米国の「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」は敵対者の力を削ぐどころか自らの首を締めるという皮肉な結果に陥っており、中国を封じ込めるため重要視されているインド太平洋戦略にも暗い影を落としている。
参考:Despite US caution, Indian military team for S-400 leaves for Russia
バイデン政権が原則を押し通せば中国が棚ぼた的に「米印分断」という結果を手に入れる可能性が高い
敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)の起源は1996年に制定したイラン・リビア制裁法案(リビア制裁終了後にイラン制裁法案へと修正)で、ここにロシア(シリア内戦関与、クリミア半島併合、2016年大統領選挙への干渉疑惑)と北朝鮮(大量破壊兵器の開発)を加えるよう修正され2017年8月にトランプ前大統領が署名をおこない正式発効したのだが、同法案の有効性については懐疑的な意見が多く最も同法案に反対していたのがトランプ前大統領だ。
補足:トランプ前大統領は同法案に署名した直後の声明で「議会は法案成立を急ぐ過程で憲法に違反する条項を数多く盛り込んだので本法案には重大な欠陥がある」と批判して、議会がCAATSAを活用して政府の取り組みを妨害しないよう注文をつけている。因みに同法案には中国が2018年に追加されている。
CAATSAは政府の外交交渉から柔軟性を奪うと言われているが、最も問題なのは制裁をテコに米国の友好国や友好関係を築いていきたい国にロシア製兵器の購入断念を例外なしに強要する点で、このようなやり方は対米関係の悪化を招くのでロシアではなく米国の影響力を自ら弱めるだけだと指摘されている。
例えばトルコは米国の忠告を無視してロシア製防空システム「S-400」を導入したためF-35プログラムから追放されてしまったが、トランプ前大統領はトルコとの関係を決定的に壊さないため議会が要求するCAATSA発動を拒否してきたのに、昨年12月にCAATSAを根拠する「対トルコ制裁」を発表してトルコとの関係が大きく悪化してしまい中国を封じ込めるの重要視されているインド太平洋戦略にも暗い影を落としている。
対中国包囲網を形成するのに欠かせないクアッド同盟(米日豪印)を構成するインドは2021年中にS-400を受ける予定で、これまで様々なアプローチ(2ヶ国間の関係改善や米国製兵器の導入など)を駆使して米国側に「CAATSA発動免除」を働きかけてきたが、米政府高官の発言を引用して「インドがS-400を計画通り導入すればCAATSA発動は避けられない、この方針はバイデン政権に変わっても変更される可能性は低い」とロイターが15日に報じて大きな注目を集めている。
もし制裁を実行に移せば中国封じ込め戦略の鍵を握るインドとの関係は冷え込み、逆にインドへの発動免除を認めればトルコとのバランスが取れなくなるのとCAATSA発動を警戒してロシア製兵器導入を躊躇している国にグリーンライトを与えことになるため、どちらも米国にとって受け入れがたい内容なのは間違いない。
最も都合の良い着地点はインドがS-400導入を中止してパトリオットに乗り換えることなのだが、インドはS-400導入を諦める気はなくロイターの報道と同時期にS-400を受け取るための人員をモスクワに派遣したばかりで、恐らくバイデン政権が制裁を実行すれば対米関係が悪化してインド太平洋戦略=クアッド同盟(米日豪印)からの離脱も十分にありえる。
このジレンマから抜け出すためにはバイデン政権にインド制裁を強要する「敵対者に対する制裁措置法」を廃止すれば良いのだが、トルコに発動した後に廃止すれば政治的なメンツが潰れてしまうため相当な大義名分でもなければ実現困難だろう。
もしバイデン政権が原則を押し通せば中国が棚ぼた的に「米印分断」という結果を手に入れる可能性が高いので、クアッド同盟成立を支持している日本やオーストラリアにとっては有り難くない状況がくるかもしれない。
関連記事:中国が頭を抱えるロシアのインド優遇、防空システム「S-400」納入1年短縮
関連記事:中国が最も恐れるシナリオ、印日米豪にインド洋を抑えられること
※アイキャッチ画像の出典:海上自衛隊 日米印豪共同訓練(マラバール2020)の様子
アメリカの利益になるようなダブルスタンダードをどう立案するか、バイデンの手腕が問われる
こういう規制でアメリカが世界の分断を引き起こす張本人でもあるのは皮肉なんだけど
現在精査中とかなんとか言って引き延ばせばいいだけでは?
単純な損得勘定ができるかどうかでしょう。
単純な損得勘定を表に出すまでの複雑な駆け引きですよw
インド人もバカじゃないから
アメリカとロシアを競わせる形に持っていけばインドに利があると読んでるはず
でもインドだからなぁ…
以下捕捉です。
>現在精査中とかなんとか言って引き延ばせばいいだけでは?
アメリカが法の適用を引き延ばしする、という意味です。
これでクワッドは進めていくことができますよね。
ちょっと書き方が紛らわしかったですね。
豪モリソン首相が真っ先に管総理に会いに来たのもそうだけど
アメリカが変なことしても別に中国から周辺国が受ける被害が減るわけじゃないんで
アメリカが変なことするほどアメリカを除いた日本とインド、オーストラリア他の関係が深まるだけよ
もちろん変なことしないのが一番いいんだけど
アメリカ除いた周りの国だけでどう中国を封じ込めるというのか。
オーストラリアあてにするとか冗談でしょう。
アメリカ抜きで何処までやれるんだろうか…。
こちらもオーストラリアも、米軍との連携を前提とする装備と作戦になってるはず
米国抜きでの中国封じ込めだの夢想です
バイデン大統領、今こそ大いなる決断が求められています……
バイデンの外交・安保チームはオバマの時のメンツだから、原則を押し通すんじゃないかな。
こうなると、トランプは意外と頭が悪い訳では無かった事が分かる
トルコとの関係を決定的に壊さない様にF-35プログラムから追放しても制裁まではしなかった辺り、ビジネスマンの経歴が生きていたな(勿論、欠点も多かったから大統領選で落ちた訳だが)
バイデンは。ここで柔軟な対応が出来るかどうかで今後4年間の運命が決まると言っても良いだろう
誤字が有ったので、訂正します
誤:バイデンは。
正:バイデンは、
以上、ご迷惑をお掛けしました
インド軍ってなんだかんだでこれまでもソ連/ロシア製の兵器、フランス製の兵器、イギリス製の兵器(最近は思いつかないが…)と併用していたし、NATO加盟国のトルコと、同盟国というのも微妙なインドと一緒くたに考えるのもなぁ。
元々インドは日米豪の関係性から比べて相当に繋がりが弱い
Quadと言っても本当に歩調を合わせられるのか怪しい国でもあったが、韓国と同様に怪しいからって安易に切れない所が悩ましい
その意味で、これから世界はインドからもかき回されると予測していい
中国がああもエゴ丸出しの醜い国なのは大国ゆえのごう慢だが、
やがて世界最大の人口に至るインド人が同じ方向に進んでも不思議はない
インドが危険な第2の中国に育たないように、国際ルールと民主主義を重んじる勢力に取り込むように努力する必要がある
すでにインドは南アジアでは周辺国(スリランカあたり)に対してかなり強圧的ですよ。
大国になって行くにつれもっと強圧になるんでしょう。
そもそもスリランカみたいな要衝は、インド洋にシーレーンを持つ国家は絶対に押さえておきたい所。これは日本の立場でも同様
そんな所に敵対する中国が手を伸ばしてくるのであれば、インドとしては高圧的だろうがなんだろうが絶対的に阻止したい所だ。手段が正しく、望む結果が得られるかどうかは別としてね。まあ隣国ってのは大体関係が悪いものだから、強硬的で敵対的な手段しか取れない場合が殆どだけれども
そもそもインドは日米豪を信用していない。
中印国境地帯でインドと中国が衝突しても、日米豪は中国を非難する声明を出すだけだったので、
「中国と戦争になっても日米豪は援軍を派遣しないのでは?」という疑心暗鬼がインドにはある。
日本って非難する声明なんか出して無くね?
「対話による平和的解決を望む」とか適当な玉虫色のこと言ってお茶濁して終わった
あのころインドメディアが「日本から強力なインド支持をとりつけたぞ」とかクソみたいな飛ばし記事だしまくってたなあ
平松賢司駐インド大使は、メディアの取材に、「関係国が力を背景とした一方的な現状変更を行わず、紛争を平和的に解決することが重要だ」
なんて話はあるけど、日本政府としては明確に声明は出してないね。
2017年の話ですが‥
詰んでるやん
元々インド自体が独自色を貫いている。米国がどう言おうとも一眼だにしないだろう。
中国とはかねてより敵対関係あり単独で対抗してきた。
ただ急速な近代化著しい解放軍に対抗する為、対中で歩調を合わせているに過ぎない。
純粋に調達面から見てもこれまでソ連、ロシア製兵器を多く導入しているし、ここに来て態々パトリオットを導入する理由は薄い。
トルコの場合はNATO加盟国でありながら、歩調を合わせなかった為に反感を買った。インドとは事情がまた様相が変わる。
バイデン政権は対中姿勢は維持する見込みで、周辺にもアジアの専門家を登用している。政治判断の余地はあると思う。
もしかして「一顧(いっこ)だにしない」?
トルコのs400はf35を買うからダメなんでは?インドはf35買うのか?
ロシア製兵器購入で制裁ならもっと多くの国が制裁されまくってるはずだろ
中国もSu-35とS-400を購入して制裁されているよ。
はい?
アメリカがインドを制裁するというなら、インドはメイドインアメリカを捨てるだろう。
そういう風に準備をしてきたからな
すでにアメリカをはじめ各国でインド系市民が大活躍してるからね、最近は色黒のCEOが増えてるだろw
もはや第三世界の盟主という位置に固執するメリットがあるのかと、インドの歴史は積極的な反米に走るほどの理由に欠けている
形だけの制裁とあとは駆け引きで終わるよ
バイデン政権になっちまったし中国が望んでる事は一通り叶ってしまいそうなのがな
まあ遅かれ早かれこの問題には直面してたよね、インドは韓国のバランサー政策を実行出来る国だったし
じゃあどこと手を組むのかって話だけどなあなあで済まされるのかな
そもそもヒマラヤ越しに戦争をしても圧力にならないのではないか。ICBMが大陸中央から発射されるからミサイルが届かなくもないけど戦略的に防衛すべき場所かといわれると陸の孤島で経済的価値なんてゼロだろう。というかペトリが構造上の限界で使えないから次世代の中SAMにするって言って開発したんだよね。
ロシアは大量に新作を出すけどペトリはここ二十年PAC-3くらいしか変わらないしいい加減新作を出さないと対抗できないのではないか。
ぶっちゃけ、アメリカが圧倒的航空優勢にかまけて防空システムの開発、特に短射程から長射程までの多層的で柔軟なモノの開発をしていなかったのが超裏目に出ているのかとも
PAC-2弾系統の長射程弾の開発改良生産はされておらず、その維持には本邦が欠かせない状況だし、ソレが無ければ中射程のPAC-3弾系統しか無いし
直近で長射程防空ミサイルを開発するとなるとSM-6を陸棲化するくらいしか手段はなかろうし、それでは今すぐ長射程防空ミサイルを必要とする国の需要を満たすのは到底不可能≒詰みですね……
逆に考えれば、ロシアはアメリカと手を組もうという国に、多少モンキー化されているであろうとは言え、どうして自軍の第一線級の兵器を輸出できるのか、不思議な気がしますね。
他に売りがないからですよ、ロシアには軍事大国として以外にインドに魅力のある側面がない、アメリカほどの多大なる利権、影響力、経済力、市場を持たないもの。
インドだって貿易相手としてのみ考えたらアメリカを優先したいはず
実のところ、必死に売り込みかけてるのはロシアのほうなんではないかな?
ロシアが好待遇でインドを支援する理由は、
アジア大陸のパワーバランスを現状で維持したいからです。
インドは冷戦中にアメリカに農業・経済改革を強いられた結果、
失敗して経済的に貧窮したことがあるので、西側諸国を信用しきれない。
んで、インドは中国を危険視・敵視している。
中露関係は良好の部類ですが、ロシアは中国が強大になり過ぎるのを好まない。
インドとロシアの利害が一致しているから、ロシアはインドを支援する。
いつもながらのジャイアンアメリカの外交下手ってだけの話なような?
過去の絶対的な力があってケツ持ちはするから黙って従えってんならまあついていく国もあるけど
今みたいに防衛とかは各自もっと頑張れでも俺の言うことは聞けじゃ誰もついて来ないのに
結局ゴリ押し外交しか出来んのかいって感じだなぁ
アメちゃんがロシア側より高性能な地対空ミサイル売ってあげればいいだけなんだよなあ
なお米軍は敵航空勢力の脅威に晒されることがほぼ無いため地対空ミサイルの開発はサボりまくっている模様
本当それ。ついでに言えば地対艦もだね。
よく日本がガラパゴス呼ばわりされるけど、
ある意味防衛事情が一番特殊なのはアメリカなんだよな。
トルコがS400買って駄目とか言われてるけど、
韓国の天弓1(KM-SAM)も皮変えてるだけで、中身S-350 Vityazなんだが、駄目だろアレ・・・・・・。
アメリカはインドに言う前に韓国どうにかしろよ。
天弓1(KM-SAM)は「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」が成立する前の対空兵器なので駄目じゃないよ。
インドは米国が対中強硬だったから
利害の一致と日本の引き合わせもあってインド太平洋構想に加盟したのであって
米国が中国に宥和的な路線へ変更するなら独自防衛路線に行くだろうな
インドは大国の政治に左右されない為に他国の装備を色々ミックスして導入してきたんだからCAATSA通りにというのは…これはベトナムだって影響があるはず
そもそもロシアと中国を接近させたくないから、安倍とトランプは宥和的にしてきたのに米国は何考えてるんだ?
インドは元々大国に振り回されたくなくて色んな兵器を導入してきた背景があった上に
インド太平洋構想への参加も米国の対中強硬姿勢と日本の取り付けがあって利害が一致したからこそ参加してるので
バイデンがこのまま対中宥和へ日和だしたら…ベトナムだって同じように参加を躊躇するだろうし百害あって一利なしなのでは?
なんでS-400なのか。PAC-3じゃだめなのかな。
射程が全然違う
イスラエルと共同開発してるバラク8が射程100kmでそれの地上版MRSAMが現在テスト中で2023年中には開発完了らしいので、最低でも射程400kmクラスのSM-6(米軍が言うには370km以上)かサードER(400km)辺りで提案しないと納得しないでしょう。
アメリカがS400より高性能なシステムを提案や提供するしかないんじゃないの?
それこそインドの思うつぼなんだな(笑)
その流れになれば労せずして西側最高レベルの新型ミサイルを手に入れるか、あるいはロシアとS400購入の取引材料としてうんと有利な条件を引き出せる
安倍さんとトランプさんが築き上げた日米豪印クアッドはこうして崩れていくのでありました。