米国が極超音速巡航ミサイルの開発でオーストラリアと手を組んだ理由の一つに「マッハ30までの飛行特性をテスト可能な極超音速風洞設備を利用できること」を上げており中々興味深い。
参考:Joint US-Australian Hypersonic Cruise Missile Moves Ahead
中国も建設中のマッハ30に対応した風洞設備をもつオーストラリア、米国は極超音速兵器開発に不可欠なインフラストラクチャーに注目
オーストラリアは昨年7月に独自の極超音速兵器を開発すると発表、4ヶ月後の11月末にスクラムジェットを使用した極超音速巡航ミサイルを米国と共同開発する協定(サザンクロス統合飛行研究実験/Southern Cross Integrated Flight Research Experiment:SCIFiRE)を締結して「数ヶ月以内に試射を行う」とシドニー・モーニング・ヘラルド紙が報じていたが、極超音速巡航ミサイル試射のニュースも聞こえてこなければSCIFiREプログラムの全容についても続報がない。
補足:SCIFiREは空気呼吸式の極超音速技術を手頃なコストで実現するためのプロトタイプ開発と技術検証が目的で、オーストラリアと米国が15年前から研究に取り組んでいた「極超音速国際航空実験(Hypersonic International Flight Research Experimentation:HIFiRE)」を発展させたものだと説明している。因みにオーストラリアと米国は2007年から2016年までに複数回の極超音速実験を行い音速の5倍以上の速度域で操縦・管制制御システムに関する大量のデータ収集、スクラムジェットでマッハ8まで加速することにも成功して極超音速飛行に関する基礎技術を確立させた。
しかし米メディアのBreaking DefenseがSCIFiREプログラムに関する記事を公開、ようやくオーストラリアと米国が共同で進めている極超音速巡航ミサイルの開発状況が明らかになった。
現在のSCIFiREプログラムはロッキード・マーティン、ボーイング、レイセオンが提出した予備設計の審査が終了した段階(フェーズ1)で、ロッキード・マーティンとボーイングが次の段階に進むための契約を授与されたとBreaking Defenseは報じており、米議会調査局も「2020年半ばまでに極超音速巡航ミサイルの試射を行う予定」と提出した報告書の中で言及しているため「数ヶ月以内に試射を行う」という情報は間違っているか極超音速巡航ミサイルの開発過程における実験体のテストではないかと思われる。
さらに興味深いのは米議会調査局が8月25日付けで議会に提出した報告書の中で極超音速兵器開発のインフラストラクチャーについて言及している点だろう。
参考:Hypersonic Weapons: Background and Issues for Congress (R45811)
ロシアは中央流体力学研究所に複数の極超音速に対応した風洞設備を所有しており、中国は18の風洞設備を所有して少なくともマッハ8、マッハ10、マッハ12の極超音速に対応した風洞設備が3つあると指摘しているが、2022年までにマッハ30に対応した風洞設備が完成すると中国中央電視台(CCTV)が報じている。
これに対して米国も極超音速兵器開発の要となる風洞設備の近代化に資金を投資しているものの米軍、NASA、大学や産業界施設の中にマッハ30までの飛行特性をテスト可能な極超音速風洞設備(28施設中マッハ18、マッハ20、マッハ23に対応した施設が1つづつ)は無く、米国がオーストラリアと極超音速巡航ミサイルを共同開発する利点の一つに「世界最大級の広さを備えたウーメラ試験場施設にあるマッハ30までの飛行特性をテスト可能な極超音速風洞設備を利用できる」と言及している点が非常に興味深い。
関連記事:中国、マッハ30の飛行特性をテスト可能な極超音速風洞設備「JF-22」が2022年に完成予定
つまりオーストラリアは極超音速兵器開発のインフラストラクチャー(広大なウーメラ試験場やマッハ30に対応した風洞設備など)を提供、米国は極超音速兵器の開発過程で得られたデータをオーストラリアと共有することで互いのニーズを満たすことが出来るため手を結んだと言える。
ただオーストラリアと米国が共通の極超音速巡航ミサイルを採用するのか具体的な言及がないので未知数だ。
米議会調査局はSCIFiREプログラムで得られた結果について「国防高等研究計画局(DARPA)と空軍が開発を進めている極超音速巡航ミサイル(HAWC)に役立つ」と考えており、オーストラリア空軍は「SCIFiREプログラムで得られるスクラムジェットエンジンを採用した新兵器はF/A-18F、EA-18G、F-35A、P-8Aに搭載可能になる」と言及しているので両国は得られた研究結果に基づいて別々の極超音速巡航ミサイルを開発するのかもしれない。
因みにオーストラリアと米国は多連装ロケットシステム「MLRS」や高機動ロケット砲システム「HIMARS」などで運用する精密ストライクミサイル(PrSM)のアップグレードバージョンを共同開発することを今年8月に発表しており、2025年までに初期運用能力を獲得する予定だ。
まぁ実際の開発はロッキード・マーティンが請け負っているので、共同開発というよりも開発に出資することでオーストラリアの防衛産業界(厳密に言えば現地法人のロッキード・マーティン・オーストラリア)にPrSMの開発や製造の一部を引っ張ってくることを狙っている可能性が高く、この辺りはオーストラリアの防衛産業界基盤の維持や雇用対策という側面から見ると興味深い取り組みと言える。
※アイキャッチ画像の出典:public domain B-52の翼下に懸架されたX-51
これは面白いよね。なんでまたオーストラリアに特殊な空洞があるのか気になるけど、先行投資してたんかね。あるいは土地が余っていたのか。この手の特殊なインフラは作ったもの勝ちだっていうのがよくわかる。
まあ、特殊なインフラの大半は採算割れになるから、何が当たるかは結構博打的なところもあるが、アメリカが持っていないのが以外だな。
「風洞」ね。
オーストラリアにジオフロントのニューシドニーが建設されて使徒の侵攻に備えてた訳じゃあるまいし。
>「風洞」ね。
おおう、やっちまった。スイマセン。
「空洞」かわいいw
わたしは「2番じゃだめ?(かどうか採算性を検証せよ)」派だったんですが、
なるほど、一番にこだわるのも大きな意味がある良い事例ですね。
(まぁ、スパコンは比例的なものなので、必ずしも1番でなければいけないとは思いませんが)
日本の風洞はどんなものなんでしょうかね。
防御側とはいえ、特性を知るために保有するのは意味があると思いますが、
さすがに攻撃兵器として開発意図のない国が保有しても採算があわないかな?
世の中、1番になる気で死に物狂いにがんばっても中々1番になれない事ばかりなのに、
最初から2版じゃダメか?とか言ってる時点で、到底2番にもなれないだろうよ
目標マッハ30というのは、大気圏離脱速度に達してるわけだから、これは将来は宇宙兵器の類いの開発に流用できる見込みがあるのでは。
極超音速ミサイルかぁ・・・。
これからは既存の弾道ミサイルに代わる新しいミサイル戦力の要になるんだろうね。
そういえば日本ってこういうの作ったりしないのかな?
日本はレールガンで代用するつもりっぽい
電磁レールガンの開発を継続する日本防衛省 - JSF
リンク
あぁ~( ノД`)…
レールガンじゃ極超音速の代替えにはならないからまた負けるね
課題が山ほどあるんだけど、リニアモーターの伝統を背負ってるから電磁は簡単には棄てられないんだろ
用途を間違わなければ案外と物になるかも知れない
どこにもレールガンを超音速ミサイルの代替に使うとは書いてないんだが
超音速ミサイルの迎撃、沿岸砲として使うとはあったが
ヤフーニュースで時々見かけるが
このJSFって何者?
昔からその界隈ではそこそこ有名な軍オタブロガー
レールガンが実用化されたとして代替するのは火砲の類であって、弾道・巡航ミサイルの代わりにはどうやってもならないでしょ。レールガンがどういうものかわかって言ってるのかな
むしろ極超音速兵器のシーカー開発の予算が計上されてたから、作る気マンマンだと思うんだが
沿岸から(おそらく視界外の)艦船を狙えるほど命中率や敵音速ミサイルを撃墜できるほども連射性を持つレールガンを艦載できたなら、そのレールガンはミサイルの代用であるていど使われると考えるのも妥当かなと思って書いた
*張った記事も”研究を継続する”であって、研究をそれに絞るというわけでも数年内に実用化という目途を出してるわけじゃないから研究終了さえずいぶん先の話なのは前提
*あとは長射程のミサイルは周辺国から文句きても砲弾が届いちゃうなら問題ないかなみたいなのも漠然と思った
島嶼防衛用高速滑空弾がそれに該当するのでは?
弾頭と射程的に用途が全く違う気が
マッハ30かあ。さすがに地表近くでその速さは出ないだろうけど、もし出たら目標到達前の段階でソニックブームによる被害が出そうだなあ
日本は大学が防衛関係の研究拒否だから基礎研究の底辺が狭いのが最大の問題
レッドチームの兵器開発には協力しているけどねw
学会が総論として反対するのはどうかと思うけど、研究者個人が軍事研究に反対するのは仕方ないよね。
まさか本当に使うとは思わなかったとか、後から緩い言い訳しやがった原爆開発した連中よりも、むしろ良心を感じる。
軍事も必要って感じてる研究者もいるわけだからいいよ、変に同調圧力だのかけると独裁制みたいで見苦しい
学術会議うんたらもすっかり聞かなくなったな
政権叩きに利用してただけで、本質には興味なかったんだろうな
その件、何れ米国から睨まれるのは避けられないと思うけどな
今は防衛関係の研究の可否を巡る、大学&研究者対日本政府と言う構図だが、グズグズしているとそれに加えて「レッドチームの兵器開発に日本の大学が協力している件」を米国側が問題視して、様々な圧力(場合によっては法的な訴追や制裁もあり)を日本側に掛けて来た時、日本の大学と研究者は何処まで抵抗出来るのか、興味がある
まさか、その時になって大学と研究者側が日本政府に向かって「助けて!」とは言わないよね?
ソフトウェアによるシミュレーションがあれば風洞不要とか唱えていた輩は
現実をなめてたわけね
何だか謎の思い込みに捉われてる勢が一定数いるんだよね。
マッハ30だとマックスQ以上の高度想定になるから風洞実験意味ない、とか
カナード翼つけたらまともなステルス機にはできない、とか
ステルス機はFBWなしでは1秒も飛べない、とか
C-2は直接カブール入りしない、とか
スキージャンプ台のない艦ではSTOVL機をまともに運用できない、とか。
多分どこかで聞きかじった「〇〇は△△に『不向き』」みたいな言説を本質理解せずに拡大解釈して「無理」に脳内変換しちゃってるんだろうと思うけど。
この手の極論ぶち上げられると「そっち寄り」の発言しにくくなるんだよね、一緒に見られちゃうから。
検証用ソフトウェアが完全無欠なら風洞試験の必要も無くなる理屈だけどね。
現状ではヴァーチャル検証は開発期間短縮とコスト削減のための事前検討作業だが、現象を左右するパラメータに漏れや齟齬がある可能性を実験で潰さないと信頼性が確立できない。
マッハ30までを実用範囲にする飛翔体の信頼できるヴァーチャル検証ソフトを開発するには、結局はマッハ30の極超音速風洞による実験が必須になる。
それでも完璧かは分からないんで、最終的に風洞試験や実証機による確認を行うことになるのかと。
そう言う輩には、F1マシンの空力開発の実情を教えてやると皆気絶すると思う
最高時速が320~350キロ程度のF1マシンでさえ、風洞実験等で綿密なテストを行って開発しても、実際に走らせたら全然遅くて運動性も悪いマシンになっちゃう事が、チャンピオン争いの出来る有力チームのマシンでも結構有る
その結果、シーズン途中で空力パーツや車体を大改造するチームが少なく無いのに、マッハ30で飛翔する極超音速兵器用の飛翔体をソフトウェアによるシミュレーションだけで開発出来ると思っている輩は、空力の恐さを知らないと言うしか無い
日本にも高度な風洞欲しいねえ、前澤あたりが寄贈してくれたら国民栄誉賞くらい与えていいよw
ホントそれ
日本国内にはレーシングカー用の風洞設備でさえ数える程しか無いと言えば、いかに風洞設備を作るのが難しいか、分かって貰えるかなと思っている
実際、数年前に国産レーシングカーの開発で知られる童夢が持っていた風洞設備(滋賀県米原市に有ったと記憶しているけど、確信が無い)をトヨタか購入して実験に使っている位、日本国内では風洞設備は貴重な存在なの
「マッハ30の領域ならシミュレーションで済む」には懐疑的だけど、「シミュレーションで済む」派は「高高度になれば定率変化になるのでソフトシミュレータで十分」と言ってるので、
「F1の領域ですら〜」の指摘は完全に的外れだよ。
空力というか流体の恐ろしさ、ですね。
ナビエストークスが解析的に解けたら誰も苦労しない。
マッハ30ともなると、迎撃ミサイルも間に合わないか間に合っても
チャンスは1度きりで対策しにくいやろうな
それだったら、下手に迎撃するよりも相手目掛けて極超音速兵器を撃ち返した方が良いって発想になって…極超音速兵器が核兵器と同じく『相互確証破壊(MAD)』が成立する事になり、安易には使えなくなるかもね(妄想)
対象が高速だとその分迎撃弾との相対速度も速くなるから、案外キャニスター弾を弾頭にした迎撃ミサイルなのが有効だったりして
将来的にはレーザー兵器で迎撃するのが当たり前になりそう。
マッハ30ともなると照準精度・照射時間的にレーザーで有効打を与えるのは難しくなる上に、
断熱圧縮による超高温を想定している弾体に正面側からレーザー当てても大した効果は無さそうだけど。
横からなら弱い部分も攻撃できる可能性はあるけど角速度が大きくなるのでますます照準が困難だろうし。
JAXAの風洞がマッハ10で1m四方なのに中国の場合人が何人も入れるくらい大きいよね。あれはどうやって加速させてるんだろう。
1秒に10kmくらいか
こういった施設がアメリカには中国の何倍も所有しているのにも関わらず未だに兵器として実践されていないという事は国の怠慢なのかそれとも中国人が余程優秀なのか後者ならどれだけ努力しても無駄という事