軍事的雑学

読みたい人だけが読めばいい内容、ギリシャによるウクライナへのF-16売却話

ギリシャのデンディアス国防相が「F-4E/AUP、F-16Block30、ミラージュ2000-5Mk.2の売却を検討している」と述べ、現地メディアが「F-16のウクライナ移送はほぼ確実と考えられている」と報じたため、F-16がウクライナに売却されると話題になっている。

参考:Το σχέδιο για πολεμική αεροπορία δύο ταχυτήτων
参考:Greece plans largest international supply of F-16 fighter jets to Ukraine: Reports

憶測のみで装備の退役話をウクライナ支援に結びつけるいつもパターン

ギリシャのデンディアス国防相は先月25日「ギリシャの主権と独立を守るためには軍の構造や兵器システムなど全てを変える必要がある」「F-4E/AUP、F-16Block30、ミラージュ2000-5Mk.2の売却を検討している」と言及、さらに1日「軍の抜本的な改革=Agenda 2030の中には空軍と海軍の近代化計画が含まている」「2030年までに最新の第4.5世代と第5世代の戦闘機を200機取得し、第3世代と第4世代の戦闘機を段階的に運用から外す予定だ」と明かした。

出典:HAF Spokesman

最新の第4.5世代と第5世代の戦闘機とはBlock70にアップグレード中のF-16C/D Block50/Block52、取得中のラファールF3/F4、調達が予定されているF-35A Block4のことで、この目標を達成するには多額の資金が必要になるため旧型機の売却代金(希望的観測に基づく推定売却額は20億ユーロ~25億ユーロ)が計画に組み込まれている可能性が高く、この手の戦闘機が売りに出されると高価な最新鋭機に手が届かない国、入手性が悪化したスペアパーツを剥ぎ取りたいと考える国、演習等で顧客国に訓練サービスを提供する民間軍事会社によって争奪戦に発展することが多い。

売りに出される旧型機についてギリシャメディアのNewsbreakが「F-16のウクライナ移送はほぼ確実と考えられている」「ミラージュ2000-5Mk.2もウクライナへの移転やインドへの売却が可能だがフランスの承認が必要になる」と報じため、F-16Block30がウクライナに売却されるらしいと話題になっている。

Breaking Defenseは「(Newsbreakが報じた話が事実なら)ギリシャはウクライナに対する最大のF-16提供国になる」と指摘して「ギリシャがウクライナにF-16を移管する可能性」を否定しなかったが、同時に「この件についてギリシャ国防省はコメント要請に応じていない」「デンディアス国防相は10日にウクライナ支援強化の重要性についてオランダのオロングレン国防相と会談したが、この会談でオロングレン国防相はギリシャによるウクライナへのF-16提供に言及しなかった」と報じている。

さらに国防総省の報道官も「報道されているギリシャの計画を米国は支持するのか」「この計画について米国とギリシャは協議したのか」という質問に「これは公式の話ではないので何も回答できない」と述べており、そもそもNewsbreakが報じた「F-16のウクライナ移送はほぼ確実と考えられている」という話は「どこからの情報なのか」が提示されておらず、F-16Block30がウクライナに売却されるらしいという報道の大半はNewsbreakの記事が元になっているため、憶測のみで装備の退役話をウクライナ支援に結びつけるいつもパターンだ。

出典:mashleymorgan / CC BY-SA 2.0

仮にF-16Block30のウクライナ移転が事実だったともしても「ギリシャがタダでF-16をウクライナに提供する可能性」は0に近く、Kyiv Independentの取材に応じたスウェーデンのジョンソン国防相も「グリペンのウクライナ提供は戦闘機連合の枠組み内で行われている」と述べており、これはスウェーデンとウクライナの2国間ではなく「戦闘機連合の枠組みを通じての提供になる」と示唆し、この提供にかかるコストを誰が負担するのかというお馴染みの問題が議論されているのだろう。

さらに言えばお馴染みの問題をクリア出来たとしても、デンディアス国防相は「2030年までに最新の第4.5世代と第5世代の戦闘機を200機取得し、第3世代と第4世代の戦闘機を段階的に運用から外す」と述べているため「ラファールF4とF-35A Block4の取得スケジュールに合わせてF-16Block30やミラージュ2000-5Mk.2を運用から外す」と解釈するのが妥当なので、F-16Block30のウクライナ移転は何年も先の話になるはずだ。

出典:U.S. Air Force photo/Staff Sgt. Larry E. Reid Jr., Released

因みにウクライナへのF-16提供が噂されていた当時も米軍関係者や専門家が「戦力化には相当時間がかかる」「パイロットや地上要員の訓練には1年以上かかる」「インフラ構築にも時間がかかる」と再三説明していたにも関わらず、一部のメディアが「ウクライナ空軍のパイロットなら直ぐに乗りこなせる」「MiG-29やSu-27の操縦経験をもつパイロットなら機種転換に時間はかからない」と期待感を煽っていたが、戦闘機の戦力化作業も、戦闘機提供に付随する準備も本当に複雑なので短期的にどうにかなる問題ではない。

但し、西側諸国が用途を制限しない自由な資金を提供し、ウクライナ自身が当該国との2国間交渉で戦闘機を購入すれば「お馴染みの問題=戦闘機連合内での協議」を回避することができると思われるが、基本的に軍事支援は現物支給か支援国から装備・弾薬を購入する際の資金提供に限られるため、ウクライナに直接F-16を購入する資金を提供すればいいというアイデアが実現可能なのかは謎だ。

関連記事:ギリシャ国防相がF-16とミラージュ2000売却に言及、争奪戦に発展する可能性
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air National Guard photo by Master Sgt. Becky Vanshur

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コメント

    • NNS
    • 2024年 4月 11日

    トルコとの関係もあり、冷戦後も通常戦力維持してきたギリシャは兵器供給源としては魅力的に見えてしまうのでしょう。

    仮にギリシャにウクライナ支援の意欲があっても、お金に余裕がある国ではない上に装備更新が控えてるとなると、金銭的な問題を解決してあげないことには難しそうな気もします。

    18
    • viper-san
    • 2024年 4月 11日

    まあそれだけみんながF-16に期待を寄せているってことで大目に見てあげてクレメンティ
    誰しも希望は必要なんや…

    12
    •  
    • 2024年 4月 11日

    W氏は自身が気持ち良くなるニュースを裏も取らず拡散してしまう傾向がある。
    そして一般人も元将官の言ったことだから事実に違いないと疑いもなく受け入れる。
    一般人でウクライナ戦争について持論を主張するときに、情報ソースがW氏の人が多くいたりする。

    15
      • kitty
      • 2024年 4月 11日

      元陸自総監の経歴で、空軍戦略について語るのは、外科医が性感染症に付いて語るくらい畑違いなんですけど、素人は「専門家」とか思っちゃうんですよね。
      まともな専門家は自分の専門以外の分野には謙虚になるものですけど。

      13
        •  
        • 2024年 4月 11日

        専門であるはずの陸戦の分析も滅茶苦茶なんだよな

        9
        • ブルーピーコック
        • 2024年 4月 11日

        過去には防衛官僚だったのに「シーレーン防衛や洋上防空は金のムダだからやる意味はない」と言っていた人も居るので、長年関わっている筈の専門家ですらトンチンカンな事を言ったりもするのが悲しいところ。そいつ制服組じゃなくて背広組だったろと言われればそうなんですけど。

        6
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2024年 4月 11日

    大丈夫?Newsbreakと渡辺悦郎の話だよ?(ファミ通並感)
    ギリシャは財政が改善したとはいえ売れるものは高く売りたいだろうからより金をだしてくれる所に売りたいだろうし、ウクライナがまともに金をだせるとも思えない
    フランスが全額出すなら話は別でしょうけど、流石にそれはないでしょうし

    14
    • k.ziro
    • 2024年 4月 11日

    抑止力として数十年置いておくのでは無く、喫緊で必要なところで使ってもらうので問題はないと思いますな。
    退役する前の花道として有用に使ってあげてね。

    1
    • たむごん
    • 2024年 4月 11日

    自衛隊・自衛隊将校への信頼を、失墜させた方、御用学者のような方がいますね。

    国民の意思決定をマスコミで歪め続けたならば、過去メディアでのいい加減な発言に責任をとってから、新たな発言をされた方がいいのではないかと見ています。

    テレビの出演、Youtubeで確認しましたが、過去発言が外れすぎたためなのか最近見かけなくなりましたね…

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    9
      • Natto
      • 2024年 4月 11日

      情報部門の幹部や特殊部隊の幹部なのにロシアの工作にバッチリ取り込まれた人達も居るから。
      基本的に特殊な技術や知識のある普通のおじさんの集まりと思ってないと。

      2
    • ブルーピーコック
    • 2024年 4月 11日

    「売却を検討している」=売却確定orウクライナ移送と報道するとか。
    日本のメディアは短絡的過ぎてこれだか・・・あれ?

    2
    • 匿名希望係
    • 2024年 4月 11日

    フレーム的にはアルゼンチンに送るF-16AMと交換してくれた方がうれしいと思ってそう

    • フランス仕草
    • 2024年 4月 11日

    >仏のマクロン大統領が言うように、「廃棄する兵器はウ国に提供すべきだ!」
    ギリシャの姿勢は常識的だ。

    うーん自分のところはラファール売って儲けるけど不要になった中古品はウクライナにタダであげなさいって酷くない?って思っちゃいますね
    それとも費用はフランスが負担するから提供してって意味なのかな

    2
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