米国関連

また約束を破ったボーイング、KC-46Aの不具合解消は19ヶ月遅れる

米空軍は7日、KC-46Aの空中給油能力を制限している不具合の解決が「19ヶ月遅れる=RVS2.0のリリースが2024年3月から2025年10月に遅れる」と明かしため、F-22、F-35A、B-2に対する給油制限(実戦任務時のみ)解消は遠のいた格好だ。

参考:Supply chain woes delay KC-46 refueling vision system upgrade to 2025

これまでボーイングは開発スケジュールを何度も破ってきたので今回の発表を信用する人は少なそうだ

KC-46Aのベース機体は実績十分の767で、空中給油システムも信頼性の高いKC-10ベースだったのだが、米空軍は予備設計を通過後に空中給油システムの制御をアナログからデジタルに変更するよう要求、技術成熟度評価(TRA)による検証が未実施の技術で構築されたリモートビジョンシステム(RVS)やデジタル制御に対応したブームは「新規設計」と呼ぶに相応しいにも関わらず、再び予備設計の審査を行うことなく初期設計に移行。

出典:U.S. Air Force photo/Airman 1st Class Colby L. Hardin 3Dメガネを装着してRVSを操作する様子

テスト中に不具合が報告されても無視して調達を強行した結果、KC-46Aには空中給油を受ける機体を損傷させるリスクが残ったままで、米空軍とボーイングは2023年までにRVS2.0と新型ムーブの開発を終え、2024年3月から交換作業に入ることを決定したのだが、ここからKC-46Aの問題は更に複雑化する。

空軍が進める空中給油機の更新はKC-XとKC-Zの二段構えで、KC-Xの勝者であるKC-46Aは179機調達が予定されているものの後継機のKC-Zは要求要件も決まっていないため、KC-46Aの追加調達が見込まれていたが、議会はKC-46Aの不具合や製造工程での問題でボーイングを信用しておらず「KC-46AとKC-Zのギャップを埋めるブリッジタンカー(KC-Y)を新たに選定しろ」と要求、これを受けて空軍は2024年頃にKC-Yの選定を実施する方針を発表した。

出典:Lockheed Martin

選定時期を2024年頃に設定したのは「KC-46Aの修正が完了しないと完成度の高いLMXT(A330MRTTの派生型)が勝利する」ためで、空軍とボーイングは「2024年3月」と定めたリリーススケジュールを守るため予備設計の審査を再び簡略化、米政府説明責任局から「再び同じ失敗を繰り返そうとしている」と警告を受けているが、空軍は予備設計で要求されている「完全なプロトタイプによる入念な検証」について現実的ではないと拒否している。

RVS2.0は自動空中給油システムなど検証されていない新技術が含まれており、これを標準的な手順で検証すればRVS2.0のリリースは2024年→2026年にズレるため、空軍は「初期設計後に予定されている通常の開発試験でRVS2.0のテストを行うので問題はない」と主張、しかし米政府説明責任局は「予備設計で未成熟なRVS2.0の問題を潰した方が結果的にコストと開発スケージュールを節約できる」と反論している。

出典:U.S. Air Force photo by Chustine Minoda

結局、空軍は米政府説明責任局の警告を無視して「RVS2.0の予備設計審査が完了した」と発表、ケンドール空軍長官も「KC-46の問題が一夜にして大きく改善(RVS2.0完成までの繋ぎとして開発されたRVS1.0の修正バージョン)したためブリッジタンカーの必要性は低下した」と発言していたが、米空軍は7日「KC-46Aの空中給油能力を制限している不具合の解決が19ヶ月遅れる」と発表した。

RVS2.0のリリースが2024年3月から2025年10月に遅れる理由について米空軍とボーイングは「一部のハードウェアの入手性が極端に悪化しているため」と説明しているが、耐空証明を取得するプロセスも原因の一つだと付け加えており、これまでボーイングは開発スケジュールを何度も破ってきたので今回の発表を信用する人は少なそうだ。

出典:Naval Sea Systems Command Orcaの進水式

因みに米政府説明責任局は米海軍がボーイングに発注したOrcaについても「計画から3年遅れで開発コストも当初見積もりの64%増だ」と指摘しており、この問題は「請負企業にプロトタイプの製造準備が整っているのかを確認しない海軍にも責任がある」と指摘している。

関連記事:懲りない米空軍に米会計検査院が警告、KC-46のRVS2.0開発で同じ失敗を犯す
関連記事:KC-46の問題が大きく改善? 米空軍がブリッジタンカーの必要性を否定

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Abigail Klein

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コメント

    • ゆう
    • 2022年 10月 08日

    最初の話、「アナログをデジタルに変更要求」とあるけど、アナログとデジタル、運用にあたって何が違ってくるか、わかっているのか疑問。本当にデジタル化が必要だったのか。
    日本でも、「そろばんというアナログ機器」などという意見も聞くし、本質を見ていない。

    5
      • 2022年 10月 08日

      アナログ機材はオペレーターの技量に依存する部分が非常に高く、部隊間の空中給油技術の格差があるのでしょう。また新人の戦力化に時間が掛かる。
      米軍は「誰でも」「迅速に」「規定の同一技量」を求めているのでデジタル化が可能ならそれを求めるのは当然でしょう。

      25
    • 無印
    • 2022年 10月 08日

    >KC-46の問題が一夜にして大きく改善
    そんな魔法みたいなことが…と思ってたけど、そんな魔法は無かったんや

    24
    • 無無
    • 2022年 10月 08日

    沿岸戦闘艦の失敗と同じく、必要な手順をめんどうだから省略しようとして逆に問題を生み出す、
    そして途中からアナログをデジタルと仕様変更の無茶振りをやる米軍の揺らぎ
    ボーイングの体質だけでなくアメリカを蝕んでいる妙な流れが露になっただけでは

    29
    • shkk
    • 2022年 10月 08日

    KC-10あるのになんでや…?と思ってたけどそんな理由があったのね

    途中で仕様変更したくせに納期厳守で品質守れるわけないのに…

    15
    • 匿名
    • 2022年 10月 08日

    いつまでたっても一人前になれないなんて、とんだチェリーボーイングだよ

    9
    • ラト
    • 2022年 10月 08日

    これ以上遅れたら空自の作戦能力にも影響出てくるし台湾有事だって2027年に始まるなんて言われてるんだから色々とまずいでしょ…最悪防衛予算も増えてある程度は余裕出来るかもしれないんだし違約金払ってでもエアバスMRTTに切り替えるか…?

    5
      • 名無し
      • 2022年 10月 08日

      そうなんだけど、A330MRTTのほうがKC-46より載せれる燃料の量が少ないので、作戦に必要な機数とかにも影響してくるんだよね。。。

      1
        • 匿名希望
        • 2022年 10月 08日

        燃料タンク増やすんでなかったけ?
        あと大型で燃料低いの?>A330MRTT

        • 千葉の猫
        • 2022年 10月 08日

        ついでにA330MRTTのほうがでかくて重いので
        運用できる飛行場がKC-46Aよりも限定されまする

        特に飛行場をそう簡単に広げる事が出来ない場合には悩ましい機材よね
        自衛隊とかまさにそうだし

        12
    • 感謝します
    • 2022年 10月 08日

    どうせまた間に合わないと思ってたけど、本当に間に合わないとは….
    何事も横着は良くないとよく分かる例

    10
    • 無能
    • 2022年 10月 08日

    リリースが遅れる→またか

    ハードウェアの入手性が極端に悪化している→ウッ…納期遅延申し入れた仕事が…

    2
    • daui
    • 2022年 10月 08日

    この問題で米空軍と米議会・説明責任局が異なる立場をとって対立している理由が記事を読んでもよくわからなかった。

    2
      • けい2020
      • 2022年 10月 08日

      そもそも無理やりボーイングにしたのが、米議会
      議会・ボーイングの癒着の後始末をしてるのが、米空軍
      説明責任局は本来の仕事してるだけ

      6
    • ブルーピーコック
    • 2022年 10月 08日

    手続きや納期を短縮しようとして、試験や試運転、マニュアル作成を怠った737MAXと同じ構図か。

    7
    • daishi
    • 2022年 10月 08日

    空軍のKC-Xに対する仕様変更は海軍のズムウォルト級やLCS、フォード級のノリと似てますから、当時のアメリカ軍全体的な潮流だったのかもしれません。
    官僚主義が書類に辟易して逃げ道を求めるような体制は健全とは言えないので、人の面での仕組みの見直しも必要ですね。

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