欧州関連

仏国防相、ウクライナ向けに155mm自走砲を78門生産すると表明

フランスのルコルニュ国防相はLe Parisien紙とのインタビューの中で「備蓄から装備を取り出してウクライナに提供するやり方は終わりを迎えようとしている」と述べ、2024年中に78門のCaesarをウクライナ向けに生産すると表明した。

参考:Sébastien Lecornu : « Il faut être endurant dans notre soutien militaire à l’Ukraine »

生産能力的には実現性のある数字だが、このイニシアチブにどれだけの国を巻き込めるかが勝負

フランスのルコルニュ国防相はLe Parisien紙とのインタビューの中で「備蓄から装備を取り出してウクライナに提供するやり方は終わりを迎えようとしている」と述べ、フランスとウクライナは共同で78門のCaesarを2024年中に生産するイニシアチブがあると明かした。

ウクライナのウメロフ国防相は18日にCaesarを生産するブールジュ工場を訪問する予定だ。彼の訪問目的は何なのか?
ウクライナに対する軍事支援は粘り強く続けなければならないが、備蓄から装備を取り出して提供するやり方は終わりを迎えようとしている。この解決策は仏防衛産業とウクライナ軍を直接結びつけることにある。

何を提案しているのか?
フランスとウクライナはCaesarに関するイニシアチブを開始する。ウクライナに配備された49門のCaesarは戦術的な成功を収めており、我々のイニシアチブは欧州諸国やパートナー国に負担を求めることで2024年中に78門生産したいと考えている。つまりフランスが立ち上げた資金調達に他の国を参加させるのだ。ウクライナも自己資金で6門のCaesarを購入してイニシアチブをスタートさせたばかりだ。この手法は弾薬の供給にも流用できるだろう。

出典:public domain Caesar6×6

弾薬については納期が大幅に遅れていると思うが、、、
155mm砲弾の供給量は2023年4月まで月1,000発だったが、それ以降は月2,000発に、2024年1月末からは月3,000発に増える予定だ。

2024年中に78門のCaesarをどうやって供給するのか?
NexterはCaesarを生産にするのに30ヶ月かかっていたが、従業員を動員することで生産ペースを15ヶ月まで短縮することに成功し、Nexterは在庫を積み上げることが出来るようになった。もうフランスの生産モデルは変わりつつある。

出典:Oleksii Reznikov

実際のところ戦時経済は機能するのか?それとも機能しないのか?欧州は約束した砲弾100万発の供給を達成出来ていないが、、、
単刀直入に言えば企業と兵器にに左右され、Caesarの場合は結果が出ている。海外輸出に成功しているMBDAのミストラルもリードタイムを大幅に短縮し、ウクライナの空を守っているタレスのGM200の納期も18ヶ月から6ヶ月に短縮された。

では、何が問題なのか?
Aster-15とAster-30は現在の私にとって最優先事項だ。この迎撃弾は紅海でフーシ派の無人機やミサイルを阻止するのに使用されており、ウクライナに提供されたSAMP/Tにも搭載されている。MBDAはAsterの生産に時間がかかり過ぎているため納期を半分にするよう要請した。砲弾生産も火薬の在庫が世界中で不足しているため問題を抱えている。そのため国内に火薬生産を移転させることが優先され、ベルジュラックでの生産準備が進められている最中だ。

出典:Italian Army/CC BY 2.5

マクロン大統領は16日に「ロシアを勝たせるわけにはいかない」と述べたが、これは可能だろうか?
ウクライナの反攻作戦は思うような成果を上げていないが、これはロシアが優位性を取り戻したという意味ではなく戦争は膠着状態が続いている。ロシアは時間が味方することに賭けているが、ウクライナの政治体制や国民の士気も決して衰えておらず我々や同盟国の決意も同様だ。

この戦いが今後何年も続くのかもしれない、、、
ロシアが消耗戦に賭けているからこそ、前線の状況を打開する装備が必要でウクライナもその必要性を訴えている。だからこそ長期的で継続的な支援に共同のイニシアチブを取っているのだ。戦時経済は軍隊だけでなくビジネスにとってもチャンスだ。装備を短期間で納品できることは輸出市場で成功するポイントになるだろう。

以上が、ルコルニュ国防相の述べた興味深い部分の要約で、Nexterは2023年2月時点でCaesarの生産量を3倍(月2輌→月6輌)に引き上げているため、生産能力的に見ると「2024年(度)中に78門生産する」というのは実現性のある数字だが、フランスとウクライナのイニシアチブにどれだけの国を巻き込めるか=生産に必要な資金が集まるかは蓋を開けてみるまで何とも言えない。

関連記事:地獄のような連射で消耗するウクライナ軍の砲兵装備、フランスがCaesarを追加提供
関連記事:ウクライナが仏レーダーを入手、スペインはM113を提供、ノルウェーはCV90提供を検討
関連記事:絶好調の仏防衛産業界、タレスは1万2,000人の新規雇用を計画中
関連記事:仏Nexterが自走砲の生産量を3倍に引き上げ、年間72輌のCaesarを供給

 

※アイキャッチ画像の出典:Mil.gov.ua/CC BY 4.0 DEED

FrankenSAMが初戦果、FPVドローンの製造コストが半分に値下がり前のページ

弾道ミサイルで攻撃されたパキスタン、イランへの報復攻撃を開始次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    ウクライナ軍司令官、バフムートのロシア軍は焦土戦術に切り替えた

    バフムートの最前線を訪問したウクライナ軍のシルスキー陸軍司令官は「ロシ…

  2. 欧州関連

    チェコ政府がグリペンの後継機としてF-35Aを選択、導入規模は24機

    チェコ政府は2027年にリース契約が切れるグリペンC/Dの後継機にF-…

  3. 欧州関連

    初飛行に近づくバイラクタルKızılelma、BAYKARが地上滑走シーンを公開

    トルコのBaykarはジェットエンジンを備えた無人戦闘機「バイラクタル…

  4. 中東アフリカ関連

    弱みを握られたEU、リビア停戦合意の裏でトルコは戦略的要衝を確保

    リビア国民統一政府とトブルク政府はリビア全域で停戦することで合意したと…

  5. 欧州関連

    海外からの受注が集中する仏製戦闘機、クロアチア空軍も次期戦闘機にラファールを選択

    クロアチア空軍はMiG-21の後継機としてラファールを選択したと報じら…

  6. 欧州関連

    米英の大手防衛産業企業と組んだエアバス、NATOのE-3後継システム開発に名乗りを上げる

    エアバスは8日、2035年までに廃止されるE-3の後継システムを開発す…

コメント

    • 58式素人
    • 2024年 1月 18日

    ”このイニシアチブにどれだけの国を巻き込めるかが勝負”
    言い換えると、例えば、Caesarに各国が価値を見出すか否かということでしょうか。
    各兵器生産国にそれほどの余裕があるとは思えないのだけれど。

    3
      • nachteule
      • 2024年 1月 19日

       別に兵器生産国からの投資である必要が無い訳で結局はバイラクタルTB2とかみたいに民間資金とかでも良いし、大型の兵器を作らない多くの国が投資したって良い。

       どうせイニシアチブ取るなら、将来を見据えてCAESERの増産体制じゃなくてどんな榴弾砲であれウクライナに供給し易くなる共通モジュール開発の音頭でも取ればいいのに。

      1
        • 58式素人
        • 2024年 1月 19日

        ”どんな榴弾砲であれウクライナに供給し易くなる
        共通モジュール開発の音頭でも取ればいいのに。”
        同意です。

    •  
    • 2024年 1月 18日

    結局のところ欧州のウクライナ支援というものは自国企業に税金を注ぎ込みたいっていうサロン政治の産物であるわけで、フランスがフランスの税金でフランス企業に発注するのであれば健全だろう
    ブリュッセルの宮廷貴族たちから国家の自己決定権を取り返すのはいいことだ
    もっとも、ブリュッセルの恩恵を受ける立場にあるフランスやドイツはこの流れを好まないだろうけど

    16
    • 幽霊
    • 2024年 1月 18日

    長期戦がウクライナ・ロシアどちらにとって有利になるかまだまだ分かりませんね
    個人的には西側諸国がバックについているウクライナの方が最終的には有利になると思いますが、懸念点としては西側諸国の民意がどうなるかと言うところです
    どうしても経済的支援などが長期間続けば国民から反発が生まれるのは必然でしょうし、そうなると選挙でもウクライナ支援に反対する候補が当選したりする事も考えられますからね。

    17
    • かず
    • 2024年 1月 18日

    砲弾の生産数がロシアは10万発単位に対してフランスは千発単位ですか
    冷戦後軍縮の影響は長引きそうですなあ

    15
    • マダコ
    • 2024年 1月 18日

    これまでの、やれ戦車だ、やれ戦闘機だ、に比べると、随分と現実的な方針に見えますね。これに、砲弾が加われば、建設中の要塞線を含め、またまともな戦いになりそうな気がします。

    9
    • たむごん
    • 2024年 1月 18日

    平時の国防投資は、国民から理解を得る事が、なかなか難しいですよね。

    戦時生産に向けて、ラインを残す難しさ・重要性を感じます。

    >弾薬については納期が大幅に遅れていると思うが、、、
    155mm砲弾の供給量は2023年4月まで月1,000発だったが、それ以降は月2,000発に、2024年1月末からは月3,000発に増える予定だ。

    3
    • gepard
    • 2024年 1月 18日

    年産78門はこれまでの惨めな欧州の生産力からすればインパクトのある数字だが、”100万発の砲弾”の失敗の例からどれほど有効性が期待できるのかは不明。
    また、クリンキー橋頭堡の戦いで”lostarmor”が集計した視覚証拠付きのウ軍砲兵装備の損失は50門に及んでいる。(そのほとんどがランセットとFPVによる)半年かつ単一の戦域でこれほどの損失を重ねるのが正規戦である以上、欧州の軍需生産は未だこれに耐えられる水準から程遠い。

    支援国の有権者に更なる犠牲を求めなければ根本的な戦時体制に移るのは厳しいだろう。

    17
    • 経理担当
    • 2024年 1月 18日

    「パートナー国に負担を求める」という時のパートナー国というのは本邦を念頭においているのでしょうか?

    1
      •  
      • 2024年 1月 18日

      本邦や欧州の中小国のことですね
      決定権をブリュッセルから取り返したとはいえ基本的には利益誘導のサロン政治ですから、フランス企業に発注を引っ張ってこられればいいのです
      とはいえ金を出すか出さないかの自由は各国政府に返還されました、嫌なら出さなければいいのです
      健全なことです

      2
    • 樺太
    • 2024年 1月 18日

    日本は弾薬製造は抜本的な増産体制の構築をしようとしているが、それに比して砲熕兵器の生産能力はそこまで強化はしないだろう。しかし、その中でも生産可能な最大限を速やかに調達し、早期に19式装輪自走榴弾砲を拡充させ、いざとなったらFH70を欧州へ送れるようにすべき

    7
    • ザコ
    • 2024年 1月 19日

    従業員「ハァハァ…頑張ってCaesarの増産に成功したぞ(2→6)これで少し休める」
    経営者「なーんだやっぱりやればできるんじゃん。じゃあ来月からは6.5両行けるね。これで年間78両達成だ」

    などというジャパニーズブラック企業方式でない事を願います…

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  2. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  3. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  4. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  5. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
PAGE TOP