欧州関連

英空軍高官、現時点でウクライナへの戦闘機提供は優先順位が低い

米空軍のブレマー大佐は「戦闘機提供にリソースを割くのではなく防空システムや地対空ミサイルの生産と供給に集中すべきだ」と訴えていたが、英空軍高官も「現時点でウクライナへの戦闘機提供は優先順位が低い」と述べている。

参考:“Сейчас не приоритет”: в Британии допустили предоставление истребителей после изгнания войск РФ – СМИ
参考:Army concerned RAF and Navy are not supporting Ukraine enough

何がどのタイミングで提供されるかは戦場の環境や戦況に左右されるため、将来的な戦闘機提供を悲観する必要はない

米国とドイツがエイブラムスやレオパルト2の提供に踏み切ったため「西側製戦車は提供できない」という不文律は破られた格好で、ウクライナのゼレンスキー大統領やクレバ外相は「次はF-16を提供して欲しい」と主張、NATO加盟国の一部でも「F-16提供に協力する用意がある」と、ロッキード・マーティンも「政府の決定があればグリーンビルでの生産量を増やしてウクライナへの提供をサポートできる」と述べており、西側製戦闘機の提供に期待感が集まっている。

出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Matthew Lotz

しかし米空軍のブレマー大佐はウクライナ上空で繰り広げられている航空優勢を懸けた戦いについて「ミサイルやドローンを使用した世界初の空中消耗戦」と表現し、ロシア軍は敵防空システムを直接破壊するのではなく、インフラをミサイルや無人機で攻撃することで地対空ミサイルの枯渇を狙っており「非常に狡猾な策略だ」と述べ、戦闘機提供にリソースを割くのではなく「防空システムや地対空ミサイルの生産と供給に集中すべきだ」と訴えていたが、英空軍も「戦闘機提供の優先順位は低い」と考えているらしい。

英空軍の高官はTelegraph紙に「ウクライナへの戦闘機提供が絶対にないとは言えないものの、ロシアがウクライナ領から追い出された際の領空保護で必要になるかもしれない」と述べ、現時点では優先順位が低いと強調した。

出典:vitaly kuzmin / CC BY-SA 4.0

この高官はブレマー大佐ほど「戦闘機提供の優先順位が低い理由」を述べていないが、恐らくF-16などの戦闘機を即席で送ったとしても接近拒否が成立している戦場付近では中高度以上を飛行できない=航空支援の範囲が限られ、ロシア軍支配地域の上空に侵入して作戦を行うには大規模なミッションパッケージ(湾岸戦争時の開戦初日=イラクの防空システムが稼働していた時期、非ステルス機が1つの目標を破壊するためには各種航空支援を含めると40機以上必要だった)を組む必要があり、中途半端な戦闘機提供は苦労の割に得るものが少ないと考えているだろう。

もしウクライナに効果的な「欧米流の航空優勢」を追求させるならF-16だけでなく敵防空網制圧任務に特化したワイルド・ウィーゼル機や電子戦機も必要で、このような高度な航空作戦を実施するには気が遠くなるほどの訓練が必要になり、MQ-9やMQ-1Cのセンサーシステムがロシアの手に落ちることを恐れて提供を躊躇している米国が機密の塊を送る可能性は限りなく低く、F-16を巡航ミサイルや無人機の迎撃に使うくらいなら防空システム提供に限られた資金を割いた方が効率がいい。

出典:Photo by Spc. Latoya Wiggins

まぁ何がどのタイミングで提供されるかは戦場の環境や戦況に左右されるため「将来的な戦闘機提供を悲観する必要はない」が、どうもこの戦争は「今年中に終わるというほど生易しいものではない」と欧米は考えており、本当に戦闘機が必要とされる時期が何時か来るかもしれない。

追記:ウクライナ空軍の報道官は「NATOから2個飛行隊分(24機)のF-16を受け取りたい」と述べているが、ウクライナの空を完全にカバーするためには15個飛行隊分=180機が必要だと付け加えた。

関連記事:ウクライナへのMQ-1C売却は困難、国防総省が機密漏洩を恐れて反対

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Master Sgt. Tristan McIntire

ウクライナ提供で激減したスティンガー、生産量を2025年までに50%増前のページ

ウクライナ空軍の報道官、全域の空をカバーするには180機の戦闘機が必要次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    英空母極東派遣は、英米F-35Bによる空母「クイーン・エリザベス」の共同使用

    来年予定されている英空母「クイーン・エリザベス」の極東派遣は事実上、英…

  2. 欧州関連

    ウクライナ軍、ソレダル西郊外に保持していた拠点をロシア軍に奪われる

    ロシア軍がソレダル西郊外の岩塩坑施設をウクライナ軍から奪取、さらにクリ…

  3. 欧州関連

    バフムートで戦うウクライナ軍将校、砲弾不足でまともに攻撃できない

    第93独立機械化旅団の将校は「バフムートで戦うウクライナ軍は極度の砲弾…

  4. 欧州関連

    トルコ、開発中のジェット無人戦闘機「MIUS」は亜音速と超音速の2種類を量産予定

    バイラクタルTB2の開発・製造を手掛けるBaykarは「ジェット無人戦…

  5. 欧州関連

    英国、第6世代戦闘機「テンペスト」開発費用の捻出のためF-35B調達数を削減?

    英国は調達中の第5世代戦闘機「F-35B」の一部を、開発中の第6世代戦…

  6. 欧州関連

    ウクライナ当局、防空システムが作動する様子を無許可で公開した市民を摘発

    ウクライナ保安庁は「キーウで防空システムが作動する様子を動画や画像で記…

コメント

    • バラムツ
    • 2023年 1月 29日

    当分は互いに地べたを這って消耗を強いる地道な地上戦が続き、
    陸戦の王たる戦車は今後も頼りになるやろな

    しかし今回の戦争は地上戦がメインで、海・空軍が共にさほど活躍しない興味深いケースですよね

    だからって「戦闘機不要論」とか出てくんな、出てくんなよ…(警戒)

    あとはくだらない政治スキャンダルで政権代わったりして対露政策の連携が崩れないことを望むばかりです

    10
    • はひふへ~ほ~
    • 2023年 1月 29日

    機種転換訓練機関と自分の手持ちの数を考えればそういう判断になるわな。
    さらに言えば1機,2機単位ではではなく、少なくとも20機前後(スコードロン、飛行隊レベル)の数でないと大規模な”作戦”には使えないし、小規模な作戦なら現有機で十分だろう。
    ウクライナもクレクレ病で何をどうしたいのかが読めないから、ロシアがストライクパッケージを繰り返して戦線が崩壊しない限りは提供はしないだろうな。

    10
    • あああ
    • 2023年 1月 29日

    完全新規な西側機が負担の割に費用対効果で怪しいのは中身がどうせ旧式だからでしょうか。供与コストの西側負担は無尽蔵ではないのに単価で戦車の10倍以上の西側戦闘機の供与は確かに悪手でしょう。
    しかし旧ソ機は別です。これの供給が途絶して無人機だけの空軍では危険過ぎる。確かに旧ソ機の西側兵装の適応化に手間取ってます。しかし戦間期に東西で機体変更は非常に困難です。
    現状の最適解は手に入る限りの旧ソ機の根こそぎ動員です。各国に代替装備を渡して旧ソ機全部をウクライナ送りにしたほうがもはや世界のためです。戦後は東欧全部で旧ソ機を廃止するにもそれが最適です。

    17
    • VRTG
    • 2023年 1月 29日

    都市や発電所のような重要拠点を守るのが主目的なら、活動時間が短く再出撃が手間な戦闘機よりも、フルタイムで機能して弾薬補充も早い上に安価で訓練期間も短いSAMのほうが効果的。
    戦時の急な対応でなければ、防衛向けのSAMよりも攻防共にできる戦闘機のほうが使い勝手がいいですが。

    形勢逆転後にロシア領に侵攻するなら前提が変わりますが、SEADや電子戦機なんて米軍ですら専門部隊を作るくらいなので訓練時間が全く足りない。
    逆侵攻なんて核の使用はないと判断した場合でしょうし、そこまで状況が変わったならNATO参戦が現実味を帯びるんで任せればいいでしょう。

    1
    • 774rr
    • 2023年 1月 29日

    > この戦争は「今年中に終わるというほど生易しいものではない」
    溜め息しか出ないね
    そもそもまともに戦争を終えるシナリオはロシアにあるんかな?(疑問
    止め方を知らなさそう

    13
      • 匿名
      • 2023年 1月 29日

      もうウクライナ領併合しちゃってるし、仮にウクライナがロシアを完全に追い出したとしても、プーチンが生きてる限り終わらんよなこれ

      ウクライナがロシアを追い出すころにはロシアの戦死者何人になってるんだろうか
      何も戦果無いまま軍と経済と人と国際社会での地位が全部燃えて灰になるとか、プーチンはロシアの歴史で永遠に語り継がれそう

      8
      • 薄い本R-RR
      • 2023年 1月 29日

      民衆による革命でも起きない限り無理でしょうね>ロシア
      欧米は既に戦争の実験場としての利用も見られますし

      4
    • L
    • 2023年 1月 29日

    ロシアの政党調べるとプーチンが一番鳩派である可能性があるんだよなぁ
    プーチンを取り除いても終わらず、多分ロシア国民が自ら負けを認めるまで続く

    6
      • DEEPBLUE
      • 2023年 1月 29日

      共産党が気が付けば野党筆頭まで復権してるし、やっぱりゴルバチョフが余計な事をしただけでソ連は負けてなかったってのが多くのロシア人の認識なんでしょうね。

      5
    • 名無し太郎
    • 2023年 1月 29日

    >MQ-9やMQ-1Cのセンサーシステムがロシアの手に落ちることを恐れて提供を躊躇している米国が機密の塊を送る可能性は限りなく低く

    結局は、この技術の漏洩が一番の心配所か。でも上空からの偵察が、今のウクライナ軍には重要ではないのか?
    制空権が取れないのなら、せめて偵察は万全にしないと、戦車を有効的に使うことは難しいと思うが。

    >ウクライナの空を完全にカバーするためには15個飛行隊分=180機が必要だと付け加えた。

    従来のウクライナ空軍と連携を取る訳だから、F16だけで完全にカバーする必要はない。ロシアの航空戦力を削って空いた穴をウクライナ空軍が埋めるというやり方なら、24機で十分以上だと思う。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  2. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  3. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  4. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP