米国関連

ウクライナ人パイロットの訓練問題、米国は必要な承認をまだ与えていない

NATO首脳会談でウクライナ人パイロットに関する訓練連合が結成され「8月中に訓練を開始する予定だ」と報じられていたが、POLITICOは14日「依然としてF-16でウクライナ人パイロットを訓練するための承認を米国は与えていない」と報じている。

参考:Europe still waiting on U.S. to formally approve F-16 training

戦闘機のような高度な兵器の移転承認に時間がかかるのは珍しい話ではない

ウクライナのレズニコフ国防相は11日「F-16でウクライナ人パイロットを訓練する連合が公式に結成され、11のパートナー国が訓練条件に関する覚書に署名した」と発表、この連合を主導しているのはデンマークとオランダで、カナダ、英国、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルク、ノルウェー、スウェーデン、ポーランド、ルーマニアも連合に参加しており、8月中にデンマークとルーマニアで訓練を開始する予定だと報じられていた。

出典:首相官邸

バイデン大統領は当初「ウクライナにF-16が必要だとは思わない」と主張しているものの、6月に広島で開催されたG7で「F-16を含む第4世代戦闘機でウクライナ人パイロットを訓練する同盟国の取り組みを米国が支援する」と表明したが、11日に発表された訓練連合に米国の名前はなく、POLITICOは14日「依然としてF-16でウクライナ人パイロットを訓練するための承認を米国は与えていない」と報じている。

ウクライナ人パイロットがF-16で訓練を開始するためには機体、兵器、地上シミュレーター、関連する膨大な技術資料などにアクセスする必要があり、これには国務省の承認が必要で、国防総省は数週間前に「ウクライナ人パイロットの訓練に関する要請を正式に受け取った」と述べていたが、現在も「検討中」という答えを繰り返しており、国務省もコメントを拒否しているため、訓練開始に必要な承認が8月中に受け取れるのか誰にも分からない。

出典:U.S. Air Force photo/Samuel King Jr.

因みに専門家は「戦闘機のような高度な兵器の移転承認に時間がかかるのは珍しい話ではない」と述べており、機体の移転や訓練に関する承認は技術マニュアルやデータ、維持計画の準備が整っていることを確認しなければならず、移転先と認識の齟齬が発生しないよう全てのマニュアルや計画書類は翻訳作業とチェックが必要で、この作業はパイロット、メンテナンス要員、地上作業員向けの全てに及ぶと指摘している。

さらに今回は米国やNATOの顧問団が移転先=ウクライナ国内に入れないため、遠隔操作によるシステムの維持管理が必要で「F-16移転を見越した訓練計画の準備やチェックは通常のF-16移転より複雑なものになる」とも指摘しているのが興味深い。

関連記事:11ヶ国がウクライナ人パイロットの訓練で連合を結成、8月中に訓練を開始
関連記事:バイデン大統領、G7でウクライナ人パイロットの訓練を支援すると表明

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Master Sgt. Tristan McIntire

ウクライナ支援を主導してきた英国のウォレス国防相、政界引退を検討か前のページ

韓国メディア、カナダ海軍の潜水艦調達は韓国と日本の一騎打ちになると予想次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米紙、ウクライナ軍とロシア軍の戦いは短距離走ではなくマラソンだ

    ウクライナ軍は反攻作戦に関する情報提供を制限してきたが、最近は報道関係…

  2. 米国関連

    KC-46AとLMXTの戦い、米空軍がKC-135後継機調達にRFIを発行予定

    KC-46Aの追加発注が禁止される可能性がある米空軍は「9月末までにK…

  3. 米国関連

    これで4件目、またボーイングの空中給油機KC-46Aに「カテゴリー1」の不具合が見つかる

    米空軍は30日、調達中の最新空中給油機KC-46A「ペガサス」に新たな…

  4. 米国関連

    F-35向けの次世代レーダー、ノースロップ・グラマンがAPG-85を開発中だと発表

    ノースロップ・グラマンは11日、これまで書類上の存在だったF-35Bl…

  5. 米国関連

    2機目の製造も開始、初飛行に向けて順調な開発が続く米空軍のB-21

    米空軍が開発中のステルス爆撃機B-21は初飛行に向けてプロトタイプの製…

  6. 米国関連

    米国が韓国から155mm砲弾を購入か、ウクライナ提供分の補充目的

    米国と韓国がウクライナに送るための155mm砲弾について協議を行ってい…

コメント

    • ブルーピーコック
    • 2023年 7月 15日

    訓練過程(促成か全課程かは知らん)が終わる頃にはF-16を譲ってくれる国は出てきてるかな。

    2
    • ななしのシロウト
    • 2023年 7月 15日

    ウクライナへのF-16供与のメリット
    ①西側諸国結束の政治的象徴
    ②ウクライナ軍の士気高揚
     (現在行われている反攻作戦には間に合わない)

    1
    • ASDF
    • 2023年 7月 15日

    なぜ非稼働機があるはずのグリペンの話が出てこないのだろうか
    サーブに仕事を与えるためか頭をかしげるような調達をしていたはず
    現在の主力機だから軍事機密漏洩リスクが大きすぎるのか、
    NATOに入っていないから供与してもNATOから資金をとれないのか

    3
      • キングタイガー
      • 2023年 7月 16日

      ウクライナの需要を満たせる数と訓練プログラムの提供が難しいんじゃないかな、特に空軍の規模を考えると一度に30,40人の訓練は無理な気がする。
      平時でも機体に対し大体1.3~2人ぐらいパイロットを用意する事を考えたら、需要を満たせないと思う。

      1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
PAGE TOP