フランスのカトリーヌ・ヴォートラン国防相は戦場の教訓を反映させた改正軍事計画法案(2030年までの国防支出を360億ユーロ増額する内容)を8日に提出し、さらに「ルクレールとMGCSのギャップを埋める暫定的な戦車の必要性」にも言及して注目を集めた。
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改正軍事計画法案が閣議で承認されても、毎年の国防支出は議会承認が必要なため360億ユーロの増額が保証されているわけではない
フランス政府はウクライナ侵攻の教訓を反映させた軍事計画法を2023年8月に成立させ、2024年~2030年の7年間に総額4,130億ユーロ(約76兆円)を投じてフランス軍再軍備の具体的な計画を策定したが、カトリーヌ・ヴォートラン国防相はウクライナ侵攻の新たな教訓と中東地域で体験した教訓を反映させた改正軍事計画法案を8日に提出し、2030年までの国防支出を360億ユーロ増額して軍事計画法の最終年支出を763億ユーロ(GDP比で約2.6%)に設定している。

出典:Naval Group
フランス軍の主要戦力規模は2023年の軍事計画法バージョン(ラファール225機、FREMM級/FDI級/ホライズン級フリゲート計15隻、空母1隻、強襲揚陸艦3隻、攻撃型原潜6隻、戦車200両、攻撃ヘリ67機)から変更はなく、今回増額する資金の半分以上は「弾薬の追加購入」と「戦場の現実に即した地上作戦の即応態勢強化」に投資され、フランスは約85億ユーロを追加投資して弾薬調達を前例のない規模(2026年~2030年までの総投資額は260億ユーロ以上=4.8兆円以上)へと引き上げる。
具体的な主要な弾薬備蓄量の増加率は全種類の自爆型無人機・徘徊型弾薬(恐らくFPVドローンもここに含まれる可能性が高い)=消耗型無人機が+400%、AASM誘導爆弾が+240%、MU90/F21魚雷が+230%、155mm砲弾が+190%、エグゾセ艦対艦ミサイルが+100%、SCALP/MdCN巡航ミサイルが+85%、Aster/MicaVL対空ミサイルが+30%、さらに全種類の無人機(ここで言う無人機とは再使用可能な非消耗型無人機のこと)の調達に20億ユーロ=約3,600億円を追加投資し、この分野への総投資額は84億ユーロ=約1.5兆円に増額される。

出典:Armée de Terre
主要装備への新たな追加投資は空軍向けにA400M×6機の追加取得、ミラージュ2000D×2機のアップグレード、SAMP/T-NGの納入加速(8基から10基)、2030年までのGlobalEye取得、アラブ首長国連邦との交渉決裂を受けてラファール F5開発費用の単独負担、海軍向けにSIMBAD RC×18基の追加取得、対ドローンシステム×10基の追加取得、ドローン能力を大幅に強化するため自律型無人潜水艦と遠隔操作型水中無人機の取得、全フリゲート艦と補給艦に配備する無人機取得、全フリゲート艦に配備する無人水上艇取得を予定。
陸軍向けに大型輸送車両×300両の追加取得、対ドローン対策用のプロテウス対空機関砲×50門の新規取得、シーザー自走砲×11門の追加取得、多連装ロケットシステム×13基の新規取得が予定されており、AI制御のプロテウス対空機関砲は暫定的な対ドローン能力早期取得の一環で、本命の極短距離地対空防空システム(VSHORAD)のServal DSAやServal SATCPにも約20億ユーロ、電子戦による対ドローン能力にも約4億ユーロが投資され納入加速が予定されているが、ヴォートラン国防相は「ルクレールとMGCSのギャップを埋める暫定的な戦車の必要性」にも言及している。

出典:Armée de Terre
ドイツとフランスはレオパルト2とルクレールを更新するため次期主力戦車=Main Ground Combat System(MGCS)を開発する予定だが、これが手に入るのは当分先の話なので両国とも「暫定的な解決策」を模索しており、ドイツはLeopard2A8の調達を開始し、ドイツ連邦カルテル庁は2025年12月「RheinmetallとKNDS Deutschland(KMW)の合弁事業拡大を承認した」と発表した。
この合弁事業拡大は「RheinmetallとKNDS Deutschlandはプーマ事業のためPSM Projekt System&Management GmbHを設立済みだが、このPSMの事業を『次期主力戦車の暫定的な解決策開発』に拡張する」という意味になり、ドイツ連邦カルテル庁もプレスリリースの中で「PSMの枠組みは新型主力戦車の開発・納入契約にも活用される」「この新型戦車はドイツとフランスが共同開発する新型戦車が2045年に納入されるまでの暫定的な解決策となる」と言及している。

出典:Rheinmetall
独ディフェンスメディアのhartpunktも「ドイツ軍は2030年代初頭に現在の脅威レベルに適応し、レオパルト2A8よりも近代的で追加能力を備えた主力戦車が必要になると言及してきた」「この新型戦車はMGCSまでのブリッジ・ソリューションとして機能することを目指し、運用期間は約25年を想定している」「この新型戦車で旧式のレオパルト2を置き換えると予想されている」と報じたが、この新型戦車がレオパルト2A8をベースに開発されるのか、ゼロベースで開発するのかは不明だが、ラインメタルのパンターも有力な候補の1つだ。
ヴォートラン国防相も「現行のルクレールは2040年まで運用可能だが、MGCSプロジェクトは約10年かかる見込みで暫定的な戦車が必要になるだろう。現時点で暫定的な戦車の取得はまだ決定されていないが、KNDS GermanyかKNDS Franceのプラットフォームを基盤とし、フランス設計の砲塔を搭載したものになるだろう」と述べ、MGCSプロジェクトに約10年かかるという言及は「本格開発に約10年かかる」という意味で、ドイツとフランスは2024年4月にMGCSのフェーズ1A協定に署名したが、実質的な開発作業はほとんど進んでない。
過去2年間で発注された唯一の開発作業はハイブリッド動力装置に関連したものだけで、MGCSプロジェクトを請け負う主要企業(KNDS Deutschland、Rheinmetall、KNDS France、Thales)が設立した合弁企業は両国に対して初期提案を行ったものの、フランス軍備総局は「提案金額が想定額の2倍近い」と拒否し、フランスメディアのLes Échosは「1月30日に提出された第2次提案が現在審査中だ」と報じているものの、MGCSの協力はFCASの協力とも密接に関係しているため、まだ資金を投資して本格開発する段階に至っていないというのが現状だ。
ドイツもフランスもMGCS実現までの繋ぎとして「暫定的な解決策」を取得する可能性は非常に高く、残念ながら「暫定的な解決」は往々にして「長期的な解決策」に転じることがよくある。

出典:Airbus
ちなみに、8日に提出された改正軍事計画法案によってフランス、ドイツ、イタリア、スペインの4ヶ国で共同開発中だったEurodrone、 サフラン製の中高度を長時間飛行できる偵察用無人機=パトローラーの調達中止が決まった。
追記:ヴォートラン国防相は「今年、戦闘用ドローン1万機発注して5,000機が納入される」「短距離防空ミサイルのMistral3も生産量を4倍に増やして2028年には年800発、またSCALP巡航ミサイルも2025年の240発から2027年に360発に増やすことを目指している」と明かした。
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※アイキャッチ画像の出典:Armée de Terre





















>KNDS GermanyかKNDS Franceのプラットフォームを基盤とし、フランス設計の砲塔を搭載したものになるだろう
…多分、暫定車両がそのまま主力になってしまうパターンや
新設計の砲塔は、ドローン発射、APS、RWSテンコ盛りのトレンド満載の砲塔になる予感
実際、今の戦車って大幅な設計変更必要なんですかね?
ウクライナをみてる現行戦車にゲージやAPS乗っければそれで一線級になりそうなもんですが、陸軍国家にとっては今のガワじゃ物足りないんでしょうか。
より高い防御能力が求められていると思いますので、装甲も上げたいでしょうし、APS含めて追加分の重量増に対して機動力は落とせない(むしろ向上させる必要もある)ので、そうなると足回りも…ということじゃないでしょうか?
ルクレールは装甲交換式ですから、いけるでしょう。
エンジンは、ユーロパックに交換かな。
技術者に経験を積ませるという事では。
Leopard2は46年前、ルクレールも40年位前ですから、当時の技術者も定年です。
本当はウクライナの戦訓を活かして、根本的な作り直しが必要。
たとえばパワーパックは本当はずっと小型で高効率のものが使えるはずなのに、40~50年前の骨董品を使っているから、それに合わせて筐体がバカでかくなっている。
使われている鋼鉄や複合装甲も数十年で進化しているようだし、現行の戦車は40~50年前の周囲の観測方法(≒視界)が優先されていて、いろんな装備が車内外に継ぎ接ぎだらけで重量が嵩んでいる。
しかしながら根本的な作り直しがコストや部品の互換性の面で難しいから、砲塔の換装でお茶を濁しているのだと思われ(M1E3, Panther, ルクレール・エヴォリューション)。
戦車の誕生時は機関銃に耐えられる塹壕突破車両だったけど、今のMBTって敵戦車との交戦に特化した戦車駆逐車じゃんね。正面一定角度のみ敵戦車の砲撃に耐える装甲を要求する代わりに、他の重量は諦めるのが基本。今ドローン対策で色々くっつけているのは所詮は弥縫策。
今の戦場で必要な戦車は、敵戦車との交戦はあまり考えなくて良いから、全周ドローンに耐えて、後は火砲で歩兵支援ができる程度で良い、と大幅にコンセプトが変わるかもしれない。そうすると、一から設計し直さないといけませんよね。
とは言っても、現状は既存MBTの延長で計画が進んでいると思います。
ウクライナの戦訓も十分分析出来て居ないでしょうから、当面予備も含めてルクレールを改修すれば良いでしょう。
足りなければK2を購入すれば良いです。
技術継承という意味では、10式を開発したのは正しかったのか。
10式を開発していた事で16式をスムーズに開発できましたし、
16式から24式、25式のファミリー車両
今開発中の水陸両用車のエンジンも、10式のエンジンから発展した物ですし、10式を開発した意義はかなり大きかったですね
欧州の安全保障行動(SAFE)やNATO新目標としての防衛費をGDP比3.5%と欧州全体で防衛について金回りが良くなったので、だったら自分達で欲しい物作ろうってなるんですかね?
こうも共同開発があちこちで暗礁に乗り上げるのみるとそう思ってしまいます。
安全保障行動(SAFE)の資金で1から開発なんて融資条件上ほぼ不可能です。FCAS、MGCS、Eurodroneはそれぞれ直面している問題が異なるので「一言で共同開発がダメ」というもの大味で、ミサイル開発や艦艇開発など上手くいっているケースもあるためケースバイケースだと思いますよ。
確かにケースバイケースですね。予算が増えてるって事だけで話をまとめるのは浅慮でした。