米国関連

ブリッジタンカーの行方、ボーイングはKC-46Aの新たな防御手段を開発

米国のボーイングは20日「ハイエンドの戦いでKC-46Aの生存性を高めるため新たな防御手段を開発する」とパリ航空ショーで発表、米空軍も次世代空中給油機(KC-Z)の開発を加速させる方針で、ブリッジタンカーの行方は流動的だ。

参考:Boeing wants to boost KC-46 defenses as Air Force weighs tanker path

ここまで来ると素人目には「ボーイングの軍事部門を潰す訳にはいかない」という力が働いていると映ってしまう

米空軍は次世代空中給油機はKC-XとKC-Zの二段構えで、KC-135の後継機=KC-Xの入札はボーイング提案のKC-767とエアバス/ノースロップ・グラマン提案のKC-30Tで争われ、最終的にKC-30T側が入札を辞退したためKC-767をKC-46Aの名称で採用、ひとまず2027年までに179機調達する契約をボーイングに締結し、2030年代にKC-Zが登場するまでKC-46Aを追加調達(2029年から150機前後)する予定だったのだが、トラブル続きのKC-46Aに怒った議会がブリッジタンカー(KC-Y)の入札を行うよう要求。

出典:U.S. Air Force photo/Airman 1st Class Colby L. Hardin 3Dメガネを装着してRVSを操作する様子

これを受けて米空軍は「KC-Yの入札を行う」と表明、エアバスはロッキード・マーティンと手を組んでLMXTで挑戦すると発表したが、KC-Yは2029年に引き渡しを開始する必要があるため入札は2024年頃に行う必要があり、米空軍とボーイングは入札に不具合の修正を間に合わせるため国防総省や米政府説明責任局の警告を無視して再び開発手順を省略したものの、修正バージョンのリリースが2024年3月から2025年10月にずれ込むことが確定。

KC-46Aは入札までに不具合修正が間に合うか微妙になってきたが、米空軍は「KC-Zの開発を加速してKC-Yの調達数を半分に減らす」と発表したため風向きが変わってきた。

出典:Lockheed Martin LMXT

LMXTの採算ラインは最小100機なので調達数が75機に削減されると「(KC-46Aに対して)競争力のある価格」を提示するのが難しく、こうなると生産ラインをKC-Yに流用できるKC-46Aが有利になり、ボーイングも「ハイエンドの戦いにおける生存性(中国との戦いでは真っ先に価値が高い空中給油機が長射程空対空ミサイルで狙われる)」という切り口で「新たな防御手段を開発する」と発表、空軍はKC-Yの入札自体を中止してKC-46Aの追加調達を狙っているらしい。

開発を加速するKC-Zは民間機の改造機ではなく専用機の開発=B-21のような全翼機タイプになる可能性が高く、開発に時間がかかるという声も少なくないのだが、恐らく「KC-Zの開発加速」はKC-Yの調達数を減らして入札自体を潰すための方便(75機調達までにKC-Zが完成しなければKC-46Aを追加調達すればいいだけの話)だろう。

75機の調達で採算割れが確定のLMXTに「新たな防御手段」を開発して取り付ける余力があるのか謎だが、ここまで来ると素人目には「ボーイングの軍事部門を潰す訳にはいかない」という力が働いていると映ってしまう。

関連記事:ボーイングが陥った固定価格の悪夢、KC-46Aの損失が70億ドルを突破
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関連記事:また約束を破ったボーイング、KC-46Aの不具合解消は19ヶ月遅れる

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Abigail Klein

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コメント

    • すえすえ
    • 2023年 6月 21日

    ボーイングを守るための 新たな防御手段 を開発したわけですねw

    38
      • ネコ歩き
      • 2023年 6月 21日

      ボーイングの軍用機部門は開発力と信頼度を回復させて生き残ってもらわないと困るでしょ。
      米国における軍用機開発大手は現状LM、B、NGの3社に集約されています。B社が軍用機から手を引けば、このままではLMの一強独占になりかねない。競争性が無くなれば色々と弊害も起きてくる。
      国内企業で、有力2社+第3極1社 という構図を維持したいのでは。

      21
      • qwerty
      • 2023年 6月 21日

      ツボにはまって腹痛いw

      4
      • 白髪鬼
      • 2023年 6月 21日

      これだけ技術開発力、プロジェクトの管理力に改善の兆しが見えないボーイングは、多少の人材の補填ぐらいで改まらないぐらい、組織や人は硬直化しているのかもしれないですね。

      しかもそれの対応策が国防省と連んでの議会対策とか、完全に本質からズレてます。ボーイングが重要なのは解るけど、体質を改めない限り負の連鎖に陥り、最終的に肝心の国防体制自体に悪影響えお及ぼす結果になりませんかね?

      国防雨頼みの日本にとっては、笑って見てられる話では無いですが、かと言って何かできるわけでも無いので、何とも歯痒い話です。

      13
      • 朴秀
      • 2023年 6月 21日

      B社「やったぜ。これならいくら手を抜いても大丈夫だな♪」

      ってなりそう

      9
    • 暇人
    • 2023年 6月 21日

    自助努力が足りない技術を磨かない企業を救っても後先に問題が膨れ上がり崩壊するのだから、潰れるなら潰せばいい。
    潰れた後に再編させるしかないのでは?
    淘汰に勝る新陳代謝はない。潰れたって死ぬわけではなかろう。
    ボーイングだろうと、使えない物はゴミ。

    14
    • 無能
    • 2023年 6月 21日

    こんな体たらくでボーイングの株主から軍自部門の売却って意見は上がらないんだろうか?
    欧米の株主なら見切りをつけるの早そうなイメージだけど

    4
      •  
      • 2023年 6月 21日

      米軍需産業界に統合を押しつけたのが米軍ならその結果として競争がなくなり調達価格高騰で困ってるのもまた米軍だからなんとしてもLM一強体制を阻止したいんだろう
      今でも割とそうだけど言い値で買わされるようになるから

      8
      • ななし
      • 2023年 6月 21日

      737MAXでわかるように民間航空機部門もグダグダですから、塩漬けするか損切りした方が早いです

      7
        • DEEPBLUE
        • 2023年 6月 21日

        軍民両方死んだとして、世界的影響を考えると潰して良いのか生かすならどこに持たせたら良いかという重大な問題が・・・。やっぱりノースロップ・ボーイング?

          • 匿名希望係
          • 2023年 6月 21日

          ゾンビみたいに寄生乗っ取りはかりそうだから完全につぶしたいところで

          4
            • きっど
            • 2023年 6月 22日

            当のボーイング自体が、合併したマクドネル・ダグラスに乗っ取られた様なものですからね
            癌でしかなくなった経営陣ほかの上層部は、徹底的に叩き潰さないと二の舞いになるでしょうね

            5
            • DEEPBLUE
            • 2023年 6月 22日

            GMみたくチャプター11か一時国有化で経営陣一掃が落とし所では?最悪でも旅客機部門は残さないとならないので

            1
      • ネコ歩き
      • 2023年 6月 21日

      ボーイング社の民需/軍需の売上げ比はおおよそ6:1ですが、軍事部門を切れば経営は更に悪化すると思われます。

      ボーイングは1997年にMDを吸収合併しましたが、その際旧MD経営陣に経営主導権を握られるという事態になりました。
      新体制では株価至上主義に方針転換し、利益率を上げるため設計開発はコア部門を残しアウトソーシングに切替え、多数のエンジニアをレイオフしてしまいました。外注管理部門も縮小したため丸投げアウトソーシングが増えていったそうです。
      近年のボーイングの開発力低下はそれに起因しているという説があります。

      ボーイングの株価推移は、1997年を(100)とすれば、2007年(179)、と上昇を辿りましたが、B787のトラブルを受け2009年には一時(64)まで下落します。その後徐々に回復しますが、2014年より積極的自社株買いと株主配当金の大幅増に打って出ます。
      結果、2019年初頭に(899)という高値をつけますがB737MAXの事故を受け急落しました。今年6/20現在は(434)ですが、前期までの決算は企業の存続が危ぶまれる状況です。

      このように、ボーイングの経営不振は主に民需部門のトラブルと極端な株価至上主義が原因です。

      27
        • ブルーピーコック
        • 2023年 6月 21日

        晩年のマクダネル・ダグラスみたいな既視感があると思ったらそういう・・・

        16
      • 匿名さん
      • 2023年 6月 21日

      >欧米の株主なら見切りをつけるの早そうなイメージだけど

      見切りをつけた株主は、とっとと株式を売却してるさ。

      ボーイングの本社は、創業のシアトルからシカゴに移って、現在はワシントンD.C.近郊。

      シカゴになって企業買収とか利益とか数字ばかり追うようになったと言われ、エンジニアリングが疎かになった結果、737MAXの問題が起きた。

      多くの人が期待したことは、シアトルに戻って、エンジニアリングを立て直すことだった。
      それが、なんと、真逆の方向に行ったんだから。
      もう言葉もないよね。

      17
    • ブルーピーコック
    • 2023年 6月 21日

    ボーイングに塗られた泥で顔パックするのが趣味なのかな。
    まあデカい会社は潰すと社会不安やら何やら引き起こすので、潰すに潰せないのは往々にしてあるからなあ。かつてのそごうとか、サブプライムローン破綻直後のアメリカの自動車会社とか。
    でもそろそろメスをぶっ刺す頃合いじゃないのかね。それとも刺してこれなのか。

    4
      •  は
      • 2023年 6月 21日

      ボーイングは強すぎる労組のせいで組織改革が進まないのがねぇ、大企業アルアルだけど。
      いつぞやのビッグ3や日本のJALみたいに、
      一度、裁判所送りにして労組を骨抜きにしないとどうにもならないかもしれない。

      9
    • YJ93
    • 2023年 6月 21日

    KC-46Aは我が国も導入しているので先行きは心配ではありますが、ひとまずAMCが昨年のうちにF-35Aに加え、F-35B/Cへの給油も能力獲得宣言をしてるのですぐに困ったことにはならなそうですね。
    そういう意味ではKC-YにA330MRTTなど採用されてボーイングに傾かれても困るのは日本も同じですかね…

    10
    • 折口
    • 2023年 6月 21日

    空中給油機は空中管制機と並んで、あるいはAWACSを飛び越えて早い段階で分散化・無人化の方向に行くと思っていましたが、ここで軍産関係の微妙な空気が出てきてしまうのかぁアメリカは…。海軍のMQ-25みたいなものを大量に飛ばすんではダメなんですかね。

    1
      • VRTG
      • 2023年 6月 21日

      空軍は爆撃機や輸送機、VC-25やE-3、E-4他大型機が多数あるのでMQ-25のタンク容量ではどうにもなりません。
      戦闘機でも太平洋や大西洋超えの長距離フライトもあるので、給油機の航続距離も相応に求められます(戦闘機の渡洋の度に空母から給油機を出せ、というのも)。
      大型機にKC-46等が必須である以上、MQ-25を採用しても危険度の高い前線用途程度ではないでしょうか。

      3
    • 思い付きだけど
    • 2023年 6月 21日

    無人機の方向は正しいとおもいますよ。たぶんボーイングもそのうち「本格的なステルス給油機」にシフトするでしょう。

    2
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