英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は2日、ヘルソンで開始された反撃と今後の展望について「ウクライナは相反する3つの要求のため反撃を開始、ロシアは来春までに西側支援を断ち切ることに全力を傾けるだろう」と主張した。
参考:The Ukrainian Offensive Must Come in Stages
前線を押し上げて分散したロシア軍を限定されたエリアに押しやれば理想的な殺害エリアを設定できる
ウクライナやロシアにとって冬の到来は様々な意味を含んでおり、ウクライナは受けった武器や装備がロシア軍との戦いに役立っていると証明し、ロシア軍が戦いの主導権を再び取り戻せないよう継続的なダメージと混乱を与え、究極的には国内からロシア軍を叩き出すという相反する3つの要求に応えるため「ヘルソンで限定的な反撃を開始した」とRUSIは指摘しており、喫緊の課題は「本格的な冬」が到来する前に受け取った支援の有効性を西側諸国に示しておかなければならない。
ウクライナはロシア軍と戦うための資金や武器を欧米に依存しているため、ロシアにとっての勝利の方程式は「来春までに西側支援を断ち切る」ことにあり、特に欧州諸国はロシア産エネルギー資源を失ったまま冬を乗り越えなければならず、RUSIは「多額の資金をウクライナ支援に拠出する政府批判を高めるためロシアがプロパガンダを全力で展開してくる=その資金を冬場のエネルギー確保に回せという世論を煽る」と予想している。
つまり冬場に忍耐を要求される欧州諸国から継続的な支援を引き出すため、ウクライナは何としても冬が到来する前に「受けった武器や装備がロシア軍との戦いに役立っている」と見せつけておく必要があり、前進が鈍ってきたロシア軍に同調して活動レベルを下げれば「敵の戦力回復」を許すことになるため、ロシア軍が継続的に消耗する戦場を設定して誘導しなければならない。
その点でヘルソン州の北岸地域はドニエプル川によって地上輸送が物理的に隔離され、たった2ヶ所しかない橋の交通量を攻撃でコントロールすれば流入する物資量を管理できるため、長期間に渡りロシア軍をいたぶることができ、前線を押し上げて分散した敵を限定されたエリアに押しやれば「理想的な殺害エリアを設定できる=リシチャンシクの逆をロシア軍に強いることが出来る」とRUSIは指摘しているが、現時点でウクライナ軍がヘルソン市の奪還までは計画していないだろうとも付け加えている。
ロシア軍にとってヘルソン市は侵攻初期にほぼ無傷で手に入れた都市の1つで、政治的にも重要な意味をもつヘルソン市を「善意のジェスチャー」で簡単に放棄するとは考えにくく、ヘルソンで開始された反撃の目的は「受け取った支援の有効性を示すこと」「継続的なダメージと混乱を与えこと」の2点に限定されており、RUSIは「もっと広範囲の反撃は十分な規模の機械化部隊が揃う2023年春以降に行われ、現段階でもっとも重要なのは活動が低下する冬場にロシア軍の戦力を削り続けることだ」と主張。
そのため市街戦を伴うヘルソン市の奪還を急ぐ意味がなく、ロシア軍が寒さや補給不足で自滅してドニエプル川を渡って逃亡しない限り、ヘルソン市周辺や一部の北岸地域は意図的に「理想的な殺害エリア」として維持されるだろうという意味だ。
ただロシア軍も前線のポジションを改善して「より防御に有利な位置で冬を越したい=春までの小競り合いで消耗する戦力を最小化」したいと考えており、この辺りの思惑が今後の戦いにどう反映されるかが見どころと言えるのかもしれない。
因みにRUSIは「支援量が積み上がることで何らかの成果を期待する世論の圧力からゼレンスキー政権を守るため、定期的に発表する提供装備のリスト公開を止めるべきだ。政治的な圧力に屈して短期的な利益を上げるため長期的な利益を犠牲する要因を取り除き、国際世論にもっと現実的な期待を抱かせてロシアのプロパガンダに対する脆弱性を減らすことが出来る」とも指摘している。
国内からロシア軍を叩き出すという長期的な目標とは別に、一定の戦果を提供しつづけなければ国際的な関心の低下=ウクライナへの支持低下を招くため、目先の派手な戦果を得るのに無駄な戦力を消耗しているという意味だろう。
RUSIの指摘や予想が当たるかどうかは別にしても何とも興味深い話だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Сухопутні війська ЗС України
年内終戦は無理な見込みですか…
やっぱり今度の戦争もクリスマスまでには帰れそうにもないよ…
ロシアはもう負けてて、西側が飽きて勝手に投了してくれるのを待ってる状態ですね
なるほど意味が分からん
説明不足でしたね。戦争を長引かせても国力、経済的にすでに負けが確定しているロシア。これは開戦直後の電撃戦が失敗したときからすでに言われています。仕方なく「西側の厭戦感情に訴える」という作戦で勝ち筋を描いていますが、それはロシアに決定権があるわけではなく、西側が飽きたり、油断したりしてウクライナへの支援を緩めて勝手に「投了」するのを期待しているようなもの。こんなものは勝つための戦略ではなく悪あがきだと思います。
我が国の鈴木某のように親ロシア派の政治家も大勢いるんだろうしなあ。ウクライナとしては成果を上げないと見捨てられる可能性もなくはないよね。
世界に無償の善意など期待できません、ウクライナ支援の代価をどこから取り戻すか、ウクライナからよりもロシアから引き出すほうがより大きいと西側は企んでいるでしょう
「ロシアの敗北」ってのはそれだけで決して小さくはない対価ですからね。
特にロシアの脅威に直接晒されてる国にとっては装備提供するだけでロシア叩いてもらえるなら運用コストや自国の人的資源消費しない分丸儲け、とすら言えるかと。
侵攻当初の冬は凍土が戦車・装甲車の進撃を助けてメリットが多かったけど
大きく損耗して膠着状態に陥った現状で冬を迎えた場合ロシア軍とってはデメリットのほうが多い…多くない?
冬特有の悪天候が小型偵察ドローンにどの程度影響を与えるのかも気になりますなります
ノルドストリーム1も事実上供給停止したし西側の武器提供自体は継続すると思うけどやっぱり鈍化しそうですね
トルコ・ギリシャの喧嘩もあるしまぁ欧州も一枚岩ではないからな
今年のウクライナは暖冬であり、そのため地面はぬかるんでいてロシアのウクライナ侵攻開始時は整備された道路しか使えず数十mにおよぶ渋滞を引き起こしていましたよ
だからこそ当初はTB2やジャベリンを使ったゲリラ戦がうまく機能していたわけで
各国の提供兵器のリスト公開は露助を利するだけで何の意味もないよね。
時間がどちらの味方かということですね。ロシアは時間が経つことで支援疲れや冬のエネルギー問題でウクライナへの支援が鈍ることを期待している。ウクライナ側は装備がより充実して本格反攻の準備が整うことを期待している。
「いまやめたらこれまでやったことが無駄になるからやめられない」というコンコルド効果は西側にもあり、簡単に空気が変わるとも思えないですが、ウクライナとしては「今の調子で支援してくれれば勝てます」ということを示す必要はあるでしょう。
ウクライナもプーチンもどうやら長期戦にしたいと思ってそうですねえ。
ウクライナのほうが西側が約束した兵器が揃ってから決戦したいと思っているのはわかりますけど、
プーチンの方はどうか。
多分時間が経てばエネルギー問題とかでワンチャン西側の足並みが乱れるかもというのを期待してるんでしょうけど
上手い具合にそんな僥倖みたいなことが起こるんでしょうか?
どこからの援助も期待出来ないのに兵器や兵員の補充もうまくいくんでしょうか?
今勝ちきれないロシアが来年勝てるかというとかなり疑問なんですよねえ。
問題をただ先延ばしにしてるだけに見えます。
この戦争にロシアが負けたらプーチンは失脚ですし
失脚したら過去の諸々の悪事で死刑になる可能性が高い。
ロシア軍が幾らボロボロになっても
プーチンが生きてる限りこの戦争はダラダラ続いて行くんじゃないかと思います。
プーチンとしては得意の?ハイブリッド戦争でなんとかしたいと思っているのでしょう。情報工作でも政治介入でも偽旗作戦でも何でも使って戦場の外で戦うという。
そういうやり口はだいぶバレているのでだいぶ効き目は落ちていると思いますが、ワンチャンはありえるので望みは持っているでしょうね。
露助の侵略癖が治らない限りは西側の支援が完全に途切れることは無いだろうな
ドニプロ川西岸をキルゾーンとして機能させるには、ドニプロの渡河をコントロールし続けることと、「ヘルソン失陥はプーチンの政治的敗北」とロシア国民に思わせるだけの政治戦も必要ですね。
民主主義の一番の敵は、愚かな民衆そのものっていうか…
賢帝はいても賢民はいないってのがきつい…
愚かな連中は簡単にプロパガンダに踊らされるから、あっさりロシアになびく可能性もある。
愚民はどこにでもいるが、賢帝はどこにいるのやら。
むしろ市民の民主意識の高い系のスイスやスウェーデンがどう振る舞っているか、ロシア侵攻を予知せず止められなかった各国政治家の誰が賢帝と呼べるのか
歴史は誤算の繰り返しとしか見えない
今回は冬将軍はウクライナに付く気がする。
ロシア軍はちゃんと防寒着があるのか怪しい。
最初に進行して来た時でもスニーカーのヤツが居たらしい。
冬にかけて露助のプロパガンダはなりふり構わず激化していくでしょうね。用心すとこ…
と言うか、もう直ぐ英国は新首相の選出(9/5に決定)ですし、その後は米国の中間選挙、来年にはポーランドでも議会選挙があるそうなので、プーチンはそこに介入してロシア寄りの政権を欧米各国に作れば逆転勝利を得られると夢想している気がしますが…こう言う夢想って、歴史的には裏切られるケースが有るだけに、果たしてどうなる事やら。
これ逆にロシアも南岸地域まで前線を引き上げれば優位なキルゾーン設定出来るんじゃないか?後背地が限られるから難易度高いけど。
でもプーチンはクリミアに前線が近付くのは絶対嫌がるだろうから、どうせ前進か死守命令しか出さないんだろうな、マンシュタインの後の先とヒトラーの先の先の関係を連想してしまう。
ロシアがヘルソンを含むドニエプル川西岸から後退すると、渡河作戦をしないのであればウクライナもヘルソン方面の戦線が安定し、ドンバスやザポリージャ方面に余剰戦力を回すことが可能になります。
ドンバスが落ちると侵攻の大義名分を失いますし、メリトポリが落ちるとクリミアがHIMARS等の射程に入ります。
どちらも現在のロシア政府には許容できない事態でしょうから、当面ウクライナの戦略に付き合わざるを得ないのではないかと思います。
記事を読んでるだけでプンプン匂ってくる「分析の品質の高さ」が気になって
このリンク先の記事から辿ってみたんですが、RUSIは世界最古の防衛関連のシンクタンクなんですね。
管理人さん品質の高い所の記事を紹介してくださってありがとうございます。
クリミア失ったら開戦からの戦果マイナスだからな
プーチンは無理な介入をどんどんやって前線にプレッシャーかけまくって、部隊をキルゾーンに突っ込ませてほしい