インド太平洋関連

第4.5世代機「ラファール」は、インドにとっての「現実的」なステルス戦闘機?

インドは世界一高価な戦闘機「ラファール」の初号機を、フランスで受け取ってしまった。

参考:India Receives First Rafale Jet From France – Controversy Remains Over $8.8 Billion Contract

インドにとって第4.5世代機「ラファール」はステルス戦闘機?

インドのシン国防大臣は9月8日、フランス南西部のボルドーにあるダッソー社の工場でインド向けに生産された第4.5世代戦闘機「ラファール」の初号機を受け取った。

このラファールは2016年に、インドとフランスの間で結ばれた36機(単座28機、複座8機)のラファールを、約88億ドル(約9,540億円)で購入する契約に基づき製造されたもので、インドはラファールを1機導入するのに約2.4億ドル(約263億円)もの費用を支払っている。

出典:public domain ラファールB

もちろん金額には、36機分の機体や保守パーツ、パイロットやメカニックの訓練費用、地上シミュレーター装置一式、ミーティア等の空対空ミサイルやストームシャドウ等の巡航ミサイルが含まれ、インドが要求した機能の追加費用(イスラエル製のヘルメット搭載ディスプレイ、レーダー警報受信機、電波妨害装置の統合)が含まれているため、約88億ドル=機体価格ではない。

ラファールの機体価格(フランス空軍向け)は、2013年度の資料によれば7,500万ドル(約80億円)程度なので、36機の純粋な機体価格は27億ドル前後だと推定される。

もちろんインドはラファール購入の見返りとして、ラファールを製造するダッソー社を始めとするフランス企業とオフセット契約を結んでいるが、それでも1機あたり約2.4億ドル(約263億円)もの導入費用は高すぎる。

最近、ブルガリアのF-16C/D block70/72導入価格に約2億ドル(約220億ドル)の値札がついたが、インドが購入するラファールは、それをも超える「世界一高価な戦闘機」だと言っていい。

今回引渡しを受けたラファールは、フランスで行われるパイロットの訓練に使用される予定で、インドにラファールが到着するのは来年の5月頃の予定だ。

米国からF-35Aを導入できる国にとって、第4.5世代機のラファールを約2.4億ドルもの費用を掛けて導入するのは予算の無駄遣いに見えるが、インドにとってラファールは現実的に入手可能な「ステルス戦闘機」と映るようだ。

出典:Alan Wilson / CC BY-SA 2.0 Su-30MKI

インド空軍が運用中の戦闘機は、第3世代または第4世代に分類される戦闘機が多く、ロシアから導入したSU-30MKIのみが第4.5世代機に分類されるが、レーダー反射断面積(RCS)の値は4㎡と言われており第4.5世代機の中ではステルス性能が低い部類に属する。

そのためレーダー反射断面積の値が0.1~1㎡しかないラファールは、インド空軍にとっては「ステルス機」と映り、インドのシン国防大臣も引渡しの式典でラファールのステルス性能について言及している。

将来、インドは真のステルス性能を持った第5世代戦闘機を手に入れることになるだろうが、それは10年先の話かもしれないし、15年先の話かもしれない。

インドはこの未確定な状況の中で、最善の手段=第4.5世代機のなかで最もステルス性能の高いラファールを欲したと考えれば、今回の契約金額も少しは納得出来るものに見えてくる。

その程度のレーダー反射断面積ならユーロファイター・タイフーンという選択肢は?という野暮なことを言ってはいけない。

インドは伝統的にフランス製戦闘機を愛しているのだから。

 

※アイキャッチ画像の出典:Airwolfhound from Hertfordshire, UK / CC BY-SA 2.0 Su-30MKI

日本の安全保障にも影響? アジアの「ある国」が第5世代機「SU-57」導入を検討中前のページ

中国、観艦式へ派遣した「中国版イージス艦 052D型」を日本で一般公開か?次のページ

関連記事

  1. インド太平洋関連

    M1A2Tだけでは足りない台湾、来年からM60A3のアップグレードを開始

    台湾は2023年から「保有するM60A3のエンジン換装を開始する」と報…

  2. インド太平洋関連

    高まるアンチドローンシステムの必要性、無人機がレーダー探知をすり抜けインド軍基地を攻撃

    パキスタンとの国境に近いインド空軍のジャンムー基地は27日、パキスタン…

  3. インド太平洋関連

    製造が大幅に遅れているF-16V、台湾発注分も引き渡しが1年遅れ

    発注が相次ぐF-16VはCOVID‑19と半導体不足の影響で製造が大幅…

  4. インド太平洋関連

    韓英、軍事技術の共同研究を発表 & 韓国、戦闘機「KFX」輸出に向けたプロモーション開始

    韓国の防衛装備庁は12日、最先端の防衛装備品に使用するコア技術の研究開…

  5. インド太平洋関連

    危機感を募らせる台湾、中国の台湾侵攻は2025年以降に現実的な選択肢になる

    記録的な数の中国軍機が台湾の防空識別圏に押し寄せる中で国防部長(国防相…

  6. インド太平洋関連

    インド陸軍が進める砲兵装備の近代化、400門のATAGS調達を提案

    インドが開発を進めてきた52口径155mm榴弾砲「ATAGS」は202…

コメント

    • 匿名
    • 2019年 10月 19日

    「インドの伝統」とやらによって選考から漏れたとされるユーロファイターくん、15年の英印演習でインド空軍のSu-30MKIに完封されてしまう
    ほどなく、全く動きがなく仏印間やインドの関係各所で揉めていたであろうラファール導入計画がフランスからの完成品購入という形で再開する
    ラファールの導入費があまりに高価なのは足元見られ過ぎだとは思うが、それと機体性能とは全く別の話だ
    重要なのはユーロファイターはインド空軍の主力戦闘機として相応しい性能を備えていないと見做された事なのだから
    ラファールの具体的な導入開始の経緯からも、先に述べた失態でインドの政府および軍のユーロファイター推しが沈黙したのが実に良く分かる
    いずれにせよF-35を抑えてラファールを取ったというのでもなければインドの判断を嘲るのはあまりに無理筋

    1
    • 匿名
    • 2020年 9月 05日

    タイフーンのステルス性が低いことはインテーク形状を見ても分かるし、RCSはRAM塗装F-16にたいしてタイフーンが3倍、ラファールは1/10以下と言われてるので、4.5世代機でラファールが最も低観測性に優れてるのは間違い無いと思う。

    F-35はガチでのBVR戦闘には強くても、それ以外の能力は制限が多い(機外搭載なしでの搭載量、空中給油なしでの航続力、機動性)ので、要撃や近接地上支援など様々な用途には使い勝手が悪い。

    なので、空母艦載機を含め価格やライセンス生産の条件などが折り合えばインドにとっての本命は現状ラファールなのだろうと思う。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  2. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  3. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  4. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP