米国はパトリオットシステムやJDAMが含まれた18.5億ドル相当のウクライナ支援パッケージを発表、ロシアが戦いのエスカレーションに繋がると警告していたパトリオット供与についてバイデン大統領は「防御的なシステムで問題ない」との見解を示した。
参考:$1.85 Billion in Additional Security Assistance for Ukraine
参考:Patriot missile systems will help Ukraine’s defense but experts caution they may have limited effect
パトリオットは地対空兵器で防衛能力では戦争には勝てない、攻撃能力で戦争に勝つのだ
国防総省が発表したプレスリリースによると18.5億ドル相当のウクライナ支援パッケージは「大統領権限(PDA)による10億ドル」と「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ(USAI)による8.5億ドル」で構成され、PDA経由でパトリオットシステム1基、HIMARS向け弾薬、AGM-88HARM、航空機向け精密誘導弾薬、エクスカリバー砲弾×500発、120mm迫撃砲×10門、120mm迫撃砲弾×10,000発、82mm迫撃砲×10門、60mm迫撃砲×10門、クーガー装甲車×37輌、HMMWV×120輌、多目的トラック×6輌などが提供される。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Akeem K. Campbell
PDA権限の支援は米軍在庫から引き出されるため直ぐに当該装備や弾薬がウクライナに引き渡されるものの、航空機向け精密誘導弾薬(恐らくJDAMのこと)を使用するにはウクライナ空軍のMiG-29、Su-25、Su-27にJDAMの運用能力を付与する必要があるので「時間がかかる」と指摘されており、パトリオットシステムについても操作する兵士の訓練はこれから始まるので冬場の戦いには間に合いそうもない。
さらに興味深いのはUSAI経由で旧ソ連規格の152mm砲弾×4.5万発、122mm砲弾×2万発、122mmロケット弾(BM-21向け)×5万発、125mm砲弾(T-72向け)×10万発をウクライナに提供すると発表している点で、NATOが「東欧諸国にある旧ソ連規格の砲弾工場に投資する」と述べていた計画に関連していると思われるが、USAI経由の支援は現物支給ではなく「当該品を企業に発注するための資金支給」なのでウクライナに届くまで相当時間がかかる。

出典:Генеральний штаб ЗСУ
以上がウクライナ支援パッケージの中身で、特にパトリオットシステムが含まれているため「ウクライナの防空シールドが大幅に強化される」と多くのメディアが報じているが、米CNNは専門家の説明を引用して「これがウクライナとロシアの間に広がる500マイルの国境を守るシステムだと考えている人がいるとすれば、それはパトリオットがどのように作動するか知らないだけだ」と報じている。
米国がウクライナ供与するパトリオットシステムは1基に過ぎないが、1基のシステムにはレーダー、管制システム、発電機、ランチャー車輌×6輌~8輌(PAC-3形態なら最大128発/PAC-2形態なら64発)などが含まれ、作動範囲内に存在する固定機、回転翼機、無人機、巡航ミサイル、弾道ミサイルといった脅威を高精度で迎撃することができ、米CNNは「ウクライナ軍が保有するS-300よりも戦闘効率が高く、空からの脅威にほぼ自律的(運用に必要な人員数は約90名だが操作に必要な人員は3名)に対応できる」と指摘した。

出典:Photo Credit: U.S. Army PAC-2ランチャー
しかし米欧州陸軍の司令官を務めたこともあるマーク・ハートリング元中将は米CNNの取材に対して「パトリオットシステムがウクライナでもたらす効果には非現実的な期待がある」と警告、通常の手順でパトリオットを扱えるようになるまで何ヶ月もの訓練(内容を圧縮しても6ヶ月間はかかると見られている)が必要で、このシステムのエンジニアを育てるには1年程度は必要だと指摘し、さらに「1基のパトリオットでウクライナ全体をカバーすることは不可能だ」と説明している。
ハートリング元中将曰く「このシステムは戦場を頻繁に移動することなく、戦略的に価値の高いキーウのような都市を守るため運用される。これがウクライナとロシアの間に広がる500マイルの国境を守るシステムだと考えている人がいるとすれば、それはパトリオットがどのように作動するか知らないだけだ」と説明、パトリオット提供でウクライナ全体の防空シールドが強化されると期待したり、移動式のパトリオットがウクライナを闊歩して空の脅威と戦うのではないと言いたいのだろう。

出典:Photo by Capt. Aaron Smith
戦略国際問題研究所のトム・カラコ上級研究員も米CNNの取材に「パトリオットが提供する防空シールドは比較的小さいためウクライナの一部しか守ることしかできない。これはロシア軍との戦いにおけるゲームチェンジャーではない」と主張しており、PAC-2弾の最大作動範囲で考えれば1基のパトリオットシステムで160kmの空域を守ることが出来る計算だが、これは高い高度を飛行する目標に対しての話なので「低高度を飛行する目標」への対処範囲はもっと小さい。
それなら提供するパトリオットシステムの数を増やせばいいだけの話なのだが、米軍も60基しか保有していないため追加供給に応じるかは未知数(これ以上出せばインド太平洋、中東、欧州の防衛に穴があくという指摘もある)で、ドイツも早々に「米国のパトリオット供与に反対はしないが我々にはウクライナに提供できる余裕はない=パトリオットを装備するドイツ軍部隊を一時的に加盟国へ派遣できても『ウクライナにパトリオットを寄贈する余裕はない』という意味」と述べている。
因みにハートリング元中将は「パトリオットは地対空兵器で防衛能力では戦争には勝てない。攻撃能力で戦争に勝つのだ」とも主張しており、乱暴な言い方すれば「防衛能力を強化して敵の攻撃による被害を小さくしても、敵に打撃を与えないかぎりジリ貧だ=いつまでも戦争が終わらない」と言いたいのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Sgt. Alexandra Shea
といっても今ロシアが主にやってるのがミサイル攻撃だからな
対応策をとるのが何か間違ってると思われるのもおかしい
>乱暴な言い方すれば「防衛能力を強化して敵の攻撃による被害を小さくしても、敵に打撃を与えないかぎりジリ貧だ=いつまでも戦争が終わらない」と言いたいのだろう。
うーん我が国
ナポレオンの様にモスクワを陥落させよう。
我が国において、今現在敵に打撃を与える装備がないわけではない。一方近い将来GDP2%の国防費にしようが、そこから増やそうが、単独で中国の攻撃を破砕できるほどの力を持てるわけでもない。(防衛費増額は必要だが効果を過大に評価してはいけないという意味)
自国の軍事力や国力の卑下も過大評価も害がある。
供与については概ね事前にリークされていた通りですね。
最高指導者同士の話し合いでの支援は、大抵の場合事前に決まっていますから、イレギュラーは無かったと言うことでしょう。
注目すべきは公表されなかった部分ですね。
今後どれだけ漏れ伝わってくるかは分かりませんが、政治的・軍事的にシークレットな部分での会話が気になります。
まあトップの会話は大局的なことがほとんどで、軍事的な詳細は実務者で話し合っているのでしょうけど。
気になるのは
>エクスカリバー砲弾×500発
という部分かな。
やっぱアメリカにも在庫が僅少なのですかね。
>「米国のパトリオット供与に反対はしないが我々にはウクライナに提供できる余裕はない=パトリオットを装備するドイツ軍部隊を一時的に加盟国へ派遣できても『ウクライナにパトリオットを寄贈する余裕はない』
最前線でもなく、軍縮繰り返して余裕だったNATO加盟国のドイツなら、自分たちとこのパトリオットぐらい最前線にあげちゃっても良いんじゃね・・・?
って思っちゃうのはちょっとイジワルかな・・・(^_^;)
>乱暴な言い方すれば「防衛能力を強化して敵の攻撃による被害を小さくしても、敵に打撃を与えないかぎりジリ貧だ=いつまでも戦争が終わらない」
そんな「傘をさしても雨が止む訳じゃないぞ」みたいな事言われても「いいからとりあえず傘よこせ」となるんじゃないかなぁ。
暫定対策と恒久対策を並行して進めなきゃいけないのは何でも同じでしょう。
もちろん恒久対策が即時実行できるならそうすりゃ良い訳ですがそれ(=ロシアをクリミアを含むウクライナ全域から撤退させた上で再侵攻を断念させる)が簡単には出来ないから苦労してる訳で。
現実としてパトリオットシステム1基でできることは限られるし、実戦配備には時間がかかることも事実でしょう。
米国としては「パトリオットはロシアのウクライナ全土への飽和攻撃と比較して些細な防衛力強化に過ぎない」と強調してロシア側のエスカレーション抑止と自国と西側世論の期待値をコントロールしているのてしょうね。
パトリオットは一基だけというのは象徴的な意味と、データ取りの意味でしょうか?
高性能の対空システムを導入することで
キーウなど重要拠点の撃墜率を上げることが無意味とは全く思いませんが
限られたリソースの中で最良の選択をしていると思います
事前の情報通りパトリオットは1基だったね
先ずはウクライナ側の要員を訓練して、それから追加のパトリオットをご提供頂ければ善き哉
> パトリオットは地対空兵器で防衛能力では戦争には勝てない。攻撃能力で戦争に勝つのだ
コレは全くその通りだよね
防空シールドと言う盾だけでは敵に勝てない
ウクライナの右手にちゃんと剣を握らせてあげなければ
個人的には今回のタイミングでエイブラムスくんの供与があるかなー?と思うてたのでちょっと残念
まぁロシアは今後も発電所他インフラ施設や民間施設にミサイルを撃ち込み続けるだろうし
何処かのタイミングで戦車や今以上の長距離攻撃手段(ATACMSとか)の提供に踏み切るんやろうけど
いつになるかな?
”普通の”155mm砲弾や105mm砲弾について
特に記述がないけれど、これは黙ってパッケージに入っているのかな。
エクスカリバーだけを撃つわけではないと思うけれど。
155mmの委託生産の手筈はついたのかな。
委託生産をするというと、煩い独ではなく、英仏あたりかな。
配備されたパトリオット部隊の防空体制はどうなるんでしょうね?
キーウに配備されたらその配備されたパトリオット部隊の拠点に向けてシャベド136山盛り攻撃をしてきた場合を考えないといけません。
あんなものの迎撃にパトリオットを使うワケにはいきませんが1機でも突入成功されてシステム破壊されたら大惨事ですしね。
配備した所に一緒にCIWSとかゲパルトを配備した方がいいんちゃいますかね?
めっちゃ一塁側ベンチの後ろで指図するファンのオッサン状態ですけどw
ようはキーウ襲撃による首狩戦術をさせないように、ルールを守って正しく戦争しなさいよと言うメッセージ。
人員の訓練については、純粋なウクライナ兵じゃなくて、傭兵やら義勇兵やら民間軍事会社やらから戦争に加わっている欧米人が運用することで期間を短縮することはできないんですかね?