軍事的雑学

ドイツ軍の敵は「装備」も「予算」も与えないドイツ政府か?

ドイツは自国軍のまずい状態について、いつまで世界に笑われれば気が済むのだろうか?

参考:German Army shock: MP calls for HUGE military investment as ‘post-war era is over’

ドイツは防衛予算GDP比2.0%も、NATOの義務も、もはや守る気がない?

飛べない飛行機、動かない艦船、足りない戦闘車両など、ドイツ軍はこれまで数多くの「嘲笑」を受けてきた。

これらの問題は、主にスペアパーツ不足が原因と言われているが、それなら予算を増やして、スペアパーツを購入すれば問題が解決するのかといえば、そこまで単純な話ではなく、ドイツ軍という組織が、もはや機能不全を起こして問題を悪化させている可能性が高い。

ドイツの報道内容を、そのまま書くと、とにかく非効率な管理体制が最大の問題で「全てについて時間がかかり過ぎ、そうして時間を浪費している内に費用が上昇して予算を圧迫し、また書類を書き直すところから始めなければならない」らしい。

では、なぜドイツ軍という組織が腐ってしまったのか?

ドイツでは、欧州の国々は東西冷戦終結後、軍隊を整理し縮小したが、ドイツほど軍隊の規模を縮小した国はなく、多くの兵舎が閉鎖され、同時に徴兵された兵士を服務期限前に大量に解放したことで、軍隊を維持するために必要なノウハウが失われ、施設や装備は適切に維持することが出来ず、組織の崩壊に繋がったと指摘している。

さらに付け加えるなら、徴兵制の廃止によって有能な人材の確保が困難になり、ドイツ軍では現在、2万1500もの士官ポストが空席のままになっている。

もし人材不足を予算面から解決できれば、すべての問題がドミノ式に解決するのかもしれないが、ドイツの政治家(主に与党、ドイツキリスト教民主同盟の政治家たち)は、軍の正常化のために予算を増やすどころか、どうやって予算を削るかに知恵を絞っている。

これまでもドイツは頑なに防衛費の引き上げを拒んできた。

ドイツは経済的に恵まれ、NATOを中心とした安全保障政策を行っているにも関わらず、NATOが定めた防衛費の基準(GDP比2.0%)を守ろうとしないため、NATO加盟国からの批判も大きい。

確かに金額ベースで見れば、ドイツはNATO加盟国の中でも、米国(3.1%)約6,100億ドル、フランス(2.3%)約578億ドルに次いで3番目の防衛費(約444億ドル)を支出しているが、GDP比で見た場合、1.3%しか安全保障のコストを負担していない。

ドイツは、2024年までにGDP比1.5%まで引き上げると言っていたが、2017年以降、連立政権を組むキリスト教民主・社会同盟とドイツ社会民主党は最近、防衛費を増やすのではなく「減らす」方向に方針を転換し、GDP比「1.24%」という国防費を新たに設定した。

もはやドイツは、NATOが定めた防衛費の基準(GDP比2.0%)を守る気はなく、NATOの義務を果たすためのコストすら支払う気はないらしい。

Attribution: Bundeswehr-Fotos / CC BY 2.0 ドイツ陸軍のレオパルト2A5

ドイツのDie Welt紙(ディ・ヴェルト)によれば、ドイツは新設されたNATOのVJTF(高高度即応統合任務部隊:Very High Readiness Joint Task Force)指揮を引き継ぐ予定だが、能力、準備が不十分で、とても義務を果たせる状態ではないと言われている。

NATOが新しく組織したVJTFとは、NATO即応部隊(NRF:NATO Response Force)の一部で、即応部隊の先導的役割を果たすため、2014年に設立された比較的新しい組織で、定員は5000人。

ロシアのクリミア併合を目の当たりにしたNATOは、既存のNATO即応部隊の即応性をより高める為、VJTF(高高度即応統合任務部隊:Very High Readiness Joint Task Force)を設立し、既存のどんなNATO即応部隊よりも、迅速に、素早く、行動を開始することが可能なよう最高の準備状態を維持している。

VJTF部隊は、命令が下れば数時間以内に行動を開始し、2日以内には、NATOにとってロシア正面にあたる、ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニアへ展開し、5日から7日後に、NATO即応部隊の主力が到着するまで時間を稼ぐのが彼らの任務だ。

VJTFの基盤戦力となるのは、ドイツ陸軍第1装甲師団隷下の第9装甲教導旅団を中心とした2,700人。これにオランダ、ノルウェーの部隊が脇を固める。

出典:Public Domain マルダー歩兵戦闘車

しかし、最高の準備状態を維持しているはずの第9装甲教導旅団には、44輌配備されるはずの「レオパルド2」戦車が、たったの9輌しかなく、14輌配備されるはずのマルダー歩兵戦闘車が、たったの3輌しか配備されていない。

さらに、第9装甲教導旅団には、戦闘車両を維持するためのスペアパーツが欠如し、暗視装置や擲弾発射器などの戦闘装備、防寒服や防護ベストなどの基本装備、その全てが欠けた状態だ。

これをまともな状態に戻すには、他の部隊から装備や部品を拝借する=共食い整備を行う必要があると指摘されている。

ここまで来ると、もはやドイツは最低の負担(金額ではなくGDP比)で、NATOによって提供される安全保障を受けていることになり、ドイツ以外のNATO加盟国から見れば不平等に映るだろう。

本来ならドイツはNATO加盟国として、最低限、義務を果たせるよう軍の正常化のために予算を投資すべきだが、ドイツのメルケル首相が新たに投資を決めたのは、飛べない飛行機や戦闘車両を動かすためのスペアパーツ購入ではなく、新たに指向性エネルギー兵器(レーザー砲)を開発するための投資だった。

流石にこの話に対して、ドイツ議会の野党、自由民主党所属の議員から「資金を投資する先が間違っている」とツッコミが入り、政府は防衛予算を増やさなければならないと突き上げを食らったが、大連立(キリスト教民主・社会同盟とドイツ社会民主党)で、過半数をガッチリ抑えている与党が聞く耳を持つは謎だ。

もしかするとドイツ軍の真の敵は、まともな装備も予算も与えないドイツ政府なのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:MoiraM / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 8月 26日

    これ凄い不思議なんだが
    人と金が足りないなら足りないなりに、兵器の半分は放置して残り半分の稼働率を上げれば良いと思うのだが
    何で出来ないんだろう

      • 匿名
      • 2019年 8月 26日

      そういう予算の選択と集中をするのが政治家や官僚の仕事なのにまともにやらない
      そいつらこそがドイツ軍の最強の敵ではないのか?ってのがこのトピックの主題でしょ
      現場が勝手に選択と集中したら予算の不正流用で豚箱行きだよ

        • 匿名
        • 2019年 8月 26日

        国防大臣でさえ稼働率に言及し、予算が足りないから寄越せと言ってるのに、不正もなにも無いと思うんだが
        予算額そのものは自衛隊と変わらないと言うし、本当に謎だ

    • 匿名
    • 2019年 8月 26日

    ドイツ政府は国民と圧政・貧困から逃れた弱者の味方であり軍隊の敵。
    見習うべき姿勢である。
    我が国も一刻も早くアベを蹴落とし同じ道を歩むべきだ。

      • トク·メイ
      • 2019年 8月 26日

      嫌だ、滅びたくない、ドイツみたいになりたくない

      • 匿名
      • 2019年 8月 26日

      そのためにまずは日本列島を動かさないとな、物理的に。
      盾に使える国で周りを囲う地理的要件を手に入れるのが前提条件だから。
      実現すると良いね。

      • 匿名
      • 2019年 8月 27日

      そんなことしたら、瞬く間に焦土化するじゃないですかー。今の情勢でそれが言えるのが不思議でならない

      • oominoomi
      • 2019年 8月 28日

      国防予算の対GDP比 2019

      ロシア=4.3
      韓国=2.6%
      ドイツ=1.2%
      日本=0.9%

      て、分かってて言ってます?

      • 匿名
      • 2019年 8月 30日

      自衛隊の軍縮やったらよくは知らないけど軍用機が共食いまみれ中古パーツ使い回しで市街地に墜落するんですねわかります

    • 匿名
    • 2019年 8月 26日

    小銃の一個部品の価格が小銃完成品の価格に設定
    その為、部品供給がままならず共食い整備している
    人の事言えない…

    • 匿名
    • 2019年 8月 26日

    文民統制が現代の民主主義国家の基本なので、立法府や行政府が軍事予算のコントロールをするのが適切ではあるのですが、組織のビジョンなしにやられるのは実力組織がコントロール不能になる危険性があります。
    ドイツはロシアとの最前線で無くなったことから、ニュークリアシェアリングの必要性が下がったし、東ドイツからの陸上侵攻も無くなったわけですが、NATOの即応部隊について共食い整備した機材と要員無理矢理派遣で済ませてると、ロシアの新戦略に追従できるのか疑問です。

    • 匿名
    • 2019年 8月 26日

    これだけ軍がボロボロでも、ドイツ政府が何もしないのは理由がある。
    まず、自国と国境を接している国で、NATO未加盟なのはオーストリア、スイスとリヒテンシュタインの3カ国だけ。
    おまけに対ロシアへの備えは隣国で、NATO加盟国でもあるポーランドや中・北欧諸国にお任せできる状態。
    実際、ポーランドやフィンランドは冷戦終結後にドイツ陸軍で余ったレオパルド2戦車を買って機甲部隊を再編しており、これがドイツにとっては「余剰戦車を売って儲かる上に、自国が軍備削減しても近隣諸国の軍事力を強化するので、自国の防衛は大丈夫」と言う、美味しい状態を作っている。
    まあ、NATOにとってドイツは「一番金と戦力を期待できる国」なので、その内何かあれば、NATO加盟国から袋叩きにされると思うけれど。

    • 匿名
    • 2019年 8月 26日

    ビスマルクが死んで120年。伍長閣下が死んで75年。
    当時誰がこの未来を予想できたか。
    未来なんて全く読めないね。

    • 匿名
    • 2019年 8月 27日

    富国も強兵も萎縮を招く経済学派が支持されているから、いくら軍事的な理屈でもって正論を述べても支持は得られないんですよね。
    移民拡大の支持不支持で見るとざっくりと見分けが付く。
    EVとかソーラーパネルのように現状無視の投資に走りたがるのも特徴的。(制度ごと新たに作るのでレントシーキングをしやすいから?)

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