欧州諸国は「高度な防空システムによる接近拒否」が成立したため砲兵戦力への投資が活発で、ロッキードとラインメタルはHIMARSベースの「GMARS開発」を発表したが、エルビットとKNDSも「PULSベースのEuroPULS生産で合意した」と発表した。
参考:KNDS, Israel’s Elbit to produce European rocket artillery kit
これまで参入が難しかった国が欧州市場に進出するチャンスとも言えるので「非常に面白い状況」といえる
欧州ではロシア軍によるウクライナ侵攻を受けて「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識、そのため航空戦力に依存した火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、伝統的な榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムなどが再評価されている。
特に地上発射型の長距離攻撃兵器は「接近拒否が成立した戦場」で必要不可欠な攻撃手段と認識されており、エストニア、ラトビア、リトアニアはウクライナで活躍したHIMARS(ロケット弾を6発装填するポッドを1基搭載)導入を決定したが、欧州の主要国は輸送性や機動性よりも「火力」を重視しているため、ンマークとオランダはPULSを、ポーランドはHIMARSに加えてChunmooを選択、スペインもHIMARSではなくPULS、Chunmoo、AstrosIIを検討中で、M270と同じ「ロケット弾ポッド」を2基搭載できる装輪式の多連装ロケットシステムが人気だ。
そのためロッキード・マーティンとラインメタルは6月「HIMARSランチャー」と「ドイツ製コンポーネント」を統合したGMARSの開発で合意、GMARSはM270やHIMARSで使用されるロケット弾ポッドを2基搭載できる仕様=市場で競合するPULS、Chunmoo、MBRL、AstrosIIと同じ火力投射量を確保でき、ドイツ陸軍のMARS2(M270A1)更新需要を含む欧州諸国への売り込みが予定されていたが、ここに新たな挑戦者が登場した。
英国で開幕したDSEIでエルビットとKNDSは「EuroPULSの共同生産で合意した」と発表、EuroPULSはPULSのロケット弾ポッド、Iveco製の8×8車輌、KNDS製の射撃管制システムを統合したもので「欧州で製造される多連装ロケットシステム=導入への投資が欧州の雇用に貢献するという意味」といった位置づけだが、GMARSと比較すると多用途性に大きな差があるため、EuroPULSは「地上発射型兵器のマルチランチャーシステム」と呼ぶのが相応しい。
EuroPULSが採用するロケット弾ポッドはPULS向けのロケット弾(40km~150km)、巡航ミサイル(250km)、弾道ミサイル(300km)に加え、MBDAが開発中のJFS-M(地対地巡航ミサイル/射程300km以上)、コングスベルグ製のNSM(地対艦ミサイル/射程250km)、エルビット製のSkyStriker(徘徊型弾薬/5kg弾頭を搭載した場合の滞空時間は2時間)、ロッキード・マーティン製のGMLRSやGMLRS-ER、対戦車地雷の散布にも対応する予定だ。
但し、対応する兵器が多くなれば統合コストが嵩む=調達コストが上昇するため「潜在的な顧客」がEuroPULSのコンセプトを支持するかは謎(弾薬を複数の生産国から調達できるという点は有事において利点でもある)だが、欧州諸国では艦艇向けにNSM導入が相次いでいるため「EuroPULS導入でNSMを地上発射型に転用できる」という点は魅力的に映るかもしれない。
因みに欧州諸国が伝統的な榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムによる火力投射に回帰しているため、この分野への投資は今後拡大していく可能性が高く、これまで参入が難しかった国が欧州市場に進出するチャンスとも言えるので「非常に面白い状況」といえるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Elbit Systems
戦場の女神
「崇めてよいよいよい」(残響音含む)
※高度な防空システムによる接近拒否
「七都市物語」とか「マブラブオルタナティブ」の世界がまさか現実になろうとは。あちらは高性能レーザー兵器のせいで低空しか飛べなくなったという設定だが、低空は低空で携帯型ミサイルの脅威があるし。航空機には「高見の見物」ができるという絶対的な利点があるため、長距離センサーとしての活用か巡航ミサイル発射母機みたいになりそう。最近のロシア軍も自由落下爆弾を使用してないみたいだし、航空機による接近戦は自殺行為なのかもしれない。
マブラヴオルタネイティブに出てくるレーザー級も対空用のレーザー兵器として日本を含めさまざまな国で開発/配備されつつありますしね…
瞬間火力が重視(砲兵火力が重視)されると言うことは、弾薬備蓄が重要になります。
とんでもない量の弾薬が、消費されます。
日本は、1.2週間分しかないため、早急に備蓄増加や分散備蓄など、ここから解決して欲しいですね。
日本軍は、日清戦争〜第二次世界大戦まで、常に弾薬不足を現場の努力(前線歩兵)に押し付けてきました(ロジスティックスの問題もあります)
弾薬備蓄は、今の方が酷いため、自衛隊の方々の負担を軽くして欲しいですね。
> 日本軍は、日清戦争〜第二次世界大戦まで、常に弾薬不足を現場の努力(前線歩兵)に押し付けてきました
第二次世界大戦頃の日本軍の重砲に関しては弾薬不足以前に砲そのものの生産数が他国に比べ1桁少ないんですよ。
勉強になります。
擲弾筒が、足りない砲兵や迫撃砲の代わりに、前線火力の代替として活躍した理由なのでしょうか。
擲弾筒に近いのは他国で言えば口径50mm〜60mmの小型迫撃砲でしょうか
それでも射程、弾頭の殺傷範囲、発射速度では迫撃砲に幾分見劣りします
それ以上の火砲になると差があり過ぎ代替できません
では日本軍が砲火力を何で補おうとしたかと言うと、攻勢時にはおっしゃる通り歩兵による迂回・突破・包囲で、防御時には砲撃に耐えられる強固な防御陣地の構築だと思います
弾薬備蓄なんて法律が絡むかそうでなければとんでもない僻地を金をかけて整備する位しかないから国民の負担無しには成立しない話だと思うがな。
理想ならアクセスが良い所に大型の備蓄施設作りたい所だが当然面積当たりの上限決まっているし爆発した時の対策も過剰レベルで必要になるんだし国防の為に納得する人がどれ位いるだろうか。
増やすのはまだ簡単がだが後の補完を考えてないなら正直、片手落ちとしか。
対艦ミサイルはロシア海軍どこ?って感じですけど使い道あるのかな
対艦ミサイルがあるってのが抑止力になるから大事なのか
なんかもう最近の「空母いぶき」が現実のロシアと乖離しすぎて、イタタ度がいっそうマシマシに。
強くし過ぎた、と嘆く声も出てるとかいいますね。まぁ弱過ぎても話が盛り上がらないし、その辺りの匙加減は悩ましいところだとは思います。
なんで中国の後にロシアと戦うんだろう…
そもそも、EUは各国平等が基本のはずなのに、主要国のゴリ押しが続出し、結果EU外の兵器を採用した方がモメないという矛盾が生じた
アメリカの能力が圧倒的で、NATOとEUの優先順位問題もある
性能はともかく政治的、コスト的に信用がない
日本はどうするつもりかな。
遠戦火力が無くなりつつある様だし。
できれば、MLRSの退役を止めて欲しいのですが。
仰る通りですよ。
本当に、もったいないですよね…。
このタイミングで、退役が止まらない意図が、よく分かりません。
まぁ、自衛隊が1番大事なのは「訓練計画」だからね。一度決めた計画を現実に合わせて修正するなんて無理なのよ。
主戦場である島嶼防衛には帯に短したすきに長しだからじゃないか?
火力は高いけど、現状単弾頭のM31しか運用できないし、射程も沖縄の島から島へ撃てるほど長く無い(榴弾砲として見れば十分だけど戦略機動性が…)。
結局防衛省の答えとしてはJASSM-ER・極超音速誘導弾・高速滑空弾の高密度EFPで遠距離からタコ殴りにするのがベターという事だろう。
空白だとC-2でしか空輸できないMLRSより、12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型を南西諸島に配備することを優先すべきではないでしょうか。もしくはMLRSは輸送艦/揚陸艦に載せて艦上発射で補助火力にするとか。
MLRSを所有しているだけでも、維持費と運用人員、弾薬の保管などを拘束されるわけだし、その分を地対艦ミサイルとかに振り替えるのでは?
戦車不要論までを言うつもりはないが、国内でMLRSを使う時って、すでに制空権、制海権がやられて、中国の揚陸艦が横付けしている時だと思う。
それよりは、地対艦ミサイル、地対空ミサイル、ゲリラ対策とかの方がまだ、使う可能性があると考えているのでは?
人員が限られているので、本土決戦兵器は優先度が下がっているのだと感じる。
敵国の揚陸艦がやってきても、
そこで正規戦が終わるわけっではないでしょう。
また、揚陸艦そのものに対する攻撃でMLRSが
使えないわけでもないでしょう。
M31弾頭にGPS以外の誘導装置を付ければ良いだけのことで、
これは難しくはないでしょう。
仮に、揚陸艦に対しMLRSの12発のロケットのうち1発が
命中したでけでも、その揚陸艦にとって壊滅的な打撃でしょう。
西南諸島の島嶼戦に使わないならば、仕舞っておけば良いでしょう。
必要になってから再度調達するのは困難でしょう。
素人はそう思います。
仕舞っておくのもタダじゃない、と書いてある様に見えますし自分も同意見です。
M31弾頭にGPS以外の誘導装置を付けるのも難しくはなくてもこれまたタダではありません。
揚陸艦に12発のロケットのうち1発が当たればタダでは済まないかもしれませんが、その12発を50kmも離れてない地点(おそらくは同じ島内)から撃ったMLRSはタダで済むんでしょうか。
世界的に再び脚光を浴びつつあるからといって別に日本で使い易くなる訳でもないので、退役自体は仕方ないかと。
ただ捨てるには惜しいので何とかしれっと海の向こうに送れないものか、とは思いますが。
なるほどですね。
近々起こるかもしれない、南西諸島の島嶼戦ではそうでしょう。
思うのですが、島嶼戦が勝ちとは決まっていないでしょう。
考えるのは嫌ですが、沖縄本島においてはどうでしょうか。
沖縄上陸作戦の再来ですね。相手は中共でしょうが。
こういう場合は十分に使い道があると想像します。
もちろん、こんなことが起こるのは、米軍が手を引き、
海上自衛隊が大被害を受けてしまった場合と思いますが
確かに沖縄本島とその周辺の群島、奄美大島、あるいは宮古-西表島周辺での攻防戦なんかでは使い所があるかもしれませんがC-2でしか運べないMLRSを「事が起きてからそこに持ち込む」のはなかなか難しいでしょうし、当然撤退もできません。
10式や16式やその脇を固める「そこにいなくちゃいけない」「そこにいる事に価値がある」車両ならそんな背水の陣染みたリスクを背負う意味もあるでしょうが、MLRSの様な小回りの効かない大型間接射撃ユニットが無理して現地にいる必要がありますかね?(もちろんクラスター弾を使えたならメリットが跳ね上がるので損得勘定がかなり変わってきますが)
それより「島外の長射程兵器」と、現地は中多(+チヌーク)辺りに任せた方が良さそうに思えます。
そんな訳で「即刻廃棄すべし!」とまでは言いませんが「MLRSの退役を止めて欲しい」には同意できず、防衛省が用廃するというならそっちを支持しますね。
しつこい様ですが「廃棄」は米軍にお任せして。
結局、そういう事なのよね。
バーナーキングさんが、分かりやすく言ってくれたけど。
敵(中露北)が嫌がるものを考えると、MLRS・ヘリ・迫撃砲よりも、地対艦ミサイル、地対空ミサイル、ドローン だと思う。
自衛隊の予算が限られている以上、敵が嫌がるものや、まだ使う可能性が高い物に予算・人員をシフトして、効果が低いものは廃止するのは仕方がないと考える。維持費もばかにならないんだもん。
この話をすると、「戦車やヘリを用意することで、本土に攻め込む敵に負担を・・・」という話になるが、陸上自衛隊の予算が限られている以上、
●減少:本土に上陸した重装備の敵をたたく兵器
・戦車、砲、地対地ミサイル、攻撃ヘリ
●増加:敵を海上で攻撃 or 軽装備の先兵をたたく兵器
・地対艦ミサイル、地対空ミサイル、ドローン、機動戦闘車類
となるのは、仕方ないのでは。
なるほど、ですね。
足りないのは、予算というわけですね。
心配なのは、敵(中/露/北鮮/韓?)が
予想通りに動くとは限らないことです。
むしろ、こちらが100通りの予想を立てても、
101通り目の方法で攻めてくるのが敵でしょう。
全てに備えることはできないでしょうが、
余裕(手段?)は持っておきたいものですね。
金が1番分かりやすいですが当然それだけではなく人・物・時間・場所・エネルギー、およそあらゆるリソースは有限ですから取捨選択は必要かと。
伊勢丹の紙袋みたいに「いつか何かの役に立つ」で簡単に取っとく訳にはいかないかと。
クラスター弾頭はオスロ条約で使用できないから必要性が低くなったし、単弾頭では島嶼防衛用高速滑空弾という後継計画があるし……。(なおまだ完成してない)
できるかどうかは知らんけど12式地対艦誘導弾という手も使えなくはないだろう。多分。
コストは知らんけど、今のHIMARSを購入する列に並ぶより調達時間は短いのではないだろうか
高速滑空弾を何で無視するの?
高速滑空弾は、また、似合った任務があると思います。
設計思想は良いものだと思っています。
できれば、MLRSのランチャーから撃って欲しいものです。
実質新地対艦や12式ファミリーその他国産の長射程ミサイルで置き換える訳だからそこまで間違った選択ではないと思いますが、
出来れば「廃棄業務」は在日米軍に委託していただきたいところ。
ロシアがポンコツを晒した今、専念すべき相手は中国ですが、現在の中国の第一目標は台湾で、台湾を飛ばして日本の沖縄とか九州に上陸してくるシナリオは99%考えられないのでは。
台湾侵攻の際に日本も空爆されることを阻止する、そもそも中国に台湾侵攻を思い止まらせる為に予算を割くという視点では、MLRSは優先順位が低そうですね。
後継決まってないのに退役は気になるけど
ヨーロッパのように、いずれは使いやすい装輪式買うことになるんじゃないかな
ウクライナ戦争で得た知見、米軍のスマート現代戦(徹底的なSEAD/DEADから優勢な戦力でぶん殴る)は米軍だから出来たことであって他国には無理という学び
そして米軍ほどの優勢を確保出来ない状態での殴り合いでは、結局数、火力、装甲、機動力など根本的な力が必要不可欠だったという身も蓋もない話ですね…
幸い陸自はある程度の火力を維持しつつ新たな火力を構築しつつあるので、当面はこのまま進めていけば問題なさそうたけど、人員不足は深刻ですよね
いや陸自って島嶼間攻撃用遠距離型のしか整備進んでないし火砲は道外には19式しかない。MLRは再検討進んでるけど主要はエイタクムスで米軍互換の島嶼間火力という継戦サブでしか眼中にない。
海空自にしろ本業に変更はなく7Dで反撃作戦とか航空支援するアテは冷戦時から変わらずの米海空海兵機だろ。だが太平洋米軍の航空戦力は対中比で拮抗どころか数で押し負ける前提に既にある。
対中戦はセオリー通りの島嶼紛争になってくれないと陸自は前提崩壊で草もはえないだろう。陸続きではないからウ戦線とは違う・・・と思い込んでても実際にはどうなるのか。万が一に備えるにせよ優先順位あんだろと言えばそれまでだが、中共さんは全方位で我々なんぞより先行ってますからな・・・。
これは、仰る通りと思います。
中国軍の量がが、空軍・海軍ともに太平洋正面で圧倒してきており、質も著しく向上していますからね。
中国の工業基盤、造船は世界一、民生部品は世界の工場ですから、あらゆる兵器のレベルが30年前(台湾海峡危機)と比べ物にならないくらい向上しています。
アメリカ軍が、圧倒的に最強であるという前提が崩れており、違う角度で見直す必要があるのでしょうね。
接近拒否が成立=自爆ドローンや巡航ミサイル、極超音速兵器を以てしても多層対空防御を機能不全に陥らせることが出来ない
EA-18Gやワイルドウィーゼル部隊を擁するアメリカならどう対処するだろうか?
ウクライナに提供した対レーダーミサイルも迎撃されているし、ロシアの長SAMは対レーダーミサイルより射程が長い。こうなったら対レーダーミサイルに巡航ミサイル並みの射程を持たせるとか、極超音速兵器で可動目標を狙えるようにするとかしないと防空システム破壊は困難かもしれない。
ウクライナの対船舶ミサイルでS400ミサイルの破壊に成功したが、あれは超低空目標にS400が適合していなかっただけであり、発射機を内陸部や市街地に配置されれば同じ手段は使えない。