英国のスナク新首相は「国防・安全保障戦略の見直しが終わるまで国防費増額を約束できない」と表明、次の総選挙で労働党が勝利すれば「国防費をGDP比2.5%まで引き上げる」という公約すら死んでしまう可能性が高いらしい。
参考:UK refuses to make defense spending commitments amid strategy review
日本は英国と次期戦闘機を共同開発する予定なので、英国の国防費や国防・安全保障戦略で策定される支出の優先順位には注目しておく必要がある
ジョンソン元首相は今年6月「10年後までに国防費をGDP比2.5%へ増額する」と発表したものの「少なすぎるし遅すぎる」と批判を受けたため、後任のトラス首相は「2030年までに国防費をGDP比3.0%に増額する」と約束、これを受けてウォレス国防相は「2030年の国防費が1,000億ポンド=15.4兆円に達する」と明かしたが、短命に終わったトラス首相の後を引き継いだスナク新首相は「国防・安全保障戦略の見直しが終わるまで国防費増額を約束できない」という立場を表明した。
ジョンソン首相は「後退の時代」と終わらせると宣言して新たな国防・安全保障戦略を昨年3月に発表、主な変更点はレガシーな領域の戦力(主に陸軍)を削減→宇宙やサイバーといった新領域への投資を増やすというものだったのだが、ウクライナで発生した通常戦力同士による対称戦を目の当たりにして「通常戦が欧州で発生する可能性」「高密度の対称戦が色あせていない現実」「火力と兵站こそが最も重要」と認識、再び国防・安全保障戦略の見直しに取り掛かっている最中だ。
今回の見直しは昨年発表の国防・安全保障戦略を0ベースで見直すのではなく、新領域への対応を維持しつつ「レガシーな領域の戦力削減」を見直すことが目的で「F-35Bの調達数(当初予定は138機)が犠牲になる」との見方が強い。
調達打ち切りが噂されていたF-35Bについてジョンソン首相が発表した国防・安全保障戦略は「48機以上に成長させる」と言及、最終的な調達数は事実上2025年に予定されている国防・安全保障戦略の見直しに先送りされたと解釈されていたが、今回の見直しでF-35Bの調達数は70機~72機で打ち切られ「削減された陸軍に何らかの手当を行う可能性が高い」と予想されており、海軍については安泰=大きな変更はないだろう関係者が述べている。
因みにスナク新首相は「医療と教育を優遇して国防費をGDP比2.0%に据え置いた予算案」を議会に提出した点で、エネルギー価格の高騰で英国のGDPは減少する可能性が高く、2023年もウクライナに2022年と同額(11月時点で23億ポンド=約3,800億円)の武器支援を国防費から支出すると約束しており、11%に及ぶインフレ率への配慮がなければ国防費は確実の縮小してしまうだろう。
さらに2025年に予定されている総選挙で労働党が勝利すれば「国防費をGDP比2.5%まで引き上げる」というジョンソン元首相の公約すら死んでしまう可能性が高いらしい。
日本は英国と次期戦闘機を共同開発する予定なので、英国の国防費や国防・安全保障戦略で策定される支出の優先順位には注目しておく必要がある。
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※アイキャッチ画像の出典:Rishi Sunak
しばらくは、兵器開発競争より備蓄が優先されるのが軍事トレンドになりそう。
機体調達も備蓄なので・・・
予備機の多さは継戦能力の高さを担保するための手段ですから
全138機の予定が既定の48機から72機程度でF-35の調達が終了してしまうと、タイフーントランシェ1も退役だしイギリス空軍が現在の小規模なままで行くことに。未契約分の90機をF-35BからF-35Aに転換する噂も出ていたがそれも無しになったのだろうか
逆を言うと、つい昨日報じられた英・伊・日によるテンペスト開発計画が削減されるタイフーンとF-35Bの代替と見做される可能性が有るので、今後の成り行きを見ないと分からないですね
尤も、下手にF-35Bの調達を終了したら米国が「削減分のキャンセル料を払え!」とか言い出して、更にグダグダな事になりそうな予感がします
英国は138機のF-35Bを予定=米国と合意しているだけで契約を締結している訳ではありません。英国は段階的にF-35Bの発注契約(現状48機分まで)を締結しているので調達計画を打ち切っても違約金は発生しないと思いますよ。
一括で契約するほうが調達コストで有利かもしれませんが、10年先の方針や環境が変わっている可能性もあるので段階的な契約締結が主流です。
そもそも米軍ですら3ロット単位のBlockBuyで契約を締結(これから2023年~2025年分の契約を締結する予定)しているので、最悪残りのF-35調達計画を中止しても契約キャンセルしたことにはならないと思いますよ。
成程、そう言う事でしたか。
御指摘有難う御座います。
ロット単位も元金均等で価格請求されている場合があるので、
調達数を削減した場合は、初期に調達分は、発生した差額を請求される可能性はありますけれどね
少なくともクイーン・エリザベス級用のF-35Bは調達しないと、イギリスは海外領土の維持さえ難しくなるのですが。
F-35Bも揃えられないなら、EUに再加盟してヨーロッパの一部になるしかないぞ。
F-35Bの前任機だったシーハリアーFA.2の製造数が合計53機(試作機2機、新造機18機、FRS.1からの改修機33機)で3隻のインビンシブル級に配備していた事を考えると、仮に英国向けF-35Bの調達数を契約済みの48機で打ち切ったとしてもクイーン・エリザベス級2隻に配備する分は確保出来ていると思いますよ
色々と理由があるかと思いますが、優先順位をつけられる余裕がある所
イギリス自体の安全保障は切羽詰まってない感じが伝わってきます。
切羽詰まってくると日本やポーランドみたいになるかと思いますし。
イギリスは日本やポーランドと違って最前線に位置していないから切羽詰まっていないと思います。
イギリスと日本の危機感の差が今後問題にならなければ良いのですが。
自分はこの記事内容には反対の意見をもっていますね。
根拠としては、まずスナクの支持は労働党でも右派を中心とした支持母体であること。
当然ここは国防費の増額を強く推しているところですし、特に閣僚として留任させたウォレスは2.5%どころか3%を主張していますからね。
2つ目の根拠は、スナクは岩盤支持層を全く持たないという点。
はっきり言ってしまうと、党内でも一匹狼タイプで、
個人としても強い支持を国民から持たず、「Rishi Rich」(鼻持ちならないぼっちの金持ち野郎)と侮蔑を持って迎えられている点。
内閣の維持に、与党からの支持に大きく依存している形になっているため、
与党主張から逸脱するような政策を強行した場合、トラスとおなじように内閣はあっという間に崩壊する危険性がつきまといます。
その中で、国民や与党からの支持が強い、国防費の増額を行わない、ということが果たしてできるのかどうか。
労働党が次の選挙で勝利した場合は、むしろスナクを引きずり下ろそうという動きが強くなる可能性も十分ありえるかと
レガシー戦力の
『タイフーンの次』というかステルス機の保有も
ボタン押し間違えました。無視してください
レガシーな地上戦力の再編もさることながら、第6世代機やロイヤルウイングマンなどの無人機の保有なんかの予算は優先的にならざるを得ない気もするが、それであおりを食らうのがステルス機のF-35Bというのもなあ。72機だとクィーンエリザベスとウェールズの定数を満たす数しか買わないということだろうし。(両艦の平時の搭載機数は40機)
アイキャッチ画像。スナク首相のデスク上にコーラ缶あって面白い
F-Xとテンペストの共同事業が軌道に乗り始める時に、更なる新型機開発計画が立ちあがって「シン・新型機を優先してテンペストは縮小するわ」なんて事になりませんように
十分あり得る話だね。モスキートのようにより低コストな機体にするために中止する可能性さえある。その時は日本も中止するしかないだろうなぁ。
こうなると思った。
BBCのニュース見てると国民が歯医者に行けない(公的医療保険の診療報酬が安すぎて歯医者が契約してくれない)とか、ガス代払うために家財を売ったとか貧乏な話ばっかり。
冷戦終結後に世界中で軍縮が起こった例から見ても、
ウクライナ戦争でロシアの軍と経済が壊滅したら誰と戦うのかという話になって軍拡の熱は一気に冷めると思う。
そのスキを突いてやりたい放題し始めるのがPRCでしょうね…