米国関連

米国によるパトリオットシステムのウクライナ提供、効果は非常に限定的

米CNNは「バイデン政権が今週中にもパトリオットシステムのウクライナ提供を発表するかもしれない」と報じていたが、米国が提供できるパトリオットシステムは1基に過ぎず「どこかの拠点を1つ守るのが精々だ」と報じられてる。

参考:Patriot missile system not a panacea for Ukraine, experts warn

パトリオットシステムのウクライナ提供が発表されて世間的に大きな話題になっても効果自体は非常に限定的

ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン上級研究員は「米国が提供するパトリオットシステムはロシア軍のインフラ攻撃を阻止するツールになり得る」と評価する一方で、戦略国際問題研究所のトム・カラコ上級研究員は「我々がウクライナに提供できるパトリオットシステムの数は1基だけで、どこかの拠点を1つ守るのが精々で問題解決の万能薬ではない。今回の決定は政治的な支援の意思表示に過ぎない」と指摘しているのが興味深い。

出典:Lockheed Martin

米陸軍のパトリオットシステムはPAC-2形態で使用するGEM-T弾と、PAC-3形態で使用するPAC-3MSE弾を使用して航空機、無人機、巡航ミサイル、弾道ミサイルの迎撃に効果的だが、保有する60基(標準的な1基のシステムはレーダー、管制システム、発電機、ランチャー車輌×6輌~8輌などで構成、全てがPAC-3形態なら最大128発、全てがPAC-2形態なら64発の迎撃弾を装填)は本土防衛、海外に展開する部隊や拠点の保護に引っ張りだこで、保有するGEM-T弾やPAC-3MSE弾の数は不明だが「ウクライナが迎撃弾の補充を要求してきても用意するのが難しい」と指摘している。

カラコ氏曰く「残念ながらパトリオットシステムは高価な資産で、米軍は台湾での戦いに備えるためウクライナでこれを消耗するわけにはいかない」と述べ、別のアナリストも「2万ドル以下の無人機を破壊するため数百万ドルもする迎撃弾を使用するのは防衛側にとって有利な方程式ではない」と言及しており、パトリオットシステムのウクライナ提供が発表されれば世間的に大きな話題になっても「効果自体は非常に限定的」というのが真実なのだろう。

出典:Chad J. McNeeley, DOD

ラムシュタイン会議でウクライナに提供が約束された多層式防空システムも「時間がかかる」と言われており、短期的にウクライナの防空システムが劇的に改善される兆候は今のところ観測されていない。

追記:ギリシャはクレタ島に配備しているS-300について「米軍が同島にパトリオットシステムを配備してギリシャ軍のシステムへの統合が完了すれば、S-300をサービスから外してウクライナに送ることが可能だ」と明かしているが、米陸軍のパトリオットシステムを装備する部隊には余裕がなく、仮にクレタ島へ配備できたとしてもシステム統合に時間がかかるだろう。

関連記事:バイデン政権、兵站上の課題を抱えるパトリオットのウクライナ提供を決断か
関連記事:ウクライナを支援する西側諸国、統合された多層式防空システムを提供

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo Credit: U.S. Army PAC-2ランチャー

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コメント

    • ズマ
    • 2022年 12月 17日

    重要なのは防空管制に使えるかどうか
    レーダーによる早期警戒機構が機能するかどうか
    正直ミサイルの方は早々に打ち尽くす可能性が高い

    1
      • 通りすがり
      • 2022年 12月 17日

      パトリオットシステムのレーダーによる早期警戒機構ってなに?

      19
    • ミリオタの猫
    • 2022年 12月 17日

    逆に、1基だけのパトリオットシステムをウクライナのどこに配置するつもりなのかが気になりますね
    普通に考えたら首都キーウの中心部限定なのでしょうが、もしかするとそれ以外にどうしても守り抜く必要が有る施設が有るのかも
    只、個人的な意見としてはそこまでウクライナの防空体制が逼迫していると言うのなら、NATO空軍を防空任務限定で良いからウクライナヘ派遣すべきだと思いますけどね
    ここへ来て、ドイツと米国がレオパルド2戦車のウクライナ提供について話し合っている以上、今更ロシアの核恫喝を考慮する必要性は薄いでしょうし…でも、もしかするとNATO空軍がウクライナヘ派遣出来ないのは、実は加盟国が持つAAMも不足していていたりして?(大いなる皮肉)

    8
      • プーアノン
      • 2022年 12月 17日

      相手はセルビアやリビアじゃない核保有国のロシアなんだから
      無理でしょう
      核戦争になる危険を冒してまでウクライナにそこまで介入するかな?

      24
        • ミリオタの猫
        • 2022年 12月 17日

        だからと言って、核戦争になるリスクを避けた結果ウクライナが負ければ、次はバルト三国がロシアの御礼参りに遭って蹂躙される可能性が高いのですが?
        それに、バルト三国はNATO加盟国ですから、結局核戦争のリスクを避けた結果核戦争が起きる確率は一気に上昇すると言うオチになると思いますけどね
        それと、ロシアの勝利を見た中国が調子に乗って台湾侵攻を決断した結果、米軍に対して核兵器を使う可能性だって高まるかも知れません
        勿論リスクは計算しなければなりませんが、戦争に限らず勝利する為には、リスクを犯さなければならない時が必ず来るのです

        13
          • 台湾大好き
          • 2022年 12月 18日

          毎度ながら論理が飛躍してますよ、ミリオタさんの言を分解するとだと、①ウクライナが勝つためにNATO空軍の防空が必要十分条件である、かつ②レオパルド2の提供の話し合いとそれはイコールであると読めますが、まぁ普通に見てそうじゃないですよね。①物理的な提供≠②可能性の検討だし、①に至らなくてもウクライナが勝つ方法は色々あるでしょう。(空軍力の提供は負けない方策の一つでしかない。最善手かはしらないけと)
          そもそも「戦争に勝つ」ことが西側各国の思惑なんですかね?私にはそう思っていない国も多いように感じますよ。特にアメリカとかね。

          17
    • 無題
    • 2022年 12月 17日

    キエフに再侵攻するって話があるからパトリオット供給の目的はたぶんインフラ攻撃への対策じゃなくてロシア空軍機への牽制なんじゃないですかね

    6
    • K(大文字)
    • 2022年 12月 17日

    >ギリシャはクレタ島に配備しているS-300について「米軍が同島にパトリオットシステムを配備してギリシャ軍のシステムへの統合が完了すれば、S-300をサービスから外してウクライナに送ることが可能だ」と明かしている

    ギリシャのこの提案、エーゲ海諸島への軍事力配備に対するアメリカの承認を得たい含意もありそうですね。
    そもそもパトリオットシステムの余剰が無いのもさることながら、アメリカがギリシャ・トルコの諍いにわざわざ踏み入って火中の栗を拾いに行くとも思えませんが…

    15
    • RM
    • 2022年 12月 17日

    UAV対応型PACのテストベッド…は無いか

      • lo
      • 2022年 12月 18日

      UAV相手にペトリオットなんて使うわけないでしょ
      NASAMS使うわ普通

    • キジトラ
    • 2022年 12月 17日

    (表向きは)エスカレーションを警戒するアメリカですから、
    ハイマースの時と同じで、まずは少数で様子見、状況を見極めてから更に供与という流れなのでしょうか。
    ロシアのリアクション、ウクライナの運用方法をなどによって、
    ランニングしつつ供与の内容を決めようとしているのかもしれません。

    12
    • 名無し2
    • 2022年 12月 17日

    この戦いは単なるソ連内戦ではない。独裁主義と自由民主主義の天下分け目の戦いだ。ロシアが完膚なきまで国力を消耗すればロシア内戦どころか、ロシア民主化の希望すら出てくる。そうすれば中国、北朝鮮、その他独裁政権も態度を改めざるを得ず、東アジアの安全保障に決定的な利益をもたらす。だからね、納税を通じて日本政府経由でウクライナを支援することこそ世界平和に重要なわけです。増税最高!納税大好き!

    15
    • おわふ
    • 2022年 12月 17日

    バカスカ消費出来ないのならば、1セットが妥当でしょうね。

    それでも大きな戦力でしょう。

    8
    • 58式素人
    • 2022年 12月 17日

    パトリオットもそうですが。
    既に決まっているHAWKミサイルを急ぎで送ってほしいです。
    ここの記事のコメントでも時々出ているようですが、
    ”数は力” ですから、ロシアが数で押してくるならば、
    ウクライナも数で対抗しないとですね。
    倉庫にあるありったけを送ってみては。
    基本的な訓練は必要ですが、使い方は、ウクライナに任せる形で。
    もう、パテントがどうこう言う品物ではないでしょうから、
    ウクライナによる改造は自由ということで。
    素人は、HAWKミサイルが、旧ソ連製のランチャーから発射されても
    構わないのではないかと思います。
    ランチャーが多ければ同時に対応できる数が多くなるので。

    4
    • 匿名希望係
    • 2022年 12月 17日

    韓国が前に導入したときのドイツの中古は廃棄済みかね?
    確か全部購入してなかったはずだけど

    • たけやぶやけた
    • 2022年 12月 17日

    対空ミサイルは対中防衛の必須アイテムだからさすがに供与できないな
    間もなく公開されるであろう令和5年度査定予算で03式対空ミサイルが要求どおり認められていればよいのだが

    1
    • あああ
    • 2022年 12月 18日

    ペトリは悪手オブ悪手です。多種多様で大量の対地攻撃手段を有する米軍とて現役防空装備はアベンジャイの次はこれしか無い。しかも費用対効果や鹵獲/情報漏洩を考えるとキーウの大統領府の弾道ミサイル防衛以外で供与はありえません。逆にそれだけなら合点はいく判断です。したがってワンセット。弾薬も一式です。予備はない。
    しかしそれでは電力施設の防空問題の解決にはなりません。そこで浮上するのはイラクアフガンで運用されたCRAMです。実用モデルはLPWS。艦載シウスの車載型です。局所防空を一両で自己完結する装備といえばゲパルドが活躍してますが、これは元が旧式で今後に数が期待できない。特に弾薬問題はスイスの不協力でこれから生産開始という状態です。
    しかし20mmバルカンであれば弾薬は途方もない数が現存します。艦載システムで西側標準化された為に弾薬融通に国の壁が無い。どこの国だって全く同じバルカン砲ですからね。対空ミサイルは高い上に在庫も無いというならこれしかありません。

    6
    • りんりん
    • 2022年 12月 18日

    アメリカからは当面1セットでも、ドイツを始めたの国からも提供があるんじゃないかな。
    あわせて数セット程度だとは思いますが。
    それでもシャヘド136等の格安自爆ドローンに使用するのは、コスト戦争で極端に不利になるので、避けた方が良いでしょうね。

      • 名前
      • 2022年 12月 18日

      さすがにどこの国でもパトリオットは虎の子でしょうから、提供は難しいのではないでしょうか。
      特にNATOはロシアの核兵器の脅威が増している状況ですから、弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルを防ぐのに必死だと思います。
      他は手放せても、パトリオットだけは厳しいと思います。
      パトリオットがわずかでも余るような国はアメリカ位では。

      1
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