米国関連

ボーイングが陥った固定価格の悪夢、KC-46Aの損失が70億ドルを突破

ボーイングは26日、投資家に対して「KC-46Aが2023年の第1四半期に2.45億ドル=約333億円の損失を出した。まだ同機の損失は拡大する可能性がある」と警告しており、防衛部門がKC-46Aで被った損失は70億ドル=約9,540億円を突破した。

参考:Boeing’s tanker losses top $7 billion
参考:Key milestone for new Boeing trainer aircraft delayed to 2027

実際のコストと入札価格が一致するかどうかも検討しなければならない

KC-46Aが今回損失を被ったのは「空中給油能力の制限」を解消するため開発しているリモートビジョンシステム(RVS2.0)関連ではなく、サプライヤーの品質問題(中央燃料タンクの塗装手順が適切でなかったたため燃料システムに影響を及ぼす問題)で追加作業や納期遅延が発生しているせいで、カルホーン最高経営責任者は「この問題の状況は改善に向かっている」と述べたもの、ボーイングは投資家に対して「同機の損失は年内に拡大する可能性がある」と警告、KC-46Aで被った累計損失が70億ドル=約9,540億円を突破したため注目を集めている。

出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Abigail Klein

これだけ巨額の損失を被ったのは「固定価格での受注」に原因があり、新しいエアフォース・ワン(VC-25B)も39億ドルの固定価格に対して11億ドル、空軍の次期高等練習機T-7Aも92億ドルの固定価格に対して3.67億ドル、海軍の無人空中給油機MQ-25も8.05億ドル(現在は130億ドル)の固定価格に対して0.78億ドルの損失を被っているため「今後はこのアプローチを避ける」とカルホーン氏も述べている。

ただ米空軍は初期作戦能力の宣言がずれ込んでいるT-7Aについて「当初予定よりも3年遅れの2027年春になる見込みだ」と認めたため、この期間に再び問題が生じればT-7Aの改修費用はボーイングが負担しなければならず、空軍も「T-7Aの入札価格は予想より100億ドルも少なかったが、実際のコストと入札価格が一致するかどうかも検討しなければならない」と述べており、T-50AやM-346との競争に打ち勝つためボーイングは相当無理をした可能性が高い。

関連記事:芳しくなくT-7Aの開発状況、量産機引き渡しは2023年から2025年以降に変更
関連記事:ボーイングの防衛部門は第3四半期に28億ドルを失う、KC-46Aの累計損失額は68億ドル

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force Photo by Tech. Sgt. John Wilkes

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コメント

    • ミリオタの猫
    • 2023年 4月 29日

    こうなって来るとボーイングの開発・製造能力の問題だけで無く、昔日本の公共事業でよく有った「1円入札」の様な非現実的な低価格入札をボーイングが乱用してライバルとの競争に打ち勝とうとしていた疑いも浮上しますわ……
    幸い、米国政府にはGAOと言う権限の強い会計監査機関が有るから、一度ボーイングの入札案件を徹底的に調べるべきでしょうね

    40
    • れんちゃ
    • 2023年 4月 29日

    業績 ボーイング(2023年1-3月・第1四半期)
    ・売上高:179.2億ドル(予想:174.3億ドル)
      民間航空機:67.0億ドル(予想:71.1億ドル)
      防衛・宇宙・セキュリティ:65.4億ドル(予想:57.3億ドル)
      グローバル・サービス:47.2億ドル(予想:45.4億ドル)
    ・FCF:-7.86億ドル(予想:-18.6億ドル)
    ・受注残:4110億ドル
    (通期見通し)・FCF:30~50億ドルの黒字を維持(予想:39億ドル)

    という感じなので…固定価格にした形で大幅な損失が出て大変って話を額面通りに受け取って良いのかどうかもあるかな。
    これが変動価格だったとしたら逆にここまで大きな帳簿上の黒字を吸収する落差はつけなかったかも知れない。
    また、ボーイング側の不手際も大きすぎるので…固定価格でなかったとしても本当に全額軍に押し付けられたの?という疑問も。

    29
      • HY
      • 2023年 4月 30日

       米議会が許さないでしょうね。

      2
    • チェンバレン
    • 2023年 4月 29日

    一兆円は草

    命に関わるから赤字になろうがちゃんと仕上げてくれよな〜

    5
    • たけやぶやけた
    • 2023年 4月 29日

    そうはいっても、発注者による追加要素がない限り公共事業で固定価格なのは当たり前だからな。

    17
    • 2023年 4月 29日

    T-50も韓国による補助金前提の価格阪大だったし、練習機は買い手と売り手で、妥当と判断する価格に相当な差があるのだろうな

    6
      • 匿名
      • 2023年 4月 29日

      出来が良ければいいけど、先進国から仕事を奪って潰しておいて二流三流品しか作れない”世界の工場”になるだけ。
      悪い焼き畑商法で迷惑な話。

      8
        • G
        • 2023年 4月 29日

        T-50はロッキード・マーティンの技術提供のもと設計し、ゼネラル・エレクトリック からエンジン(キット)を購入して製造しているものなので二流三流品ということはないかと
        粗悪なものを作っていたのならLMやGEの評判にも傷がつきかねないため、それらの企業によるチェックも行われているでしょうし

        17
          • 匿名
          • 2023年 4月 29日

          表に裏に上から下まで隙あらば国産品や混ぜ物に勝手に差し替える実績持ちです

          4
            • ミリオタの猫
            • 2023年 4月 29日

            いや、確かに韓国は過去にそう言う事をしているけど、未だに続けていたらそれこそユーザーや海外の協力企業からそっぽを向かれるよ……

            13
    • RAAF
    • 2023年 4月 29日

    米軍納入品にに上乗せできない赤字分を輸出機に乗せるという真似はしていなさそうで

    2
    • 無無
    • 2023年 4月 30日

    大きな船は少し舵取りを間違えるだけで衝突が避けられない
    大企業だからこそ危険水域に足を踏み入れてどうしようもなくなる可能性が見えてきた

    • ウルフリック
    • 2023年 4月 30日

    ひょっとしたらT7導入中止して再トライアルがあるかも

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