欧州関連

緊張感高まる東地中海、ギリシャがトルコに対して軍事力行使を示唆

トルコは周辺関係国との調整がないまま勝手に宣言したEEZ(排他的経済水域)内で油田の掘削調査を始めると言い出し、これに怒ったギリシャと軍事衝突する可能性が高まってきた。

参考:Greek Defence Minister: Turkey’s behaviour is aggressive but our powerful Armed Forces is a deterrent

欧州へのエネルギー供給ラインの支配権を巡る戦いは加熱するばかり

表面的にこの話を理解すれば東地中海の海底資源を巡る争いに見えるが、この争いの本質は欧州へのエネルギー供給ラインの支配権を巡る戦いと言える。

トルコとロシアは鋭く対立する局面も多いがエネルギー分野に関しては手を組んでおり、ロシアにとってトルコルートはウクライナルートを迂回(ロシアとウクライナは何度も天然ガスのパイプライン通行料で揉めており2014年に発生したクリミア編入で関係悪化に拍車掛かった)して南欧にロシア産天然ガスを供給できるルートとして重要視されており、トルコも欧州へのエネルギー供給ラインの「要」として自国の国際的な地位が高められる考えている。

黒海からトルコまで伸びたパイプラインは南欧(ブルガリア、セルビア、ハンガリー、イタリアなど)へのロシア産天然ガス供給ルート(トルコ・ストリーム)になり、ドイツルート(ノルド・ストリーム)と合わせて欧州の主要なエネルギーラインになるなるのだが、トルコは独自にリビア沖の東地中海を経由して欧州に繋がるパイプライン建設を計画しており、このルートは東地中海のガス田で生産される天然ガスをイタリアやフランス等の天然ガス消費大国に直接供給できるようになるためイスラエル、エジプト、キプロス、ヨルダンなどの国からすればエネルギー輸出の輸送ルートをトルコに握られることを意味する。

出典:mapchart / CC BY-SA 4.0 

そのためイスラエルとギリシャ(キプロスを含む)は東地中海で生産される天然ガスを欧州へ供給するため独自のパイプライン建設を進めているのだが、これを容認できないのがトルコだ。もしイスラエル~ギリシャルートが完成すれば東地中海で生産される天然ガスを欧州に輸送するのにトルコを頼る必要が無くなるため、エネルギー供給ルートとしてのトルコの地理的価値が下がることに繋がる。

そこでトルコはリビアと海洋境界を策定して、イスラエル~ギリシャルートが通る海底をトルコ側から伸びた大陸棚だと勝手に主張して自国のEEZ(排他的経済水域)に組み込んでしまったのだ。これを事後承諾で関係国が認めてしまえばイスラエル~ギリシャルートを建設するにはトルコの承諾が必要になるため、当然イスラエルやギリシャは「利害が関係する周辺国に何の相談もないまま一方的にEEZを設定することは国際法違反だ」と猛反発、米国もトルコとリビアが結んだ協定は「挑発的で役に立たない」と批判するなど誰も認めていない。

出典:Allied Joint Force Command Brunssum / CC BY-SA 2.0 ギリシャ空軍のF-16

それにも関わらずトルコは最近、勝手に線を引いたトルコのEEZ内で石油の掘削調査を始めると宣言したため、ギリシャは外交手段でだめなら軍事的手段に訴えてでも自国の権利と国境を守る=掘削調査を阻止すると言い出したのだ。

ギリシャのパナギオトプロス国防大臣は「トルコとの問題を軍事的に解決する準備が出来ているのか」という現地メディアの質問に対して「私達はあらゆる準備が出来ておりギリシャの主権を守るため必要なことは何でもやる」と語っており、この問題でギリシャはトルコに一歩も譲る気はない。

そのためトルコが石油の掘削調査を強行すれば、恐らく高い確率で両国は軍事衝突に突入する可能性が高いと言える。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain ギリシャ海軍のイドラ級フリゲート

削減規模は約1万人、トランプ大統領が駐独米軍の大幅削減を命じる前のページ

アルゼンチン空軍、製造から50年が経つ攻撃機「A-4」の継続使用を決断次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    スウェーデン、国防予算8億ドルのクロアチアにグリペンを提案

    スウェーデンは9日、クロアチアの戦闘機調達のための入札にサーブ製の戦闘…

  2. 欧州関連

    アゼルバイジャン、アルメニア軍が戦術弾道ミサイルを使用したと発表

    ナゴルノ・カラバフ地域を巡るアゼルバイジャンとアルメニアの戦いでアルメ…

  3. 欧州関連

    フランスの執念は実るのか? トルコ制裁をEUが月曜に発表予定

    EUは国連が定めたリビアへの武器禁輸措置に違反したとしてトルコ、ヨルダ…

  4. 欧州関連

    米海軍、ギリシャとトルコの衝突防止のため帰国途中の空母打撃群を派遣

    米海軍は中東での任務を終了して帰国途中だった空母「ドワイト・D・アイゼ…

  5. 欧州関連

    独仏の次期主力戦車「MGCS」、2億ユーロの予算分配を受け開発が本格化

    来年から本格的な研究開発が始まる独仏共同の主力戦車開発プログラム「MG…

  6. 欧州関連

    グリペンの後継機は、第6世代戦闘機「テンペスト」ベースで独自開発か

    スウェーデン国防省は7月7日に発表した予算関連のプレスリリースの中で、…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    エネルギールートを巡る争いは構造的に資源争いとほぼ同じ意味を持つから、今回の問題はギリシャとトルコにとってはストレートに「ルビコンを渡る」結末になりそうな雲行きだな
    恐らくは「フォークランド紛争以来となる西側陣営国家同士による正規戦」勃発は避けられない予感がする

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    何でトルコは攻撃的に物事を進めようとするんだろう?
    仲良くするフリ程度もできないのか?
    トルコをEUに入れなかったからなのか?

      • 匿名
      • 2020年 6月 07日

      オスマントルコ再びって感じでしょうかね。

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    やり口が中国と一緒。

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    ギリシャも大概だけど、この件に関してはギリシャによる軍事攻撃には名分がある。
    トルコは拙速にやりすぎても泥沼化し何も得られないということを理解すべき。
    中国を反面教師としなければならない。

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    そらこんなことする国はEU入れんわ

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    >ギリシャのパナギオトプロス国防大臣は「トルコとの問題を軍事的に解決する準備が出来ているのか」という現地メディアの質問に対して「私達はあらゆる準備が出来ておりギリシャの主権を守るため必要なことは何でもやる」と語っており、この問題でギリシャはトルコに一歩も譲る気はない

    国民世論の同意が有るんだろうな羨ましい

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    ギリシャ空軍のミラージュ2000がトルコ空軍のF-16Cをロックオン?
    リンクこれが今年の5月3日の出来事か。
    後、最近対ギリシアでは地上でも何かあったような

    • 匿名
    • 2020年 6月 07日

    トルコ物凄い狂犬ですね
    これはトルコ国民どう思ってるんだろう

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 軍事的雑学

    ようやく本領発揮、世界最強の戦闘機F-22Aが「神の視点」を味方に提供
  2. 軍事的雑学

    着実にレベルアップを果たす日本の対潜哨戒機P-1、2020年度から「能力向上型」…
  3. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  4. 軍事的雑学

    空飛ぶスナイパー? ロシアの戦闘機「Su-57」は米軍の航空支配を効果的に破壊す…
  5. 欧州関連

    再掲載|英海軍の闇、原潜用原子炉の欠陥と退役済み原潜の処分費用
PAGE TOP