欧州関連

アルメニア、トルコ空軍機から空対地ミサイルによる攻撃を受けたと公表

ナゴルノ・カラバフ地域を巡るアゼルバイジャンとアルメニアの戦いは双方に大きな被害をもたらしており、互いにどれだけの被害を与えたかを競うように発表しあっている。

参考:Up to 2,300 enemy soldiers was killed
参考:Turkish Air Force F-16s deliver air strikes at Artsakh, radio communications recorded

アゼルバイジャンはアルメニア軍兵士を2,300人死傷させたと発表、アルメニアはトルコのF-16が空対地ミサイルで攻撃していると主張

アゼルバイジャン国防省は30日、27日から始まったアルメニア軍との戦いでアゼルバイジャン軍は約2,300人の敵兵士を殺害もしくは負傷させ、約130輌の戦車や装甲車両、200門以上の大砲や多連装ロケットシステム、約25基の防空システム、55台の車輌、50基の対戦車ミサイル、6ヶ所の指揮所や監視施設、5ヶ所の弾薬備蓄施設を破壊したと発表した。

さらに噂されていたアルメニア軍の防空システム「S-300PS/V」破壊も公式に発表したが、ロシアメディアが報じた内容とは情報が異なっている。

出典:EllsworthSK / CC BY-SA 3.0 写真のS-300はスロバキア軍のもの

ロシアメディアは27日、ナゴルノ・カラバフ地域に近いアルメニア領ゴリス市付近に配備されていたロシア製防空システム「S-300PS/V」がアゼルバイジャン軍の徘徊型自律兵器(通称:カミカゼUAVもしくは自爆型UAV)によって破壊されたと報じていたが、アゼルバイジャン国防省の説明によればナゴルノ・カラバフ地域ホジャリ地区での戦闘中にS-300を破壊したと言っており、破壊手段についてもUAVによる攻撃だとは言及しておらず、アルメニア領ゴリス市付近に配備されていたS-300をUAVで破壊したのは誤報だったのか、UAVで破壊したS-300とは別のS-300を異なる方法で破壊したのかは謎だ。

一方のアルメニア国防省(アルツァフ共和国を含む)も30日、アゼルバイジャン軍が被った損害は兵士790人以上が死亡、約1,900人が負傷、1機の航空機、4機の攻撃ヘリ、約72機の無人航空機、137輌の戦車や装甲車輌を破壊したと発表、さらにアゼルバイジャン側は1日あたりの死傷者数を誤魔化してアルメニア軍のものと入れ替えて発表していると主張しており、双方ともメディアを通じて「如何に自軍が善戦して敵軍に大きなダメージを与えてるか」を宣伝するのに余念がない。

ただ非常に興味深い発表が1つだけある。

出典:Jerry Gunner / CC BY 2.0 トルコ空軍F-16C

アルメニア国防省は同日、アゼルバイジャン空軍の航空機が空爆のためナゴルノ・カラバフ空域を北に向かって飛行しておりトルコ製の無人航空機とトルコ空軍のF-16C/Dも同じ空域を飛行していると言及、さらにトルコ空軍のF-16C/Dは「アルメニア軍の防空システムを避けて(迎撃範囲に侵入してこないという意味)活動中で主に長射程の空対地ミサイルによる攻撃をおこなっている」と語った。

しかもアルメニア軍はトルコ語によるパイロット同士の無線通信を傍受して記録したと言っており、これが事実ならトルコは正規軍をアゼルバイジャン支援のために派遣していることになり、国際社会からの批判から免れることは難しいだろう。しかし逆の見方をすればF-16C/Dの派遣が国際社会に露見するのは時間の問題で織り込み済みだと考えるほうが自然で、完全にトルコが開き直れば軍を大胆に動かす可能性もある。

そのためアルメニア側がトルコ軍の直接関与を正銘すればするほど、ある意味危険なのかもしれない。

果たしてアルメニアの主張にトルコはどの様な反応を示すのか、アルメニアは予告通り短距離弾道ミサイル「イスカンデル」で報復攻撃にでるのか注目される。

関連記事:アルメニア、トルコ参戦なら弾道ミサイル「イスカンデル」使用を宣言

 

※アイキャッチ画像の出典:Alan Wilson / CC BY-SA 2.0 トルコ空軍F-16C

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    露土戦争待ったなし?

    7
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    まだまだアルメニアの忍耐力が問われる
    イスカンデルを撃ち込むとトルコが全面的に乗り込む危険が
    国際社会がはやく対応しないとクリミア半島の轍を踏むぞ

    5
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    報道の通りだとしたら圧倒的にアルメニアは不利。
    アルメニアが負けてもナゴルノ・カラバフを失うだけで本国は占領されないと思うんだけれどアルメニアが負けることにより損害が出るのはどの国かな。
    またトルコの正式参戦の際にはアルメニアとの国境を超えてくるのだろうか。
    アルメニアは西と東から挟撃されるんじゃたまったものではないね。

    5
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    最終的に美味しい所はロシアが全部持って行く。アルメニア軍が組織的に壊滅する瀬戸際になって一気に動き出すと思う。プーチンにとってはジョージアやアゼルバイジャン含めコーカサスを占領するまたとない機会。昔のポーランド分割を思い出す。

    10
      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      上のものです。
      なるほどやはりロシアですか。
      歴史は繰り返されるのですね。

      5
      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      ロシア軍の参戦はありうると思う
      周辺国でこれだけ好き勝手やられたら、さすがに容認できないだろ
      アゼルバイジャン・トルコは完全に一線を越えてしまった

      12
        • 匿名
        • 2020年 9月 30日

        集団安全保障条約というものがある為、ロシア等の締約国は、武力攻撃を受ける締約国(アルメニア)に軍事援助を含む必要な援助を提供する義務を有するらしい。

        8
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    この戦争はアメリカ大統領選の間隙を突いているのでしょう。
    選挙が終わる前に占拠しようと。

    13
    • 大本営発表
    • 2020年 9月 30日

    トルコの文在寅エルドアン君マジでいい加減にしてくれ!

    14
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    アルメニアがイスカンデルを撃つとしたら、目標はアゼルバイジャン領内だよね?万が一トルコ領土に撃ったら北大西洋条約5条発動になっちゃう。

    3
      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      トルコ側が先に手を出したなら集団安全保障の対象とはなりません

      2
        • コメ主
        • 2020年 9月 30日

        条文だけ読むとそれは明記していない様に見えますが、国際慣例とかでそういう解釈になるんですか?

          • コメ主
          • 2020年 9月 30日

          ちょっと考えたが、条約の趣旨からして当然とかいう事になるのかな。失礼しました。

          1
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    ロシアが大規模に支援するにはジョージアが邪魔になってるな

    8
      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      ロシアは自分が起こした南オセチア紛争でジョージアと完全に敵対しちゃったからなぁ
      紛争そのものはロシアが勝って南オセチアを実効支配出来たけど、こういう形でアルメニアへの影響力を失うことになるとはね

      6
        • 匿名
        • 2020年 9月 30日

        カスピ海側の動きはどうなんでしょう。
        もしくはイラン経由とか。
        それこそお得意の巡行ミサイルなら撃ち放題。

        2
          • 匿名
          • 2020年 9月 30日

          とっくにイラン経由でロシアの物資がアルメニアに流れている

          2
        • 匿名
        • 2020年 9月 30日

        南オセチア紛争を始めたのはグルジアの方ですよ
        OSCE停戦監視団とNATOもグルジアが先に攻撃を行ったという見解を出してます

        5
        • 匿名
        • 2020年 9月 30日

        南オセチア紛争はジョージア側が起こしてるんだよなぁ

        4
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    先月の記事ですが、各国の思惑が非常にわかりやすいのでぜひw
    特に「コーカサスと日本」は日本人なら知っておきたいところ。

    ■アゼルバイジャンとアルメニアの戦闘に、世界が振り向いた 日本も無関係でないその背景
    リンク

    4
      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      日本で一番有名なアゼルバイジャン出身者、リヒャルト・ゾルゲの名前がないな(バクー生まれ)

      3
        • 匿名
        • 2020年 9月 30日

        朝日新聞GLOBEだから、同社の先輩である尾崎秀実元死刑囚のことを思い出したくないんじゃね?

        4
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    やっぱトルコも参戦してるよなあ
    となるとアルメニアとの軍事同盟結んでるロシアはトルコと戦わなきゃならんよなあ
    NATO加盟国のトルコとよおおお

    5
      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      北大西洋条約第5条の適用地域は、「欧州若しくは北米におけるいずれかの締約国の領域、トルコの領土又は北回帰線以北の北大西洋地域におけるいずれかの締約国の管轄下にある島」なので、戦闘がアゼルバイジャン・アルメニア領内に留まる限りは大丈夫…なのだろうか?

      2
        • 匿名
        • 2020年 9月 30日

        アルメニアは「トルコがF-16を派遣したらこっちはイスカンデル使う」って宣言済みなので
        トルコに向かってブッパすることは十分考えられるのではないか?

        2
        • 匿名
        • 2020年 9月 30日

        アルメニアはトルコがF-16飛ばしてきたらこっちはイスカンデル使うぞって言ってたからなあ

        2
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    プーさんがコーカサス制圧に動くなら、必ず事前に他の係争地域との一時融和をはかる、ロシアといえど多方面作戦はしんどいからね
    また2島返還だの気前のいいリップサービスやりだしたら、それがゴーサイン

    7
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    武力衝突っていうか全面戦争一歩手前ぐらいに見えるけど気のせいだよね
    アルメニアは選択ミスったら地図から名前が消える可能性ある?

    3
      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      それをやるとアゼル、トルコの国連脱退までいく、もう一ヶ国あれば悪の枢軸だなw
      エルドアンはナチスドイツ路線の正当な後継者に認定、アルメニア大虐殺の再開はやめてくれよ

      4
    • 匿名
    • 2020年 10月 01日

    ああ、それは考えなかった。その通りかも。
    地球の裏側、アメリカにとって死活的な土地でもないところに再選前のトランプは兵を出せないね。

    1
    • 匿名
    • 2020年 10月 01日

    何が始まるんです?

    1
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