英国防省は29日、テンペストと呼ばれている未来戦闘航空システム(Future Combat Air System:FCAS)を開発するためBAEシステムズに2.5億ポンド/約382億円の契約を与えたと発表した。
参考:£250 million contract for next phase for Future Combat Air System
英国はテンペスト開発に不可欠なデジタル・エンジニアリングを基盤構築に382億円を投資
英国が開発を予定している未来戦闘航空システム(Future Combat Air System:欧州の計画と被るためFCAS/UKと呼ばれることも多い)とは無人運用も可能な有人戦闘機テンペストを中心とするファミリーシステムの総称で、今回の契約締結はテンペスト・プログラムの概念設計や評価フェーズの正式開始を意味するのだが2.5億ポンドの投資先は非常に興味深い。
英国防省の説明では今回供給される資金の大半は「デジタル・エンジニアリングの基盤構築(ソフトウェアベースのシステムを支えるための物理的なインフラ整備)に充てられる」と説明しており、FCAS/UKの開発責任者を務めるリチャード・バートン氏は「2.5億ポンドの投資はプログラムに必要なスキルと技術を確保するのに重要で、デジタル・エンジニアリングの基盤を構築することで軍用機開発に革命を起こしオープン・アーキテクチャーの力を利用できるようになる」と主張している。
要するに300億円を超える今回の投資は開発環境の整備に充てられる=デジタル・エンジニアリングの開発環境を取り入れるにも金がかかるという意味だ。
ベン・ウォレス国防相は「デジタル・エンジニアリングを取り入れることで開発期間や検証時間の短縮、開発コストの削減、開発過程で発生する二酸化炭素の排出量削減が見込める」と主張しているので投資額以上のリターンが得られるのは間違いないのだろう。
因みに英国政府は今後4年間でテンペスト・プログラムに20億ポンド/約3,000億円以上の投資(プログラムコストは量産コスト抜きで94.6億ポンド/約1.41兆円になると予想されている)を約束しており、プログラムの進捗に合わせて新たな資金の供給が随時行われる予定だ。
関連記事:防衛省、次期戦闘機「F-X」の開発にデジタル・エンジニアリングを採用すると表明
経済や雇用という観点から国防プログラムの有効性を訴求する英国の手法
英国のテンペスト・プログラムに関する情報を追いかけてきた管理人が「日本も取り入れた方が良いのではないか?」と思ったのは国内経済に対する波及効果の訴求だ。
現代の戦闘機開発にかかるコストは兵器開発プログラムの中でも最も高額な部類に属するため批判を受けやすいのだが、大規模で高額な兵器開発は当然多くの投資や雇用を生み出すため国内経済への波及効果も高く、この部分を上手く可視化することが出来ればプログラムへの批判を支持に変えることも不可能ではない。
テンペスト・プログラムを主導するBAEシステムズは世界4大会計事務所の「PwC/プライス・ウォーター・ハウス・クーパース」にプログラムが英国経済30年間に及ぼす影響を分析して評価するよう依頼、PwCがまとめた報告書に基づき「テンペスト・プログラムは英国経済に推定262億ポンド/約4兆円の波及効果をもたらし年間平均2.1万人分の雇用を生み出す」と主張している。
62ページで構成された報告書の中では「どの地域にどれだけの投資が行われ雇用をどれだけ生み出すのか」詳しく説明されており、この報告書はBAEシステムズのテンペスト・プログラムに関するwebページで一般公開されているため誰でも報告書の内容にアクセスすることが可能だ。
勿論、報告書の内容通り上手く経済や雇用に繋がるのか保証されていないが、安全保障や軍事に興味がない層でも経済や雇用という観点から国防プログラムを訴求するという考え方は日本も参考にしても良いのではないだろうか?
もう開発が始まった日本の次期戦闘機F-Xに取り入れるのは難しいかもしれないが、将来の国産装備品を開発する際にこのようなアプローチを取りいれて見るのも悪くないだろう。
※アイキャッチ画像の出典:BAE Systems
管理人の主張通り、日本も防衛装備品開発の投資が国内に還元されていることを強く印象づけるべきだ。
でもその前に、公共支出が国内に還元されることの何が良いのかを日本人に理解させるほうが先だと思う。
欧州は公共支出が国内の雇用維持に結びついていることを政府も国民も強く求める風土があるけど、これはニューディール的な政策志向と何より慢性的に失業率が高いという国柄が背景にある。日本は労働生産性を下げてでも雇用統計基準を変えてでも失業率だけは低い水準で維持してきた。なので公共支出の海外流出には民間の人間も政府の人間も鈍感で、それよりむしろ外注に出せる業務は全部海外に出してでも事業費の額面を抑えることを有難がる文化になっている。前者のほうが重商主義的かつブロック経済志向で古臭く感じるけど、世界の経済志向の潮流は欧州側に流れているので、まず日本がそこに気づかない限り防衛装備品事業の支出は数字だけ見て「多すぎる減らせ!」と言われ続けるんじゃないかな
ひとつ前の在日米軍駐留経費増額要求記事と合わせると興味深いというか耳が痛いというか……
思いやり予算で在日米軍兵士及びその家族の経費を負担したところで生活は基地内で完結してる(ゴルフ場やスキー場さえあるし)、一方で日本の防衛費を増額すれば自衛官に支払われた人件費はそのまま国内に環流されるし、兵器調達も増える分日本の防衛産業生態環境を構築できる、当然有事の兵器増産にも素早く対応できる。結果内需と税収も増える
財務省や政治家連中は予算総額しか見ないで中長期的な経済効果を無視してる、メディアや国民もその辺無知なんで誰も突っ込まないあたり同罪かなって
……つかここの管理人さんは軍事雑誌にでも一回寄稿なさってみては如何です? 編集側に絶対読者いるだろうし、政治経済っつう切り口持ってる記事はあの界隈だと新鮮なんで(もとい書けるライターがいないんで)絶対需要あると思うんですが。皮肉とかでなく結構真面目な話として
コンクリートから人へ!的掛け声のほうが強いから無理無理無駄無駄
結果、災害国家ではコンクリートも人も両方必要でした!
テンペストって、前から見るとパーマンに見えませんか?
そこはせめてバードマンと言ってやってくれ。
日本の場合、大企業優遇とか死の商人といったような批判を浴びる可能性あるし
軍需が中心の会社もほとんどないので、よほどうまくPRしないと
企業側が嫌がりそうな感覚がある。
他国だと政府・軍と協力して新素材を作りました、大PRとなるところが
日本だと新素材ができました、国と防衛省から要望がありましたので仕方なくお付き合いしてます
とA4の紙1枚をリリースで終わらしてそうなイメージ
国産兵器の情報開示が内に籠もるのは、下手に公開すると揚げ足取りされる(誤字脱字とか低レベルなものまで)って
姑息な文化のせいにも思える
兵器って拡大再生産ができないので、経済効果って点ではあまり
他に資金投入した方が全然効果ある
そうは言うものの「平和」「高い治安」ほど経済効果が有るものは無いわけで。
「平和」「高い治安」を掲げりゃどっかから打ち出の小槌が金だしてくれるわけでもないわけで。
中国対抗で5兆の防衛費で足りなきゃそれこそ10兆だすんか?それで足りるのか?って話になってくると他とのバランスが問題にはなってくるよそりゃ。
高度な技術を要する工業製品だよ?
生産すれば金も入るし技術も上がる。
何をもって拡大再生産できないと評価してるのか分からんが、業用自動車とかに比べりゃ一段落ちるとしても自家用車となら大差ないよ。
自衛隊にしか販路ないのに生産してどっから金が入るんだよ……
国営軍事企業にするしかない
軍事工廠再建ですね、もう安全保障でグチグチ下らない事言ってる余裕は無いと思うが
外貨獲得、なんて話はしとらんだろ。
自衛隊に売れれば企業にはちゃんと金が入る。
生産するのに設備も要るし人も使う。
投入した予算はちゃんと国内経済に回る。
>安全保障や軍事に興味がない層でも経済や雇用という観点から国防プログラムを訴求するという考え方は日本も参考にしても良い
とてもいいと思います。
今の防衛省にはその発想はまったくないですよね。畑の外を好んで歩く官僚など少数派でしょうし。
岸防衛相の1%にこだわらない発言は、今後防衛費増を目指すことの表明でしょうが、今までのような正面突破だけではなく、あらゆる波及効果を防衛省自ら説明する工夫も大事でしょう。
こんな話は官僚からボトムアップで出るはずもないでしょう。出ても途中で潰すでしょう。
外交安保方針の変革は、安倍前首相からの既定路線だったはずですから、現首相の号令のもとに政権の優先事項として、経産省やら環境省の知恵も統合していくことも考えたらいいいと思います。岸大臣も首相に意見具申したらよろしかろうに。
首相の指示があれば、役所をまたがって知恵を出し合うのは、前政権以降いくつも実例があります。
ガースーはこういうの、得意そうなんですよね。
ガースーは財務省にギアスかけられてるから
当てにはならんでしょう
防衛省も経済波及効果と雇用創出については試算を一応公表してますよ。
「次期戦闘機の調達について」令和2年11月14日
P.23 戦闘機開発に係る産業・技術波及効果
リンク
航空機に仮に5兆円の新規需要が発生した場合ですのでF-X単独の試算ではありませんが
>波及効果8.5兆円 雇用創出効果32万人
また、いつの時点での試算かは分かりませんが、とあるネット記事(2020/10/16)で
>防衛省はF2後継機を国産にし、かりに4兆円が投入された場合、8兆3000億円の経済波及効果と24万人の雇用創出効果があると見込んでいる。
と紹介されています。
同じ記事内で
>BAEシステムズは同日、「2026年から2050年にかけて、年平均2万人の雇用を確保し、同時期に少なくとも253億ポンドの経済効果をイギリスにもたらすだろう」と述べた。
とも紹介されています。
条件が変われば試算結果も変わりますし、F-Xにしてもテンペストにしても、その時点での一つの試算に過ぎないんですけどね。
試算はしてるんだから、防衛省も事業の公益性を一般に広くアピールしてかまわないと思うんですが。
自動車産業引き合いに出してるけど、トヨタ等の防衛産業に関与していない企業より、三菱が先行した技術って何があるの?って点でどうにも都合のいい統計に見えてしまう
確かに、その数字を見た記憶があります。
最後から2ページ目で「一応、経済効果あると思います」的で、あまり気合を感じませんけどね(笑)
本記事の例では、
>「PwC/プライス・ウォーター・ハウス・クーパース」にプログラムが英国経済30年間に及ぼす影響を分析して評価するよう依頼
などと、とりあえず試算で説得することへの気合が違うように感じます。
まあ、もっとエネルギー投じて知恵を動員してもいい部分だとは思います。
防衛省的に焦眉の急は国民世論より財務省なんだろうとは思いますが。
日本の場合は海外に販売も見込めないし従業員のレイオフも簡単にできないので
生産企業側が生産設備拡大、従業員増員を行うと維持費や人件費が負担となってマクダネルダグラスのようにつぶれかねないと思う
従来の生産規模と従業員数を維持しつつ生産設備を更新するぐらいが席の山だと思うよ
下手に事業拡大して売れなくて経営悪化ってよくあるパターン
自衛隊にしか需要ないんだからそれに見あった規模でないといけん
新規に雇用増やすとかないと思う
生産設備拡大(および敷地の確保)・従業員増員が必要だからこそラインの構築・増設・維持・再開が事あるごとにネックになる訳で。
とはいえ仰る通り、例えば100機足らずのF-3を生産するために10年前後だけどーんと増員して終わったら解雇、なんてのは難しい。
その前後の土地・設備・人の活用まで考えて事業を進めて欲しいところだけどどうなる事やら。
半消耗品の随伴無人機を継続して量産するのに流用できれば将来に渡って安定するかな?
まず安全保障についてしっかり議論ができる土壌が出来ないと脊髄反射で叩かれるだけなんじゃないかな
防衛企業はあえてそういう部分の情報を出来るだけ表に出さないようにして反発を抑える事を重視してる向きがあると思う
んなこと言ってたらずっと変わらんやろって言われたらその通りなんだけどさ…
難癖つけられかねない企業側にしたら、やりたくないよな
防衛関連は各企業の売上の10%くらい。
全事業に営業を及ぼすデジタルスレッドとかにどこまで予算をつぎ込むのだろう。
できれば日本企業が使いやすいデジタルエンジニアリングのプラットフォームを作ればいいのだが
英国は、EUと「協議離婚」したことで、モノづくり国家に復帰するチャンスを得たのかもしれない。国防産業のすそ野は広いから、国防投資は社会経済政策としても波及効果が大きく、議会で反発を受けにくい。ジョンソン政権は、軍のぜい肉をそぎ落とす代償として、最先端技術への投資を獲得したのだろう。英国はいったいどのようなヴィジョンをもっているのか、それが日本にとっては重要で、日本は英国に引きずられてはいけない。
英国はデジタルエンジニアリングを実現するための環境整備のために400億弱を投資する必要があるという記事だが、開発時期が先行してる、かつ、デジタルエンジニアリングを実用化してる企画に参画していない日本がそれを用いてF3を開発する、だと?
投資自体はしてるだろうけど英国と額が桁違いじゃないか。
F3はなんちゃってデジタルエンジニアリングでの開発ってオチなのか、英国が全てに同手法を用いるにはこの程度の額が必要と見てるか、正解はどっちだろうな
デジタルエンジニアリングって丸っ切りの新概念や特定の新システムじゃないからなぁ。
例えばデジタルツインなんかも既に日本でも様々な分野でさんざん利用されてる訳で。
米国が最近兵器開発絡みで言ってるのは必要な要素やノウハウが出揃って、それらを総合的・包括的に活用して開発を効率的に進められる様になった、ってだけの話だと認識してるんだけど。
だから戦闘機をデジタルエンジニアリングで開発、と一口に言っても色んな形やレベルがあるだろうし、日本とイギリスじゃスタート地点も違うだろう。
兵器開発に限定しないデジタルエンジニアリングのインフラ、という点では日本の方が(米仏独辺り相手だと分からんけど)イギリスよりは整ってると思うんで、イギリスほどそこに新規に予算を掛けない、ってのは別に心配する必要はないんじゃないのかね。
逆に心配になるよ
兵器関連でのデジタルエンジニアリングはIT音痴の日本政府よりRR擁する英国の方が先進的と判断出来る
つまりF3開発はセキュリティ面に不安のある民間の資産を相当流用して開発するという事を意味してるようにしか捉えられない
英国は逆にRRの民間資産流用はセキュリティに不安があると見做してる
なので国防用の環境基盤を構築しようとしてるが故の今回の投資と言える
記事にしろ元記事にしろ、セキュリティ云々に関する記述はほとんど見当たらなくて(元記事の末尾に雑に一言出てくるのみ)、
普通にデジタルエンジニアリング環境をソフト・ハード両面から整える、って話しか書いてない様だけど。
てか個人的な経験からの感想で言えばRRがデジタルエンジニアリングにおいて国内企業より先進的、と言われても違和感しかないなぁ。
もちろん日本企業のセキュリティ面に不安がないとは間違っても言えないので、
その辺こそLMにビシッと指導して欲しい部分ではあるけど。