ウクライナ戦況

ゼレンスキー大統領、ホルリウカ西郊外に位置するテリコン奪還を発表

TIME誌の取材に応じたウクライナ軍関係者は「10月初旬に大統領府は占領状態が続くホルリウカ(ゴルロフカ)の奪還作戦を要求してきた」と明かしていたが、ゼレンスキー大統領は12日「第24機械化部隊がホルリウカ郊外のテリコンを奪還して国旗を掲げた」と発表した。

参考:ВСУ отбили у оккупантов один из терриконов в пределах Горловки – Зеленский

今のところテリコン奪還に政治的な意味以外の価値はなさそうだ

TIME誌の取材に応じたウクライナ軍関係者は「10月初旬に大統領府は10年近く占領状態が続くホルリウカ(ゴルロフカ)の奪還作戦を要求してきた。どうして(このタイミングで)ホルリウカを奪還する必要があるのか、作戦に必要な武器、大砲、新兵はどこにあるのかと回答した」と明かしていたが、11月19日頃にウクライナ軍がホルリウカ郊外のテリコンを唐突に襲撃。

出典:GoogleMap ホルリウカ周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

ピブデンヌ近郊にあるユジナヤ炭鉱周辺には炭鉱の廃棄物が集積したテリコン(ぼた山)が複数存在し、この地域の前線位置は2014年以降ほとんど動いておらず、このタイミングでホルリウカ方向に攻撃(投入されている戦力は少数)を開始したウクライナ軍の意図も、テリコン周辺の状況も謎に包まれており、ロシア人ミルブロガー達は「テリコンに登ってきたウクライナ人は砲撃でふっとばされ山頂はロシア軍の管理下に入った(但し無人なのでグレーゾーン扱い)」と、ウクライナ人が運営するDEEP STATEも「ホルリウカ方向の状況は追加の情報が必要だ=状況は不明」と述べていた。

その後、ホルリウカ郊外の視覚的証拠が登場しなくなり、ロシア人ミルブロガーもDEEP STATEもホルリウカ郊外について言及しなくなっていたが、ゼレンスキー大統領は12日「第24機械化部隊がホルリウカ郊外のテリコンを奪還して国旗を掲げた。ホルリウカはウクライナだ。ドンパスはウクライナだ」と発表して「国旗を掲げる動画」を公開。

テリコンはロシア軍の火力管制下にあるため「ウクライナ軍の兵士がテリコンに常駐する」というのは難しく、ゼレンスキー大統領が公開したビデオでも「夜間に国旗を掲げに行っている様子」が映し出されており、正直なところ「テリコンを奪還した」というより「テリコンに国旗を掲げてきた」という表現が正しい。

ウクライナ軍がアルテーモヴェ方向からホルリウカ自体の奪還作戦を狙うなら「テリコンの奪還」は何らかの戦術的意味を持ってくるが、現在のウクライナ軍に人口20万以上のホルリウカ(都市の面積はバフムートの約10倍)を攻略するだけの戦力があるかどうか怪しく、今のところテリコン奪還に政治的な意味以外の価値はなさそうだ。

関連記事:侵攻648日目、ロシア軍が戦場の主導権を握って各地で前進を遂げる
関連記事:ホルリウカの戦い、未だに状況が不明なウクライナ軍のテリコン襲撃
関連記事:米タイム誌、大統領の頑固さがウクライナの柔軟性や選択肢を狭めている

 

※アイキャッチ画像の出典:Volodymyr Zelenskyy

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コメント

    • とある経営者
    • 2023年 12月 13日

    もはやウクライナ政権は戦争末期の大日本帝国大本営発表のようになってきました。針小棒大どころか虚偽の発表をするようになってきています。裏で和平工作等の戦争終結をやっているならまだ救いがありますが、無為無策に勇ましい空言だけを撒き散らしているとするならば、終戦時の日本と同じ末路になるでしょう。失わなくてもよい領土をさらに失い核の犠牲に…

    46
      •    
      • 2023年 12月 14日

      突撃命令出しているロシア軍の方が大日本帝国に似ているけど。

      5
    • 歴史と貧困
    • 2023年 12月 13日

    何というか、ゼレンスキー氏は相当疲れているようですね。
    現実を見たら精神が保たないから見ないようにしているのか。
    それでも、自国の現状を正確に把握する義務はあると思うのですが。例え打つ手がほぼないに等しいとしても。

    33
      • たむごん
      • 2023年 12月 13日

      仰る通り、顔に出ていますよね。
      停戦交渉を何度か蹴る前(2022年3月・4月・5月)、停戦交渉を蹴った後(2023年12月)を考えれば、失った人・物・領土があまりにも大きいんですよね…。

      日露戦争のビゴーの風刺画のように、英米(外国)に徹底抗戦の背中を押されましたが、それがよかったのか歴史が判断する事になりそうです。
      3年目を迎えるにあたって、停戦交渉の詳細条件・意思決定の背景を絡めて、各時期毎に分かりやすく開示する必要があるでしょうね。

      24
    • m
    • 2023年 12月 13日

    もはや、精神的勝利に縋るしか
    拠り所が無い感じですね
    指図してる米英の軍事顧問もドン引きなのでは

    30
    • kame
    • 2023年 12月 13日

     管理人さんの『テリコンに国旗を掲げてきた』だけというのが適切な表現ですね。景気の良い時のウクライナ軍だったら、兵士達が肩を組んで旗と一緒に撮影する余裕もあったので、それと比べたら鬼(ロシア軍)の居ない間に旗だけ撮影していった、一種のピンポン奪取でしかない。
     ただ、最近は本当にウクライナについて興味を失っている人達も増えてますし、なりふり構っていられないのでしょう。

    32
    • たむごん
    • 2023年 12月 13日

    ウクライナにとっては、100年単位の戦いにもなり得るのですから、ここで無理に消耗してもという感じがするのですが…。
    ロシアとの長大な東部防衛線だけでなく、黒海沿いとアゾフ海を喪失したため新たな陸の防衛線、ベラルーシ国境の警備も分厚くしていく必要もあります。

    ウクライナ西部・中部(一部を除く)とウクライナ東部・北部(北西部除く)では、戦果の被害が大きく異なっており戦後の不安定化が予想されます。
    ゼレンスキー大統領が、クリミア奪還の政治目標を見直したり、停戦による汚名をかぶる事も視野に入れれば、自軍の温存も重要と思うのですが…。

    日本も大口スポンサー国ですが、国内経済がインフレで余裕がなくなっており、ウクライナ予算は特権・聖域にできません(2025年の国民負担率56%と言われています)。
    ズルズル戦争が長引けば長引くほど、国家維持のための喜捨は支持を得られないリスクが増えます…。

    18
    • イーロンマスク
    • 2023年 12月 13日

    ゼレンスキーの承認欲求をXで満たすために何人死んだかと思うといたたまれない。

    34
    •  
    • 2023年 12月 13日

    うわ……
    これじゃ報道を事実と認めてるようなもんじゃないか
    ハリウッド直伝の映像編集技術と勇ましい音楽が間抜けな政治背景と合わさって恥ずかしくて見てられないわ

    25
    • 冬戦争
    • 2023年 12月 13日

    自撮りしてるだけ。ラボティーノやクリミアでもそうだが、少人数で行って自撮りしてSNSにアップして「領土を奪還した!!」と勇ましく宣伝する。何の意味も無い行為。こんな無駄なことをやっている間に前線ではウクライナ兵が何万人と死んでいく。前途の有る若者が。ゼレンスキー大統領のしなければいけないのはロシアに降伏することだ。ウクライナに勝ち目は無く、戦線が崩壊してる以上、ロシアが停戦や休戦を受け入れるわけも無い。ロシアが受け入れるのはウクライナの降伏だけだ。ゼレンスキー大統領は速やかにロシアに降伏すべき。それが唯一のウクライナ国民の命とウクライナの領土を守る道だ。このまま継戦すればウクライナはロシアに併合されるだろう。

    21
      • 歴史と貧困
      • 2023年 12月 13日

      ウクライナに勝ち目がなく、継戦するべきではないという点では同じ意見です。
      ただ、ロシアと停戦や休戦という筋は非常に困難ではありますが、ロシアには受け入れる準備があると思っています。
      問題はむしろウクライナ側で、ロシアの“停戦条件”は今のゼレンスキー政権の強硬姿勢では「事実上の降伏」と受け取るでしょう。なので、「ゼレンスキー大統領は速やかにロシアに降伏すべき」という論点は、ある意味で正しいと思います。私などは停戦を模索すべきと考えますが、ゼレンスキーらにとってそういう論は「降伏を押し付けるな!」と反発する対象でしかない。

      ウクライナ人が選挙で選んだ民主的な政権であったはずなのに、ウクライナ人を無為に死なせる強硬策ばかりを採用するというのは皮肉なことです。

      13
      • 匿名11号
      • 2023年 12月 13日

      降伏ねえ。

      別にウクライナに限らず、日本以外の国では、自国が降伏することに対する敷居が高いから、期待するだけ無駄だろうねえ。

      8
    • MarkⅡ
    • 2023年 12月 13日

    あまりにも分かりやすいし、プロパカンダ用と言うより
    ”ここは成果を出したから打ち切るよ”と言う報告の意味合い
    なのかもしれない。

    映像も暗視装置の望遠で回りが全く分からんし、
    これをどの程度持ち上げるかで、メディアのスタンスと
    程度が分かるからリトマス紙としては面白いのかも
    しれませんね

    18
    • nanashi
    • 2023年 12月 13日

    ウクライナとロシアの違い、
    それはロシアは自分自身で戦闘をコントロールできている点にあると思います。
    他国の目を気にすることなく作戦を行えるロシア軍は、外国のマスコミから弱腰であると揶揄されても、不利であるなら退却し、敵が攻撃するなら防御陣地を作り待ち構え、時間がかかっても一歩ずつ着実に都市を制圧し領土を増やしています。
    対するウクライナは政権は脆弱であり、兵器弾薬は外国の支援頼りで、常に国内外の目に脅えながら戦闘をしなければなりません。
    ですから戦略的に何の価値もない都市への死守命令や、無理な反攻作戦、渡河作戦、前線での旗立てなど優勢さを誇示するプロパガンダの為だけの戦闘を繰り返し、戦力を悪戯にすり減らしています。
    戦争が短期で終わるのならウクライナの戦い方でもなんとかなったでしょうが、戦争は長期戦に移行しました。何年続くか分からない戦争でこれでは確実に立ち行かなくなると思います。

    36
      • 朴秀
      • 2023年 12月 13日

      >外国の支援頼り
      結局これですね。
      支援者のご機嫌を取らないと援助を打ち切られて死にますから

      でもこの映像を見て支援者が喜ぶと思ったら支援者をバカにしすぎでしょう

      7
    • 匿名さん
    • 2023年 12月 13日

    訪米してるみたいだけど、
    支援側は何十兆円負担して、得られたのはこの小山だったと言う事か。

    もう、言葉もないとはこのこと。
    だいぶん、頭のネジが飛んでしまってる。

    22
    • たら
    • 2023年 12月 13日

    ゼレンスキーが判断している事案なんだろうか。軍事面で実質的なコントロールをしているのは、誰なんだろう?

    7
    • 58式素人
    • 2023年 12月 13日

    多分、ロシア軍は大きな損害を出し続けているでしょう。
    しかし、国の規模の大きさからか、特に人員の損失に対し寛容(?)ですね。
    膨大(であろう)損失を出しながら、今も戦地に補充を続けていますね。
    そんな国と戦争をしなければならないウクライナは、常に、
    自国のそれに数倍する損害をロシアに与え続ける必要があります。
    特に、訓練の足りない状態のロシア人の人的損害ですね。
    今度の戦場も、バフムト、アウディーイウカに続いて、
    ドネツクの心臓部に近く、ロシアとしては捨てておけないでしょう。
    そうして、ロシアは国力を削がれ続けることになるのでは。

    2
      • 暇な人
      • 2023年 12月 13日

      ウクライナの兵士の訓練はもう一月もやってません
      40代とも50代ともいわれる新兵に一月訓練させただけで人的損害を与えるのは非常に困難かと

      11
        • 58式素人
        • 2023年 12月 13日

        西欧諸国での訓練は引き続き行われているでしょう。
        動員方法が変わって、どれほどの人が動員解除後に残るかは判りませんが、
        残った人は、おそらく、職業軍人として国軍の根幹になるのでしょう。
        根幹ができれば、あとは運用になると想像します。
        今のロシアは、教練を行なっていた下士官兵も前線ですり潰した状態です。
        訓練については、時間と共に差が開くと想像します。

        3
          • 暇な人
          • 2023年 12月 13日

          フランスAFP=時事】敵の塹壕(ざんごう)に向かって突撃する部隊を支援するため、ほふく前進するウクライナ兵。フランスの森の中にある軍事キャンプで、ロシア軍の侵攻に立ち向かうウクライナ軍の新兵に対する実戦訓練が行われている。(写真はフランス国内の秘密キャンプで、仏軍による実戦訓練を受けるウクライナ兵)
           この部隊は、4週間にわたる歩兵戦闘訓練を間もなく終えようとしていた。場所や人数、兵士の身元は伏せられている。平均年齢35~40歳の予備役や新規動員兵、志願兵で、大半が本物の戦場をまだ見たことがない。

          その西側諸国における訓練の実態です。
          四週間しかありません、以前は三か月あったのに、どんどん状況は悪化してます。
          自衛隊で四週間訓練しただけの兵士を戦場におくってなんとかなると思いますか?
          ロシア側は正規兵と予備役の動員というすでに訓練を積んだ兵士で構成されてます。
          あとは囚人兵と志願者や難民などの契約兵です

          17
            • 名無し
            • 2023年 12月 13日

            正直、3ヶ月でも短過ぎなのに4週間じゃなんともならんわなあ
            そんな短期間でプロになれ、プロと同じ仕事しろなんてそりゃ無茶苦茶ですわ

            10
          • ななし
          • 2023年 12月 13日

          でしょう。想像します。って現実無視した妄想が酷すぎるわ

          7
      • 歴史と貧困
      • 2023年 12月 13日

      >自国のそれに数倍する損害をロシアに与え続ける必要があります。
      >そうして、ロシアは国力を削がれ続けることになるのでは。

      残念ですが、損害を与える必要がある=損害を与えることが出来ている ではありません。
      ウクライナの反転攻勢が成功し、ロシアの防衛線を突破できていたならば、「ロシアは国力を削がれ続けることになる」となっていたでしょう。
      ですが現実は逆で、反転攻勢に失敗し、多くの将兵を成果なく死なせ、「ウクライナの国力が削がれ続けている」。

      そして、ウクライナの国家予算のほぼ全てを軍事費に充てても追いついておらず、民間部門の予算は全て欧米からの支援頼みという現状、【ウクライナが失敗し続ける限り、欧米の国力が削がれ続けている】ということになります。
      だからこそ、反転攻勢の失敗により、次々と支援を渋る、保留する国が後を絶ちません。

      14
      • 58式素人
      • 2023年 12月 13日

      どうでしょう。
      フランスでの訓練状況の内容をありがとうございます。
      英国の場合は5週間だそうなので少し短いですね。
      いずれにせよ、欧州の国で、訓練を止めると言った国はないようです。
      これからも、一定のペースで訓練は続くのでしょう。
      英国は、ウクライナ国内での訓練(出張訓練?)を言い出してもいますね。
      ロシアの訓練内容はよく知りませんが、おそらく、
      新規の補充兵はクピャンスクの背面に居るのでしょう。
      以前に、補充兵をそちらに送っているとした記事があったと覚えています。
      訓練をしているものと想像しますが、補充された兵員の使い方は、
      以前のバフムトの時と変化はないようですね。
      プーチン大統領が再選されて、ロシア人(スラブ人)
      を徴集すれば、変わるのでしょうか。

    • 暇な人
    • 2023年 12月 13日

    政治的な理由はわからなくもないが、ぼた山取るためにいかされる兵士が可哀そうだな。
    死者はなかったと思うからよかった

    11
    • 宇宙犬
    • 2023年 12月 13日

    クリミア上陸とかもそうだったけど政治の要求でやってる感出さないといけないの大変だな…
    本来なら今ロシアのやってること、つまり陣地固めて領土割譲認めないとかそういう政治的な足かせのせいで攻勢かけなきゃいけなくなった敵を消耗させて、反撃で領土奪還が一番いい勝ちパターンだったけど全部こっちがやられてるからな.

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