米国関連

ロシア領内や占領地に落下する滑空爆弾、兵器の有効性に大きな影響はない

露独立系メディアのASTRAは先月13日「ロシア空軍は過去4ヶ月間で滑空爆弾をベルゴロド州と占領地に93回も誤って投下した」と報告していたが、Washington Postも1日「ロシアの内部文書によって滑空爆弾が自国領内にも落下していることが明らかになった」と報じた。

参考:Russia’s devastating glide bombs keep falling on its own territory

UMPKの故障率を問題視したところで滑空爆弾の脅威が遠ざかることはないだろう

露独立系メディアのASTRAは先月13日「ベルゴロド州では6月11日と12日にロシア空軍が投下した滑空爆弾5発(Неклюдово、Батрацкая Дача、Новостроевка、Ленинский、Цепляево-второе)が発見された」「ロシア空軍は過去4ヶ月間、ベルゴロド州と占領地で少なくとも93回の誤爆を行っている」「ドネツク人民共和国でも4ダース近い誤爆(約40発)が確認されている」と報告していたが、Washington Postも1日「ロシアの内部文書によって滑空爆弾が自国領内にも落下していることが明らかになった」と報じている。

Washington Postが入手した文書とはウクライナの諜報機関から提供されたもので、この中にはベルゴロドの緊急対策チームが作成した爆弾処理と避難に関する緊急命令が含まれており、少なくとも2023年4月~2024年4月の間に38個の滑空爆弾がベルゴロド州内に落下し、内4発がベルゴロド市内に、内7発がベルゴロド市郊外に、内11発がウクライナ国境と接するグライヴォロン地域に落下し、大半の爆弾は森林警備隊、農民、周辺の住民にによって発見されたが、ロシア国防省は見つかった滑空爆弾がいつ使用されたものか把握できないていないらしい。

この文書に記載された滑空爆弾の落下についてASTRAも「地方自治体や現地メディアの報道から収集した情報と一致していること、落下した滑空爆弾を発見した大半の人々が住民であることを確認した」と明かし、Washington PostもASTRA独自の集計を引用して「ロシア軍は過去4ヶ月間に自国領とウクライナ占領地域に100発以上の爆弾を誤爆したと推定される。これは滑空爆弾の使用が大幅に増加した時期と一致する」と指摘。

さらに「ベルゴロド市内の幹線道路で大きな爆発が発生して巨大なクレーターが出来た2023年4月の事件についてロシア国防省は『上空を飛行していたSu-34から誤って爆弾が落下したのが原因』と発表したが、入手した文書によって誤って落下した爆弾がFAB-500によるものだったと確認された」「爆弾の落下についてベルゴロド当局は沈黙を守るか、(爆弾が爆発した際は)ウクライナ軍の砲撃のせいにする」と報じているが、この文書は「なぜ誤って滑空爆弾が自国領とウクライナ占領地域に落下するのか」という点を明らかにしてない。

ウクライナ人アナリストのルスラン・レヴィエフ氏は「ロシア軍が使用する滑空爆弾の失敗は全体の極一部に過ぎず、この兵器の有効性に大きな影響は及ぼさない」「ロシアは安価な民生品を採用してUMPKを大量生産するため、西側製のものと比べて信頼性の要件は遥かに低い」「ウクライナ軍発表とASTRAの集計に基づけばUMPKの故障率は4%~6%だ」「通常なら人口密集地付近での使用避けるか改良が必要な故障率だが、ロシアは現在の状況に満足している可能性が高い」「誘導システムが故障して自国領に落下した爆弾の殆どが爆発していないため何らかのセーフティーシステムが存在するのかもしれない」と分析している。

要するにロシアは「UMPKの誘導システムは故障して自国領に落下する可能性があるものの、何らかの仕組みで爆発を防げるため生産効率を犠牲にしてまで改良する必要はない」「人口密集地に落下した衝撃で民間人やインフラに生じる犠牲は許容範囲」と考えている可能性があり、安全性についての考え方は西側諸国とロシアの違いというしかない。

どちらにしても安価なUMPKは高価な精密誘導兵器の備蓄不足を補い、敵防空システムが作動する空域に貴重な航空機を侵入させることなく静的目標を破壊するのに効果的で、UMPKの故障率を問題視したところで滑空爆弾の脅威が遠ざかることはないだろう。

関連記事:露独立系メディア、ロシア空軍による誤爆は過去4ヶ月間で100発以上
関連記事:ウクライナ軍によるSu-57の破壊、UMPKの有効性が低下している可能性

 

※アイキャッチ画像の出典:Fighterbomber

ロシア軍によるバイク攻撃、無人機と地雷に埋め尽くされた戦場への適応前のページ

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コメント

    • もへもへ
    • 2024年 7月 02日

    消耗戦とかした現状、こういった割切りも必要なんでしょうね。
    信頼性を上げるためのコストと数を作るための量産性を天秤にかけて量産性を選んだだけですから。

    我々もこのような割切りが必要になった際に決断できるように、常日頃から考えておく必要がありますね。
    完璧を望んで間に合わない、数が揃わないくらいなら不完全でも使えるだけ遥かにマシです。

    40
    • 匿名
    • 2024年 7月 02日

    この手の独立系メディア()って、実は日本でいう東スポやゲンダイ、酷いとまとめブログ枠ってオチじゃないだろうな?w

    28
      • 八等兵
      • 2024年 7月 02日

      この手の独立系メディアは大体西側のプロパガンダメディアですね
      あまりの信憑性の低さに海外のウクライナ支持派ですら全く話題には取り上げません。
      というかFAB誤爆の話題なんてここ以外では目にしたこともないです。

      14
        • NHG
        • 2024年 7月 02日

        Xではちょくちょく話題になってましたよ
        ウクライナ戦争ではJSFさんとか優良なXアカウントみるようにしたらいいと思う
        リツイート含めある程度選別されてものが流れてくるから有益

        5
          •  
          • 2024年 7月 02日

          >ウクライナ戦争ではJSFさんとか優良なXアカウント

          ????

          34
        •    
        • 2024年 7月 02日

        このサイトで出てくるukraine independenceは、西側資本。そのためウクライナに対するネガティブなニュースは信用性が高いと思われる。
        独裁国家の場合、独立メディアの運営が難しく、西側から援助を受けいる可能性が高い。シリア内戦の際も、独立メディアと言って、運営が一人で英国が拠点なんてものがあった。

        6
        • 牛丼チーズ
        • 2024年 7月 03日

        ロシア政府系メディアこそプロパガンダであることが明白でしょ。
        独立系には西側の影響下にあるプロパガンダメディアも存在するかもしれないが、だいたいそうだと決めつける根拠は?
        よくある「俺が気に入らないものは敵側のプロパガンダに違いない」という認知にしか見えない。

    • たむごん
    • 2024年 7月 02日

    しきい値を広く設定すれば、不良品は増えますが、生産性が大幅に上昇・コストを大幅に低下します。
    しきい値を狭く設定すれば、不良品は減りますが、生産性は大幅に低下・コストは大幅に上昇します。

    消耗品ですし、大量生産大量消費が求められますから、許容しているのでしょうね。

    (コメ欄の指摘を拝見したのですが)航空機が、回避行動を行うために、爆弾を投げ捨てて回避を優先したのがどの程度含まれているのか気になっています。

    15
    • あるまじろ
    • 2024年 7月 02日

    民間人の被害を一定量許容する事自体は、西側でもあるにはある。
    とはいえ、報道管制という力業で対処している所は、ロシアの文化が垣間見える。

    7
    • ar
    • 2024年 7月 02日

    40発もロシア領に落下して民間人が発見してるのにスマホで撮影した動画が一つもないとはこれいかに みつを
    双方が投下したあらゆる兵器が撮影されてきたのに誤爆した滑空爆弾だけ出てこないのは考えられない気がする

    26
      • たむごん
      • 2024年 7月 02日

      たしかに、仰る通りですね。
      SNS全盛期ですから、誤爆の大きな弾痕があれば、かなり話題になりそうです…

      相手国の攻撃と主張しているのかどうかは、少し気になります。

      4
    • AH-X
    • 2024年 7月 02日

    >人口密集地に落下した衝撃で民間人やインフラに生じる犠牲は許容範囲

    なんともロシア的。でもこういう非常というかいい加減なところを目を瞑るからロシアは強いんだろうね。

    8
      • 2024年 7月 02日

      日本だと事故起きれば原因究明まで訓練中止だし左翼がデモするし

      3
    • 58式素人
    • 2024年 7月 02日

    ”「誘導システムが故障して自国領に落下した爆弾の殆どが爆発していないため
    何らかのセーフティーシステムが存在するのかもしれない」”
    こういうものは本当にあるのかな?。
    あるなら、どういう形のものかな?。興味が湧きます。

    7
      • 外弁慶
      • 2024年 7月 02日

      確かに。想像ですがフェイルセーフとして色々考えてみました。
      ・投下前に信管のON/OFFによる。(対空兵器からの回避時、エンジン不調等の機体トラブル時の投棄の際、爆発を防ぐ)
      ・滑空誘導装置の起動・稼働不具合時に信管OFFになる(投下後の装置不具合に対応。表題写真にUMPKと爆弾先端に配線/配管らしき物が写ってる。)
      その他、信管の外部からの電波コントロールやGPS関連は妨害にあう可能性大の為、無いのではないか。
      以上です。よってどちらも結果的に滑空前の為、近距離落下しロシア領内に落ちるので起爆しないと。(素人の空想、お許し下さいw)

      6
        • 2024年 7月 02日

        まぁ、信管をUMPK制御部でコントロールすればGLONASSやGPSから計測、ロシア国領内や攻撃設定目標から半径◯◯km圏外は起爆しない。とかは出来そうに思う。
        UMPKが故障の時は安全装置が効いたままの不可逆的制御で問題無いだろう。
        コストも信管が専用品にはなるが複雑にはならんだろうし、制御装置等はUMPK共有だからさほど変わらんと思う。
        問題は、正解がわからん事。

        6
          • 外弁慶
          • 2024年 7月 03日

          そうですね。検索画像では3本位、信管に配線され弾外殻に這わせるようにして、UMPKに繋がっている物が多数観れます。(試験用かもしれませんが。)
          信管だけの制御なら、安価でしょうし、単純んですよね。
          ウクライナに落ちた不発弾の報道写真が、全て信管除去後(当たり前ながら爆弾処理後です…。)なので、今一、確証が持てないのですが。

          2
    • kitty
    • 2024年 7月 02日

    誘導装置がうまく働かず、外れるくらいならともかく投射地点直下でボットンって西側の滑空爆弾ではあるのかなあ。

    3
      • 通りがかりさん
      • 2024年 7月 02日

      完全無欠は難しく、様々なトラブルはつきものですね。ただの機械でもエラーとはお付き合いが前提でもありますので

      4
    • きりる
    • 2024年 7月 02日

    250ポンドのSDBを精密誘導する西側と少なくとも500キロの領内落下を必要経費と捉える露では勝負にならんな

    仮に起爆しなくても3tが音速で降ってきたら加害範囲はどんなもんだろ

    14
    • Authentic
    • 2024年 7月 02日

    スレ画の滑空爆弾が変わってるけど前のやつはノーズアートが怖すぎてなんか落ち着かなかったからこっちのほうがいいな

    3
      • 外弁慶
      • 2024年 7月 03日

      書かれてる文言が。。。
      多分、スラグ的な言葉らしいですが、「クソ野郎にぶっ放せ。」「クソ野郎用に・・・」らしくかなり乱暴な言葉みたいです…。
      自称ネイティブが言うにはなので、間違いならすみませんです。

      3
        • 外弁慶
        • 2024年 7月 03日

        追記 クロッカスコンサートホール襲撃事件に準えた俗語らしいです。

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