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イスラエル、政権が交代しても防空システムのウクライナ提供は不可能

イスラエルで実施された総選挙で右派陣営が勝利、ネタニヤフ氏が首相に返り咲くことが確定したためウクライナ支援に変化が起きることが期待されていたが、ガンツ国防相は「政権が交代しても防空システムのウクライナ提供は不可能だ」と明かした。

参考:Gantz: Israel doesn’t have production capacity to supply air defense systems to Ukraine

ロシアは戦場で回収したジャベリンやNLAWを武器提供の見返りとしてイランに引き渡している

イスラエルはウクライナ侵攻を非難しているもののリシア問題やイラン問題を抱えているため、ロシアとの決定的な関係悪化は安全保障における国益を損なう可能性があり、ウクライナへの支援範囲は「非殺傷装備の提供」に限定していたが、イラン製無人機による空からの攻撃が急増すると「世界で最も優れたイスラエル製防空システム」に期待する声が強くなり、ウクライナも公式ルートを通じて防空システムの提供を呼びかけている。

出典:public domain David’s Slingで使用される迎撃弾Stunner

この問題についてヘルツォーク大統領は「我々の武器には敵の手に渡って欲しくないものや、ウクライナと共有できない秘密もあり、輸出向けバージョンが用意されてない武器もある。しかし我々に出来ることなら何でもするつもりで非殺傷装備なら喜んで提供する」と明かし、欧米諸国もウクライナに特定の装備提供を拒否していると指摘して「武器提供でイスラエルだけを批判するのは間違っている」と主張していたが、ガンツ国防相はも「政権が交代して政策に変化が起きても防空システムのウクライナ提供は不可能だ」と述べた。

ガンツ国防相は「ウクライナが要求する高度な防空システム(アロー、デービッド・スリング、バラク、アイアンドーム、アイアンビーム、パトリオット)を直ぐに製造する能力がない」と主張したが、エルサレム・ポスト紙は「高度な防空システムがイランの手に渡ることを政府は恐れている」と指摘しているのが興味深い。

欧米諸国も西側製戦車や高度な防空システムの提供=軍事技術の共有を拒否している上、ロシアは戦場で回収したジャベリンやNLAWを武器提供の見返りとしてイランに引き渡しているため、イスラエルの懸念は十分理解できる。

ただイランに対して強行姿勢なネタニヤフ氏が首相に返り咲くと何が起こるのか誰にも予測できないので、今までとは異なる形のウクライナ支援=防空システム以外の「何か」が実現するかもしれない。

関連記事:イスラエルがウクライナへの防空システム提供を拒否、非殺傷装備なら幾らでも
関連記事:国益を見極めるイスラエル、防空システムのウクライナ提供はロシア次第
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関連記事:米国の軍事技術が流出? ロシア、イスラエルの迎撃弾「Stunner」奪取に成功

 

※アイキャッチ画像の出典:Israel Aerospace Industries

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コメント

    • AAA
    • 2022年 11月 10日

    ネタニヤフ氏は軍事絵支援に前向きな発言をしてたのでかなり期待していたんだがダメだったか
    ウクライナ支援よりもイラン叩きの方を期待しておくか

    25
    • ダヴー
    • 2022年 11月 10日

    防空システムがダメなら保管状態のメルカバでも良いんですけどダメかな
    ダメだろうな

    12
      • 戦略眼
      • 2022年 11月 10日

      マガフならいけるかも。

    • 名前
    • 2022年 11月 10日

    むしろ政権交代のせいで尚更ウクライナへの支援はありえなくなったように思う。
    ネタニヤフとプーチンは利害はあるが、基本的に仲がいい。
    もしかしたら、イスラエルはウクライナへの人道支援やロシアへの非難すらしなくなるかも。
    イランは脅威だが、シリア問題もある。

    21
    • ななし
    • 2022年 11月 10日

    イランのミサイル製造施設やドローン製造施設に、何らかの方法でダメージを与えることも必要と思われる

    9
      • 無無
      • 2022年 11月 10日

      イスラエルがイランへの破壊工作や施設爆撃など、思い切った手段に出てくれたら、ウクライナ直接支援よりもお釣りの来る効果を期待できる

      8
        • 全てF-35B
        • 2022年 11月 10日

        その為のF-35Iだろう。

        1
    • キルレート至上主義者
    • 2022年 11月 10日

    どんなに優秀な兵器でも戦場では敵に回収される。そんでもってそれは仮想敵国間で共有もされる
    これがごくごく当たり前の戦場の常識だろうね
    だから兵器やテクノロジー自体を門外不出の秘伝のタレ扱いするより、現金化できるタイミングで売り飛ばして次を開発するためのエコシステム維持の原資にすべきわけで

    20
      • 名無し2
      • 2022年 11月 10日

      ミサイル迎撃システムは攻撃側に比べ防御側は不利であり弱点が見抜かれると容易に対策されてしまいがちなため、秘密にしておくことで抑止という点で優位性を保とうとする意図があるんじゃないでしょうか。

      12
    • HY
    • 2022年 11月 10日

     ウクライナ戦争で使われた武器が鹵獲されて敵国に渡る危険性がある以上、例え政権交代があっても「提供しない」という決定はほぼ揺らがないでしょう。強硬派ならなおさらです。

    4
    • ミリオタの猫
    • 2022年 11月 10日

    まあ、単純にウクライナが要求する高度な防空システムを直ぐに製造する能力が無いのならまだ理解出来るのですが、敵に武器が渡るから供与出来ないと言うのは詭弁だと思いますね
    兵器と言うのは何れ陳腐化する物なので、敵に渡るのが恐くて使えないと言うのでは話にならないからです
    それよりも重要なのは、イスラエルは今回の発言で「自分達はこれまでユダヤ人問題やホロコーストを声高に言って来たのに、ウクライナで似た様な問題が起きても手助けをしない卑怯な国だ」と言う致命的なダーティ・イメージを世界中に植え付けてしまった事で、今後国際社会でシカトされかねない状況に自らを置いた点でしょう
    しかも、イスラエル自身は「世界中から同情されて滅びるよりも、世界中から憎まれてでも生き残る」と言う国是を持っている国なので、このダーティ・イメージの恐ろしさに気付いていない節が有り、今後の同国の将来に影を落とす事になるのは必至でしょう

    10
      • 匿名さん
      • 2022年 11月 11日

      >ダーティ・イメージ
      そこは、パレスチナ問題等により世界中で周知かと。。

      1
      • nachteule
      • 2022年 11月 11日

       何でイスラエルをそんなに叩く必要あるのか。どこの国が前線で使わざるを得ない回収されたら不味い兵器を供与してるのか教えて欲しいぐらいだわ。

       少なくとも全線から離れた首都防衛とかに使います、何かあればどんな犠牲でも払って破壊しますとか。不埒な奴が武器性能の情報漏らしたなら如何なるペナルティでも受けますとかぐらい言わないと動かないだろう。
       ただ寄越せってのは傲慢でしかないよ、如何に被害者であっても無制限の権利を有している訳じゃないんだから。

      3
    • _
    • 2022年 11月 10日

    これでイランが調子乗って全方位挑発外交エスカレートするならブチギレ掌返しもありえるだろうけど、現状ではそこまで深く介入するメリットも義理もないからね
    本当にイラン次第って感じで受け身にしかなれないのが今のイスラエルの立場だと思う
    ユダヤ人保護のことを言うとロシア国内にも結構な数のユダヤ人がいるしな…

    4
    • 伸縮性のあるボクサー型のスパッツに近い装甲車
    • 2022年 11月 10日

    あっそうだぁ(唐突)マクロンが公式にマリでの治安ミッション「バルハン作戦」の終了を宣言したゾ

    いきなり断交してロシアに浮気したマリだけど肝心のロシアからのワグナー民兵が虐殺起こすわ ウクライナへの戦力引き抜きでマリでの部隊展開の契約更新やめられるわでどーすんすかね?あの国…

    勝手に自滅するのはいいけどサヘルでジハーディ主義者が拡大するのはいやーきついっす

    3
    • お腹がポンポコリン
    • 2022年 11月 10日

    ガンツ先生?
    「ロボコン0点」
    よい子(だった)のみんなは知ってるかい。

    てな冗談はさておき、イスラエルの国防を考えると難しい面もあるのは確かですね。
    最新の防空システムの穴を研究されるのは頂けない、国防を預かる身としては供給に反対せざるを得ないと思います。

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