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アゾフ連隊も降伏してマリウポリが陥落、司令官もロシア軍の捕虜に

ロシア国防省は20日「ウクライナ軍兵士531人が降伏して完全にアゾフスタル製鉄所を解放した」と発表、ショイグ国防相もプーチン大統領に「完全制圧」を報告しているので80日以上に及ぶマリウポリでの抵抗は終焉を迎えた。

参考:Территорию “Азовстали” полностью освободили
参考:Russia claims it has “completely liberated” the besieged Azovstal plant in Mariupol

プーチンに戦勝記念日で発表する「戦果」を与えたくないため最後まで耐え続けてきた彼らに待ち受ける運命とは?

最終的に何人のウクライナ軍兵士が降伏してロシア軍の捕虜になったのかは不明だが、これまでの発表された数字に531人を加えると2,439人になり、非ナチ化という政治的レトリックを完成させるのに重要なアゾフ連隊のデニス・プロコペンコ司令官も「特別に用意した装甲車で製鉄所から離れた」とロシア国防省が明かしているので、プーチン大統領にとってはウクライナで手にいれた初めての政治的勝利かもしれない。

ウクライナ側は降伏した兵士について捕虜交換による帰国を目指すと発表しているが、ロシア側は捕虜交換の実施に否定的でドネツィクに設置される法廷に連行「ドンバスに住むロシア系住民への数々の血なまぐさい犯罪を犯した者を裁きにかける」というプーチン大統領が主張を実行に移す可能性が高く、特にアゾフ連隊に所属していた兵士については「捕虜交換を禁止する法案」の検討が進められており、これを議会に提出した議員はアゾフ連隊の兵士は死刑が妥当だと主張している。

ゼレンスキー大統領は20日、就任3周年を迎えたことに対するインタビューの中で「アゾフスタルで戦う兵士を助けるため恐ろしく成功確立の低い任務(ヘリによる補給)に多くパイロットが挑んだが、彼らの殆ど帰ってこなかった。ロシア軍の強力な防空システムによって実現不可能だと誰もが知っていたのに彼らは挑戦したんだ」とだけ明かし、マリウポリでは誰も公に出来ない出来事が「沢山起こっていた」と付け加えているのが興味深い。

出典:АЗОВ 左がアゾフ連隊のデニス・プロコペンコ司令官

ロシア軍はマリウポリでウクライナ軍のヘリを撃墜する度に残骸を公開していたので、空路によるアゾフスタルへの補給実施に今更驚かされるようなことはないが、その殆どが失敗に終わっていたことや「危険を冒してまで補給を行わないといけないほど物資不足が深刻だった」という点は興味深く、本当に彼らは当初備蓄のみで80日以上、地面に溜まった水で喉を潤しながらロシア軍と戦っていたのだろう。

アゾフスタル製鉄所を所有するメトインベストグループは約3,000人の人々(兵士約2,000人+民間人約1,000人)が閉じ込められていると仮定して上で「あそこには2週間~3週間分の食料と水しか備蓄されていないので物資は尽きている」と4月末に明かしていたことがあるが、捕虜になった兵士は2,000人を越えているので戦死者も合わせれば4,000人程度の人々が製鉄所に立て籠もっていたことになり、食料事情は相当厳しいものだったはずだ。

どう考えても製鉄所に押し込められた段階でウクライナ軍の運命は食料と共に尽きていたはずだが、プーチンに戦勝記念日で発表する「戦果」を与えたくないという政治的理由のため最後まで耐え続けてきた彼らに待ち受けるのは、捕虜交換による祖国への帰国か、捕虜として強制労働を強いられるか、それともドネツィクに設置される法廷だろうか?

関連記事:ロシア、マリウポリで戦ったアゾフ連隊の捕虜交換を禁じる法案を検討
関連記事:ウクライナ軍、全任務を達成したマリウポリ部隊に「兵士の命を救え」と命令
関連記事:ウクライナ軍、第36旅団の司令官はマリウポリから勝手に逃亡した臆病者
関連記事:アゾフ連隊司令官、第36旅団は戦うのに十分な装備と弾薬を持っていた

 

※アイキャッチ画像の出典:Маріупольська міська рада

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コメント

    • 2022年 5月 21日

    遂に堕ちてしまったか。
    元々とんでもない勢力差でありながらよくここまで粘ったもんだ。
    後は捕虜の扱いをいかに耐えるかだな。
    処刑や強制労働なんて馬鹿なことを許したら、それこそ自由主義の敗北だわ。

    70
    • kankan
    • 2022年 5月 21日

    もしここで彼らを死刑にしてしまうとウクライナ軍は最後の一兵まで戦う事になる
    生き残る唯一の道がロシア軍を皆殺しにする事だから死に物狂いで向かってくる
    降伏しない死兵のもたらす被害はバカにならないのをロシアは知ってるんだろうか

    77
    • だいぶ溜まってんじゃん
    • 2022年 5月 21日

    引き渡し拒否や魔女裁判は予想してたけど死刑までいったらたまげるわ
    本当に死刑にしたら今まで沈黙を続けてたインドや中国もさすがに大っぴらに擁護・支援は出来なくなると思うんですがそれは…

    一ヶ月以上も地獄みたいな環境で戦って、最後に死刑じゃやるせねぇなぁ…

    46
      • ROM
      • 2022年 5月 21日

      分かりやすく死刑にするか、不慮の事故で
      死んでしまったことにするんじゃないですかね
      危険なナチスをしっかり成敗したというところまで
      やっておかないと政権が国民から突き上げられそうなので

      17
    • 名無し
    • 2022年 5月 21日

    ウクライナ(ゼレンスキー)としては実際にネオナチを抱えてるアゾフ大隊が処刑されてくれれば色々と厄介な問題がクリアになる上に救国の英雄として祭り上げることもできるので意外とメリットはあるかもしれない。
    勿論、異様に士気と練度が高い兵員を丸ごと喪失するのは痛い損失なのでできれば捕虜交換などで取り戻したいとは思っているだろうが。

    7
      • さかには
      • 2022年 5月 21日

      アゾフ大隊って別にマリウポリにしか居ないわけじゃないですが

      29
    • ななし
    • 2022年 5月 21日

    ロシア側の死者も相当なものだったはず
    英米の情報通りに開戦から数か月準備してたら結果は違ってたのかな

    5
      • 無無
      • 2022年 5月 22日

      ちょくちょくその話が出るけども、判断が微妙すぎる。
      ロシアがウクライナにも多数の工作員を入れている以上、ウクライナの戦争準備は筒抜けだし、それは逆にウクライナによるロシア侵略が企まれているというロシアのプロパガンダに利用されるでしょうし、ロシアによる軍事侵攻を早めただけに終わるかも知れない
      歴史にifをつけるのは止したほうがいいですよ、きりがない

      7
    • 通りすがりのななし犬
    • 2022年 5月 21日

    さすがに、武器弾薬や食料が尽きるまで戦っただけのことはある、つわものたちだ。映像を見る限り、精悍な兵士たちの姿だ。

    私がロシアの将軍なら、この連中を捕虜交換などで解放したくはないだろうな。修羅場をくぐり抜けて戦った士気高いベテラン兵だし。キーウの戦いで武器を捨て逃げ出して捕虜になったような兵士と「等価」ではない。戦争が終わるまで解放してはもらえなさそう。

    彼らが無事に祖国に戻れますように。平和な時代を享受できますように。

    46
    • や、やめろー
    • 2022年 5月 21日

    死刑って言ってる議員をまず法廷にかけないといけないだろ。和平交渉になったら、絶対にウクライナの交渉の中にその議員を引き渡すって項目あると思う。そしてそうなって欲しい。

    19
    • マロリー
    • 2022年 5月 21日

    これって、ウクライナとロシアの間で捕虜交換の確約が取れたから降伏したんじゃないの?
    みんな、捕まったアゾフ隊は酷い目に合わされるっていうけど、今回の篭城戦はこれだけ世界中に報道されてて世界中の人間が見てるのに、ソレをやるかね?あまりにも注目を集めすぎてる。

    監視カメラや店員の目の前で万引きするようなもの、ネズミ捕りやってる警察の目の前で暴走運転するようなもんでしょ。無謀すぎる

    これだけ世界が注目してるのに、さすがに表立って捕虜に対して感情論的な残酷な報復行為は出来ないだろ。ただでさえ、今のロシアは数々の制裁で国際社会から孤立してるのに、これ以上やるとさらに制裁が強化されて余計に首を絞めるだけ。

    死刑だ、強制収容所だ、シベリア送りだって言われてるけど、ホントにそれやるかね?今回の件はあまりにも注目を集めすぎてる。口じゃ大層な事言うだろうけど、さすがにやらないと思うし、あれだけ徹底抗戦を宣言をしてた意志のかたそうなアゾフ隊の将官達が降伏したってことも気になる。  内々に安全が確約されたから投降したんじゃないのかな。そうでないと司令官にとっては自分から死ににいくようなもんでしょ、捕まれば確実に殺されるんだから、ソレを自分から捕まりに行くもんかなぁ…。アゾフ隊の隊長なら敵に捕まるなら自殺したほうがマシくらに考えそうなもんだけど。

    2
      • ミリオタの猫(ロシアは地獄に落ちるかどうかを考え中)
      • 2022年 5月 21日

      マリウポリの攻防戦では、過去に民間人を脱出させるはずの「人道回廊」を巡ってロシア側が何度も嘘を吐いて攻撃を続けた上、脱出した民間人もロシア領内にある強制収容所紛いの場所へ送られたと言う事実が有りますから、ひょっとすると今回も又ロシア側が捕虜交換を餌にしてウクライナを騙したのかも知れませんよ。
      それでもウクライナ側は玉砕するよりはマシと応じたのだろうと思うと、胸が詰まるものが有ります。

      ※因みに「シベリア送り」ですが、既にロシア軍はマリウポリで身柄を拘束した民間人を対象に実行済みです。

      51
      • えぞ
      • 2022年 5月 21日

      真っ当に考えればおっしゃるとおりなんですが、
      今、ロシアがしているのは衆人環視下での強盗殺人に等しいので……「ナチだから」の一言でなんでも押し通すんじゃないかと心配ではありますね。

      34
      • 無無
      • 2022年 5月 21日

      まだ結論には早いけどね、ロシアのシベリア送りはときに実質的な死刑宣告だったりすることを捕捉しておこう
      国際社会の目を気にするセンスが欠けてるから独裁政治って呼ぶんですよ、

      24
    • ミリオタの猫(ロシアは地獄に落ちるかどうかを考え中)
    • 2022年 5月 21日

    アゾフスタル製鉄所に籠城していたアゾフ連隊を含むウクライナ軍に関しては、以前荒れるコメントを書いてしまったので暫く発言を自粛していたのですが、遂にマリウポリも陥落したので、区切りとして一言だけ。

    私見ですが、残念ながらアゾフ連隊の投降者はほぼ全員が処刑されると考えます。
    何故なら、マリウポリ攻防戦ではロシア軍も相当苦戦した為、ロシア軍の間では、一時「マリウポリへ行ったら生きて帰れない」とまで言われていた事が一部メディアで報道された程の激戦地だった点。
    更に、ロシア国内でも最近戦況の不利が国民に知れ渡りつつある為、ロシア国民の厭戦気分を和らげる為にも今回の攻防戦の中核部隊にして戦前からネオナチ扱いされていたアゾフ連隊の将兵を報復として処刑する事が必要だとプーチンが考える可能性が有る事。
    そして何より、これまでのロシア軍の蛮行の数々から考えるとプーチンの戦争目的は「ウクライナの滅亡とウクライナ人の殲滅」に変貌している可能性(考え方としては独ソ戦時のヒトラーに似ている)が有り、そうなるとアゾフ連隊の投降者の運命も非常に暗いと考えざるを得ない為です。

    但し、仮にその様な事になればウクライナはロシア軍に対する復讐心と「ロシア兵に捕まったら必ず殺される」と言う意識で国民全員が団結するのも確実なので、私はこの後ロシア軍がどう言う目に遭うのか、マウリポリで戦死したウクライナ兵や民間人の分までしっかり見て置こうと思っています。

    10
      • 2022年 5月 21日

      大隊の今後は、ロシア首脳陣の理性次第ですかね。
      プロパガンダにするなら、降伏した時点で充分満たしてますし。
      正規兵の捕虜をプロパガンダ目的で処刑する国際的なデメリットを考えれば、滅多なことは出来ないはずなんですがねぇ。

      1
      • 無無
      • 2022年 5月 22日

      私は単純に予想しています、ロシアが勝利するかたちで戦争を終えれば捕虜は強制労働止まり、いつかは帰国できます。
      しかしロシアが敗北しウクライナから追いやられたらアゾフ連隊は処刑されるでしょう
      独裁政治の維持にはそういう物語、演出が必要不可欠ですから

      1
    • 名無しさん
    • 2022年 5月 21日

    急遽法律を変えてでも捕虜交換はしないという、法治国家とはいえないような国ですからね。
    一方でウクライナは死刑が廃止されており、戦争犯罪人として裁判にかけられている兵士も
    おそらく全員が終身刑止まりかと思われます。

    死刑を実施することは、根強い死刑廃止論のある欧米諸国に対して、
    より一層妥協の出来ない国だとの認識が強まる結果になりますので、
    政治的には愚策なんですが、そんな判断の出来る状態ではないんでしょうね。

    8
    • 匿名さん
    • 2022年 5月 21日

    とりあえずは、お疲れさま。
    出来ることなら、美味しいパンと具沢山なボルシチをふるまってやりたいね。

    8
    • 時間稼ぎ
    • 2022年 5月 21日

    マリウポリの超人的とも言える徹底抗戦に意味がないわけがない。
    ウクライナ軍に少しずつとはいえ西側からの支援が到着し結果を出しているのだから。
    あと投降したアゾフ連隊を含むウクライナ軍の捕虜に復讐するのは、民族が自由に生存する権利や民主主義を死守したという「殉教者」を生み出すことになり、ロシア軍の犠牲者を増やすだけで終わるだろう。

    23
    • 58式素人
    • 2022年 5月 21日

    法律には疎いのだけれども。
    戦時国際法(諸法)は、宣戦布告がなされていなくても適用されるはずなので。
    それぞれの条約の幹事国から両当事国に”戦時国際法を遵守するか否か” について
    公開の質問状を出してもらうのはどうだろうか。国連はやらないだろうから。
    質問状には、戦時国際法に基づく軍事法廷を実施することを但し書きしておいて、
    すぐにでも軍事法廷を設置してはどうだろうか。最高刑は絞首刑で。

    3
    • sundaycameraman
    • 2022年 5月 21日

    一見、ウクライナが負けたかのような内容なのだけど、3ヶ月近く数倍のロシア軍をマリウポリに拘束して、結果東部戦線を支援し、NATOからの支援の時間を稼いだのだから、作戦目標は実現したと言える。
    マリウポリの戦いはウクライナの伝説となり、ウクライナの真の独立の礎になったと考えますね。

    10
      • 09
      • 2022年 5月 22日

      この論調よく見るけど普通に撤退して補給が安定している東部で戦わせた方がよくないですか?

      屈強な精鋭達をまる2か月も補給が来ない所に閉じ込めるより力を発揮できるはずだけどね

      1
        • 無無
        • 2022年 5月 23日

        戦術として言えば、優勢なる敵を集中させずに分散することは防御側には有効です
        政治的には、強固な地下要塞を敵にやすやすと空け渡しては全軍の士気に関わる、
        これはこれで合理的判断と思いますよ、戦況次第ではマリウポリ救出の可能性も視野に入れてはいたのでしょう

        1
    • sunn
    • 2022年 5月 21日

    ISWが、ロシアはマリウポリの捕虜数を水増ししてる可能性があるとレポートしていますね。

    7
    • まだらにく
    • 2022年 5月 22日

    希望的な観測なんだけど、最近のロは色んな決断を先送りにし始めてる気がする
    大言壮語はしても前にも後ろにも進めなくなってる状況なのは確かで、そういう膠着状態の中で彼らの扱いに踏ん切りがつかないまま生き残って欲しい
    希望的な願望であることは百も承知で

    5
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