米国関連

米軍もお手上げ、メキシコ国境から毎月1,000機以上のドローンが侵入

北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のギロット空軍大将は「毎月1,000機以上のドローンがメキシコ国境から侵入してくる」と明かし、メキシコの犯罪組織はドローンを飛ばして米国境警備隊の位置をリアルタイムで把握、監視の手薄な地域から麻薬や移民を運び入れているらしい。

参考:Procedentes de México: más de mil drones por mes atraviesan la frontera de EEUU con fines delictivos

ウクライナの戦場で起きている問題はメキシコ国境から侵入してくるドローンにも当てはまる

米上院の公聴会に出席したギロット空軍大将は「前任者から司令官職を引き継いだ際、メキシコ国境から侵入してくるドローンの多さに驚いた。正確な数字は誰にも分からないが、最低でも月1,000機以上のドローンが侵入している。これは憂慮すべき事態で安全保障に対する脅威だ」と証言、米国境警備隊もメキシコ国境から侵入してくるドローンについて「犯罪組織(カルテル)は取り締まりの位置をリアルタイムで追跡することで監視が手薄な地域を特定し、その部分から麻薬や移民を運び入れている」と報告している。

出典:U.S. Customs and Border Protectio

カルテルのドローン使用について米国とメキシコの間に明確な戦略は今のところ存在せず、ギロット空軍大将も「カルテルはメキシコ軍、治安部隊、政府当局と直接対決する決意を示している」と懸念を示しており、小型ドローンの監視と阻止が如何に困難かを浮き彫りにしている格好だ。

因みに米シンクタンクのアトランティック・カウンシルは「ハイエンドの有人機が制空権を確保できても有人機が飛行する高度と地上の間に広がる“air littoral”の戦いは別ものだ」と指摘、air littoralとはドローンが主戦場とする戦場の低空=低空の戦いを指し、ドイツ連邦軍総監のカルステン・ブロイアー大将も「ウクライナとロシアの戦いは特にドローンの重要性が非常に高く、このレベルでの制空権が将来の戦場で重要になると学んだ」と言及。

出典:Сухопутні війська ЗС України

米軍のマコンヴィル大将も「安価でシンプルな技術が戦場でインパクトを残せることを証明した。高度な防空システムを隙間のない壁のようにイメージして『これを脅威がすり抜けることは出来ない』と考えるかもしれないが、これを回避する方法もあるし突破する戦術もある」と述べており、この問題はメキシコ国境から侵入してくるドローンにも当てはまるのだろう。

関連記事:適応が求められる低空の戦い、ドイツが近距離防空システムの開発を発表
関連記事:米軍がウクライナから学んだ重要な教訓、戦いにおける人間の重要性
関連記事:米空軍、無人機の脅威はマイクロ波兵器の開発だけでは解決しない

 

※アイキャッチ画像の出典:C.Stadler/Bwag/CC BY-SA 4.0

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コメント

    • せい
    • 2024年 3月 28日

    悪い事する奴の方がそら新技術は上手く使うわな
    プログラミングとかもそうだし
    大いに参考にして、警察や軍の運用に繫げればいい

    31
    • ななし
    • 2024年 3月 28日

    10年ぐらい前に麻薬の密輸に自作の半潜水艇が使われてる報道を見たけど
    ウクライナの特攻ボートみたいな無人化した半潜水艇で密輸し始めるのも時間の問題だよね

    22
    • たむごん
    • 2024年 3月 28日

    アメリカにとって皮肉な話ですが、対ドローン作戦能力向上に、繋がると思います。
    アメリカが、国境の麻薬組織(地域武装勢力)に対抗できないのであれば、国家間戦争での圧勝を見込めないからです。

    アメリカ軍の海外展開は、地政学的に本国防衛がしやすい事が前提でしたが、ドローンの発展により足下が揺らいでいると言えます。
    日本も、自国防衛の前提を、もう一度見直す必要があるかもしれませんね。

    31
      • qaz
      • 2024年 3月 29日

      アメリカが対応に苦労しているのはメキシコ側に入って活動できないからであって、国家間戦争なら話は変わってくると思います

      2
    • 765
    • 2024年 3月 28日

    フーシ派のドローン攻撃もそうだけど非対称な戦いは自由主義国家の弱点だよね
    これが戦争中の平原の出来事なら地上軍で叩き潰すなり、砲迫打ち込んでオペレーターのいそうな場所を更地にすれば解決するけど、そんなこと政治的にできるわけ無いし

    19
    • ホテルラウンジ
    • 2024年 3月 28日

    トランプの壁だけではダメで、ドローン妨害装置もつけないとあかんでしょうね。
    ただそういう21世紀の現代戦の技術の問題以前に、昨今のアメリカのやりかたに疑問に思うのは
    アメリカは911以降、テロとの戦いを宣言して、入国管理にESTAを導入して厳格化しました。
    しかし、現在月1万人ペースと言われるレベルでメキシコから不法入国者が入ってきてる状態で、それに対してトランプはギャーギャー言ってますが、バイデンは無関心かのような対応ぶりです。
    当然、グアンタナモに入れないといけないような特級のイスラム系テロリストがメキシコ国境からガンガン入ってきてるでしょう。ESTAなんか何の水際にもなっていません。
    米軍は今、中国の台頭によって対テロ戦争から正規戦の対応にフォーメーションを慌てて変えていっていますが、米国内で次の911はいつ発生してもおかしくないでしょうね。
    メキシコの国境問題は、中南米の貧困層と逃げ出した中国人移民という経済の話ではなく、テロとの戦いという安全保障マターでもある筈です。
    日本は独立国家でありながらスパイ防止法はありませんし、インテリジェンス機関も持っていないという安全保障の観点からしてあり得ない体制ですが、昨今のアメリカもこういう根本的な安全保障の粗を放置してる異常さが気がかりです。

    17
    • 黒丸
    • 2024年 3月 28日

    ドローンで偵察されても問題が生じないよう
    トランプ氏が主張するように国境に壁を作るのが
    一番低コストで楽だと思うのですが。
    ウクライナの塹壕陣地戦といい
    どんどん世界が第一次世界大戦化していくような。

    8
      • 歴史と貧困
      • 2024年 3月 28日

      >国境に壁を作るのが一番低コストで楽だと思う

      かつての中国の万里の長城も、ローマのリメスも、長大な国境線を物理的に築くことはできましたが、問題は【人員と維持コスト】でした。

      壁だけがあっても、監視員や即応部隊がいなければ簡単に乗り越えられてしまい、無人機を頼れば今度は電子戦で無力化される。

      そして、全ての国境に人員を配置するにはアメリカとメキシコの国境は長大すぎます。

      17
      • ブルーピーコック
      • 2024年 3月 28日

      他にもありまっせ。雇用においては55%を占めるインフォーマル経済(非合法な経済)を是正するなどして『メキシコを豊かにする』『法的に労働者を守る』ことでメキシコに留め置くなどの方法が。
      中国からの不法移民はそれで止まらんでしょうが。

      5
    • 名無し三等兵
    • 2024年 3月 28日

    周囲を海で囲まれた我が国も他人事では無いと思います。
    海自の哨戒艦や海保の巡視船は対空捜索レーダーを搭載していませんが、ドローンなどの
    飛行物体を探知出来る能力は付与すべきと思います。
    新設せずとも、いしかり型DEではCバンドの対水上捜索レーダーのビームパターンを変更して
    対空警戒能力を付与したOPS-28-1を搭載しました。
    既存の水上レーダーで同様な改造をすれば簡易対空捜索レーダーとして使える筈です。
    平時の警戒任務としてもドローン対策はもはや」必須でしょう。

    7
      • 白髪鬼
      • 2024年 3月 28日

      小型ドローンの厄介なところは、そのサイズと飛行速度の遅さから、鳥と識別がつかない点です。
      特に小型の飛行物体を識別する高周波のレーダーの場合、反射波にはさまざまなレベルの物体の反射波が含まれます。その中から特定の飛行物体を目視で見分ける事は不可能で、反射波の強度や移動速度などをもとに、無害と判断される鳥などのシグネチャはドロップされていました。

      これを対象とする場合、飛行パターンなどの解析が必要になり、情報処理のオーバーヘッドが大きくなります。また解析に用いるパラメータやマッチング対象のパターンがが貧弱な場合は、誤検出率が高くなります。誤検出なのか本物なのかは直接確認するしか無く、その精度を上げていくのには大変な労力が要ります。(この辺は、サイバー攻撃の検出にも通じるものがあります。)

      また中低空を飛行されると、レーダーの見通し線は狭くなるほか、地上のノイズや、海上であればシークラッターに紛れやすくなります。1機2機ならともかく複数のドローンを用いられた場合、情報処理の負荷が急増し、システムが飽和する危険性もあります。ウクライナで、あれだけドローンによる損害が増えても、有効な対抗手段が出てこない理由でもあります。

      潜水艦じゃ無いですが、その土地土地に生息する留鳥や、季節ごとに通過する渡り鳥の生態や飛行パターンを収集して、スクリーニングするくらいやらないと、レーダーで簡単に見つけることができるようにはならないのでは無いでしょうか。

      24
    • 58式素人
    • 2024年 3月 28日

    メキシコ政府と相談して。
    国境線沿いに双方が10km幅くらいの無人地帯を設けたら、と思います。
    合計20km幅で。ちょうど、冷戦期の東西ドイツ国境や南北朝鮮国境みたいに。
    特に国境線付近は樹木も撤去して、無人監視塔付きで。
    その上で、電波管制をしたら?。pole21(笑)も借用(?)でしょうか。
    クアッドコプターのようなものは長距離は飛べないだろうし、
    長距離を地べるものは必然的に大きくなり。レーダーにも映るだろうし。
    そのくらいしないと根絶は無理でしょうか。
    いずれ、そうした投資も必要になるのでしょうか。

    1
      • せい
      • 2024年 3月 28日

      ドローンが飛ぶことが問題なんじゃなくて、犯罪組織や不法入国者が活用してるのが問題なんじゃないかな
      無人地帯作ったところで、物理的に排除できないなら意味ないよ
      自爆ドローンで排除するんならともかく
      そんなマネは人権団体様方が許してくれるとは思わんけど

      8
        • 58式素人
        • 2024年 3月 28日

        冷戦時代の国境は頑丈な壁か柵もありましたから。
        地震計や聴音機/地雷も設置されていましたし。
        今回は地雷はないでしょうが、それ以外は必要ですね。

        5
          • 名無し
          • 2024年 3月 28日

          冷戦時の国境にそんな壁、あったかな。。。
          冷戦期真っ只中の西ドイツ/東ドイツ間の国境でさえ、柵すらロクに無かったと聞くが。。。

          1
            • 海軍スキー
            • 2024年 3月 29日

            ベルリンの壁をご存知ない?

            3
    • マイクのテスト中
    • 2024年 3月 28日

    カルテルのドローンなんて所詮民生品。逆探、電子戦が有効なはず
    厄介なのは国境線の長さだがそれは別に今に始まったことじゃない
    もう地雷撒くしかなくね?

    1
    • まめ
    • 2024年 3月 28日

    鳶とか鷹みたいな対空型の対ドローン監視ドローンとカウンタードロンの配置ですかね。どちらにとっても物量には限界有るでしょうし

    1
    • 2024年 3月 28日

    誰だよ。
    「ドローンはジャミングに弱いから先進国には通用しない」とか言った奴。

    10
      • 名無し
      • 2024年 3月 28日

      記事でも「高度な防空システムを隙間のない壁のようにイメージして『これを脅威がすり抜けることは出来ない』と考えるかもしれないが、これを回避する方法もあるし突破する戦術もある」と言われてるわけだけど、一部のミリオタはいまだにすり抜ける事はできない壁のように考えてる人もいるだろうし、そういう人たちはジャミングに関してもスイッチをポチーしてオンにしたら虫みたいにドローンがバタバタ落ちていくすり抜けない壁と思ってそうね

      12
        • 名無し三等兵
        • 2024年 3月 28日

        重要施設をピンポイントにドローン襲撃から守る事と、2000kmを超える国境線のドローン越境を
        阻止する事を同列に考える事は出来ません。糞も味噌も一緒くたにしてはいけません。

        2
          • Whiskey Dick
          • 2024年 3月 28日

          射程1kmのRWS搭載ロボット車両で2000kmの国境線を防衛するとすれば最低1000台、燃料と弾薬の補充を考えると+300台ぐらい必要になる。指向性の低いドローンジャマーだとこれ以上必要になるし、電波出力も大きいので燃料補充も頻繁になる。

          4
    • paxai
    • 2024年 3月 28日

    戦争の為に逃げる相手に爆弾を投下よりお金貰ってお薬を運ぶ方が経済的だよな。100%拾いに来てくれるし。ドローンも回収出来るし。どちらも間違った使い方だけどさ。

    2
      • ルイ16世
      • 2024年 3月 29日

      中国とメキシコギャング連合による対米アヘン戦争の戦果は2023年はアメリカ側戦死者11万、連合側ほぼ0の上財政的な負担は無いどころかプラスですからね
      爆弾よりフェンタニルの方が強いとは…
      ターゲットの方が何故か勝手に突っ込んでくれますし誘導機能すらいらない

      4
    • ブルーピーコック
    • 2024年 3月 28日

    壁もダメ、以前からスカスカなパトロール網も逆に監視されててダメとなると後は「頑張れニューヨーク」か『過激な対処法』しか思いつかない。

    2
    • 航空太郎
    • 2024年 3月 29日

    越境する人々を止められないメキシコに対して圧力を掛けて、国境のメキシコ側に幅4kmの無人地帯を設けるという38度線方式で分断するというのが現実的な方法でしょう。地雷は設置してしまえば、何十年でも機能し続けて維持費もかかりませんから。1発1$と大変安価ですから、百億発埋めても戦闘機一機分の低コストで、長さも38度線が248km、メキシコ国境が2000kmと8倍程度の長さですから、手の届く現実解です。

    勿論、今すぐに合意は無理でしょうけど、あんまり不法入国者を野放しにし続けるとアメリカも、最後はブチ切れますからね。
    もっとスマートな解決策があればいいんでしょうけど、壁作っても隙を見て乗り越えられるだけ効果薄いです。

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