欧州関連

フランスは強制力を伴う戦時経済へ移行、最初の行政命令をMBDAに命じる予定

La Tribuneの取材に応じたフランスのルコルニュ国防相は「戦時経済を強化するため在庫保有の義務、契約の優先順位、人員・在庫・生産設備の徴発に関する政令が29日に発表された」「MBDAに十分な部品在庫を積み増すよう最初の行政命令を出す」と明かした。

参考:Sébastien Lecornu : « J’exige la constitution de stocks pour produire des munitions »

フランスの取り組みは西側諸国をリードするものと言えるだろう

フランスのマクロン大統領は2022年6月「戦時経済への移行」を産業界に要請、NexterはCaesarの納期短縮(30ヶ月間→15ヶ月間)と増産に取り組み、2024年までに月2輌だった生産量を月8輌まで引き上げ、MBDAもミストラルの生産ペースを倍増(月40発)させ、ThalesもGM200の納期短縮(18ヶ月間→6ヶ月間)に成功したが、ルコルニュ国防相はAster-15とAster-30の生産スピードについて不満を口にしていた。

ルコルニュ国防相は今年1月、Le Parisien紙とのインタビューの中で「Aster-15とAster-30は現在の私にとって最優先事項だ。この迎撃弾は紅海でフーシ派の無人機やミサイルを阻止するのに使用されており、ウクライナに提供されたSAMP/Tにも搭載されている。MBDAはAsterの生産に時間がかかり過ぎているため納期を半分にするよう要請した」と述べていたが、フランス海軍はフーシ派の攻撃阻止にAsterを22発(内6発が弾道弾迎撃に対応したAster-30)使用したため在庫状況に問題を抱えているらしい。

MBDAは納期を半分にするよう要請されているため、2023年1月に受注した9億ユーロ相当(約200発分)のAsterを2026年ではなく2024年後半に納品する必要があり、ルコルニュ国防相も26日「Asterの納期が遅れている。生産スピードに改善が見られない原因はジャスト・イン・タイムで仕事を進めたい誘惑に惑わされているためだ。企業は十分な原材料や部品の在庫を持たないことで固定化された財務リスクを負いたくないのだろう。しかし、ウクライナでの戦いを目の当たりにした後で改革を継続しないという選択肢はあり得ない」と指摘。

出典:MBDA

さらに「産業界の生産効率に改善が見られなければ権限を行使して元請け企業や下請け企業から人員、在庫、生産設備を徴発し、商業ニーズよりも防衛ニーズの契約を優先するよう強制する。MBDAの下請け企業に防衛ニーズを優先させるという考えは至極当然な話だ」と主張していたが、La Tribuneの取材に応じたフランスのルコルニュ国防相は「まもなく仏企業に部品在庫の積み増しに関する行政命令を出す」と明かした。

“仏産業界はフランス、ウクライナ、パートナーのニーズに合わせて生産を行っている。最も大きなニーズはフランスからのもので2012年から2016年の間に95億ユーロの発注を行ったが、現在は2023年だけで200億ユーロもの発注を行い納品を待っている状況だ。Asterに関して言えば2023年1月に約9億ユーロ(200発分)の発注が行われ、まもなくフランス軍向けとウクライナ支援向けの発注(200発分)が行われる予定だ”

出典:MBDA

“戦時経済を強化するため在庫保有の義務、契約の優先順位、人員・在庫・生産設備の徴発に関する政令(国防相権限)が29日に発表された。私は装備総局に対してAster生産を加速させるための措置検討を指示している。今のところ徴発の必要性は認められていないが、装備総局はMBDAに十分な部品在庫を積み増すよう最初の行政命令を出すだろう”

“MBDAはミストラルの生産効率を引き上げて生産量を倍増させることに成功した。これはMBDAの努力のおかげだ。しかしSAMP/Tで使用するAsterは紅海やキーウの安全を守るためフランスとウクライナが必要としている。さらに私はフランスが東欧諸国で多くの契約を失っていることに気がついている。武器輸出を行うためには技術、価格、外交に長けてなければならないが、納期についても長けていなければならない。生産スピードは主権をもつ仏防衛産業モデルの存続にとって死活問題だ”

出典:Ministère des Armées

フランスの取り組みを「今更か」と感じるかもしれないが、日本を含む西側諸国の対応は飽くまで「ロシアのような強制力を伴う戦時体制」ではなく「民需や労働者を犠牲にしない範囲」に留まり、その中でも仏産業界の増産に対する取り組みはトップクラスの成果を挙げ、西側諸国の中で初めて強制力を伴う増産に乗り出そうとしている。

勿論、この取り組みはウクライナ支援だけでなく仏防衛産業モデルの存続=急増するニーズへの対応が含まれたものだが、それを差し引いてもフランスの取り組みは西側諸国をリードするものと言えるだろう。

出典:Kevin.B/CC BY-SA 4.0

因みにLa Tribuneの取材に応じたルコルニュ国防相は「ウクライナに提供したSAMP/T向けにAster-30の提供準備を進めている」「遠隔操作兵器も急ピッチで開発を進めており夏までにウクライナに届ける」「2025年初頭まで数百輌の装甲車両(フランス軍で使用されている古いタイプのもの)を提供するつもりだ」とも述べており、弾道ミサイル迎撃に対応したAster-30をウクライナに提供すると初めて認めた格好だが、これ以前にもAster-30を提供していたのか、Aster-15しか提供していなかったのかは不明だ。

追記:フランスがAsterの在庫に問題を抱えているのはウクライナへのAster供給(2023年1月の契約は提供分の埋め戻し分に相当し、イタリアと共同で最大700発のAsterを調達予定)に加え、紅海での作戦が何処まで続くか分からない=Asterの消耗量が予測できないという意味も加味されるため、22発消耗しただけで在庫状況に問題を抱えている訳では無い。

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※アイキャッチ画像の出典:MBDA

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コメント

    • 古銭
    • 2024年 4月 01日

    大規模な支援なしに防衛産業界に一言伝えるだけで無理なく実現するのであればこれ程素晴らしいことはありませんね。

    11
    • 58式素人
    • 2024年 4月 01日

    ”強制力を伴う戦時体制” ですか。義務徴兵令なしで?。
    これが今時の戦争のやり方なのかな。
    日本も、国内の清掃も含めて、順番にしていかないといけないのかな。
    米国があの体たらくではなおさら・・・。
    アスター30はウクライナに必要でしょうね。射程が120kmくらいとか。
    なんと言っても、滑空爆弾の脅威を下げないといけませんから。
    F16が行くにしても、直ぐには状態の改善はないと思えるし。
    話変わって、先日他所の記事で、仏海軍の艦載ヘリがシャヘド型の
    ドローンに並走しながら、ヘリのドアガンで撃ち墜としたとのこと。
    うまくすれば、艦載SAMの節約ができますね。
    フリーゲートのヘリ甲板から運用できる超小型ジェット戦闘機(無人)が欲しくなりますね。

    5
      •  
      • 2024年 4月 01日

      個人というより企業への強制でしょう
      まずは半国営の軍需企業に利益重視のやり方を辞めさせることから始めて
      それでも足りなければ自動車工場など兵器製造に転用可能な工場とそこで働いてる工員に、本来製造していたものではなく兵器を製造させる
      赤字で作れというわけではなく相応の金額で買い取り

      個人のリスクとしては勤務場所が敵国の正当な軍事目標(兵器工場)になることでしょうか

      33
    • のー
    • 2024年 4月 01日

    純粋に対ロシア安全保障という側面もあるでしょうけど。
    ウクライナ戦で大活躍!実戦経験も豊富!
    更に有事には国を挙げて増産して対応できます!
    実績と信頼を売りに、兵器市場で儲けることも考えてるんでしょうな。

    13
    • 幽霊
    • 2024年 4月 01日

    まあ企業側からすれば余剰設備などの費用を国が負担しないから利益重視でやって来たのに今更企業のせいにされてもって思ってそうですけどね。
    今回の行政命令で政府が責任を持ってくれるので企業としても設備投資や人員確保に制限無く取り組めるでしょう。

    17
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2024年 4月 01日

    これって、生産を急がせるために掛かる費用は税金から補填するんですかね?
    補填するならするで税金の使途としてツッコまれそうだし、補填しない場合は政府による企業(株主)に対する損失の押し付けになるわけで、民主主義って何?って話になるのでは?
    直接戦争してる訳でもないのに強権発動すると政府の支持率が落ちる危険性もありそう

    14
    • XYZ
    • 2024年 4月 01日

    この点だけはロシアや中国のような政治体制の方が有利です。

    この2カ国程ではないとしても、軍需企業の株式を一定数国が持つなど対策を取る必要があるかもしれません。

    12
    • ルイ16世
    • 2024年 4月 01日

    MBDAといえばフォークランド戦争で活躍したエグゾゼミサイルのイメージ
    増産は良いですが品質は落とさないで欲しいですね

    1
    • たむごん
    • 2024年 4月 01日

    フランスは、国家が企業に介入しやすいように、一定の資本を持ってたりしますよね。

    ルノー=日産は、日本に身近な分かりやすい事例かなと。

    日本もNTTやJTなど、株式保有や役員派遣(OB天下り)、法律をセットにしてたりします。

    4
    • 名無し
    • 2024年 4月 01日

    政府が作った分だけ買い取ると約束すりゃいいのに

    1
    • nachteule
    • 2024年 4月 01日

     実質国有のネクセターに命令はまだ分かる、タレスもフランスがメインの企業だと思うし命令は出来そう。でもMBDAに命令は違和感感じるんだよな複数国に均等レベルに散らばっていて本社はイギリスだし自国に企業があるとは言え、そこかでの強制力が発揮できる物なのか?

    7
    • あるまじろ
    • 2024年 4月 01日

    ウクライナとロシアを別にしても、現状の生産能力では拙いから、これは英断だと思う。
    戦争が始まってから、生産能力の強化なんて遅いから。

    8
    • アゼルバイジャン
    • 2024年 4月 02日

    軍需なんてまず儲からない分野にはそりゃ金をかけたくはないだろうな
    何故今時戦争は儲からないと言われているのに未だに戦争は儲かると思っている人は一定数いるんだろう、最近は朝鮮特需でも実はさほど恩恵があったわけではないという評価もされるようになってるのに
    というか近代以降戦争で儲けた国なんかいるのか?いたら教えてほしいもんだ

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