軍事的雑学

日本のAMRAAM生産、実現可能性調査が終わった段階で何も決まっていない

日米は2024年7月「AMRAAMの生産能力拡大の機会追求」で合意、防衛省は令和8年度予算案に3億円を計上し「2026年度に国内生産基盤整備に着手する方針」を示したが、AMRAAMの生産能力拡大に向けた取り組みは「実現可能性調査」が終わった段階で具体的なことは何も決まっていない。

参考:日米首脳会談及び夕食会
参考:Fact Sheet: President Donald J. Trump Strengthens U.S.-Japan Alliance for the Benefit of All Americans
参考:België zet door met aankoop luchtafweersysteem uit Noorwegen: “We zijn een zwarte vlek in Europa”

仮に日本が今直ぐAMRAAM生産能力拡大に寄与したところで「来年のAMRAAM納入量が増える」ということは起こらない

日本と米国は2024年7月に開催された日米安全保障協議委員会で「両国がAMRAAMの生産能力拡大の機会追求」で合意し、防衛装備庁は2025年8月「AMRAAMの国内生産基盤構築に向けた検討役務の契約希望者募集要領」を公示、防衛省は令和8年度予算案にAMRAAMの国内生産基盤を整備するための費用として3億円を計上し「2026年度に国内生産基盤整備に着手する方針」を示したが、そもそも日本はAIM-120D-3を国内生産するのか、AIM-120C-8を国内生産するのかも不明だ。

出典:The White House

防衛装備庁や防衛省の動き、日本メディアの報道だけ見れば「日米によるAMRAAM共同生産はもうすぐ始まる」と錯覚してしまうが、2026年3月に行われた日米首脳会談後の外務省発表では「日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくべく、ミサイルの共同開発・共同生産を含む幅広い安全保障協力を進めていくことで一致した」とのみしか触れておらず、ホワイトハウスのプレスリリースでは「AIM-120 AMRAAMの共同生産に関する日米二国間の実現可能性調査に続き、両国はAMRAAMの生産能力拡大における日本の将来の役割を具体的に見極めていく」と言及。

つまり「日米によるAMRAAM共同生産は実現可能性調査が完了(もしくは完了間近)の段階で、この結果を踏まえて生産能力拡大における日本の役割をこれから協議する」という意味になり、どのような形で生産能力を拡大するのか、フル生産なのか一部のライセンス生産なのか、どの部品を日本で作るのか、米国への還流生産なのか、日本企業の役割はどこまでなのか、それに伴う費用負担は幾らになるのか、生産能力拡大に向けたスケジュールといった内容は何も確定していない。

逆に「RTXがAIM-120D-3の生産に集中するためベルギーにAIM-120C-8の生産を移転する」という噂が2026年3月に登場し、この元ネタはベルギー国営放送=VRT NWSが2025年7月「ベルギーはルクセンブルクと共同で計10セットのNASAMSを約25億ユーロで購入する計画だ」「このNASAMS購入計画はベルギー産業界にも利益をもたらすだろう」「ベルギー南部のFN Herstalは最終的にNASAMS向けのAMRAAM生産が認められるからだ」「RTXはFN Herstalと秘密裏に交渉を進めているという」「ただし、FN Herstalは『まだRTXとの間に合意はない』と述べているため生産開始までには時間がかかるだろう」と報じた一件だ。

この件についてDefense Archivesで働くJeff(ベルギー在住の軍事ライター)が3月14日「RTXの広報担当者に尋ねたところ『RTXはAIM-120C-8の生産ラインを欧州に完全移転し、米国工場をAIM-120D-3の生産に集中させたいと考えている』と述べた。そのためFN Herstalは最低でも30社と協議を進めてAMRAAMのサプライチェーン構築を開始している」と報告し、ベルギーへのAIM-120C-8生産移転の噂が一気に広まったが、この話が事実なのかどうかは不明で、RTXとFN HerstalがAMRAAM生産に関して何らかの合意に達したという公式の発表もない。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Reagan Hardy

それでもベルギー国営放送が「FN HerstalでのAMRAAM生産に向けた交渉が進められている」と報じているのは事実で、AMRAAMの生産能力拡大における日本の将来の役割も具体的に決まっていないため何とも言えないが、この限られた情報から推察すると「RTXが米軍専用のフルスペックバージョン=AIM-120D-3生産を国外移転するとは考えにくい」「日本に生産移転するならベルギーと同じように同盟国・FMS向けのダウングレードバージョン=AIM-120C-8の可能性が高い」「もしくは米国工場で生産するAIM-120D-3向けの部品生産になる」となる。

まぁ、ホワイトハウスのプレスリリースは「日米によるAMRAAM共同生産はもうすぐ始まる」という雰囲気ではなく、AMRAAMの契約~納品までのリードタイムは約30〜40ヶ月程と言われており、仮に日本が今直ぐAMRAAM生産能力拡大に寄与(生産参加)したところで「来年のAMRAAM納入量が増える」ということは起こらない。

追記:AIM-120D-3は現在、米軍専用ではなく日本を含めた幾つかの同盟国への輸出が許可されている。

関連記事:日米がSM-3 Block IIAの生産4倍で合意、増産達成でも生産数は年50発以下
関連記事:レイセオン、国防総省とトマホーク、AMRAAM、SM-3、SM-6の大増産で合意
関連記事:米国がパトリオットに続きTHAAD迎撃弾も増産、年96発から年400発へ
関連記事:米国がパトリオットシステムの迎撃弾を大増産、年600発から年2,000発へ
関連記事:日本のパトリオットミサイル輸出、シーカー不足で増産に数年かかる見込み

 

※アイキャッチ画像の出典:RTX

米同盟国の中でAIM-260の初取得は豪州、米議会の輸出審査をクリア前のページ

米軍が2027年度予算でパトリオットミサイルを3,203発要求、総額2.2兆円次のページ

関連記事

  1. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相

    ちょうど1年前(2019年3月20日)、仏空軍の戦闘機「ラファールB(…

  2. 軍事的雑学

    ウクライナ侵攻に関する情報の真偽、視覚的証拠を提示できる陣営の方が真実に近い

    ウクライナ軍参謀本部は「ロシア軍のヤヒドネに対する攻撃は失敗に終わった…

  3. 軍事的雑学

    狙われれば最後? ロシア・台湾が開発した「極超音速」空対空ミサイルの実力

    現時点で「極超音速」の領域で作動する実用化された空対空ミサイルは、ロシ…

  4. 軍事的雑学

    ウクライナへのトマホーク提供問題、これまでに学んだ教訓を思い出すべき

    トランプ大統領がウクライナにトマホークを提供するのかどうか不明だが、A…

コメント

  • コメント (11)

  • トラックバックは利用できません。

    • 通りすがり
    • 2026年 4月 06日

    元からそんな感じじゃなかったっけ。政策評価でも一貫して「研究」であって、「開発」で予算取ってた記憶ないし
    最近の日本のミサイル方針からして、本命は国産ミサイルで、その参考のための研究とか、バックアッププランの類いでないの

    28
    • 戦車
    • 2026年 4月 06日

    日本で生産と言ってますけど、どうしてもアメリカの規格品にしばられてしまうと言うのが近年での問題になりまくってますからね。
    F-35に内装するために大きさと直径を規格に収める事になり、性能が頭打ちになりかねないと言う事も起きてますし。
    次世代機に載せるために次期中距離空対空誘導弾を開発中ですがこのウェポンベイにAIM-174B並みのミサイル(全長約4.8m)なら世界はだいぶ変わりますしねー。

    5
    • たむごん
    • 2026年 4月 06日

    日本の空軍力、どんなもんなんでしょうかね?

    F15はスクランブルで削られ続け、F35はよく分からない感じの話しもあり、共食い整備も問題視されていました。

    相対的なものと思うのですが、中国軍の強化が進んでいるわけですが、どういう評価なのかは気になるところですね。

    13
      • nachteule
      • 2026年 4月 07日

       現状見えている状態だと地域的で言えば最低でしょう、人口減少や機体が少ないせいでのパイロット数が多くないのが痛い。
       F-15の機数は多いが長距離で撃ちっぱなしが出来ない時代遅れで退役しか選択肢がないPre-MSIPが半分以上。数が100機も無いF-2のアップデートは限定的で後10年でリミットが来る予定。おまけに壊れたからと言って新しい機体を得る事も他国から中古をもってくるとかの選択肢が実質無いので消耗したら終わりなだけ。
       F-35の機数は多いが手放しでは喜べない状態。期待の第6世代は共同開発で初動からして躓いている。空飛ぶ大型レーダーもも空中給油機も現状では微妙なレベル、駐機時の防御なんて夢のまた夢だし国土が狭いせいでウクライナみたいな航空機の生き残りが出来るかも怪しい。
       有人機体の状況が芳しくないのでShield AのX-BATみたいな無人機の大規模導入の余地があり、そこに大きなリソースを投入してある程度の改善をする。そしてGCAP何て無視して現有機で使い勝手の良い次期中距離空対空誘導弾の開発前倒しとかは必要じゃないですかね。

       韓国はまだマシだと思えて、攻撃やスクランブルに関しては古過ぎるとは言えF-4もF-5を飛ばそうと思えば飛ばせる。F-15Kも60機近くまだ新しい方でアップデートの余地がある。F-16も150機以上有りV型アップデートで使いたければあと20年でもやっていける。機能的に問題はありそうだが攻撃に使用出来るFA-50とTA-50が併せて80機ある。オマケにこれから時間も掛からずにKF-21が増えていく。今の時代に微妙にはなったが早期警戒制機のウェッジテイルもありバランス的にはかなり良い感じがする。

       中国に関しては質と量がダントツですからどうしようもないですね射程も航続距離が伸びているのが痛い。耐久性が低いとか性能がまだ低いならまだ何とかなる可能性はあるが数の暴力の前には被弾撃墜、稼働率を落として終わりでしょうね。

      3
        • たむごん
        • 2026年 4月 08日

        やっぱり厳しいですよね…。

        F4・F-15・P-3など大量購入を左翼は批判してましたが、昭和~平成前半の平和は、これらの機体を含めた抑止力が働いていたからだと考えています。

        極東の情勢を見ると、日米の抑止力が(相対的に)低下し続けているわけですから、防衛力強化に堂々と邁進して欲しいですね(今は世論の後押しも得られますからね)。

        2
    • 58式素人
    • 2026年 4月 06日

    どうせなら(F-35に収まらなくても)AIM-174Bも同時に欲しいと思ったり。
    ベースになるSM-6の日本国内生産の協議も始まりそうだし。
    現在のブースターなしでも射程240kmだそうだし。
    AIM-120は仮にD型でも射程は180kmだそうだし。
    元のSM-6のことを思えば、将来的にはブースター付きもありえる?かな?。
    ブースターがあれば良いですね。SM-6の射程は370kmだし。
    もし射程を優先するならば、F-35内搭載には拘れないのでは?。
    などと思ったりします。

    2
      • ななし
      • 2026年 4月 06日

      それを言い出したらF-35に拘る必要も無いような気が
      重いミサイルをたくさん載せれる安い機体
      F-2かあるいはF-16の主翼を大きくしたF-16AgileFalconか

      4
    • レプタリアン
    • 2026年 4月 06日

    1つ前の記事でPL15に対抗するには長射程ミサイルがいるってのを読んだあとだと
    AIM120かぁってなった

    4
    • SB
    • 2026年 4月 06日

    むしろ2年も経ってないのに生産に着手してたらビックリだよ

    17
    • AKI
    • 2026年 4月 06日

    情報提供企業の募集に、AMRAAMの共同生産の対象として日米が合意した品目(以下、「共同生産対象品目」という。)を製造する意思があること。
    とありますので、ライセンス生産などではなく、部品生産だと考えています。

    5
    • 名無し
    • 2026年 4月 06日

    自衛隊こそ昔から鍛えられてるからアメリカなんてこんなもんて思ってるでしょ

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  4. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  5. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
PAGE TOP