ウクライナ戦況

ウクライナ軍が蛇島のロシア軍を再び攻撃、奪還を試みている可能性も

再びウクライナ軍が「蛇島に駐留するロシア軍に攻撃を加えた」と噂されていたが、この攻撃が衛星画像で確認され注目を集めている。

参考:Ukrainian Strikes On Russian-Occupied Snake Island Confirmed In Satellite Imagery

南部司令部の発表を信じるなら蛇島への攻撃は5月の時とは異なり「単発」では終わらないはずだ

黒海に浮かぶウクライナ領の蛇島はロシア軍が侵攻直後に占領、ここに配備された防空システムと巡洋艦モスクワがウクライナ軍機の飛行を制限していたが、4月下旬に巡洋艦モスクワが対艦ミサイルによって撃沈され、5月上旬に蛇島の防空システムがSu-27とTB2によって破壊されてしまう。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0

しかしロシア軍は蛇島へ新たな防空システム(Tor-M1など)を送り込み、対空能力が劣る22160型哨戒艦にはTB2牽制用に後部甲板へTor-M2を据え付けるなど対策を講じてきたが、再び蛇島に大規模な攻撃を加えたことが衛星画像で確認され注目を集めている。

ただ蛇島の施設や防空システムをどうやって焼き払ったのかについては不明で、米ディフェンスメディアは「今回の攻撃に複数種類の155mm榴弾砲、BM-21、BM-27、Su-24、Su-27などが参加したとウクライナ関係者筋が明かした」と報じているが、オデーサ地域の沿岸から蛇島までの最短距離は約22マイルなので155mm榴弾砲やBM-21では攻撃が届かないとも指摘しており、HIMARSも6月下旬引き渡し予定なので蛇島の攻撃方法は今ひとつハッキリしない。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. William Chockey

ロシア国防省は蛇島への攻撃について「ドローンを使用した榴弾砲と多連装ロケットシステムによる攻撃で我々は全て撃ち落とし、飛来したドローン13機も全て撃墜、さらに島の奪還を試みた敵の上陸部隊も撃退した」と主張(これを証明する根拠は今のところ未確認)しているが、ウクライナ軍南部司令部も21日に「蛇島へ対する一連の作戦が進行中で終了するまで詳細を明かさない」と述べているので、穀物輸出の封鎖を解除するため蛇島奪還作戦が進められている可能性も浮上してきた。

ここをロシア軍から奪い返し防空システムや対艦ミサイルを配備すればオデーサ沿岸を保護するのに役立ち、プーチンが東部戦線で手に入れる政治的利益をある程度相殺することもできるので「蛇島奪還」をウクライナ軍が進めていても不思議ではないが、今のところ蛇島に対する後続の攻撃は確認されていない。

南部司令部の発表を信じるなら蛇島への攻撃は5月の時とは異なり「単発」では終わらないはずだ。

出典:public domain

因みに155mm榴弾砲で使用できるエクスカリバー砲弾は「カナダが1回目に提供した155mm砲弾に含まれている」とCBCが報じただけで、しかも「アフガニスタン作戦用に購入した分の残り=そこまで数がない」と言われており、カナダ以外の国がエクスカリバー砲弾を提供したという話もない。

さらに言えばウクライナ軍に提供された榴弾砲の射程は「25kmに制限されている」と複数の情報源が明かし、この制限を拡張させるHIMARS提供で揉めたことを考えると「最大射程が40km近いエクスカリバー砲弾を米国がウクライナに供給している可能性は非常に低い=カナダが提供したエクスカリバー砲弾も初期型のIa-1?」と認識した方が健全だろう。

関連記事:ウクライナ軍、防空システムを失った蛇島のロシア軍部隊を空から攻撃

 

※アイキャッチ画像の出典:GoogleMap

スロバキアがドイツの要請を拒否、レオパルド2A4の提供数が少なすぎる前のページ

西側提供の中で最も強力なPzH2000がウクライナに到着、最前線へ即投入次のページ

関連記事

  1. ウクライナ戦況

    ポパスナを手中に収めたロシア軍、イジュームで反撃に出たウクライナ軍

    約2ヶ月の攻防の末にロシア軍はポパスナをほぼ手中に収めたと発表、公開さ…

  2. ウクライナ戦況

    ウクライナ軍、黒海に浮かぶ石油掘削リグの支配権をロシア軍から奪還

    ロシアはクリミア併合後にタルカンクート岬の沖合に浮かぶ石油掘削リグ(通…

  3. ウクライナ戦況

    米国とEUがStarlinkへの資金供給を検討、ウクライナ向けのコストを負担する可能性

    米国とEUはウクライナに提供される衛星通信サービス「Starlink」…

  4. ウクライナ戦況

    ウクライナ軍とロシア軍の戦い、攻勢を止めても敵が戦力を回復するだけ

    ウクライナ軍やロシア軍も生産拠点を直接攻撃できないため「攻勢を止めた分…

  5. ウクライナ戦況

    ロシア軍機はさらに燃える、シルスキー総司令官が非対称な対応に言及

    シルスキー総司令官も侵攻2周年を迎えた24日「我々はロシアの占領者に対…

  6. ウクライナ戦況

    撤退するロシア軍を追いかけるウクライナ軍、クレミンナ郊外に到達か

    ウクライナ軍はリマン解放の余韻に浸ることなく前進して「クレミンナ郊外で…

コメント

    • 無無
    • 2022年 6月 22日

    ウクライナは何らかの「不健全な」手段を持っているのか
    奇策か秘密兵器か、外野目線では気になる

    1
      • ミリオタの猫(やっぱり、アンツィオ…いや、ロシア軍は強い?)
      • 2022年 6月 22日

      外野目線で言うと、16日にウクライナのレズニコフ国防相がラムシュタイン会議で決まった武器供与とは別に「何かを手に入れた」と示唆する発言をしているんですよね。
      もしかすると、今回蛇島で使われている兵器の中に、その「何か」が含まれているのかも知れません。
      【参照:本ブログ記事2022.06.16「ウクライナが新たに手に入れた武器、レズニコフ国防相の意味深な発言」】
      リンク

      2
    • ido
    • 2022年 6月 22日

    ロシア海軍艦艇がうじゃうじゃいるとこで蛇島奪還してもどうするのかは不思議。

    6
      • samo
      • 2022年 6月 22日

      黒海西の航空優勢の確保
      モスクワの撃沈によって、ロシア海軍には黒海に展開できる防空艦がないので、
      黒海西海域にレーダー網を張る術は蛇嶋にしかない
      この島を取れば、ウクライナ軍は黒海西空域を自由に飛べるようになるし、
      航空監視網の完成により、ロシア海軍がバラ撒いた機雷撤去も現実味が出てくる。(その場合にはEMD等の提供の要請が来るかも?)

      機雷が撤去できれば商船による、滞留している穀物輸送も可能になってくる。
      ロシア潜水艦の驚異はあるが、商船を攻撃することはできないことにはなっているので、機雷よりはマシな状況にはなる。
      もちろん航空優勢の確保によって、対潜哨戒を装備の提供によって行う可能性も

      17
      • ごめんなすって。
      • 2022年 6月 22日

      >うじゃうじゃいる

      数は居ても、艦ではなく艇ばかりで、それほど大した戦力では無いと聞きますが…。(伊藤元海将の解説)

      黒海艦隊の所属艦艇を見ても、それなりの戦力と言える水上艦艇は、旗艦モスクワ(撃沈確定)とアドミラル・グリゴロヴィチ級3隻(アドミラル・マカロフについては、撃沈は誤報で今だ健在と仮定)くらいの様ですし。

      旧式とは言え防空の要だったモスクワを失った今の黒海艦隊にしてみれば、蛇島の防空装備を潰されるのはかなり厳しくなるのでは?

      ウクライナ側にとっては、何なら再占領せずに更地にして放置でも、それなりに効果はありそうです。

      17
    • samo
    • 2022年 6月 22日

    地対艦ミサイルを対地攻撃に使用した可能性もある
    ハープーンの引き渡しはもう行われた?

    4
      • ido
      • 2022年 6月 22日

      28日に引き渡しが始まったと、ウクライナ国防省が発表してますね。

      5
    • メルク
    • 2022年 6月 22日

    ネタ枠として、ロシアのように甲板に大砲載せて砲撃した可能性を押してみる。

    1
    • くらうん
    • 2022年 6月 22日

    >「ドローンを使用した榴弾砲と多連装ロケットシステムによる攻撃で我々は全て撃ち落とし、飛来したドローン13機も全て撃墜、さらに島の奪還を試みた敵の上陸部隊も撃退した」と主張

    相変わらずの大本営発表。
    あんな開けた場所、オープンソースで嘘まるわかりなのに言ってて恥ずかしくないのかな。

    6
    • 成層圏
    • 2022年 6月 22日

    ハープーンを地対地ミサイルとして使えないのか?
    ロシアレーダーの位置が衛星写真で分かっていれば出来そうな予感。
    素人かんがえですが。

    1
    • 鳥刺
    • 2022年 6月 22日

    航空機を除き、開示されてる使用兵器には22マイルの射程は無い。事前の防空システム排除が無ければ航空攻撃は困難。だが蛇島は丸焼け。どこかにからくりがある… 中近東からBM-30でも買ったんですかね???

    黒海艦隊はハープーン到着の噂で接近拒否状態、小艦艇による補給もたびたび攻撃されてる状態の蛇島ですが、携帯対空ミサイルを制圧する継続的な火制手段の不足を考えると、本命の強襲降着をやるのならもうちょっとかかりそうですね。

    >ウクライナ軍に提供された榴弾砲の射程は「25kmに制限されている」
    RAP弾もベースブリード弾も無しの通常砲弾だけの供与、でないと実現不可能な制限ですね。

    >後部甲板へTor-M2を据え付け
    昔「ヘリ甲板にMIRS載せて地上攻撃」なんて妄想を弄んでみた事を思い出しました(笑)。いざとなったらやっちゃうんですねえ…

    3
      • くらうん
      • 2022年 6月 22日

      甲板に地上兵器を据え付ける手法は、自衛隊でもおおすみ型と多連装ロケットの組み合わせで、実際に試験までやってましたね。
      その後の音沙汰は聞きませんが。

      4
    • 名無し
    • 2022年 6月 22日

    島へ揚陸しようとしたロシア側の兵員輸送船がウ軍のハープーンで大破。乗員数十名が死亡。ウ軍にとっては支給されたハープーンの初戦果だと。あんな島の守備とか片道キップ同然だから向かわされるのも懲罰隊とかそういう奴らな気もするな

    6
    • ナナシ
    • 2022年 6月 22日

    なんとか穀物輸出して欲しい
    先進国の物価高もヤバイ上にウクライナのGDPも相当ガタガタなはず

    6
    • ナイトアウル
    • 2022年 6月 22日

    >ウクライナ軍に提供された榴弾砲の射程は「25kmに制限されている」
     それだとPzH2000なんて通常弾ですら30km程の射程がある訳で装薬装填に関して制限掛けないと射程減少なんて出来ない、どんなカラクリがあるのか。

     単純に最短距離だけを考えた場合、蛇島への榴弾砲攻撃はここの情報と現状供与されている榴弾砲と配備されている可能性がある地域を考えたら不可能ではないと思う。
     だけど距離約33kmと言うのは陸地がどんな状態だろうが関係ない数値でしかない。砲弾と榴弾砲の本当の射程を知る人ならギリギリなのか余裕があるのか分るが、悲しいかな市井のミリオタだとオープンソース性能で想像するしか無い。
     ウクライナは結構柔軟な考え方するからやる可能性あるけど、貴重な榴弾砲使うかってすごくモヤモヤする。

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  2. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  3. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  4. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  5. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
PAGE TOP