英国のスナク首相は12日「ロシアと中国の脅威に立ち向かうため国防予算を50億ポンド増やす」と発表、ウォレス国防相は最低でも110億ポンド(約1.7兆円)の追加資金を要求していたため国内では失望感が広がっている。
参考:Rishi Sunak will increase military spend by £5bn to ‘fortify’ UK defences
参考:Defence spending to get £5 billion boost over the next two years
2年間で50億ポンドという額は本当に馬鹿げており、本当ならその3倍は必要だとダナット元参謀総長は述べている
英国は2021年発表の国防政策見直しに基づき陸軍の定数や装備を削減、浮いた予算を海空や新領域の戦力整備に投資する計画だったのだが、国防費をGDP比2.5%に増額すると約束したジョンソン首相が倒れ、GDP比3.0%に増額すると約束(首相選時)したトラス首相も大型減税計画が市場に大混乱を招き退陣、この後を引き継いだスナク首相は「指示した国防政策の見直しが終わるまで国防費増額を約束できない」と表明。
この間にドイツ(1,000億ユーロ=約14兆円の軍再生基金の創設)やフランス(今後7年間で4,000億ユーロ=約57兆円の予算を要求)は大規模な国防予算の増額を発表、将来の方針が定まらないまま陸上装備や弾薬をウクライナに提供している英国では「陸軍の弱体化」や「即応性の低下」が懸念されている。
ウクライナ侵攻を通して浮き彫りになった英国軍の問題には「数日の戦いで使い果たす弾薬備蓄の不足」「ウクライナが直面しているミサイル・ドローン攻撃に対応した防空能力の欠如」「3万人規模の諸兵科連合部隊を編成するのに5年~10年かかる即応性の低さ」「即応部隊の約30%がNATOの初動基準を満たさない予備兵力で構成されている慢性的な戦力不足」「30年前~60年前に製造された陸上装備に依存した陸軍戦力の構造的な脆弱性」などが挙げられ、ウクライナに提供した大量の装備・弾薬を埋め戻す具体的な予算措置も計画も未定のままだ。
そのためウォレス国防相は最低でも110億ポンド(約1.7兆円)の追加資金を要求、これに抵抗するスナク首相について国防当局者は「戦時のリーダーではなく(ウクライナ侵攻が引き起こした安全保障の問題が)消えてなくなることを望んでいるだけだ」と述べていた。
国防当局者は「慢性的な人員不足を解消するのに必要な新兵の訓練も装備も資金不足で、軍の在庫には弾薬やスペアパーツのない旧式の武器や装備が積まれているだけだ。軍の再建に必要な資金は医療や福祉などの支出と比べれば僅かな額で、これは財源の問題ではなく政府の選択の問題だ」と訴えていたが、英国のスナク首相は12日「ロシアと中国の脅威に立ち向かうため国防予算を2年間で50億ポンド増やす。内30億ポンド以上が豪州向け原潜を含む核兵器技術に投資され、19億ポンドがウクライナに提供した装備・弾薬の埋戻しに使用される」と発表。
長期的な国防予算の引き上げ規模についても「2025年までにGDP2.25%」「2030年までに2.50%」になると報じられており、トラス首相が約束した「3.0%」から大きく後退したため国内では失望感が広がっている。
英陸軍のダナット元参謀総長は「ウクライナに提供した装備・弾薬の埋戻しに資金を投資するのは正しい選択だが、陸上戦力への投資を増やすことに何も言及しなかった。2年間で50億ポンドという額は本当に馬鹿げており、本当ならその3倍は必要だ。これでは陸上戦力への投資は全く期待できない。これでは復活したロシアに立ち向かうことはできない。これは欧州の安全保障にとって非常に危険なシグナルで手遅れになるまで再軍備を拒否した1930年代を彷彿とさせる」と批判。
国防委員会のエルウッド委員長も「我が国の安全保障は増大する脅威に対して既に対応出来ておらず、ロシアと中国は次の10年に備えるチャンスを逃した我々を見て安心しているだろう」と、影の国防相を務めるヒーリー議員(労働党)も「今回の発表は国防能力を弱体化させもので、NATOにおける英国の能力格差を埋めるものではない」と述べており、国防当局者が事前に予想していた通り「現政権の安全保障に対する言及は口先だけのスローガンに過ぎなかった」といった雰囲気だ。
因みにスナク首相は米サンディエゴで米豪首脳と会談中で、まもなく豪州の原潜導入に関する合意とロードマップが発表される予定だ。
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※アイキャッチ画像の出典:UK Ministry of Defence
このbりかすの「クチは出すけどカネは出さない」姿勢が、三枚舌外交とかの無理がある火計に繋がってるんだよなあ。
まあ要するにスナク首相個人としては、早くウクライナ、ゼレンスキ―大統領にロシアと停戦交渉して、さっさと停戦して欲しいと思っている、みたいにも見えますね。
もともとは強硬派のボリス・ジョンソン元・首相と、ウォレス国防相が中心に進めていたウクライナ支援ということで、スナク首相はあまり関係なかったのでしょうか。
特に白人でないインド系移民のスナク首相としては、非・白人の移民に対する福祉、社会保障が選挙民から期待されているでしょうから、何が何でも軍事最優先というわけにもいかないでしょう。そもそもイギリスはEUから脱退して経済的にも苦境にある、経済規模が縮小しています。いくら足りないと言われても
「ない袖は振れぬ」
というわけです。
むしろ防衛費増削ってグローバルサウスへの借款増やすとか言い出しそうですね。
>「数日の戦いで使い果たす弾薬備蓄の不足」
>「ウクライナが直面しているミサイル・ドローン攻撃に対応した防空能力の欠如」
>「3万人規模の諸兵科連合部隊を編成するのに5年~10年かかる即応性の低さ」
>「即応部隊の約30%がNATOの初動基準を満たさない予備兵力で構成されている慢性的な戦力不足」
>「30年前~60年前に製造された陸上装備に依存した陸軍戦力の構造的な脆弱性」
日本も他人事じゃない感がありますねえ
軍側で将来の戦力計画を出し終わる前に、国家財政の裏付けも出来上がってない時期に投資規模だけ決めてしまう事に躊躇するのはある程度仕方ない気もします。この後追加で投資をしないとは言ってないですし。
英軍の要求事項は陸軍の戦闘能力の底上げには熱心ですが、海軍や空軍との戦術的な連携、全体のフォースデザインはあまり見えてこないです。香港撤退やライン軍団解散から30年経て英軍の海外展開能力はQE級を中核にする海軍空母機動部隊が英本土から送れる戦力両に制約されていますから、英国の軍事プレゼンスや海外展開能力を語る上で海軍や空軍を抜きに改革することは不可能でしょう。空軍は次世代戦闘機、海軍は原潜艦隊更新などの大出費も控えてますし、軍を改革しようと思ったら数年はかけなきゃ厳しいと思いますよ。
財政の裏付けを待っていたら、装備調達ができないって問題がある。
日本含め各国が財政裏付けを付ける前に、防衛予算規模を先んじて打ち出したのは、
防衛産業に対して、将来の国内需要がこれだけあると予測させるため。
当然企業はその需要に見合った投資を行う。
投資しなけりゃ装備調達の速度は上がらないし、遅れれば、需要が跳ね上がったことにより他国との長い行列にならぶことになる。
石破や野党が、財政根拠がないから「予算ありきだ」って否定していたけれど、
予算をぶち上げたのは正解なんだよ。
でなければ間に合わなかった
イギリス軍と言えば金が無い。
金が無いと言えばイギリス軍。
結構前からこんな調子。
結局は国家の基礎体力を上げるしか無いわけで・・・。
今後イギリスが再びハッスルする事ってあるんやろか?
構造的不況に陥ってるように見えるが。
増加予算の3/5が核関連だから、イギリス軍 金は無くても核がある
あるいは、核があるから金がない ともいえるのかも。
その金にトドメを刺したのはクイーン・エリザベス級航空母艦^ ^水漏れもするし
「あれ?俺何かやっちゃいました?」
軽(?)空母のP・O・Wを有償で日本へ譲ってもらってはどうでしょう。
足が遅いのと、発電力が不足気味に思えるのと、
例の漏水は日本で対策するということにして。
そうすれば、少し余裕ができたりするのかな。
イギリス軍は陸軍を含めて外征軍だから、空母戦力は遠征軍の根幹となるので必須だろうと
少なくともNATO(≒米軍)の枠を超えて、フォークランドや極東まで手を延ばすならばね
それをしないのであれば(=核武装しての本国だけ自衛のみ)、英連邦は崩壊しますよ
>影の国防相を務めるヒーリー議員(労働党)も「今回の発表は国防能力を弱体化させもので、NATOにおける英国の能力格差を埋めるものではない」と述べており
それでも野党がちゃんとリアリズム思考の姿勢をとっているのは、どこかの国と比べると羨ましい限りですなあ・・
どこかの国の野党も、似たような口出しはしていますよ
与党の政策にケチつけるだけならただ(増備に繋がらない)ですので…
グランドツアーやTopGearの準レギュラーの任務は大丈夫か?
ぶっちゃけヨーロッパ全体に実力がない
アメリカの支援抜きだととっくにロシアがウクライナ抜いててもおかしくないだろ
経済規模的にヨーロッパ全体でアメリカと同等レベルの軍事力、支援がないとおかしいのに
ヨーロッパモデルを先進的だと思ってる大多数の日本人はこの体たらくが見えていないようだが
国家戦略上仕方がいとはいえ原潜・空母やSLBMを含めた艦隊の維持費が凄いだけに、陸軍が特に割を食ってしまいますね。
EU脱退による経済の停滞もありますし、上手く妥協案を見つけて対露に備えたやりくりをしてほしですね。
特にイギリスは、北極海でロシア原潜と戦わなければ行けないからね。
しかも冬となれば流氷下での活動が必須になるから、
潜水時間の制限がない原潜じゃなければ、まともに活動できない
ウクライナ問題で強硬な発言目立つスナク首相。ヨーロッパ同士でもっと好きにころしあえとばかりに枷外してアクセル踏むかと思えば抑制利かすのは意外。
軍備による直接戦争参加ではなく日清戦争にやったように、徒党を組み第三国に戦争を嗾けてどさくさに金融相場操作して戦争当事国の賠償金よりも莫大な金融利益を懐に入れる路線かね。国防予算は増えずとも情報工作予算の増額に注目したい