米国関連

10年掛かっても完成しないズムウォルト級駆逐艦、極超音速ミサイル運用艦に改装?

進水から10年たっても実戦投入不可能なズムウォルト級ミサイル駆逐艦に、現在開発中の通常弾頭を搭載した極超音速ミサイル「Conventional Prompt Strike (CPS)」を搭載する計画が持ち上がっている。

参考:America’s First Stealth Destroyer Program: Six Years Behind Schedule and More Than 100% Over Budget

獅子身中の虫と化したズムウォルト級ミサイル駆逐艦

米海軍が建造した先進的なステルス性を備えたズムウォルト級ミサイル駆逐艦は、1番艦の進水から10年後の2021年末にようやく運用が可能になると言われているが、実際には初期運用能力の獲得程度に留まる見込みで、脅威が存在する海域に展開=実際の戦闘が伴うような環境で能力を発揮出来るようになるのは、さらに時間が必要でいつ戦力化できるのか誰にも分かっていない。

そもそも現状のズムウォルト級ミサイル駆逐艦が戦力化出来ても、防空用のSM-2や弾道弾迎撃ミサイルSM-3、対潜戦用のアスロックを搭載しておらず、自慢の155mm先進砲システムは専用砲弾の調達中止によって使用不可能で、実質、個艦防空用のRIM-162ESSMと巡航ミサイルトマホークしか運用できないにも関わらず、アーレイ・バーク級駆逐艦の2倍以上と言われる維持費(約7,400万ドル)が掛かり、今直ぐにでも退役させ予算と人員を他に回したいと言うのが米海軍の本音だろう。

しかし、沿海域戦闘艦やジェラルド・R・フォード級空母など失策続きで米議会の信用を失いかけているため、大金を投じた同艦を何の成果もなく切り捨てれば批判は免れない。

補足:米海軍は小型無人艦(偵察用途)と大型無人艦(VLS搭載型)の開発に取り組んでいるが、米海軍の革新的なプロジェクトの失敗に懲りている米議会は予算を承認したものの、米海軍が無人艦(特にVLSを搭載した大型無人艦)のコンセプトや有用性を米議会に証明できない限り、VLSの搭載を認めない=本格的な開発へ進むのを制限している。

結局、米海軍は何としてもズムウォルト級ミサイル駆逐艦の使いみちを捻り出さなければならず、そこで思いついたのがズムウォルト級ミサイル駆逐艦を改装し、現在開発中の通常弾頭を搭載した極超音速ミサイル「Conventional Prompt Strike (CPS)」の運用艦として使用する計画だ。

参考:U.S. Navy to Integrate Hypersonic ‘Superweapon’ onto Zumwalt Stealth Destroyers

通常兵器による迅速なグローバル打撃と呼ばれる通常弾頭搭載型打撃ミサイル(CPS)は、地球上のあらゆる目標を1時間以内に攻撃できる極超音速ミサイル(海上・水中発射型は地上発射型に比べ短射程になると言われている)だが、この兵器をズムウォルト級ミサイル駆逐艦に搭載するにはMk.57PVLSを削除する必要があり、同艦の兵装はCPSと30mm機関砲だけになってしまう。

こうなるとズムウォルト級ミサイル駆逐艦はアーレイ・バーク級駆逐艦によって護衛する必要があり、漁船レベルの船影としか映らないステルス性は意味を無くし、弄くり回した結果、同艦の初期コンセプトのアーセナル・シップへ先祖返りを果たすことになる。

その上、通常弾頭搭載型打撃ミサイル(CPS)の実用化には目処がついておらず、この計画は米議会にズムウォルト級ミサイル駆逐艦は「無駄ではない」と見せかけるための詭弁でしかない。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

日本の真珠湾攻撃に因んだ命名が続く米海軍、バージニア級原潜に続きフォード級空母まで前のページ

開発中のステルス無人機に搭載か? 韓国、高性能ターボファンエンジン開発に着手次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    欧米メディアの疑問、なぜウクライナは支援額の5倍も返済しなければならないのか?

    トランプ大統領は「ウクライナとの経済協定は合意に近づいている」と述べた…

  2. 米国関連

    米陸軍がGD製の軽戦車採用を発表、2035年までに500輌程度を調達

    米陸軍は28日、歩兵旅団戦闘団(IBCT)向けの火力支援車輌「Mobi…

  3. 米国関連

    米国、HIMARSからATACMS運用能力を削除してウクライナに提供か

    HIMARSで使用可能なATACMSはクリミア大橋を直接攻撃できるため…

  4. 米国関連

    パトリオットの後継、米陸軍が開発を進める次世代防空システム

    ロシアや中国が次々と新型の防空システムを完成させている中で、西側を代表…

  5. 米国関連

    ウクライナ軍の型破りな戦術、ロシア軍が破壊したのはHIMARSの木製ダミー

    Washington Post紙は30日、ウクライナ軍はロシア軍と戦う…

  6. 米国関連

    ロシア軍、昨年10月に開始した攻勢を年内いっぱい継続する可能性

    New York Timesは7日「まだ戦場に到着した西側の援助は決定…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 1月 31日

    失敗を認めるには、とても勇気が必要ということがよくわかる。

    • 匿名
    • 2020年 1月 31日

    アメリカ様も先進的な軍備は結構失敗している、成功した物のの結果でそれをカバーしている。
    日本は決して開発失敗はできないため、どうしても保守的な設計になる。
    それでも絶対に必要なAESAやXF9-1などは開発しており、それは十分先進的ではあるが。

    • 匿名
    • 2020年 1月 31日

    …そういう運用ならそれこそ潜水艦の出番なんじゃ

    • 匿名
    • 2020年 1月 31日

    ビスマルクよりUボートだよな
    外洋では無く沿岸部での戦闘を考えるにしても、バカ高い、大きい艦艇、防御力の無いアーセナルシップ(兵器を運ぶ艦艇、防御/探査/照準は艦隊の僚艦に任せる)をそこに派遣できるの? って思いますよね。
     湾岸戦争における戦艦ウィスコンシンの艦砲射撃的な、制空権を確保した後のお安い殲滅(地上の設備、人の)ぐらいを目的としてフリゲート・クラスに単・砲塔、VLS(巡航ミサイル)ってのを沢山作った方が・・・まあ、議会の予算は通らんですね。

    • 匿名
    • 2020年 1月 31日

    取敢えず、イージスシステムはベースライン10、Mk.45 5インチ砲に換装して、就役させられないかな。
    あの搭載量なら、タイコンデロガ級の代わりになるのに。

      • 匿名
      • 2020年 1月 31日

      レーダーがspy-1じゃないし、上部構造物丸ごと作り直しだし、時間もお金も厳しいんじゃ?
      流石にあれだけお金をかけて作った船が「はい、失敗でした!スクラップにします!」とはいかないんだろうけど、劣化アーセナルシップじゃあなぁ

      • 匿名
      • 2020年 2月 01日

      ズムウォルト級はイージスシステムと別の戦闘システムを積んでるので、イージスシステムを積むならレーダーから全とっかえですね。
      そもそも、ズムウォルト級の戦闘システムはイージスシステムに必要な機能すら実装できなかったから今の有様なので、損切りしないとどうにもならんでしょう

    • 匿名
    • 2020年 1月 31日

    Mk.57PVLSにCPSは入らんのか?
    こんな時の為に、Mk.41VLSの21インチからMk.57の28インチへと大型化し、2倍の重量のミサイルを撃てるようにしたのではなかったのか?

    • 匿名
    • 2020年 2月 01日

    そのうち、スミソニアン博物館で展示されそう。

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  4. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  5. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
PAGE TOP