ウクライナ戦況

ゼレンスキー大統領が示す危機感、今後数週間の戦いは厳しいものになる

ゼレンスキー大統領は24日、国民に向けた演説の中で「今後数週間の戦いは厳しいものになると認識しなければならないが、我々には戦いに勝利して奪われた領土を回復する以外に選択肢はない」と語った。

参考:Ближайшие недели будут сложными – президент
参考:Зеленский: У россиян на Донбассе в 20 раз больше техники, чем у нас

果たして本格的な反攻までウクライナ軍はセベロドネツク周辺を維持できるのだろうか?

ウクライナ軍はハルキウ周辺のロシア軍を国境付近(北部)とドネツ川(東部)まで押し戻すことに成功、この反撃を受けて海外のシンクタンクや軍事アナリスト達は「首都方面と同じようにハルキウ周辺からロシア軍が撤退するのではないか?」と予測していたが、ゼレンスキー大統領は「ロシア軍は残された占領地を放棄せず守りを固める努力を続けている」と明かした。

出典:GoogleMap 大まかなルハルキウ周辺の戦況/管理人加工

実際のところハルキウ周辺のロシア軍は守りに徹底しているのではなく「ウクライナ軍に奪還された拠点」の幾つかを奪い返しており、ドネツ川の渡河に成功したウクライナ軍についても「Zarichne周辺に押し戻している」と言われているが、断片的な情報しか入ってこないので詳しい戦況は不明だ。

兎に角、ハルキウ周辺のウクライナ軍に2週間前までの勢いは感じられない。

出典:GoogleMap 大まかなドンバスの戦況/管理人加工

さらにゼレンスキー大統領が「今後最も厳しい戦いになる」と指摘したのはアルチェモフスク、ポパスナ、セベロドネツク方面の戦いで、ロシア軍はここに戦力を集中させて「ありとあらゆる建造物を破壊、ありとあらゆる生物を虐殺している。このような破壊は誰もやったことがない」と述べている。

※戦況マップはクリックすると拡大表示が可能です。

ウクライナ軍の防衛ラインに穴を開けてポパスナを制圧することに成功したロシア軍は突出部を拡大させており、ポパスナから南に進軍したロシア軍はTroits’keとMyronivs’kyiを占領、Svitlodars’kに後退したウクライナ軍は湖に掛かる橋を破壊して後方に後退したと報告されており、ルハーンシク州でウクライナ軍が保持する地域はセベロドネツク方面だけになってしまった。

出典:Telegram経由 湖に掛かる橋を破壊を破壊したウクライナ軍

ドネツィク州のロシア軍はポパスナの方面の攻勢に合わせて北上を開始、セベロドネツクに向かう補給ルート上のアルチェモフスクに向かっている可能性が高く、ポパスナ周辺の突出部も幹線道路「T1302」の遮断に近づいているためセベロドネツクを防衛するウクライナ軍は補給を遮断される恐れがある。

ただアルチェモフスク~セベロドネツクのT1302はロシア軍の砲撃に晒されているため、既に補給ルートとしての機能を失っていても不思議ではなく、そうなるとセベロドネツクの補給ルートはアルチェモフスクからT0513でSivers’kに向かい、Sivers’kからセベロドネツクへは未舗装の道路を使用するしかないという意味だ。

因みにゼレンスキー大統領はドンバスのロシア軍について「我々の20倍の装備を持っている。遠距離から敵を攻撃できる武器がどうしても必要だ」と訴えており、300km先の目標を攻撃できる地対地ミサイル「ATACMS」と米国製MLRSの組み合わせを提供してくれと言いたいのだろう。

ATACMSは短距離弾道ミサイルに近くMTCRにも抵触するため第三国への移管が難しく、仮に提供してもロシア領内の兵站拠点や施設への攻撃(特にクリミア大橋の破壊)に使用されれば「戦いのエスカレーションを招く」とバイデン政権は懸念しており、23日に開催されたウクライナへの武器支援を調整する連絡会議でも「MLRS提供」は発表されていない。

出典:Public Domain ATACMSを発射するM270

ウクライナ軍の本格的な反攻は6月下旬頃だと想定されており、ゼレンスキー大統領は「セベロドネツクを失うとルハーンシク州制圧という勝利をプーチン大統領が手にして、ウクライナ軍がロシア軍に勝てるという雰囲気が台無しになり、本格的な反攻前に国際社会が譲歩を伴う早期停戦に傾くのではないか」と危惧している可能性が高く、6月下旬までセベロドネツクを保持できるかが今後戦いを左右する重要なポイントなのだろう。

追記:ゼレンスキー大統領はクリミア奪還には多くのウクライナ人兵士の犠牲が必要になるとの見方を示した。

関連記事:デンマーク、黒海の封鎖を解くためハープーンのウクライナ提供を決定
関連記事:ロシア軍は反攻準備が整う前に押し切りたい、ウクライナ軍は阻止したい

 

※アイキャッチ画像の出典:President Of Ukraine

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コメント

    • 金 国鎮
    • 2022年 5月 24日

    先週、ロシアからの軍事情報でレーザー兵器の実戦投入を決めた。
    レーザー兵器の開発は数十年前から研究開発されていたが、どうやらロシアは開発に成功していたようだ。
    これでロシア軍が手を焼いていたドローン兵器とかトルコ製のバイラクタルを無力化できる。
    これで制空権はロシア側に移ることになる。これを聞いてゼレンスキーは怒っていたが手遅れだ。

    日本は2年ほど前にレーザー兵器の開発費を予算化した。
    アメリカからこの種の兵器を聞かない。

    この兵器の詳細な情報が掴めないが、この兵器が核ミサイルを無力できる兵器だろう。
    核ミサイルにミサイル防衛システムとよく言うよ。
    アメリカとロシアの軍事産業の競争には恐れ入るよ。
    金持ち日本はアメリカ製なら何でも買うそうだ。
    その後をロシア製と韓国製の防衛システムが追いかけている。

    レーザー兵器の導入は核ミサルを持つ国々にとっては悪夢だが、持たない国々にとっては朗報だ。
    核ミサイルはナチスドイツの考えを受け継ぐ兵器だ。
    核ミサイルを製造するコストはべらぼうに高い。

    1
      • 名無し
      • 2022年 5月 24日

      >アメリカからこの種の兵器を聞かない。
      何故大嘘をぶっこくのか。

      73
        • 無無
        • 2022年 5月 24日

        金さんは通常運転です、気にしない気にしない

        23
          • 4401_2
          • 2022年 5月 25日

          情報を訂正した上で構わない。でいいでしょ。
          正しい情報を発信し続ける重要さと、誤った情報を放置する危険も認知されてきてますしね。

          5
      • 匿名
      • 2022年 5月 24日

      ロシアの車載型レーザーシステムのペレスヴェートは数年前から実戦配備されている筈なんですが実際にこれまで大活躍したという話は聞きませんねぇ…

      15
      • 日本語
      • 2022年 5月 24日

      日本語がおかしいだろ?

      8
      • ふぇふぇふぇ
      • 2022年 5月 24日

      名前のそうだけど、文章に違和感を感じる。日本人じゃないよね。
      短文の羅列と、断定口調の言葉。  軍事、政治用語はソレっぽく見えるけど、なんか文に違和感を感じるんだよね、生気がないというか、…「ネットでそんなしゃべり方(文章の書き方)のヤツいる?」っていう違和感。

      9
    • や、やめろー
    • 2022年 5月 24日

    あれ?なんかキエフの時にも聞いたような…気のせいか!

    12
      • 2022年 5月 24日

      でもここはよりロシアに近いし、補給も伸びてないから、キーウの時より段違いに厳しいと思う。
      射程の長い制圧兵器をほしがるのも無理はない。

    • 2022年 5月 24日

    ボパスナ方面が主攻軸で間違いないと思います。ゾロテは守りやすい丘陵地のようですが、すでに北側で包囲が閉じそうで
    心配になります。西方面の平地からボパスナに圧力を加えることはできないものでしょうか?

    3
      • や、やめろー
      • 2022年 5月 24日

      西はヘルソンで手一杯でしょう。

      1
        •  
        • 2022年 5月 24日

        ヘルソンは全く位置が違いますが…
        パポスナから形成されつつある突出部に対してアルチェモフスク方面から反攻をかけられないのかという話でしょう

        2
    • 2022年 5月 24日

    これは根拠のない憶測なのだけど、ウクライナ軍はセベロドネツク周辺を放棄するのではないだろうか
    ドンバス方面のウクライナ軍は装備、人員とも最良のものを投入しているので失うのは惜しい。ドネツ川の防衛戦を捨てることになるが戦線を整理し、反撃はむしろハリコフ周辺とヘルソン州に集中する気がする(むろんこれも憶測)

    9
      • minerva
      • 2022年 5月 24日

      ただドンバスにいる統合軍はドンバス線の防衛に特化しすぎており部隊の機動力がほとんどないという話が出ています
      撤退するとなるとどちらにせよ多くの重装備を捨てることになりそう

      5
        • 2022年 5月 24日

        だとしたら80年前のスターリングラードやブレスラウみたいに立て籠もらせて6月反抗を待つか、人員を優先して撤退するしかなくなりますね。ただでさえマリウポリ陥落で1000人単位の兵を失っているので、急遽動員されたわけではない訓練された兵士は重要だと思います

        11
    • 短い11両編成
    • 2022年 5月 24日

    >ゼレンスキー大統領はクリミア奪還には多くのウクライナ人兵士の犠牲が必要になるとの見方を示した。
    クリミア半島は早期に取り返すのは難しいから、譲歩する準備がある。という理解でいいのかな?

    11
    • ダヴー
    • 2022年 5月 24日

    最初はクルスク戦のようになるのかと思ったけど、どちらも全く機動できず、
    ヴェルダン戦のような消耗戦になってしまった。

    5
    • zerotester
    • 2022年 5月 24日

    ロシアは最初はウクライナ全土を支配しようとして、それが無理になったので東部を広く包囲してウクライナの主力を殲滅しようとして、それも無理になったのでセベロドネツク周辺を小さく包囲することに全力を傾けています。ロシア軍は全体としてはかなり損耗していますが、ポパスナ周辺には残っていた損耗していない練度の高い部隊をかき集めて投入しているようで、なんとしてもここでは勝とうという気迫を感じます。

    だからポパスナでは勝てるかもしれませんが、そのあとの展望はあるのだろうかと。大きな犠牲を払いつつ前進しているので、勝ったとしてもかなり損耗するでしょう。一方でウクライナは動員されて訓練が済んだ兵士が補充されるし、兵器も世界中から供給されます。ここでの勝敗は決着の時期が早まるか遅まるかの違いしかないと思えます。

    29
    • アクアス
    • 2022年 5月 24日

    ウクライナの方はかなり賢明で創造的な戦い方を今までやって来てるから、セベロドネツクが陥落しても次の手を考えてはいるだろう。
    だが、100万人の動員が形になるまでの時間を稼ぐのに、マリうポリ失陥後はセベロドネツクが一番敵を引きつけるのに適してる以上、ここが地獄になるのはやむなしか。

    5
    • てつ
    • 2022年 5月 24日

    戦争が続くなら、何れウクライナが有利になるのは確かでしょう。
    ただマリウポリに続いてセベロドネツクが落ち、ウクライナ軍に大きな被害が出ると、6月の反攻作戦開始前にドンバス、ザポリージャ、ヘルソンをロシアに占領されたまま和平しろとロシア寄りの勢力が言い出し、西側や国内の世論も流される事を恐れているのではないかと。
    太平洋戦争末期の一撃講和論みたいな話ですが、セベロドネツクが陥落数歩前となっている以上笑い飛ばす事もできませんし、ロシアもそれを狙っていると考えたほうが無難です。
    打開策として考えられるのは、比較的近いハルキウ方面の部隊、または供与兵器を受領して訓練中の部隊の一部を援軍に回す位でしょうか。

    9
      • NHG
      • 2022年 5月 24日

      現在の手綱はプーチンが握ってる感じですよね
      ドンバス全域は諦め速やかに和平交渉を言い出して西側支援国の分断を図るのか、ドンバス地域どころかオデーサにまで食指を動かしてウクライナに時間を与えるのか

      1
      • ネコ歩き
      • 2022年 5月 24日

      記事にある通り、ハルキウ方面ではロシア軍が攻勢に出てます。ドンバス戦線での作戦に連動した陽動じゃないですかね。
      いずれにせよ、戦況判断と予備兵力の投入場所、時期及び規模。ウクライナ軍作戦指導部の正念場なのは間違いない。

      3
    • 無無
    • 2022年 5月 24日

    当事者にも頼まれてないのに、勝手に和平案でウクライナに妥協を求めてる連中はゼレンスキー大統領の決意を見なさい、全土侵略を目標とするロシアと妥協しても次の戦争までの時間稼ぎにすらなるかどうか。
    プーチンだってとっくに腹をくくってるよ、敗北すなわち自分の失脚と死刑台が待ってるから。両者ボロボロになるまで戦うしか選択肢は無いんだよ

    23
    • shkk
    • 2022年 5月 24日

    3月頭に重装備の訓練始めてればいまごろ余裕で西側兵器を組み込んだ戦いができてただろうに…

    まぁあのころは早期講和をめざしてたから下手な刺激をあたえたくなかったのも分かるけど

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