欧州関連

NATO加盟を果たしたフィンランド、イスラエルからデービッド・スリングを調達

NATOに正式加盟したフィンランドは5日「次期防空システムとしてイスラエル製のデービッド・スリングの調達を承認した」と発表、急増する欧州の防衛装備需要の中でイスラエルは受注を伸ばし続けている。

参考:New Long-Range Air Defence System for the Finnish Defence Forces

米国、イスラエル、韓国は欧州の防衛装備市場で大きく売上を伸ばしている

ラファエルが開発した「デービッド・スリング」はイスラエル軍が構築している多層式防空システムの中核的な存在で、弾道弾迎撃に対応したパトリオットシステム(PAC-3)に相当する防空システムだが、イスラエルは海外の顧客にデービッド・スリングと同じ階層をカバーする「Barak MX」の輸出しか認めてこなかったためフィンランドへの輸出は非常に興味深い。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Alexandra Shea

デービッド・スリングをラファエルと共同開発したレイセオンは国防総省に「同システムが使用する迎撃弾=Stunnerをパトリオットシステムに統合したい」と提案、PAC-3の後継としてStunnerを採用したPatriot Advanced Affordable Capability-4(PAAC-4)を米軍や同盟国に供給したい考えだが、国防総省は引き続きPAC-3を支持しているため「Stunner統合」は見送られた可能性が高く、逆に米軍採用を逃したデービッド・スリングは「米国の技術採用」が輸出の足を引っ張っていたと言える。

高い確率で「米議会の承認」を必要とするデービッド・スリングの輸出先は非常に限定的だが、フィンランドが導入したことでNATO加盟国の採用=欧州上陸を果たした格好で、ドイツもイスラエルからICBM迎撃に対応したアロー3(ボーイングとの共同開発なので米議会の承認が必要)の購入を決定、オランダとデンマークが米国製のHIMARSではなくイスラエル製のPULSを選択、さらにデンマークはCaesarの代替自走砲としてATMOSの調達を決定済みだ。

出典:Elbit Systems PULS

以前ならフランスが「欧州諸国は欧州で生産される防衛装備品を購入するべきだ」と主張する案件だが、ウクライナ侵攻を受けて防衛装備品の需要は高まり続けており、現在もっとも重視されるのは「納期(顧客が要求する装備の要件を満たした上での話)」なので、顧客が長い行列を作り始めた欧州企業からの調達を敬遠する国も少なくない。

エストニアはイスラエル製の地対艦ミサイル「BLUE SPEAR/5G SSM」を選択、ルーマニアはレオパルト2ではなくM1A2エイブラムス調達を希望、現地のディフェンスメディアは「調達を予定している自走砲のポールポジションはK9だ」と報じており、欧州企業に競合装備がない多連装ロケットシステムは米国、イスラエル、韓国の草刈り場で、さらにEUによる155mm砲弾の共同調達先に韓国が浮上、この3ヶ国は「ウクライナ侵攻をキッカケに欧州市場での売上を大きく伸ばしている」と言える。

出典:Roketsan

トルコにも多連装ロケットシステム「MBRL(インドネシアが2022年に採用を決定)」があるので、もしかするとNATO加盟国の中から採用国が現れるかもしれない。

因みにフィンランドのNATO加盟費用は年間約2,000万ユーロになるらしい。

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※アイキャッチ画像の出典:public domain David’s Slingで使用されるStunner

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コメント

    • 通りすがり
    • 2023年 4月 06日

    近年、イスラエルの兵器が買えるようになってきたのは良い傾向だね
    あの宗教の産油国共の横暴で無理やりイスラエルと縁を切らされてたけど、アメリカで石油取れるようになって少しは立場弱くなったのかな…
    アメリカの最重要同盟国の1つにして、実戦に裏打ちされた兵器・技術を持つ魅力的な国
    産油国の恫喝がない・許容範囲なら、うちの国もパレスチナを気にするメリットは乏しい
    共同開発とかどんどんやってくれ

    6
      • 牛丼チーズ
      • 2023年 4月 06日

      でも人権侵害国だからなぁ。人道的観点からは大っぴらに関係強化するのは憚られるというか…

      5
      • ネコ歩き
      • 2023年 4月 06日

      日本政府も外交的にパレスチナ問題は注視してますよ。メリット云々とは別に、イスラエルとパレスチナが共存する「2国家解決」を支持する立場です。

      日イスラエル両国は昨年8月の防衛相会談において、浜田大臣が力を背景とした一方的な現状変更の試みや緊張を高めるいかなる行為にも強く反対する旨を伝え、ガンツ副首相兼国防大臣からは中東情勢の説明があったとのことです。
      その上で、「日本国防衛省とイスラエル国防省との間の防衛交流に関する覚書」(改訂)の署名を行い、防衛装備・技術協力や軍種間協力を含め、両国間の防衛協力を引き続き強化していくことで一致しています。
      12月には東京で第6回日イスラエル防衛当局間(MM)協議が開催され、今後の防衛協力・交流などについて議論が行われました。

      10
    • 58式素人
    • 2023年 4月 06日

    さて、聖ペテルブルグとコラ半島と不凍港ムルマンスク及び
    北方艦隊/戦略原潜の基地をどうするのでしょうか。
    ロシアは、ウクライナで戦争をしてる余裕は無くなるのでは。

    2
    • bbcorn22
    • 2023年 4月 06日

    ロシアの軍事産業は輸出はとまってるのにね。
    契約破棄されて もう途中まで作ってるのに契約違反だって 怒っても側だけで中身がない戦車とかだしw
    資源輸出以外これといって産業のないロシアにとっては大事な軍事産業だったのにね。

    4
    • ブルーピーコック
    • 2023年 4月 06日

    名前がダビデの投石機とは。
    まあフィンランドの目の前にゴリアテっぽい国は居るっちゃ居るが。

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