英国が主導する第6世代戦闘機開発計画「テンペスト・プロジェクト」に、スウェーデンが参加をすると報じられている。
自主開発を放棄し、テンペスト開発への参加を決めたスウェーデン
第6世代戦闘機開発計画の一つ、英国が主導する「テンペスト・プロジェクト」に、スウェーデンが参加をすると英国のテレグラフ紙が報じている。
スウェーデンの「テンペスト・プロジェクト」参加は7月19日から3日間、英国のフェアフォード空軍基地で開催される世界最大級の軍用機エアショー「ロイヤル・インターナショナル・エアタトゥー」で、正式に発表される予定だ。
テンペスト・プロジェクトには開発・研究のために初期投資として20億ポンド(約2900億円)が必要で、全ての開発に掛かる費用の総額については不明だ。
英国は、これまでも「テンペスト・プロジェクト」について、莫大な開発費や、先進的な技術、価格を引き下げるための量産数の確保のため、国際的パートナーの参加が不可欠だと言及してきただけに、今回のスウェーデン参加は、待望のパートナー確保を意味する。
プロジェクトへの参加を決めたスウェーデンとしては、完全に再生を果たした新生ロシア軍とバルト海を挟んで対峙しなければならず、将来の戦闘において小型のグリペンでは能力が不足すると判断し、伝統的な小型戦闘機の運用思想を捨て、より大型の戦闘機「テンペスト」の共同開発に舵を切った。

出典:Attribution: Alan Wilson / CC BY-SA 2.0 サーブ 37 ビゲン
これは非常に驚くべき事で、スウェーデンと言えば、独特の運用要求(小型で極端なほどのSTOL性能など)を満たすため、ドラケン、ビゲン、グリペンなど、独自に戦闘機を開発し運用してきた実績があり、潜水艦と戦闘機に関しては、2040年までは国内開発を維持することを決定していた。
スウェーデンに独特な戦闘機運用思想を、国内開発の維持を捨てさせるほど、ロシアからの脅威を感じ取っていると言う意味だ。
ただ、スウェーデンは、フランス・ドイツが主導する第6世代戦闘機開発計画「FCAS」を選択することも可能だったはずなのに、なぜ英国主導の「テンペスト・プロジェクト」に合流することを選択したのか?恐らくは、サーブが開発した戦闘機「グリペン」の製造や販売面でBAEとの協力関係があったことが「テンペスト・プロジェクト」への参加を決断させたのかもしれない。
英国やBAEにとって「テンペスト・プロジェクト」へのスウェーデン参加は歓迎すべきニュースかもしれないが、同時に潜在的な問題を抱え込むことになった。
潜在的な問題とは、スウェーデンの防衛装備品輸出に関する厳しいポリシーのことで、防衛装備品輸出に関するポリシーの違いは、共同開発した防衛装備品の輸出において問題を起こす事があり、実際、欧州では問題が起こっている。

出典:Attribution: Alert5 / A330 MRTT
2018年に発生した、サウジアラビア人ジャーナリスト殺害事件の影響で、ドイツはサウジアラビアに対し防衛装備品の輸出を禁止したため、欧州で共同開発した戦闘機「タイフーン」と、空中給油機「A330 MRTT」の売却がストップしてしまった。
共同開発国は、ドイツに対し輸出禁止の解除を何度も要請したが、頑なに要請を拒否したため、タイフーンやA330 MRTTに使用されているドイツ製部品の排除に動いており、一度排除されてしまえば、輸出禁止を解除したとしてもドイツ製部品の再採用は難しく、ドイツ以外の共同開発国にとってもドイツ製部品の代替品確保は無駄なコストを発生させるだけでメリットがない。
スウェーデンが参加することになった「テンペスト・プロジェクト」は、これと同じリスクを抱える事になるという意味で、将来、必ず問題化するわけではないが注意すべき点だろう。
これまで欧州の第6世代戦闘機計画について色々と書いてきたが、FCASへのスペイン合流、テンペストへのスウェーデン合流で、ようやく本格的な開発が動き出すことになる両プロジェクトだが、共同開発の宿命というべき「利害の対立」で撃墜されないことを願っている。
※アイキャッチ画像の出典:public domain グリペン
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