欧州関連

トルコとスペインがトルコ海軍向け大型空母の建造で協力すると合意、無人機分野でも協力

トルコを訪問したスペインのサンチェス首相とエルドアン大統領は首脳会談後の共同記者会で「両国はトルコ海軍向けの空母と潜水艦建造で協力を行う」発表して注目を集めている。

参考:Turquía ofrece a España cooperar en construir un ‘megaportaaeronaves’ y nuevos submarinos
参考:İspanya ile ANADOLU’nun ardından ‘uçak gemisi’ planı

エルドアン大統領が「もっと大きな空母を作りたい」と言及する艦は一体どのようなものを指しているのだろうか?

エルドアン大統領はサンチェス首相との首脳会談後に行われた共同記者会でスペインがトルコに派遣したパトリオット部隊を維持してくれたことに感謝の言葉を述べ「両国関係を更に深化させるためトルコ海軍向けの空母と潜水艦建造で協力を行い、無人航空機分野で共同プロジェクトを立ち上げる」と発表した。

まず本題に入る前にエルドアン大統領が言及したパトリオット部隊の件について簡単に説明しておく。

出典:U.S. Army photo by Charles Rosemond パトリオットシステム

NATOはシリア国内からトルコ領に向けて打ち込まれるミサイルを迎撃するため両国の国境沿いに加盟国(米国、ドイツ、オランダ、スペイン)のパトリオット部隊を2013年に派遣、しかしトルコから分離独立を求め武力蜂起したクルド人勢力「クルド人民会議(→クルド労働者党→クルディスタン自由民主会議→クルディスタン労働者党)」との停戦合意が2015年7月に破られたことを受けて米国、ドイツ、オランダは派遣したパトリオット部隊の撤収を発表、トルコはNATOに代わりとなるミサイル防衛を提供するよう強く要請したが結局聞き入れられなかった。

しかしスペインだけは派遣したパトリオット部隊を2015年8月以降も維持し続け、シリアとの国境に近いアダナ国際空港やトルコ空軍と米空軍が共同利用しているインジルリク空軍基地など保護し続けてくれたためエルドアン大統領はスペインに感謝の言葉を述べ「これが他の加盟国にも波及することを願っている」と言及したのだ。

このような経緯に基づきトルコとスペインは両国の安全保障や防衛産業の協力を深化させると発表したのが、注目すべきはトルコ海軍向けの空母についての言及だろう。

出典:2020 Istanbul / CC BY-SA 4.0強襲揚陸艦アナドル

エルドアン大統領は共同記者会で「我々は強襲揚陸艦アナドルの建造で協力を行ってきたが次はもっと大きな空母を作りたいと思っており、この計画ついて既に親愛なる友人(サンチェス首相)と合意している」と述べたためトルコメディアもスペインメディアも「両国は共同でトルコ海軍向けに大型空母を建造する」と報じている。

スペイン海軍向けに建造された強襲揚陸艦フアン・カルロス1世の設計を流用して建造されたトルコ海軍向けの強襲揚陸艦アナドルは当初、V/STOLタイプの固定翼機の運用を除外したためスキージャンプを省略した飛行甲板を装備する予定だったが、トルコ海軍がF-35Bの導入を決定したためスキージャンプとF-35B運用に耐える耐熱甲板を備えた設計に変更され建造されたたもののトルコはF-35プログラムから追放されてしまったため艦載機のないまま軽空母仕様のアナドルが完成してしまった。

しかしトルコは艦載機仕様に改造されたTB2ベースの無人戦闘機(UCAV)「バイラクタルTB3(2022年に初飛行予定)」に加え、開発を進めている軽戦闘機バージョンの国産練習機「ヒュルジェット(2022年初飛行予定)」やジェット無人戦闘機「MIUS(2023年初飛行予定)」も強襲揚陸艦アナドルで運用すると発表しているが、元々アナドルと同一設計で建造するはずだった姉妹艦について非V/STOLタイプの大型固定翼機を運用できる大型空母に切り替える話が浮上、特にEU離脱後トルコとの関係強化を進めていた英国がクイーン・エリザベス級空母の売り込みを行っていると噂されていた。

出典:Turkish Aerospace Industries, Inc ヒュルジェット

実際、英国のウォレス国防相はトルコの国防相をプリンス・オブ・ウェールズに招待して艦内を自ら案内しているため「クイーン・エリザベス級空母の売り込みが行われていた可能性が高い」と管理人は思っていたが、まさかスペインと空母建造を行うとは予想もしていなかったので正直驚いている。

勿論スペインにはカタパルトを装備した大型空母の設計や建造経験はないので、恐らくスキージャンプを装備したフアン・カルロス1世を大型化したものではないかと思われるが、急接近している英国がここに絡むと中々面白いことになるだろう。

余談だがスペイン国防省は空軍のレガシーホーネットと海軍のAV-8BハリアーIIの後継機としてF-35を導入するのではないかという噂について「我々は新しい戦闘機開発プロジェクト(FCASプログラムのこと)に参加しているため、別の新しい戦闘機調達プロジェクトに投資する余裕はない=新規に運用環境の立ち上げにも投資する必要があるF-35ではなくタイフーンの追加調達の方が現実的という意味」と最近発表したが、流石にAV-8BハリアーIIをタイフーンで置き換えることは出来ないためF-35Bだけは導入するのではないかという見方もある。

出典:Baykar MIUS

しかしスペインはトルコと共同記者会で「無人航空機分野で共同プロジェクトを立ち上げる」と言及しているため、もしかするとスペインは金のかかるV/STOLタイプの固定翼機運用を中止してトルコが開発中のTB3やMIUSをフアン・カルロス1世で運用するつもりなのかもしれない。

まぁ今後の推移を見てみないと何とも言えないが、エルドアン大統領が「もっと大きな空母を作りたい」と言及する艦は一体どのようなものを指しているのだろうか?

関連記事:トルコ、開発中のジェット無人戦闘機「MIUS」は亜音速と超音速の2種類を量産予定
関連記事:トルコ、強襲揚陸艦で運用するバイラクタルTB3が間もなく飛行テストを開始
関連記事:スペイン国防省、第6世代戦闘機開発に資金を供給するためF-35導入の余裕はない
関連記事:ブラジル海軍の空母サン・パウロを落札したトルコ、国産空母の建造に利用する可能性が浮上
関連記事:英国、トルコにクイーン・エリザベス級空母の設計図売却と建造支援を提案か

 

アイキャッチ画像の出典:Turkish Presidency

東地中海に墜落したF-35Bは英空軍機、ロシアに奪取されないよう英米のダイバーチームが警備中前のページ

エアバス、カザフスタンに続きインドネシアからもA400Mの受注を獲得次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    ウクライナ軍、ロシア軍の巡航ミサイルがNATO加盟国のルーマニア領空を通過した

    ウクライナ軍のザルジュニー総司令官は10日「ロシア軍の巡航ミサイルがN…

  2. 欧州関連

    サーブ、フィンランドの次期戦闘機HXプログラムにグリペンEとグローバルアイの組合せを提案

    サーブは先月30日、フィンランド国防軍のHXプログラムにグリペンEと早…

  3. 欧州関連

    SpaceXは無人機制御へのスターリンク使用を制限、ウクライナ側は問題ないと主張

    米SpaceXは「無人機制御にスターリンクを使用する行為は契約の範囲を…

  4. 欧州関連

    ドイツ陸軍、レオパルト2を保護するためイスラエル製APS「トロフィー」を導入

    ドイツ陸軍は対戦車ミサイルやHEAT弾などから主力戦車「レオパルト2」…

  5. 欧州関連

    欧州9ヶ国がタリン宣言を発表、ウクライナに対する集団的軍事援助を約束

    英国、オランダ、デンマーク、ポーランド、チェコ、スロバキア、エストニア…

  6. 欧州関連

    高まるドイツへの不信感、クリミアは二度と戻ってこないと発言した独海軍トップが辞任

    ドイツ海軍のシェーンバッハ総監(中将)は22日、インドを訪問して「クリ…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    そんな大型空母をどこで使うのか?
    地中海に空母は要るのか?
    そんな余裕が有るなら、アナドルを韓国に売ってやれ。

    5
      • 匿名
      • 2021年 11月 18日

      地中海でも空母は欲しいというのがイタリアの結論だが何か?

      10
        • 匿名
        • 2021年 11月 18日

        それで、F-35Bを空軍に取られて、艦上機が確保できていない。
        フランスも、空母が修理中でも困って無いし。

        3
          • 匿名
          • 2021年 11月 18日

          日本だってF35Bの所属は航空自衛隊なのでは?

          6
            • 匿名
            • 2021年 11月 18日

            自衛隊では、艦上運用が前提だけど、イタリアは島嶼での運用のみらしい。

            2
      • 匿名
      • 2021年 11月 18日

      韓国の空母建造計画はイギリス案とイタリア案の二択に絞られてなかったけ?

      1
        • 匿名
        • 2021年 11月 18日

        現実は、そうですね。
        でも、本当に必要で早く欲しいなら、アナドルを購入するのが堅実なんですがね。
        まあ、夢が無いと面白くないですが。

          • 匿名
          • 2021年 11月 18日

          韓国のような国は、他国の兵器を購入よりも、自国で建造して多少なりとも国内にお金を落とすだろう
          後今買ったところで、搭載できる兵器は何もないし、15年くらいかけて船と共に身を固めていく方が堅実だろう
          今年は5億ウォンの予算だけつけて、空母の基本設計を着手を見送ったが

          1
            • 匿名
            • 2021年 11月 18日

            中華の悪どい迄の堅実さを見習うべきだろうね。

            2
            • 匿名
            • 2021年 11月 18日

            バイラクタルもセットで売ってやれ

            • 匿名
            • 2021年 11月 19日

            あと、自国で作った瞬間からそれを他国に売るフットワークの軽さ。言い換えれば節操の無さ。

            2
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    たしかに、同型艦持っていて、F-35Bを取得しない又は取得できない国同士だからにニーズは合致しているのか。

    6
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    日本も軽空母もっとスピード感持って増やしてもらいたいわ
    中国海軍を第1列島線と言わず12海里より外に出られないくらい圧力をかけたい

    9
      • 匿名
      • 2021年 11月 18日

      それだけの圧力って、、、
      国防費にどれだけ使うんですか?

      6
      • 匿名
      • 2021年 11月 19日

      すでに中国には正規空母がある上、かがと類似サイズの強襲揚陸艦が三隻(計画数は12隻)配備されているし、軍事費も軍備増強速度も圧倒的だからなぁ……
      ほとんど使ってないアメリカ本土所属の空母機動艦隊をいくつか在日米軍に移籍させるぐらいじゃないと圧力かけられないのでは

      5
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    このニュースを見るとスペインは空母もしくは強襲揚陸艦を保有して艦上固定翼機の運用を今後も続ける気だな。

    4
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    エルドアンは、地中海を制覇して、オスマントルコを再興する気かな?

    7
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    イギリスに引き続きスペインまでトルコと協力しようとしているのを見ると、ほんとアメリカって影響力を無くしたんだなあと。
    はからずも、日米韓次官会談で韓国どころか日本すらハンドリング出来なくなってるんじゃないか、という意見が出るくらいだし。
    日本とは違う形だけど、ソ連崩壊後の30年間でアメリカもまた、迷走しているんだなと。

    14
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    潜水艦はともかく、空母はやり過ぎやろう。
    金食い虫の空母をどこでどのように使うのかな?
    狭い地中海や黒海で必要なのだろうか?
    スペインなら、海外で使うかもしれないが。

    トルコや韓国は急激に軍事費を増やしているけど、経済は大丈夫なのだろうか?一度作った兵器は使わないと無駄になるからな。(抑止力や威嚇には使えるが)
    それともすでに使う予定があるのかな?怖っ!

    4
      • 匿名
      • 2021年 11月 19日

      トルコに関しては経済政策の時点で外信から「おはん正気か!?」って言われるくらいには大丈夫だよ

      5
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    狭い地中海で使うとなるといらんでしょ、って思うけど、トルコって結構アフリカ諸国にもパイプあるし、リビアやソマリアとか空母を寄らせてくれそうな国は結構ある気がしますねー。
    外向けに使い道は十分あると踏んでいるんでしょう。

    6
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    地中海で使うとなると、いらなくない?ってなるけど、トルコってリビアやソマリアとか海に面したアフリカ諸国にも根強いパイプがあったりしますし、案外外向けでも十分使い倒せると踏んでるんでしょうね。

    1
    • 匿名
    • 2021年 11月 18日

    産業分野では英仏独伊には勿論劣るが
    人口が少ないオランダやスウェーデンにも劣る印象を受ける。

    しかし、潜水艦作って輸出もしてるから、ミリオタと一般人とではスペインに対する印象が全く違うかもな。

    一般人からすると、高失業率をたたき出すギリシャのデカイ版。

    2
      • 匿名
      • 2021年 11月 19日

      返信しようとしていいねつけちゃった・・・
      >高失業率をたたき出すギリシャのデカイ版
      スペインは英仏でももうほぼ地場企業が消滅した工作機械産業でも民族資本の企業が生き残ってるし
      少なくとも機械産業では独伊ほどの技術水準ではないにしても韓国くらいの産業力はあるから
      観光と海運以外に競争力のある産業がないギリシャとは全く違うよ

      3
    • 匿名
    • 2021年 11月 19日

    軍事の世界は非情だね。ただし、いまのエルドアン大統領は国内経済の悪化によって、国民からの支持を失いつつあるから、華々しい国際プレーヤーの一方で、足元はグラついている。

    3
      • 匿名
      • 2021年 11月 20日

      国内の不満を軍事技術の向上でそらそうとしていた節があったのは去年からだからね。そのころから経済全般では不透明感が漂っていたけど、実現した軍事技術自体は素晴らしいものだったからワンチャンあるかもと思っていたが。
      やっぱそれだけじゃダメなんだなと。

      1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  2. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  3. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  4. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  5. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
PAGE TOP