欧州関連

詐欺師だと批判を受けるドイツのショルツ政権、都合よく人権と武器輸出を使い分け

内戦関与が疑われているエジプトへの武器輸出をメルケル首相が退陣直前に承認していた事実が発覚、旧政権で財務相を務め「EUに拘束力のある武器輸出政策導入」を掲げるショルツ新首相は「本物の詐欺師だ」と批判が集まっている。

参考:German arms exports hit new record during Merkel’s last days

出だしで躓くショルツ新政権、EU加盟国に人権侵害国への武器輸出制限を要求しながら裏ではエジプトへの武器輸出を承認

ショルツ首相が率いるドイツ新政権(社会民主党、緑の党、自由民主党の3党による連立政権)は取り組むべき基本的な政策の一つに「拘束力のある武器輸出政策のEU導入」と挙げており、独自の政策や基準に基づく武器輸出の権利を主張して武器輸出に積極的なフランスと早速衝突している。

出典:Bundesregierung

フランス軍事省の関係者は「EUレベルで武器輸出政策を統合しようとすると大きな困難に直面するだろう」と語り、EUの設立合意文書にも海外への武器輸出に関する決定は「国家の特権であると明記されている」と付け加えて牽制、一般的なEU加盟国の武器輸出政策より厳しい基準(特に人権問題)を適用するドイツの理念を「一方的に押し付けるな」と言いたいのだが、メルケル首相率いる旧政権が退陣直前の土壇場で約50億ユーロの武器輸出を承認していたことが発覚した。

この契約にはイエメン内戦やリビア内戦への関与が疑われているエジプトへの武器輸出(MEKO A-200フリゲート3隻+IRIS-T SLS/SLX防空システム16基)が含まれており、拘束力のある武器輸出政策のEU導入を掲げる現在のショルツ首相(社会民主党)は旧政権で財務相を務めていたため野党を中心に「本物の詐欺師だ」と批判が集まっている。

出典:Patrosk-Dente / CC BY-SA 4.0 MEKO A-200型フリゲート

つまりメルケル政権はリビア内戦介入を理由にトルコへの禁輸措置を発動中なのに同内戦に介入するエジプトへは武器輸出を容認、さらに同政権で財務相を務めていたショルツ首相はEU加盟国に「より厳しい拘束力のある武器輸出政策導入」を主張しているのも関わらず、前政権が土壇場で承認したエジプト向けの輸出契約を止めようともしていないため「詐欺師」だと批判されているのだ。

約50億ユーロの武器輸出契約の中にはシンガポール向けの潜水艦(Type218SG)も含まれているのだが、この契約のお陰でドイツ防衛産業界の輸出総額は2019年に記録した80.1億ユーロ(禁輸措置を課しているトルコにも内戦に使用されない武器輸出は継続中で許可を必要としない軍事転用可能な装置や物資については事実上フリーパスで武器輸出額の1/3はトルコ向け)を超える90.4億ユーロに達しており、一方的に拘束力のある武器輸出政策導入を押し付けられる格好のEU加盟国にとっては「ドイツも自国産業のためなら理念も人権も使い分けているじゃないか」と文句を言いたいだろう。

まぁ理念や人権といった側面で語られる政策は政治的なレトリックである場合が多いので真に受けても仕方がないのだが、流石に出だしで躓くと中々滑稽に映るのでショルツ政権にとっては痛い失策といえる。

関連記事:ドイツのショルツ新政権、早くも武器輸出に関する政策でフランスと摩擦

 

※アイキャッチ画像の出典:Steffen Hebestreit

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コメント

    • らんらんるー
    • 2021年 12月 27日

    ドイツを見習え!ですかね?

    11
      • 無無
      • 2021年 12月 27日

      フランスと良いコンビですから
      人権という建前で喰ってるだけで
      やることは死の商人
      こういうところを露骨に悪辣なロシアや中国に見透かされてるからね

      30
    • DEEPBLUE
    • 2021年 12月 27日

    ドイツなんて禁止されてた西ドイツ時代以外はいつの時代もそんなもんじゃないですかね?変な幻想を持たせる人達がいるだけで

    31
    • 北の民
    • 2021年 12月 27日

    某3枚舌の紅茶の国)ようこそこちら側へ、ジャガイモ野郎!

    って冗談は置いとくとしてメルケルさんもよくもまぁ退陣間際にこんな爆弾置いてったなぁ…
    開始早々可愛そうな新首相閣下に幸あれ…

    20
    • 折口
    • 2021年 12月 27日

    自分だけは死の商人じゃないと思ってる死の商人を、死の商人であることを誇りだと思ってる死の商人が批判する図。
    ドイツの武器輸出といえばミャンマー絡みでも黒いことやってたことが明らかになっていますし、掘れば掘っただけ色々出てくるのでは。

    29
    • 和泉堺
    • 2021年 12月 27日

    >前政権が土壇場で承認したエジプト向けの輸出契約を止めようともしていないため「詐欺師」だと批判されている

    さすがに、今から承認を取り消せば、こんどは輸出企業とエジプトから「詐欺師」と言われるでしょうな。(笑)
    厚顔で押し通す以外の選択肢はないでしょう。しょうもない話ですな。

    環境、人権、武器取引で文句言ってる人には、そこそこの対応で。まともに受け合う政治家は要注意ですよ。
    日本の現政権はその香りがしないこともないのが・・・

    7
    • lang
    • 2021年 12月 27日

    つまりその。。。。米国みたいなことはやめろ!!!

    1
      • news
      • 2021年 12月 27日

      米国って自国産業の商談とかを潰したとしても、政治理念を貫きませんか?
      勘違いだったらすみません。

      22
    • 新・にわかミリオタ
    • 2021年 12月 27日

    >一方的に拘束力のある武器輸出政策導入を押し付けられる格好のEU加盟国にとっては「ドイツも自国産業のためなら理念も人権も使い分けているじゃないか」と文句を言いたいだろう。

    要するに本音と建前を”下手”に使い分けてるせいで、こんな論争を引き起こしてるってことですよね。
    ドイツも人権やら何やらの建前が高すぎて、本音が薄汚く見えてしまっていますが、自国産業を思ってのことでしょう。
    ここまで見え透いた嘘を付く必要はありませんが、日本も少しは面の皮を厚くしてもいいかもしれません。

    28
    • samo
    • 2021年 12月 27日

    なにを今さらとしか
    敵味方関係なく武器を売り捌きながら、他国の武器は悪いものだと居丈高に騒ぐのはドイツの国是でしょうに
    メルケル政権でもその前からも、直接売却以外にもライセンス生産を許可して
    ライセンスを許可したメーカーが紛争地域への密売、それもずっと黙認してきたおかげで
    紛争地域にドイツの正規品兵器が出回ってるのは有名な話でしょ

    10
    • しす
    • 2021年 12月 27日

    実際、バイデン政権はF-35の輸出取り止めとかしてるしね。
    それが人権問題を意識したものなのか、反トランプなのかは分からないけれども。

    8
    • 無名のミリオタ
    • 2021年 12月 27日

    エジプトなんて民主化したらムスリム同胞団が政権握ってしまうような国だし、今の軍事政権を締め付けるのは如何なものか。

    将来的に化石燃料は要らなくなったとしても、スエズ運河は使うだろ?

    つーかエジプトが再度民主化して混乱したとして、一番困るのはあんたら欧州だろ。(主に難民で)

    11
    • まりも
    • 2021年 12月 27日

    人権のドイツとその対極にある大国、中国
    日本が向かうはどっちだ?

    1
    • 比企の白髪鬼
    • 2021年 12月 27日

    まぁ自分達都合でいくらでも曲がる原則の根底には、アーリア人種崇拝のレイシズムが見え隠れする。
    結局、この連中は何一つ変わってない。

    13
    • Zako
    • 2021年 12月 27日

    武器輸出の前に自国の軍をなんとかして下さい(ドイツ連邦軍一同)

    12
    • ブルーピーコック
    • 2021年 12月 27日

    メルケル時代から詐欺師集団みたいなもんだったが、フランスも同類か、片棒担いでたも同然だったろうに。
    フランスとトルコの関係が悪化してなかったら、ドイツ製品のトルコ輸出に文句を言ったかも怪しいわ

    2
    • あまつ
    • 2021年 12月 27日

    武器輸出は売る相手をミスると”こうなる”って見本だね。
    武器輸出がしたくてしたくて堪らない子ちゃん達はコレ見て何か思うところは無いのかな?

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