欧州関連

長引くTR3構成機の納品停止問題、欧州のF-35導入国にとって頭痛の種

F-35へのTech Refresh3(Block4の構成要素)組み込みが始まっているものの、F-35JPOはテストが完了していないため受け取りを拒否、保管中のTR3構成機は70機近くに膨れ上がっており、欧州の導入国にとってTR3構成機の問題が頭痛の種になっている。

参考:F-35 delivery delays frustrate European air force upgrade plans

日本、韓国、オーストラリアに関するTR3構成機の影響は今のところ言及がない

F-35Block4に向けてソフトウェア、Block4の電力・冷却要件に対応したEngine Core UpgradeやPower and Thermal Management System、コアプロセッサやメモリユニットを刷新して演算能力を25倍に強化するTech Refresh3の開発が進められており、量産機へのTR3組み込みは2023年7月から始まったものの、生産上の決定が下された時点で「試験機によるTR3の検証作業」は終わっておらず、F-35JPOは昨年6月「テストが完了していないため年内出荷のTR3搭載機は受け取れない」と通告。

出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis

ロッキード・マーティンも昨年9月「L3Harrisが開発しているIntegrated Core Processor(ICP)で予期せぬ問題が発生してハードとソフトの統合に影響が出た」と、今年1月「システムの成熟プロセスに予想よりも多くの時間がかかっている」「TR3構成機の引き渡しは2024年第3四半期(秋以降)までずれ込む可能性が高い」「さらに遅れるようならTR3の生産ペースを落とす必要がある」と発表、保管状態のTR3構成機は70機近くまで膨れ上がり、ケンドール空軍長官も7日「TR3構成機の問題が財政面と運用面に深刻なダメージをもたらしている」と明かした。

保管中のTR3構成機には30機以上の米空軍機が含まれており、これを受領するはずだったA-10部隊とF-16部隊ではパイロットや地上要員の機種転換訓練が中断され、運用から外れる予定だったA-10とF-16による任務が維持され、メンテナンス、スペアパーツ、トレーニングなどで予定外の支出が発生しているらしい。

出典:Lockheed Martin

Air&Space Forces Magazineも「TR3構成機の問題は米空軍だけでなく同盟国にも影響を及ぼしている」と、Defense Newsも21日「欧州のF-35導入国にとってTR3構成機の問題が頭痛の種になっている」と報じている。

デンマークのポールセン国防相は昨年「2024年前半に取得予定だったF-35Aが少なくとも6ヶ月遅れる」「今のところいつ到着するかは不明だ」「取得が遅れる理由はソフトウェアのアップグレード問題だ」と述べていたが、Defense Newsは「TR3構成機の問題が長引けばデンマーク空軍の戦力運用に影響が出るかもしれない」と指摘、デンマーク国防省も「F-35A取得の遅れを軽減するオプションを検討中だ」と発表したが、オプションの内容が何なのかは不明だ。

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

Defense Newsの取材に応じた軍事アナリストは「米空軍からF-35Aを借りてルーク基地に配備している機体を本国に持ち帰るか、他の運用国にF-35Aを融通してもらうかのどちらかだろう」と予測しており、ウクライナへのF-16提供に影響が出る可能性も0ではない。

オランダ空軍とノルウェー空軍は発注分の大部分を取得済みなので「問題が解決されない限りTR3構成機の納品を拒否する」と述べているが、ノルウェー空軍が予定しているTR2構成機からTR3へのアップグレードに影響が出る可能性があり、ベルギー、フィンランド、ポーランド、ドイツへの納品が遅れれば、更新予定だったレガシープラットホームの運用期間が伸びるため、問題が長引けば長引くほど各国の運用・維持計画に無視できない影響をもたらすだろう。

因みに日本、韓国、オーストラリアに関するTR3構成機の影響は今のところ言及がない。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

    • たむごん
    • 2024年 3月 22日

    ボトルネックが発生すると、後工程は全て詰まりますからね。
    ロッキードマーティンなどが、代替費用(車でいう代車費用)などを出すのか、契約上どうなっているのか気になる所です。

    『いつ届くのか分からない』というのが、どうしようもない感じがでていて深刻ですね。

    10
    • ルイ16世
    • 2024年 3月 22日

    25倍というとCeleronG4900のノーパソとcore i9-14900KFのガチガチの最新ゲーミングPCくらいの差がありますからね
    強力な分不具合がある程度出るのはしょうがないのですかね?

    4
      • そら
      • 2024年 3月 23日

      現物がないと幾ら高性能でも何の意味も無いからなぁ。
      とりあえずTR2のだけでも、とできればいいがソフトウェアだけの問題でも無いのがなんとも、、、
      直ぐに埋められる代替案はそうそう無いだろうし、欧州は危機感強いだろうね。
      日本もだけど。

      3
    • ほり
    • 2024年 3月 22日

    ソフトはわかりませんが、ハードウェアは、米国工場で出来ないのではないかと思います。まだ、欧米で半導体不足も続いており、耐久性の必要なチップコンデンサはムラタが小形サイズしか作らなくなった。液晶メーカーほとんど米国には無いし、専用のガラス強度が高いものは、ほとんどのメーカー作らなくなった。日本国内でも宇宙用基板実装は極わずかのメーカーしかやってないのに、NASAがロケット開発やめて久しいけど米国内に残ってるのか?日本も最近そうだけど、米国の様に儲からないとすぐ辞める企業風土で作れるメーカーが無いのでは?PCの高密度実装やってるの台湾だし。

    11
      •   
      • 2024年 3月 23日

       どうなんでしょうね。
       アメリカは研究開発力はあるので、生産量とコスパとコスト度外視すれば、小さいのはそれなりに作れる。
       60インチモニタは無理だけど、小型とかは作れる。
       液晶ガラスのコーニングはアメリカの会社だけど、生産のほとんどはアジア。
       法人向けはもともと高いけど。軍用は民間の大量品よりも10倍から100倍かかってんじゃないの、みたいな部品がある。 

       コンピュータ系は、民間よりも低性能だったりする。
       自動車用とか外で使う奴とか低温高温耐性を重視する奴は、pcやスマホよりも世代が古い。
       だからファーウェイとか中華ドローンとかは、西側より劣っている半導体製造技術でも世界トップレベルだったりする。
       tsmcに発注しているか不明だけどtsmcに発注できたら、ここまで苦労しない可能性がある。インテルがファブレスビジネスしているけど、どうなんだろう。

       近年は流石にそれじゃ不味いので、民間部品活用になっているけど。
       逆にコスパ重視の民間向けで脱落した国や企業が軍で残っていたりする。ロシアとかイギリスとかアメリカとか。

    • 全てF-35B
    • 2024年 3月 22日

    日本のF-35Aは小牧で組み立てているから、どうとでもなるという事だろうか?

    2
    • ガリバタ
    • 2024年 3月 22日

    「ハードとソフトの統合に影響が出た」って言うと、ハードウェアの設計か製造ミス (errata) をソフトウェアがなんとか回避 (workaround) しようと苦心しているっていうのが伝わってきます。
    納期が秋以降というのは、ソフトウェアではワークアラウンドできず、ハードウェアを修正するんだろうなど推測します。

    5
    • そら
    • 2024年 3月 23日

    とりあえずTR3に出来ればソフトはともかく、ハード面は暫く安泰なのかな?

    1
    • 牛丼チーズ
    • 2024年 3月 23日

    欧州諸国は無理してF-35を導入せずにラファールとかグリペンEの方がよかったのではないかとすら思ってしまう。

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