ウクライナ戦況

セベロドネツクで戦うウクライナ軍、防衛施設を失い後方への後退を示唆

ハーンシク州知事のガイダイ氏は23日、セベロドネツク郊外に構築したウクライナ軍の防衛施設が多数破壊されたため「後退するかもしれない=リシチャンシクへの後退」と明かした。

参考:Украинские защитники могут отойти в Северодонецке – ОВА

より要塞化された拠点と言及するリシチャンシクもロシア軍に攻撃を受け始めており、決して安泰ではない

ウクライナ軍はロシア軍に奪われたセベロドネツク市内の支配権を取り戻すため反撃を試みてみたが、最終的に押し返されてセベロドネツク郊外の工業地区に後退、セベロドネツクとリシチャンシクを繋ぐ3本の橋も全て破壊されたため補給は小型ボートやロープ輸送に頼っており、アゾット工場を中心とした地域でロシア軍の前進を何とか食い止めている状況が続いている。

出典:GoogleMap 大まかなセベロドネツク周辺の状況/管理人加工

しかしハーンシク州知事のガイダイ氏は23日、工業地区の防衛施設が多数破壊されたため「後退するかもしれない=リシチャンシクへの撤退」と明かしており、補給面で圧倒的な差があるセベロドネツクでの防衛を断念する可能性が出てきた。

ただガイダイ氏が「より要塞化された拠点」と言及するリシチャンシクも南の防衛ラインを突破したロシア軍に攻撃を受け始めており、ロシア軍はポパスナ攻略で成果を上げた民間軍事会社「ワグナー」の兵士をBila Horaの攻略に投入しているという報告もあるのでリシチャンシクの保持も怪しくなってきた感がある。

因みにウクライナ政府の関係者は「包囲される前にゾロテ方面のウクライナ軍がリシチャンシク方向に脱出できた」と明かしているが、この脱出を支援するためポケット内に残ったウクライナ軍兵士の規模は500人~2,500人まで様々な説があり、殿部隊の大半も脱出に成功したというアナリストや大半が捕虜になったという研究家もいて正直何が正解なのか良くわからない。

もし千人規模のウクライナ軍兵士が捕虜になっていれば、両軍の捕虜数に差が開きすぎて「ロシアとの交渉力」が更に低下するだろう。

ウクライナ軍が公式に発表している捕虜の数は「1,000人」だが、実際にはロシア軍との捕虜交換によって550人まで減少、一方のロシア軍はマリウポリで2,500人以上のウクライナ軍兵士が投降したため5,600人以上の捕虜を確保しており、西側諸国の諜報機関は「ロシアは1対1の捕虜交換にしか応じないため和平交渉成立まで多くの捕虜がロシアの刑務所に収監される可能性がある。これを利用してクレムリンはウクライナ国内に政治的な不安定を作り出そうと試みる可能性が高い」と予想していた。

出典:Маріупольська міська рада マリウポリで降伏したウクライナ軍兵士の様子

まぁ千人規模のウクライナ軍兵士をロシア側が捕虜にしていれば何かしらのアピールをしてくると思われるので、もう暫く様子を見ればゾロテ方面からの撤退が上手くいったのか、防衛ラインを突破したロシア軍の前進が早すぎてポケット内に多くの兵士が取り残されたのかハッキリするだろう。

関連記事:ロシア軍に打ちのめされたウクライナ軍は士気が低下、兵士の脱走が増加
関連記事:リシチャンシク周辺の戦い、ロシア軍がゾロテを守るウクライナ軍を包囲

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • ミリオタの猫(やっぱり、アンツィオ…いや、ロシア軍は強い?)
    • 2022年 6月 24日

    昨日も指摘して御批判を受けましたが、ここ数日のロシア軍の進撃ペースは着実に速くなっています。
    このまま行けば、セベロドネツク・リシチャンシク方面は来週頃、下手をするとバフムートも突破される可能性が有ると思います。
    この付近は丘陵地帯の為、これまで多くの方がロシア軍は攻めあぐねると予想していましたが、ロシア軍は順調に進撃出来ている為、認識を改めるべきでしょう。
    この状況から考えると、ロシア軍は得意の縦深攻撃を始める準備が整いつつ有り、もしもそれが始まれば一気に首都キーウまで突進する可能性も否定出来ないと思います。
    実は、Twitterでウクライナ・ロシア軍関連の情報について呟いて居るかみぱぱさん(@kamipapa_ro)が昨日の段階で呟いたところによると『ロシア軍がニジニ・ノヴゴロドに常駐する1.5万人規模の第3軍団を編成している様子。キエフへの再攻撃の脅威は現実のものとなっている。又、ベラルーシはジャブロフカ廃飛行場に軍事拠点を建設中。ゴメル空港とウクライナとの国境に近く、ロシア軍がこの拠点を利用してキエフを攻めるかも』(一部、私が誤字を訂正済)との事で、更にベラルーシ軍が現在7月1日までゴメル地方で軍事演習を開始しているとの情報と合わせて考えると、プーチンはウクライナ征服を諦めていないと思います。

    7
      • チコリー
      • 2022年 6月 24日

       このたびのウクライナ侵攻におけるロシアの行動予測は「言っている事」「合理性」ではなく「やっている事」を根拠とした場合に正解に辿り着いています。侵攻すると正しく判断できたのは、ロシアの「やっている事」を高い精度で観ていた英米でした。
       その観点から「ベラルーシがジャブロフカ廃飛行場に軍事拠点を建設中。ゴメル地方で軍事演習開始」をみると、プーチンが首都キーウを諦めておらず、勢いに乗って再侵攻を命じる可能性は、おっしゃるとおり否定できないと思います。
       しかし実際問題今のロシア軍、そこまで風呂敷を広げられるんですかねえ。現在の東部戦線の優勢はプーチンの口出しが減ったお陰説がありますが、ここでまたプーチンが欲っ気で口を挟みはじめたら、3月の状況再び、今度こそ(早いとこ)ロシアが終わるかもしれませんねえ。

      6
        • ミリオタの猫(やっぱり、アンツィオ…いや、ロシア軍は強い?)
        • 2022年 6月 24日

        仰る通りで、今のロシア軍に首都キーウを攻略出来る余力が有るのかと言うのが、自説における最大の不確定要素なんですよね。
        ニジニ・ノヴゴロドで編成中とされる1.5万人規模の軍団で、他の部隊と連動するにしてもキーウを攻略出来るのかと言う点に加えて、今回もベラルーシ軍はロシア軍の支援だけで御茶を濁すのか、それとも今度こそロシア軍と一緒にウクライナへ攻め込むのかと言う要素も有りますので。

        1
      • フラット
      • 2022年 6月 24日

      キーウ再侵攻の可能性って殆ど聞いたことないですが、仮に再侵攻するならむしろ朗報では?
      平原が多くロシア本国に近い東部というロシア軍有利の環境から、森林や湿地帯が多い上に補給線の長いウクライナ有利の環境へと戻ってきてくれるんですから。
      ロシアも東部の部隊は動かしたくないだろうけど、使えるBTGの大半を東部に突っ込んでる以上、どうしてもそのリソースを割かざるを得ない。その分、主戦場かつウクライナ不利な環境の東部戦線が少し楽になる。本来補充される予定だった兵器や人員もキーウ方面に回されるでしょうし

      6
        • G
        • 2022年 6月 24日

        私もキーウ再侵攻の可能性は殆ど聞いたことないですが万が一そうなった場合、今は地上環境がかなり良くなってしまっており縦列侵攻ではなく補給路の太い侵攻をすることができる状況なので以前より危ういかと
        さらに言えばもし再度キーウ侵攻することがあればウ軍が自走砲や火砲、戦車で防御を固めても、ロシア軍は今度は恥も外聞もなくウ軍の射程外から多連装ロケット砲で無差別飽和攻撃をしてきてもおかしくないように思えますし

        1
      • たまねぎ
      • 2022年 6月 24日

      軍事的合理性ではなく、政治的合理性で考えれば
      ウクライナ東部を多少切り取ったところでロシアが払った対価には到底見合わない”成果”でしょうから、
      ロシア首脳部がウクライナ黒海沿岸の制圧、首都攻略は諦めないでしょうね。

      ロシア軍は東部要衝を制圧した後、そのままの勢いで西に進撃するのか、それとも西側支援で装備を整えたウクライナ軍の攻勢に備えて防衛線を整えるか、で今後の戦況が大分変わりそうですが
      政治的要請から前者になる気がします。

      3
    • EijiK
    • 2022年 6月 24日

    ロシアまたは親ロシア派部隊が水も漏らさぬ完璧な包囲を完成させるほど優秀で精強だとは思えないので、かなりのウクライナ兵が脱出しているとは思いますが。
    しかしこの状況での撤退は大型の重火器や備蓄弾薬のほとんどを遺棄せざるを得ないでしょう。それがかなり痛いのでは、と。そして一度敗走した兵士は士気がゼロに落ち込んでますから再度戦線に立たせるにはそれなりの時間と手間がかかります。逃げた先のリシチャンシクも日夜砲撃を受けている地獄の戦場ですから、そこで部隊を再編するのは並大抵のことではないですよ。
    西側の新兵器で一気に戦線を押し戻せれば兵士の士気は再び上がりますが、わずか数門の自走砲やロケット砲にそんな魔法のような効果があるのかどうか。

    13
    • WSO
    • 2022年 6月 24日

    >リシチャンシクの保持も怪しくなってきた感がある。

    最新のロイターの報道が↓ですから、セベロドネツクどころじゃない事態になっている可能性が高いですね。

    【ウクライナ、EU加盟へ一歩前進 東部リシチャンスク陥落の恐れ】
    『欧州連合(EU)首脳会議は23日、ウクライナとモルドバを「加盟候補国」として正式に認定する方針で合意した。一方ウクライナ軍は、東部ルガンスク州のセベロドネツクとリシチャンスクで厳しい戦いを迫られている。ルガンスク州のガイダイ知事は、リシチャンスク全域がロシア軍の砲撃の射程圏内にあり、市内に展開する部隊は撤退する可能性があると述べた。』

    ただ、このカイダイ知事の発言は個人的には信用しきれない部分もありますので何とも言えない気もしますが。

    2
    •  
    • 2022年 6月 24日

    一方、俺の生え際は今も後退せずに奮闘中

    6
      • イワンの馬鹿
      • 2022年 6月 24日

      また髪の話してる

      2
      • イワンの馬鹿
      • 2022年 6月 24日

      また髪の話ししてる

    • 匿名希望
    • 2022年 6月 24日

    ハイマース、カエサル等が届いても、対空防御が出来ないから、Su-25、下手したらドローンで攻撃されておしまい。
    S-300以上の対空ミサイルがないと防御は難しい

    もう、ウクライナ軍は総崩れも時間の問題。
    だけど欧米はそれは許さないし、ロシアは、建物を一つ一つ攻略してるから進みは遅い。そうしないと、後ろから撃たれるから
    しかし、黒海艦隊旗艦を沈められたり、そもそもオデッサの悲劇が起こった場所なのでオデッサ攻略は必ず行う
    そのころには、キエフでクーデターが起こりより、民族主義的な人らによって占拠されるし、それを口実にポーランドがリビウなど、かつてのポーランド領を、平和維持という名目で影響下に置くことになるでしょう

    4
      • paxai
      • 2022年 6月 24日

      ウクライナの統制ってどんな状態なんだろうね?
      政権幹部もゼレンスキー並みに強硬派に思えるし。野党に対して活動禁止したから実質的な一党独裁体制だとは聞いたが。

      1
    • ミリオタの猫(やっぱり、アンツィオ…いや、ロシア軍は強い?)
    • 2022年 6月 24日

    別の軍事まとめ板からの書き込みですが、『海外OSINT勢がソースだけどセベロドネツクのウクライナ軍に撤退命令が出たのとロシア側は動員令をかけ始めたらしい』との速報が入って来ました(6/24・15:33書き込み)。
    ウクライナ軍の撤退命令も素早いと思いましたが、もしもロシア側の総動員令が本当であれば、今後の戦局の行方に重大な影響が出ると思います。
    もしかすると、プーチンは大マジで首都キーウ再攻略とウクライナ征服を目指しているのかも知れません。

    【参照:『軍事系まとめブログ・【随時追記】ウクライナ情勢スレ26』、コメント欄201番を参照の事】
    リンク

    2
    • ぷーぷー
    • 2022年 6月 24日

    ゾロテの蓋は閉まったし北に伸びる道も押さえられてる
    川越する場合は車両を破棄となると撤退も厳しいな

    1
    • 鳥刺
    • 2022年 6月 24日

    反攻・圧力緩和の見込み無しにアゾット工場・セベロドネツク南東=ドネツ東岸の死守を命じるのはさすがに無理でしょうね。どうも国際義勇大隊もいるみたいですし。突出部の後方連絡線が南方から脅威されてる状況下では自然な流れです。リシチャンシク・ポケット内のウクライナ軍部隊の消耗はきついようで新戦線を固守する余力があるのかは怪しい所ですし、どこかを突破されるともう地積が無いので所在の全軍に響きます。巧く逐次後退していけるといいんですが。

    >ワグナー
    ここの所、攻撃の先鋒というとワグナー、チェチェン、ドンバス民兵ばかりですね。5月までは攻撃グループに空挺か海軍歩兵の旅団を配属して歩兵力を補うパターンでしたが。

    >捕虜の数~もう暫く様子を
    実際、状況の確定は数日後になりますか。
    陸戦では、もろもろの理由から部隊の掌握下から離れた形になった人員が生じますし。後退時の混乱で逃散、数日経ったところで原隊に追いついて復帰してくる事もままあります。朝鮮戦争初期の米軍大隊で、交戦敗走の当日は装備を放棄した150人のみ→数日後には復帰した人員で大隊の50%まで回復、なんて事がありました。

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