F-35 Block4で要求される冷却性能と発電能力はF135の設計限界を超えており、議会、米空軍、ロッキード・マーティン、P&W、GEは「AETP採用」か「F135EEP採用か」で揉めていたが、この問題にようやく決着がついた。
参考:It’s official: The F-35 will not get a new engine anytime soon
議会はF-35へのAETP統合を断念した格好だ
米国の2024会計年度は2023年10月1日~2024年9月30日で、議会は2024年度の国防権限法(NDAA=1年間に支出する国防予算の総額を定めた法案)を12月14日に可決、バイデン大統領も22日に署名したためNDAA自体は成立していたものの、民主党と共和党が国境問題で対立したため肝心の予算成立が遅れていたが、ジョンソン下院議長は19日「国土安全保障省への資金供給(メキシコ国境問題)に関してバイデン政権との合意が成立した」と発表。
これを受けて議会はNDAAの中身を21日に公開したため、ディフェンスメディアには2025年度予算案とNDAAの話題が押し寄せており、特に目を引くのはF-35のエンジン問題に決着がついた点だろう。
エンジンは戦闘機のパラメーターに大きな影響を及ぼす重要なユニットで推力性能は速度や加速、燃費性能は航続距離、冷却性能と発電能力はアビオニクス、耐久性は運用や保守に直結し、基本設計で想定された以上の能力を引き出そうとすれば別の何かを犠牲にする必要があり、F-35のエンジンは冷却能力の拡張とブリードエアの供給量を交換するゼロサムゲームの影響で推力が低下、これをカバーするためF135はより多くの燃料を消費し、設計で想定された以上の高温運転が続くためエンジンが摩耗、故障率と保守サイクルを著しく悪化させている。
さらにBlock4で要求される冷却性能と発電能力はF135の設計限界を超えており、議会、米空軍、ロッキード・マーティン、P&W、GEは「空気の流れを3ストリーム化したAETPを採用するか」「エンジンコアを改良したF135EEPを採用するか」で揉めていたが、AETP開発作業に供給する2.8億ドルについてNDAAは「エンジン産業基盤への投資」と定義、別の条項でも「この資金供給はF-35へのAETP統合を支持するものではない」「代替エンジン統合のため如何なる資金流用も禁止する」と言及。
つまりAETPへの資金供給は「エンジン産業基盤の維持」「次世代戦闘機向けエンジン=NGAPPのサポート」のみに使用されるため、議会はF-35へのAETP統合を断念した格好だ。
P&WはF135EEP開発に関する予備開発契約を受注済みなので、Block4のエンジンはエンジンコアを改良したF135EEPになると確定したと言ってもいいだろう。
因みにNGAPPのプロトタイプ開発契約はGE、P&W、Boeing、Lockheed、Northropの5社に授与済みで、NGAD向けエンジンはAETPの技術をベースにした新しい設計になり、5社に授与した契約総額は48億7,500万ドル=約7,300億円(現在のレートで換算)に達する。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee
最後のレート換算についての記述ですが、
48億7,500万ドル=約7,300億ドル(現在のレートで換算)
とありますが、
48億7,500万ドル=約7,300億円(現在のレートで換算)
ではないでしょうか?
意図的な誤字ではないでしょうか?
私は見た事は無いですが、ここの内容をそのまんまYouTubeに流す変な人がいるとの事
さてこれでアダプティブエンジンを戦闘機で最初に採用するのはどこか…。
これはやっぱり自動化、電子化、多機能化の限界ということであり、いくら66の機能を追加して強くなるとか、
「自動墜落回避システム(AGCAS)」
があれば、下手なパイロットが操縦しても大丈夫、とかいっても、それによってエンジンの消耗が激しくなる、早くなる、故障が増えて稼働率が下がる、燃費が悪くなる、航続距離が短くなる、部隊の編成や訓練も遅れる、ということでは元も子もありません。
むしろ多すぎる機能を減らし、手動の部分を増やして機能を最低限必要なものに絞り、エンジンの能力に余裕を持たせ、故障を減らして稼働率を上げるようにした方が部隊の編成や訓練も早く進んで、実戦的になるのではないでしょうか?
いくら高性能でも、すぐに故障して稼働率が下がる、修理も難しいとなれば、実戦ではすぐに役に立たなくなる、というのはウクライナでの実戦でも証明されています。
新機能追加に伴う制御ソフトウェアの書き換えはスマートフォンのアプリ追加みたいにできると思うんですが、アプリ追加と異なるのはハードウェアの追加もあることで、この追加したハードウェアの電力供給と冷却に苦労しているのでしょう。
他機種の戦闘機の機能追加ではこのような話を聞かないので(古過ぎて改修不能というのは有る)、F35の場合はステルス性の維持のため機体の開口部が少なく、機体のサイズも比較的小さいので熱が溜まりやすい→冷却のためエンジンの圧縮空気で強制冷却しているが、ハードウェアが増えると必要な空気量が増えてしまいエンジンの出力が低下するといった悪循環が生じる。つまりステルス性能と機体の小型化の相性が悪すぎる(大型のF22やJ20では同じ問題が生じない)。
欧州や中国の様にこれからステルス機を設計開発するとすれば、機体のサイズ及びエンジン出力に余裕を持たせる、若しくはデータリンクを活用して機能の一部を随伴無人機や地上車両に振り分けるといったことが必要になる。
F-22は電子機器の冷却にブリードエアを使用しない機構になっています。
J-20の中身は情報がありませんが、機器冷却用の空気取り入れ口が確認されています。
情報ありがとうございます。
ステルス機は形状が肝なので、機体内部の冷却を優先した設計にできないのが難しいですね。
現代の戦いはパイロット個人の感覚・技量だけでは追い付かず、センサーや通信機器によって認識を拡張する必要に迫られました。演算と記録を司るコンピューターは集積化によって消費電力の削減が可能ですが、レーダーや通信機器は性能を上げようとすれば高出力になり消費電力と廃熱が大きくなります。
ステルス形状を損なわず冷却を可能にするには、例えば目立ちにくい機体上部後方に空気取入口を設けるとか、機体内部に冷媒を流して機体表面で放熱するなど考えられます。エンジンの圧縮空気利用も良い方法だったのですが、あれもこれもと機能を追加し過ぎて当初想定していたマージンを食い潰してしまった。
『将来戦闘機用小型熱移送システムに関する研究』に対する説明で、下記のような説明されてたりしますが、
燃料タンクを通じて最終的には機体表面に熱を逃がしているのですかね。
>そのため、米国のF-22でも採用されている、小型で熱移送能力に優れたベーパ・サイクル・システムの研究を実施する。
>排熱能力の拡張の為、空気への排熱だけでなく燃料への排熱に関する研究も行う。
そして上記の記載から推測すると、F-22にも同様の仕組みは設けられてた様ですし、
F-35の冷却システムがブリードエアに頼る仕組みなのは、当初F-35の位置づけがハイ・ローミックスのローエンドだった名残なのかな?、などと妄想しています。
ヴェイパーチャンバーを使った冷却機構は単純な水冷より効率は良いですが高コストです。
F-35には高くて採用できなかったのでしょうね。
まあそのツケを後で払う羽目になったと。
自動墜落回避システムを未熟なパイロット向けとか言って居る時点で解散でしょう。バーティゴは経験が浅い人だけの問題ですか?自動化は人間の負荷を減らすのですから疲労とかに関わってきます。
事故を減らす機能をオミットしろとか正気の沙汰ではありません。それこそ率先して装備すべき物でしょう?事故が起きれば戦力とか以前の問題です。
F-16開発時にテストパイロットがGに耐えられず失神して機体の挙動にリミッターが設けられたりしましからね
戦闘機において人間が最も脆弱な部品として扱われてるからどうしてもこういう機能は必要ですよね
ウクライナ戦の教訓は、陸上戦闘では従来型の兵器も重要だった。
一方で航空戦ではステルス機が必須。従来型戦闘機は、遠方から巡航ミサイルを撃つぐらいしかできない。
ということでは?
F-35はコストダウンの為に無理に単発の超強力エンジンを採用したため、コストが上がって、更に開発が遅延して納期が遅れしまいました。しかもまだまだ解決しない問題が残り続けています。
問題はまともなステルス機がF-35A1機種しかないということだと思います。根本的な設計に欠陥がありますが、今更双発に作り直すのは不可能です。どれだけ問題が起こっても、何とかして使い続けるしかないのです。
>下手なパイロットが操縦しても大丈夫
バーディゴが下手なパイロットがなるものだと思ってる時点でそれ以降のコメントに意義なしです。
空自のF-35が墜落した原因がバーティゴですが、パイロットが三等空佐のベテランだったのをお忘れですか?
ルーキーだろうがベテランだろうが陥るのがバーティゴです
そうそう。こういう手堅いので良いんだよ。
そのうちまた空軍がフロンティアスピリットを抑えられなくなるかも知らんが。
少なくとも同盟国に供給するF-35、特にBに悪影響が出なくて良かった。
後は滞留機問題が、解決すれば良し。
F35のようなステルス機は、機体設計の制約が最優先になりますからね。
エンジンの為に、機体設計が変更されるような事があれば(まずないでしょうが)、価値が著しく低下するリスクがあります。
新エンジンを開発するとなれば、これまた時間(スケジュール)との戦いになります。
F35の生産・改良は、綱渡りのように見えてしまう時があります。
特にF119からF135へのパワーアップが、無理過ぎたと思う。
機体も大分太ったからなあ。
新規電子装備の省電力化と冷却効率の改善に期待。
既存機の冷却パイプも大直径化出来るのだろうか?
機体側の変更が必要ないというのがこのエンジンの利点のはず
将来的にまた冷却能力不足になるだろうから次からは機体側の変更も視野に調整していくんじゃないかな
>冷却性能と発電能力はF135の設計限界を超え
大出力のエンジンを搭載しても単発ステルス機の宿命でしょう
レーザーやマイクロ波の指向性エネルギー兵器の搭載は不可能
日英伊のGCAP機は双発の大出力エンジン発電機を搭載した
大型ステルス機の予定ですから指向性エネルギー兵器も将来
搭載することが出来るでしょう。
ガンダムのエネルギーCAPみたいな技術があればねえ。
爆薬発電機は小型化できないし。
少し前の記事でも書いたけど、やっぱりNGADやB-21ならともかく輸出用も兼ねたワークホース戦闘機にAETP技術はまだ早い…というかほぼ無理なんじゃないかなぁ。
技術がどう進歩しても整備コストの跳ね上がり方が単発/双発どころの騒ぎじゃなさそうだし、輸出用と国内様でエンジン分けるのもこれまた面倒増えるだけでは。
AETP強行してたら、首なし飛燕みたくなってたでしょうし賢明な判断をしたと思います。
そういえばトルコのTFXが飛びましたね