米国関連

米国が新しいウクライナ支援パッケージをまもなく発表、4輌のHIMARSを追加提供

ロイターは3日「バイデン政権が6.25億ドルのウクライナ支援を4日に発表する予定だ」と報じており、このパッケージには4輌のHIMARS追加提供が含まれているらしい。

参考:U.S. to send mobile rocket launchers to Ukraine in $625 mln aid package -officials

短期的なニーズに応えるのがPDA経由の支援、中長期的に支援するのがUSAI経由の支援、万策が尽きたときに使用するのがウクライナ・レンドリース法

ロイターの報道によれば大統領権限に基づく支援パッケージにはHIMARS×4輌、耐地雷・伏撃防護車両×200輌、HIMARS用弾薬や155mm砲弾などの軍需物資が含まれており、航空万能論の読者なら18輌のHIMARS追加提供が含まれた「ウクライナ安全保障支援」との違いに気づくと思うが、今回の支援は米軍在庫から引き出される「いつものウクライナ支援パッケージ(恐らく22番目)」だ。

出典:Angela Perez ウクライナ・レンドリース法案に署名するバイデン大統領 

米国のウクライナ支援には大統領権限(Presidential Drawdown Authority=PDA)、ウクライナ安全保障支援イニシアチブ(Ukraine Security Assistance Initiative=USAI)、ウクライナ・レンドリース法(正式名称はウクライナ民主主義防衛レンドリース法案/S.3522)が用意されており、大まかな違いは以下の通りになる。

大統領権限(PDA)による支援(無償)
国の安全保障にとって緊急事態が存在すると大統領が判断すれば議会承認なしに米軍在庫から何でも自由に当該国へ送ることが出来るが、年間の上限が1億ドル(ウクライナ支援に限り110億ドル)に設定されている。
ウクライナ安全保障支援イニシアチブによる支援(無償)
米産業界から調達する装備を提供する権限で、米軍在庫にないものでも提供できるという点が特徴だが、新規に装備を取得するため提供までに時間がかかる。
ウクライナ・レンドリース法(有償)
当該国の防衛が米国の安全保障にとって重要であると大統領が判断すれば「あらゆる軍需物資」を当該国に売却、譲渡、交換、貸与、賃貸、処分することが出来るが、ウクライナ・レンドリース法に基づく支援は最終的にウクライナの債務になる。

9月末に発表した「ウクライナ安全保障支援(総額11億ドル)」はUSAI経由の支援なので「パッケージに含まれる18輌のHIMARS追加提供に数年かかる」と国防総省の担当者が明かしているが、ロイターが報じている「ウクライナ支援パッケージ(6.25億ドル)」はPDA経由の支援なので「パッケージに含まれる4輌のHIMARS追加提供は数日以内に実行可能」という意味だ。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. William Chockey

つまりロシア軍と戦うウクライナ軍の短期的なニーズに応えるのがPDA経由の支援、ウクライナ軍の能力強化を中長期的に支援するのがUSAI経由の支援、第二次世界大戦を勝利に導くのに不可欠だった米産業界のパワーを「ロシアとの戦いに投入する」と国民に示すため用意されたのがウクライナ・レンドリース法で、この辺りの違いを把握しておくと「ウクライナ支援」と一括りに報道されがちな「米国の支援」を理解するのに役立つだろう。

因みに駐ウクライナ米国大使は「PDAとUSAIで十分な支援が行えるためウクライナ・レンドリース法の行使は当面考えていない」と述べており、議会が承認したウクライナ支援の上限を使い果たした場合にのみウクライナ・レンドリース法による支援を行うらしい。

関連記事:米国がウクライナへの安全保障支援を発表、18輌のHIMARSを追加提供
関連記事:バイデン政権がレンドリース法でウクライナ支援を行わない理由
関連記事:米国がウクライナ支援パッケージを発表、HIMARS向け弾薬やHARMを供給

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by Lance Cpl. Nicholas Guevara

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コメント

    • すえすえ
    • 2022年 10月 04日

    今回の侵略で思ったことはアメリカ軍とロシアが戦った場合ロシア軍はアメリカの相手にならなかったんじゃね

    まぁ今回の戦争はとりあえずロシア軍が本国にハウスするまで続けるということで

    46
      • ナイトアウル
      • 2022年 10月 04日

       ウクライナだと主に陸戦だけど大西洋・太平洋での戦闘もあり得る訳で、果たしてロシア単独とのガチンコの戦闘で済まされるのか甚だ疑問がある。
       各地の反米勢力の協力もあり得る訳で局地的なワンサイドゲーム済まされるのか、現状の変に制限された戦闘では無くロシア政府が条件を満たす国民の4WDすら戦力とする事が出来る戦争レベルで進む違いもある。格下相手に失うのを恐れて使わない兵器すら投入するだろうし兵士のモチベーションもどうなるか分からない。

       米国は確かに戦力として素晴らしい物を持っているが具体的にどこが戦場になるかも不明で、お互いに核兵器を持っている以上は変に誤解されるような兵器を簡単に使う事が出来ずに制限が掛かりそうな気もする。
       アフガンレベルの国ですら理想の手仕舞いを出来ずに撤退している以上は蓋を開けてみないとどうなるか分からないと思うけどな。

      3
      • 無無
      • 2022年 10月 04日

      そんなことは時期、場所、条件のTPOで何とでもひっくり返る
      NATOがロシア本土に攻め入って勝てるものかは判んない、ロシアはウクライナに全軍を投入してるわけでもないし
      ただ、ロシアにはこれ以上の外征を為せる余力の無いことだけは確実で、もはやロシアの威嚇に引っかかる国は無いだろうな

      6
    • unnamed
    • 2022年 10月 04日

    い つ も の

    兵士武器弾薬、全ての不足に喘ぐロシアからすれば
    こんだけポコポコ支援を受けられる相手に戦うのは悪夢でしかないんだろうな。
    傍から見てても正直「こんなアメリカと今回は同陣営でよかったなぁ…(なお前大戦)」とすら思う。

    35
    • 灰色の猫
    • 2022年 10月 04日

    三種類の支援枠組、とても分かりやすかったです。ありがとうございます。

    57
    • bbcorn22
    • 2022年 10月 04日

    ロシアからすると悪魔の兵器HIMARSが増えるとか恐怖しかないな。
    補給を徹底的にたたかれるとロシアお得意の物量にものを言わせる酢酸が使えないから。
    もうその物量策そのものも実施できなくなったし。
    わかってたことだが米とロシアでは戦場で実際に使える兵器の差が大きすぎる。
    ロシアの最新兵器はどれもスペック倒れで とにかく数が少ないから実戦では役に立たないからね。

    14
      • 2022年 10月 04日

      モンキーなんて言い訳あったけど
      ソ連ドクトリンで湾岸戦争でワンサイドでコールド負けしている
      代理戦争でソ連崩壊間際だけど深縦戦術を使ったフルスペックだからロシアも同じ。
      いまは深縦防御を使いこなせてない。

      9
      • 2022年 10月 04日

      HIMARS送られる前は、面制圧の武器で4両程度だとないよりまし位と専門家が皆言っていたと思う。
      最近だとcnnで空爆のような効果とのこと。
      ただ高橋杉雄さんは、動く目標(戦車など)には効果がないとは言っているけど
      真珠湾攻撃の航空機と同様HIMARSも評価か変わったと考えてよいのだろうか?

      防空兵器の性能向上で航空機万能の世界では無くなってきたなあ。

      7
        • 2022年 10月 04日

        舌足らず追記。
        面制圧だから、クラスター弾でないと効果が薄く4両だと結局打ち負けるから、無いよりましというはなしだった。
        それが一発必中だから効率がよいような印象になってきた。
        ロシア側にうちかってきてる。

        戦後セオリー変わるかな?

        4
          • h4
          • 2022年 10月 04日

          HIMARSの威力自体は変わってないですし、野戦で使っても1個中隊に一定の打撃を与えるレベルにとどまると思います。弾薬デポなど動かない高価値目標を効率よく発見して叩けるならば効率の高い使い方になる、ただし今まではそういうものを破壊するのが空爆の任務だったのが、航空優勢を取れない場合にはHIMARSが代理してくれる、という価値がある感じはないでしょうか。

          12
          • G
          • 2022年 10月 04日

          当初考えられていた運用思想と実際のウクライナの運用方法、ロシア軍の兵器の稼働率の低さが合わさった結果であるため、真珠湾攻撃による艦載機(空母)の評価変移ほどではないと思われます

          具体的にはウクライナ軍はHIMARSを従来のロケット兵器とは異なり、射程100km弱の対地中距離ミサイルとしてピンポイント運用したこと(よってあくまでGPS誘導の射程延長弾がメインであり、HIMARSを用いる運用であっても異なる弾種を使用するなら従来のロケット兵器と同様ということに)、ロシア軍の長距離ロケット兵器やミサイルの稼働率が非常に低くHIMARSへのカウンターや抑止力となりえていなかったことなどがあげられるかと

          11
    •  
    • 2022年 10月 04日

    アメリカが味方で本当に良かった……だが相手には中国がいるから厳しい環境に変わりはないという

    12
      • STIH
      • 2022年 10月 04日

      大丈夫。中国もインドも”敵ではない”だけですから。味方らしい味方ははイランと北朝鮮ぐらいですから。

    • 慕華館
    • 2022年 10月 04日

    ロシアが頼みとするウラル原油価格もここにきて政府予想価格を下回り始めましたね。
    2022年政府予想価格:1バレル=80ドル
    9月のウクライナ軍反撃後は1バレル=70ドルを下回り続けております。
    ロシア政府部内では国民への「増税」負担を求めざるを得ないとの声が(-_-;)

    9
      • XYZ
      • 2022年 10月 04日

      動員という血税だけでは足らず、税金までおかわりですか。
      流石にロシア国民も怒り出しそうです。

      1
      • けい2020
      • 2022年 10月 04日

      中国インドは半値買いたたきとかでしてそうですしね
      ロシアの資源が売れないより、利益の出ない価格で売るほうがジワジワ首が締まっていくやつ

      2
    • おわふ
    • 2022年 10月 04日

    撤退時にロシアが残した地雷対策が入っているのがタイムリー。

    6
    • ななし
    • 2022年 10月 04日

    当初は何輌か撃破されるだろうと予想されていたHIMARSも無事なわけですし、現在の米軍から多少の不足が出てもUSAIで引き渡しと入れ替えでPDAで渡したHIMARSを買い戻せば十分だと考えているのかも知れませんね。

    1
    • zerotester
    • 2022年 10月 04日

    耐地雷・伏撃防護車両はいわゆるMRAPですね。中東でのIEDや地雷による被害から守るために配備されたもので、米軍がアフガンから撤退したことで余ってるだろうから、ウクライナに送ればいいのになと思っていました。ポーランドが中古品を買ったというニュースは以前見ましたが。同種の車両であるオーストラリアのブッシュマスターはウクライナで活躍しています。

    2
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