ロイターは9日「2030年前半にオーストラリアは最大5隻のバージニア級原潜を購入する予定で、英国の設計と米国の技術で独自の新型原潜を2030年代後半に建造する」と報じており、この合意は13日にサンディエゴで発表される可能性がある。
参考:Exclusive: Australia expected to buy up to 5 Virginia class submarines as part of AUKUS
因みに米議会は海軍の需要すら満たせない米造船業界の能力を理由に「バージニア級原潜の豪州提供」に反対している
米国のバイデン大統領は来週の13日、サンディエゴで英国のスナク首相とオーストラリアのアルバニージー首相と会談する予定で「豪原潜導入に関するロードマップの発表が行われる」と予想されており、英タブロイド紙は「スナク首相が原潜建造に関するオーストラリアとの合意(アスチュート級を英国で建造するというもの)を発表する」と報じていたが、ロイターは米政府関係者の話を引用して「2030年代にオーストラリアが最大5隻のバージニア級原潜を購入する見込みだ」と報じている。

出典:LA(phot) Mez Merrill/MOD
AUKUS協定の一貫として米海軍の原潜が今後豪州に寄港(最低でも年間1隻以上)、2027年頃までに西オーストラリアに何隻かの原潜を前方配備、このようなプロセスを経て2030年代前半にオーストラリアはバージニア級原潜を3隻購入、さらに2隻の追加購入オプション(行使するかどうかは2030年代の状況と豪州の決断次第)をもつことになり、最終的には英国の設計と米国の技術で独自の新型原潜を2030年代後半に建造するらしい。
この新型原潜をどこで建造するのかについて米政府関係者は詳細を提供しなかったが、オーストラリアで建造される可能性が高く、ロイターは「豪州の原潜調達を通じて米国、英国、豪州の3ヶ国で新たな雇用の創設が見込まれる」と付け加えている。

出典:U.S. Navy photo courtesy of Newport News Shipbuilding/Released
因みに米議会は海軍の需要すら満たせない米造船業界の能力を理由に「バージニア級原潜の豪州提供」に反対しており、シーパワー・戦力投射小委員会(下院軍事委員会)のロブ・ウイットマン議員は「豪州が独自に原潜を建造できるようになるまで米国がロサンゼルス級かバージニア級を提供すればいいという話もあるが、米国の原潜建造に余裕はないので絶対にあり得ない」と主張、さらに上院軍事委員会のジャック・リード議員とジム・インホフ議員はバイデン大統領に宛てた書簡の中で「米英豪の安全保障協定(AUKUS)が米原潜戦力をリスクに晒さす危険がある」と訴えていた。
果たしてロイターが報じた通りの内容が13日に発表されるのか注目される。
関連記事:豪州と英国が原潜建造で合意? 英国内でアスチュート級を建造して提供?
関連記事:米海軍の不満が爆発、発注したバージニア級原潜は何処に消えたのか?
関連記事:米上院軍事委員会、バージニア級の豪州提供を止めるよう大統領に要請
関連記事:米国防長官、オーストラリアの潜水艦能力にギャップを生じさせないと約束
※アイキャッチ画像の出典:Public Domain USS Montana
「国産」「納期」「米海軍系システム」というそれぞれ矛盾する条件を全部無難に両立させたのは正直凄いと思いました。30年代に国内建造されるという原潜は英海軍向けの次期攻撃型原潜プログラム(アステュート級の次)に乗っかる事を意図しているようにも思えますよね。豪州海軍の情報通信や指揮統制は米海軍式なので英海軍用の原潜をそのまま使う事は(少なくとも豪州はその部分の変化を受け入れる気はなさそうなので)できませんが、共同開発の体裁で米海軍互換型を作ってもらうというのは賢い方法だと思います。少なくとも0から新規開発するよりは堅実です。
気になるのはやはり米国が27年以降に豪州に展開させるバージニア級をどこから引き抜いてくるか、そして30年代前半に豪州に引き渡される3~5隻の原潜を捻出する余裕が米海軍にあるかですよね。配備先と目されている豪州西部から南シナ海までは5,000kmも離れており、豪州に「前方展開」する米海軍バージニア級も豪州海軍に提供される同級も対中国への寄与という点では必ずしも有効な位置を占めません。南シナ海を比べるならパースから行くより横須賀から行くほうがまだ近いのです。バージニアはある程度の長駆は可能ですが、それでも洋上展開には時間的制約がありマラッカやミャンマー沿岸などの要衝を抑えるための母港としても最善とは言えないほど後方です。
加えてこれは豪州内の問題ですが、最終的に何席の原潜を調達する予定なのかというのも重要になるでしょう。30年代後半に原潜を国内建造する訳ですが、それ以前にバージニア級を購入してしまうという事は、複数の艦種が混在するうえ建造するSSNが減る事を意味します。バージニア級の技術継承は行われる見込みなので整備も国内で行えるとして、技術系統が全く異なる2機種の原潜を少数ずつ採用するという体制はパフォーマンスを妨げるでしょう(購入したバージニア級を米海軍が下取りしてくれるなら話は別ですが)。この条件で仮に現行の潜水艦6隻体制が維持された場合、国内建造する潜水艦は3隻にしかなりません。数年おきの整備もあるので建造後に仕事が全くなくなる訳ではありませんが、少数生産が建造ノウハウの維持や艦艇運用基盤と相性が良くない事はコリンズ級や水上艦で経験してきたことです。さりとて劇的に調達数を増やす事は費用面の負担から簡単ではなく、難しいのはむしろこの先からじゃないかなと思いました。
バージニア級の技術継承
原子炉と推進機まわりは英にも限定的かつ古めのやつを流してると言われてる位なので
何を何処まで渡すかは興味深い所です
(豪に提供するころには1世代になってるという見込みかもしれませんが)
あとは核物質・技術の移転についてのIAEAの保障措置や各国間における原子力協定なり改廃をどうするのかが大変気になります
日本の原潜保有訴える方々がこの辺どうするのかちゃんと深堀した議論みたことないので・・・
結局オーストラリア建造ですか。
先が遠いような気がするなあ。蜃気楼のような、妖精さんのような。
コリンズ後継艦が「こんな潜水艦見たことがない。w」とか揶揄されないことをお祈りします。
いや、結局と決めるのまだ早いな。
当の米軍関係者が他国分とかムリじゃね?って匙投げかけてるんでこれも頓挫する可能性がかなり大きい。
コリンズ後継どころか潜水艦ゼロも有り得る。
建造前から漂流するほどの凄いフネだからどう転んでも驚かなくなってる。
けど米海軍が折れて枠を豪に譲る以外には無理じゃないのだろうか。
どうにもやりようがなくなって話題自体出なくなる「サイレントフリート」になったりして。
原潜のライセンス国産なんてウルトラCキメるのがありならまあそれに越したことないわな
本邦が導入する際の参考事例になるかなと思うけど、米国の造船キャパシティにこれ以上余裕がないなら最初から自力で建造するしかないだろうか
雨も人が足りないから、オージーの溶接工の研修役が回ってきたりして。
2030年代前半にオーストラリアが3~5隻のバージニア級原潜を入手できるかは、向こう5年ほどの間に米国が艦船造修能力をどれだけ整備拡大できるかでしょうね。現状ではダメダメなんで、その計画があるのか否か。
そして、2030年代後半に豪英米共同開発原潜を豪州国内建造が可能かは、向こう10年ほどの間にに豪州が原潜建造能力を獲得できるかにかかっている。
どちらも絶対無理とは思いませんが、最大限の努力が必要なのは確かでしょう。
現状の世界情勢を見るに全力で兵器生産能力を引き上げるでしょうから、そこまで見越した決定ではないでしょうか?
時間的猶予はあるスケジュールみたいなので、バージニア級の建造速度を加速させてロス級をオーストラリアに一時的に貸し与える そして本命イギリス生産の新造艦をオーストラリアが購入って流れな気がしますけどね
原子炉が含まれるからアメリカ・イギリス供与どちらにしろFMSになるのではないかと予想
オーストラリア軍の希望は最初から明らかにヴァージニア級と思われる要求しか出してなかったのに原潜などありえないと謳ってた識者がどんな顔で過ごしてるのか多少気になる
20年代はコリンズで頑張るのか…
米原潜が配備されるから問題ないって整理なんかね
米国あるいは英国での先行しての建造は、両国の余裕次第でしょう。
以前、ここの記事のコメントで、どなたかが、米国の建造施設の増設について書かれていましたが、
そのコメント通りに進むならば、それが解答なのでしょうか。
豪州では、ASCがダメダメな状況のようですから、ひょっとしたら海軍工廠を新設するのでしょうか。
原子炉の製造とメンテをも担当する(?)から、ある意味、機密を扱うことになるのでしょうから。
軍人あるいは軍属として宣誓済みの人たちが必要な気がします。
豪州が原潜保有する頃には、米中冷戦はもう収束しているのではw
「2027年までに台湾危機」説がある様に、戦略三文書でも日本の原潜保有案が全く出て来なかったのは、
「今次危機にはもう間に合わない」という、判断からなのかも知れないね