米国関連

米海軍、対潜魚雷を40マイル先に運搬するHAAWCの初期作戦能力を宣言

米海軍はP-8Aで使用するHAAWCキットの初期作戦能力(IOC)を宣言、これにより高高度から最大40マイル=約64km離れた地点に対潜魚雷を投下できるようになりP-8Aの生存性と作戦効率が向上する。

参考:Navy Declares Initial Operational Capability for Boeing’s HAAWC

HAAWCはP-8Aのような哨戒機の脆弱な部分=対潜魚雷を投下するため低空に降りてくる必要性を無くしてくれるので中々面白いシステムだ

ボーイングは22日「Mk.54を高高度から最大40マイル離れた地点まで運搬可能なHAAWCキットが初期作戦能力(IOC)を獲得した」と明かし、米海軍から最大1.2億ドルのフルレート生産契約を獲得したと発表した。

出典:U.S Navy photo by Personnel Specialist 1st Class Anthony Petry

HAAWCとはAGM-84H/Kの折りたたみ式の主翼構造とJDAMのGPS誘導システムを流用したMk.54を滑空式の魚雷に変換するキットで、根本的にはMk.80シリーズを滑空爆弾に変更する「JDAM Extended Range(JDAM-ER)」と同じコンセプトだが、HAAWCは高高度から最大40マイル=約64km離れた地点に対潜魚雷を運搬できるため、P-8AはMk.54投下のため目標地点に接近したり高度を下げる必要がない=生存性と作戦効率が向上するという寸法だ。

要するにソノブイ・ディスペンサーポッドを搭載したMQ-9、対戦ヘリのSH-60などと連携することでP-8Aは巡航高度に留まり続けながら「巨大な対潜魚雷の運搬機」として作動するという意味だが、潜水艦向けの水中発射型対空ミサイルも実用化がぼちぼち始まっているため、このような脅威からP-8Aを守ることにも役立つだろう。

出典:General Atomics Aeronautical Systems MQ-9B SeaGuardian

ドイツ海軍は空中の脅威に対抗手段がない潜水艦を保護するためIDAS (Interactive Defense and Attack System for Submarines) システムを開発、このシステムは魚雷発射管から運用可能な水中発射型誘導ミサイルで、IDASは潜水艦から離れるまで水中を航行してブースターに着火、空中に飛び出すと主翼を展開してシーカーが目標の検出を行い任意の目標=対戦ヘリ、水上艦艇、陸上目標を攻撃することができるのだが、IDASは潜水艦と光ファイバーケーブルでつながっているため、必要に応じて潜水艦のオペレーターが介入して目標の変更や作戦の中止を行うことができるらしい。

IDASについてドイツ海軍は「対潜ヘリの脅威に直面した潜水艦には『見つからないよう海中に隠れる』という消極的な防衛行動しかなかったが、IDASの登場で潜水艦は積極的な防衛行動が可能になった」と評価しており、開発作業は2023年に完了して2024年に212型潜水艦へのIDAS導入が開始される予定(予算不足で量産化を遅らせる可能性がある)だ。

出典:IDAS Consortium

フランスも潜水艦から発射する対空ミサイル「A3SM」を開発済みで、米海軍もAIM-9Xを潜水艦から発射する実験(実用化には至っていない)を行い、中国海軍も潜水艦向けの対空ミサイルを複数研究しているため、水中発射型対空ミサイルというコンセプトの成熟度や注目度は高まっている。

今後IDASのような兵器が普及するかどうかは未知数だが、HAAWCはP-8Aのような哨戒機の脆弱な部分=対潜魚雷を投下するため低空に降りてくる必要性を無くしてくれるので中々面白いシステムだ。

関連記事:ただの爆弾を巡航ミサイルに変える「Powered JDAM」の仕組み
関連記事:インフレとドル高に苦しむドイツ、P-8など6つのプログラムを除外・削減
関連記事:対潜戦のコスト削減が可能に? 米海軍がMQ-9を活用した潜水艦狩りをテスト

 

※アイキャッチ画像の出典:Boeing

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コメント

    • もり
    • 2022年 11月 24日

    元海自潜水艦長の人も著書で潜水艦発射型対空ミサイルの必要性を説いてたけど日本は開発案止まりで本開発まで行ってないのよね

    18
    • t14
    • 2022年 11月 24日

    実のところ打ったら位置がバレる潜対空ミサイルなんて本当にモノになるのか?と思う

    10
      • sage
      • 2022年 11月 24日

      机上の空論で否定的理由を挙げてドローンは周回遅れになったよね
      実用化の目処を立てれば対空ミサイルを装備しているかもしれないから対潜攻撃も慎重になるし意味ない訳ないじゃないか 研究開発をして試行錯誤してこの種の兵器の発展余地や対抗手段がわかるというもの 失敗を恐れず行動することが大事と思うのです 特に新しい分野であれば尚更にね

      44
      • トーリスガーリン
      • 2022年 11月 25日

      対空ミサイルを対潜哨戒機や対潜ヘリに撃つのはもう位置バレしてしまった後の話では?
      このままじゃ追い掛け回されてほぼ確実に死ぬを反撃してワンチャン生き残る可能性上げる、そういう類のものだと思ってました
      積極的にというのは潜水艦が対潜機を狩るという積極性でなく、対潜機の哨戒範囲へと従来より積極的に切り込んでいけるようになるという感じのニュアンスなのでは

      59
      • もり
      • 2022年 11月 25日

      対潜機に近くを飛ばれ続ける方がリスク高いし何より対潜機は固定翼機も回転翼機も密度低いからね
      1機落ちただけで大損害だし相手が反撃手段あるって分かっただけでもう回転翼機はディッピングソナー使えないし固定翼回転翼機問わず効果的なソノブイ投下高度まで降りる事すら出来ない

      11
    • 名無し
    • 2022年 11月 24日

    魚雷を撃つためには、とんでもなく粘り強い調定が必要だということをあんなに説く人たちが、
    なぜ対空ミサイルは、パパっと海上に放り出せば、あとはミサイルがテキトーに標的を見つけて勝手に撃墜してくれると思ってしまうのか。

    9
      • 通りすがり
      • 2022年 11月 24日

      気持ちは分からなくないけど、新技術やアイデアを否定して従来やり方だけが正しいと信じてると痛い目に遭うよ。

      36
      • きっど
      • 2022年 11月 24日

      ミサイルに目標捕捉を任せると、友軍や民間機を誤射しないかがね
      間違えた所で母体が潜水艦では、誤りに気付くことも、自爆指令を出すのも困難極まるだろうし

      2
        • Gree
        • 2022年 11月 24日

        だから光ファイバーケーブルで制御してるでしょ?

        9
          • TDNトーシロ
          • 2022年 11月 25日

          今の所、光ファイバー方式なのは独海軍だけかと。
          まあ水中発射式の対空ミサイルは冷戦時代の海外軍事小説でも30年位前の架空戦記物でも描写されてるから別に新しいコンセプトじゃ無いけど、コレが必要なのは足の遅い通常型潜水艦だけなんでは?
          露海軍のキロ型潜水艦なんかは昔からセイルにMANPADSを内蔵してるとは言われてるけど本当なんだろうか。

          1
      • 名無しさん
      • 2022年 11月 26日

      粘り強い調停が必要なのは、ソナー性能ギリギリの遠距離から目標を識別(民間船なのが軍用艦なのか、
      軍用感なら重要目標であるのか、そうでないのかetc)・追尾するからでしょ。
      IDASはティッピングソナーを降ろしているような「ほぼ敵で間違いない」音源の方向に射撃すれば、
      搭載する赤外線シーカーで目標を補足する方式であり、これは従来の潜水艦で例えると
      「海上排除海域に独航船が侵入してきたので、その方向にハープーンを発射した」程度の感覚だぞ。

    • 折口
    • 2022年 11月 24日

    最大射程64kmってすごいですね。VLAの3倍遠くから撃てるのか…。

    P-8Aの運用についていまいちよく分かってないですが、対潜UAVのネットワークのハブに徹するとしても滑空爆弾を最大射程で使えるような高度に鎮座していられるものなんですかね。戦域後方に進出してきた敵潜水艦をハンターキラーするなら効率良いでしょうけど、最前線ではないにしてもある程度戦域に近い海域だと逆に長距離レーダーに補足されて超長距離の対空ミサイルが飛んできそうな。そもそも対潜哨戒機を水平線下に隠蔽しながら最前線で使うんじゃねえよって話ですけど。

    10
      • Mob
      • 2022年 11月 25日

      遠くから魚雷を投射すると発射から着水までのタイムラグで敵が移動して魚雷が目標を補足できない問題があるけどどう解決してんだろ?
      日本は長射程の07式VLAを開発するときに問題の解決法としてミサイルを超音速化してタイムラグを減らすことにしたけど魚雷を分離する際に超音速から減速させる機構の開発に苦労したらしい。

      2
        • たぬき
        • 2022年 11月 25日

        滑空速度を仮に120ktとして(低速の双発小型プロペラ機程度)64km=40nmを20分。
        低速で移動している潜水艦なら大した誤差ではないし、高速だった場合は探知は容易になるので位置を修正するのではと思います。

    • 人参は飲み物
    • 2022年 11月 24日

    水中発射型対空ミサイルは無人潜水艦に搭載したらめっちゃ脅威になるな

    6
    • 無印
    • 2022年 11月 25日

    潜水艦から対空ミサイルって、ドラえもんの「ラジコン大海戦」(タイトル忘れた)にあったなぁ
    スネ夫が操作する複数の模型ゼロ戦(この技術も地味に凄い)を、全くの不意打ちで水中からミサイルで打ち落とす(しかも複数)ってシーン

    あれが現実になると考えたら、もう航空機は潜水艦の上を飛べませんわ
    ドラえもん読んでたら藤子先生は預言者かと思う時がたまにあります

    7
    • 58式素人
    • 2022年 11月 25日

    一概に比べられないけれど。
    WW2のドイツ潜水艦が、一時期、対空機関砲を強化して、
    浮上時の航空機対策としていたことがありました。
    結果はというと、最初のうちは、目論見通り、英軍機を
    何機か墜としたようですが、直ぐに対策を取られました。
    機関砲の射程の直ぐ外で監視され、潜水しようとする時を狙われました。
    潜水艦は潜水時/浮上時が一番無防備です。
    或いは、仲間の英軍機を呼ばれて、同時攻撃されて、なぶり殺しの目に遭っています。
    ドイツは直ぐにこの方法をやめています。何故にイージスがあるかと言うことかと。
    上で書いておられる方もいますが、発見された時に逃げるためのものでは。
    対空地雷(?)と言う方もおられますが、潜水艦ではコストが高いかと。
    普通に機雷を設置し、対空ミサイルも装備させて、
    無差別に航空機を墜とす対空機雷原(?)を宣言する方がよさそうな。

    2
    • 無無
    • 2022年 11月 25日

    日本の潜水艦や哨戒機は最高だのの安心してるうちに世界から取り残されるの繰り返しにならないように
    日月進歩しない奴は敗けるだけだから

    12
    • きっど
    • 2022年 11月 25日

    誰も指摘していないけれども、そもそも今の米海軍に低空で潜水艦を探知するドローンの類は就役しているのか?
    トライトンにしてもそこそこ以上の高度からの海上監視程度で、低空でソノブイやMADを使用して潜水艦の位置を特定するドローンが就役しているとは聞かんのだが
    それとも、P-8Aは高空から投げるソノブイだけで十分なのか?

    2
      • たぬき
      • 2022年 11月 25日

      米軍の型にはMADは搭載していない様ですね。
      インドはある模様。
      インドの場合は自国沖、米は艦隊に合わせて移動が必要
      ですので低空まで降りて燃費悪化させるより、ソノブイばら撒く方が良いと言うことでしょうか。

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