね・・・?
「今のロシアからはこれ以上自国の利益になるプランを引き出せない」とトルコは判断したのかもしれません。
逆に欧米以上の魅力的なプランをロシアがトルコに提示できれば、トルコはロシアと握手をするかもしれません。
トルコやインド等は陣営ではなく利害で握手する国を選んでいるだけだと思います。
インドは対中パの観点からロシアと握手せざるを得ませんし。
ウクライナ軍のアゾフ連隊や第36独立海軍歩兵旅団の指揮官らを帰国させたり、BAYKARのUCAV製造工場建設開始やウクライナへのT-155自走砲供給&NATO加盟支持等で西欧寄りになったのではと言われていたトルコのエルドアン大統領でしたが……
NATO首脳会議出席の為にリトアニアへ来た途端
「スウェーデンのNATO加盟の前にトルコのEU入りを決める方が先」
と言い出し、見事な国益優先の無茶振りムーヴを決めてくれています
ロシア寄りに揺り戻しとまではいきませんが、なるほどトルコはそうきましたか・・。
これで、EU側が拒否ったらロシア寄りに行くぞという牽制もあるんでしょうかね・・?
地域大国にはそれぞれの事情や目的があるというだけの話なんだけど、トップの交代やら状況の変化やらで事情も目的も少しずつ変わっていくからな。動向を気にしていなかった国の情報を久しぶりに仕入れると「あれ?何でこんな事に?」って事はよくある。
借入金は日本が保証しています
あれこれ言われる日本の金の動きって正直裏あるのよな
ドイツもそうだけど、安い投資ではないのに攻撃されるリスクを負ってまでウクライナ領に工場を作るメリットって何だろうか
武器商人が儲からないってのは自国が全面戦争した場合だけで、死の商人ムーブならまだまだ儲かるって事ですかねドイツ?
「欧州情勢は複雑怪奇」と言って退陣した平沼内閣はこう言う状況を見て対処出来なかったんだなと今なら分かる