米空軍は先進的なエンジン産業基盤の崩壊を危惧しており、次期戦闘機向けエンジンのプロトタイプ開発契約をGE、P&W、Boeing、Lockheed、Northropの5社に授与、支給される開発資金の総額は約6,700億円に達する。
参考:Air Force Official: We‘re ‘Starting to Lose Our Lead’ in Propulsion
参考:US Air Force picks five companies to prototype next-gen engines
推進力の優位性に投資を怠れば米国と中国は対等になり、最終的に中国が推進力の優位性を獲得するだろう
米空軍の高官は今月16日、産業界とのカンファレンスの中で「一般的に米国の推進技術は軍事的優位性を維持していると見られがちだが、新しいエンジンプログラムが不足しているため関連産業界への資金流入が停滞し、既存技術の延長線でしかないレガシーシステムへの依存度が高まった結果、米国は推進技術での優位性を失いつつある。もし空軍がF-35AへのAETP(アダプティブエンジン)搭載を見送りF135の改良型=F135EEPを選択すれば先進的なエンジン産業基盤は崩壊するだろう」と述べて注目を集めている。
米エンジン産業界に用意された技術革新の機会は次世代戦闘機向けの技術実証としてスタートした「Adaptive Engine Transition Program=AETP」しかなく、これを技術実証のみで終了させると次期戦闘機のエンジンプログラム(Next Generation Adaptive Propulsion program=NGAPP)だけになるため、産業基盤の観点から見るとAETPをF-35Aに採用して関連産業界への資金流入を確保しなければ産業基盤自体が縮小もしくは停滞し、先進的なエンジン産業基盤が失われるという意味だ。
予算が限られる米空軍にとって次期戦闘機に2種類のエンジンを用意することは不可能なため、この高官は「NGAPPを開発する企業を1社に絞り込む必要があり、AETPなしでNGAPPを進めると実質的に産業基盤が縮小する」と警告、さらに米国に追いつき追い越そうとする中国に勝ちたいなら「推進力の優位性に投資しつづけなければならない、さもなければ米国と中国は推進力で対等になり、最終的に中国が推進力の優位性を獲得するだろう」と述べている。
議会は2022年度の国防権限法案に「AETPを2027年からF-35Aに統合する義務ある」という文言を盛り込み、統合方法や財政的に競争力のある調達戦略を提出するよう命じており、国防総省は9月中にAETPへの移行に関する分析結果を発表する予定だが、分析結果を見て議会がF135EEP支持に回る可能性もあるのでAETPへの移行はまだ確定してないのだろう。
因みに米空軍は19日「次期戦闘機向けエンジンのプロトタイプを開発するためGE、P&W、Boeing、Lockheed Martin、Northrop Grummanの5社に各9億7,500万ドルの契約=総額48億7,500万ドル=約6,700億円の契約を授与した」と発表、AETPはGEとP&Wの2社で開発が進められていたがNGAPPは5社で争われることになったため事実上、米空軍は先進的なエンジン産業基盤を拡張する方向に舵を切ったのかもしれない。
関連記事:2027年に新型エンジンをF-35Aに搭載予定、航続距離は30%拡張され加速性能は2桁向上
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※アイキャッチ画像の出典:ロッキード・マーティン NGAD
空自のF‐35にも搭載されるのだろうか、供給してくれるとしていったいおいくら万円なのだろうか
同盟国には、提供されないそうです。
F-35A用の新型エンジン米国だけで使うって話じゃなかった?
それだと我が国なんか中国に優位とられるってことになるんだけど。
アダプティブエンジンの性能的な優位性は分かるけど、
F35に搭載しようって考えは、補給計画の全面的な世界的な見直し必要なレベルで無理じゃないか・・・。
コスト的にも不味いし、そもそもエンジンをアップグレードしたF35って従来F135搭載F35と比べて何%増しの評価になりそうなの?
基本的に現状だとF35のABCも戦力的に同じ評価扱いになってるし、仮に採用しても評価の積み増し微妙だろうと思う。
航続距離が3割延びれば大きいけどどうなるやら。
現代の戦闘機はエンジンの多少の優位性よりアビオニクス・ソフトウエア・ネットワークの方が重要なわけだけど、そちらも中国に将来的にアドバンテージ取られるのはほぼ確実なので、今後どう中国に対応していくか真剣に考える必要がある。
そのソフトウェアやネットワーク、アビオニクスを動かすために必要な電力を発電できるだけの次世代エンジンをF35やNGAD、テンペスト・プログラムで必死こいて開発してるんでしょ。
私も最近までそう思ってましたけど、最近の中国は露骨な景気後退段階に入ってしまったので、今の開発ペースを維持するのは不可能と思ってます。
おまけに社会構造が成熟する前に高齢化と一帯一路への投資に失敗したので(こんなに早く失敗するとは思わなかったが)、通常の経済サイクルのように回復することも難しい。
敵失に期待するのは愚の骨頂ですが、中国の軍事関連は今まで以上の「コケ脅し」が増えるんじゃないですか。
アリソンエンジンの名前が無いことにショック。いやロールスロイスに買収されただけなんだけども。
GEとP&Wは分かるけど、LMやグラマンも試作コンペに参加させるんですね。航空メーカー3社はエンジン開発力ないんじゃないかな、なんでだろう。
ペンタゴンが気にする競争原理の崩壊、まぁ直接の原因は空軍の単一機種の少量生産な訳ですが、再編でメーカー側の足腰が重くなっているというのもちょっとありそうだなあと思いました。マクドネルダグラスとかあのまま経営破綻させてたら大損失だし当時はそうするのが正しかったとは思いますが、頭数が減って国が業界を管理するスキームが明確化したことで、メーカー側も新しいプログラムを勝手に提案するようなフットワークはもう出せないのかなって(今や議会工作で既存機種の改修業務ばかり増やす方針になっていますし)。
中国はその100分の1の投資で、アメリカから研究成果を盗み出して、ほぼ同じ性能のエンジンを作ってしまうんだろうな。
アメリカが中国の研究成果を盗んでパクるという逆転現象がいつ始まるのだろうかと、
まあ悪夢だね
ボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンはジェットエンジンのインテグレーターではありますが、ジェットエンジンの基盤であるガスタービンエンジンの技術を内製で持ってないですよね。
航空機エンジンだとウィリアムズ・インターナショナルくらいしかアメリカには見当たらないようでした。
ペンタゴンの意図は「ロールス・ロイス、スネクマ、IHIなどアメリカ以外の西側企業と組んで仕事をアメリカに持ってこい」なのかもしれませんが、戦闘機用エンジンを作れるメーカーは西側企業でも限られるのでLMとPW以外に軍用機の仕事を渡す、くらいのレベルなのかもしれません。
革新的アイデアを幅広く募るてことでは。
P&WとGE以外の案が選定された場合は、実際の試作や生産は両社又はどちらかと提携させるとか、やり方はそれなりにあるのかと。
・GEとP&W:言わずと知れたパイオニア
・Boeing:仕事上の付き合いでハネウェル・エアロスペースかRRのどちらかとタッグを組んでやりそう。大穴はファントムワークス単独。
・Lockheed Martin:Lockheed Martin Commercial Engine SolutionsはGEとRRとの合弁企業でエンジンMROを行うがそこから一歩進んでエンジン開発する可能性はあるかも。ただGEはライバルとなるのでどうなるのか。核融合炉さえ作ろうとしているスカンクワークスを中心としてグループ協力の下エンジン作る事は出来そう。
Northrop Grumman:悪名高い45駆逐艦搭載のガスタービンエンジン、ノースロップ・グラマン/ロールス・ロイス WR-21が有るのでRRと組んで開発はしそう。艦船用エンジンで航空機用エンジン関係ないとか言われそうだけど、こいつも航空機エンジンからのフィードバックが大きいし、有名な産業用艦船用エンジンLMシリーズは元はC-5のエンジンCF6からの派生。
何気にRRが組むとしたらどこになるんろうなとも思うし、航空機エンジンとは言いつつも軍事産業用の先進的なエンジン開発支援もあるんだろうな。