インド太平洋関連

日豪比が長距離攻撃兵器への投資を拡大、問題は目標に到達させる能力

中国は南シナ海や東シナ海の周辺で攻撃的な姿勢を強めており、国際戦略研究所は「フィリピン、日本、オーストラリアは長距離攻撃兵器に投資して攻撃能力の射程を拡張しているものの、これを目標に到達させる能力が欠けている」と指摘した。

参考:Philippines, Japan near long-range missile milestones as they arm up for China
参考:Philippines To Acquire HIMARS, More BrahMos Missiles In Coming Years
参考:Long-range Strike Capabilities in the Asia-Pacific: Implications for Regional Stability

長距離攻撃兵器の取得と長距離攻撃能力の確立は別問題、フィリピン、日本、オーストラリアの長距離攻撃能力は米軍に依存

中国は南シナ海や東シナ海の周辺で攻撃的な姿勢を強めており、フィリピンでは2022年1月にBrahMos調達(海兵隊用3個中隊分)を発表し、ロメオ・ブラウナー陸軍大将も砲兵連隊創設125周年記念の式典で「我々は対艦ミサイルを手に入れ数年以内にHIMARSも登場するだろう」と語り、言及した対艦ミサイルはブラモス調達を、HIMARSはPrSM Increment2調達を示唆していると解釈されている。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jonathan Sunderman/Released

日本もTomahawk BlockV(400発)調達を予定していたが、配備時期を前倒しするためBlockIV(200発)とBlockV(200発)の調達に切り替え、これと並行して12式地対艦誘導弾・能力向上型の開発と量産準備も進めており、こちらも配備時期を2026年度から2025年度に前倒しする方針だ。

オーストラリアも2023年4月「長距離攻撃兵器の国内製造を2027年から2025年に前倒しする」と発表、開発に参加しているのPrSM、シーカー開発に参加しているJoint Strike Missileの国内生産を、ホバート級駆逐艦向けに米国からTomahawk BlockV(20発)とBlockV(200発)を調達する予定だが、この様な長距離攻撃兵器の運用はISR能力やC4ISRの強化が必要で、国際戦略研究所(IISS)は「フィリピン、日本、オーストラリアの攻撃能力は射程が伸びても目標に到達させる能力が欠けている」と指摘した。

出典:Lockheed Martin Long Range Maneuverable Fires missile(PrSM Increment4のデモンストレーター)

IISSは「フィリピンは長距離センサーを搭載した航空機や艦艇が限られ、こうしたギャップを埋めるのに米軍の支援が役立っているものの、長距離攻撃能力と指揮統制能力を効果的にリンクさせるためには追加の投資が必要」「豪州はISR能力への投資を増やしているもののC4ISRイネーブラー・アーキテクチャに対する米軍の支援に依存し続けるだろう」「日本のISR能力も不十分で宇宙能力やレーダーへの投資、部隊間や米軍との調整を改善するため統合作戦司令部の設置を計画しているものの経験が不足のため、日本の長距離攻撃能力は日米同盟の枠に留まる」と予想している。

要するにフィリピン、日本、オーストラリアは長距離攻撃兵器の取得で射程を大きく拡張させてもISRTや経験が不足しているため、独立した長距離攻撃能力の確立が難しい=米軍が中国軍の干渉を受ければフィリピン、日本、オーストラリアの長距離攻撃能力も支障をきたすという意味だ。

関連記事:中国牽制に効果を発揮、フィリピンがブラモス購入計画を承認
関連記事:日本政府が国産巡航ミサイルの1,000発以上保有を検討中
関連記事:豪州、3,600億円を投資して長距離攻撃兵器の国内製造を2025年に前倒し
関連記事:豪国防省が200発以上のトマホーク購入を正式発表、ホバート級で運用

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain

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コメント

    • 名無し
    • 2024年 3月 16日

    トップ画像にブラモスぶっこんできてワラタw

    8
      • バーナーキング
      • 2024年 3月 17日

      ぶっこむも何も見出しの「フィリピン」の「長距離攻撃兵器」そのものでは?

      4
    • たむごん
    • 2024年 3月 16日

    宝の持ち腐れになり兼ねないのは、非常に難しい問題ですよね。

    自衛隊員の待遇改善(新規入隊も促す効果)、沿岸防衛など、限られた予算を何に優先するべきなのかは難しい問題だなと。

    攻撃兵器保有による抑止効果(政府が意思を示した結果)により、戦争抑止に成功している可能性もあるので、効果の見極めは難しいですね。

    11
    • 一般人
    • 2024年 3月 16日

    これは昔から言われていたことで、
     ①敵を捕捉し
     ③射程内まで近づき
     ③ミサイルを発射し
     ④ミサイルを到達させ
     ⑤目標に命中させる
    をしなければ目標を撃破できません。
    そしてこのすべての工程で敵の迎撃を突破する必要があります。
    長距離攻撃兵器の保有だけでは初めの①が達成できません。
    さらに言えば米軍以外では敵迎撃網を突破する能力も不足しています。

    12
    • パラベラム
    • 2024年 3月 16日

    このミサイルの話を聞いたとそれを命中させる体制ごと構築すると思ってたんですが違うんですかね。

    3
      • Whiskey Dick
      • 2024年 3月 17日

      >ミサイルを命中させる体制ごと構築する

      これは陸自の話だが、先進国では標準となっているレーザー誘導兵器の照準員が存在しないとのこと。また装甲車でもデータリンクを搭載しているのは隊長車のみで、他は無線しか積んでいない。陸自は火器類の装備に熱心なものの、敵を見つけるセンサー、各部隊の情報を共有するデータリンク、装軌車両を戦場に輸送するトレーラーなどの支援装備を極端に軽視している。
      米軍ほどの支援能力は必要ないが、他国との共同訓練で運用体制のトレンドを見習うことぐらい出来るはず。

      18
        • あへ
        • 2024年 3月 18日

        レーザー誘導?火力誘導員の話なら10年辺りから教育が始まって即応機動連隊だの水陸機動団だのに火力誘導員の配置は始まってるからそれは良い
        データリンクの件はコータムに載せてるらしいrecsなどれほど機能してるかという話が全く耳に入ってこないので謎も謎だがデータリンクに関しては整備に力を注いでるのでは

        一番で致命的な問題はドローンやその他データリンクを活用するときに障害となる電波帯の制限ですね

        8
      • バーナーキング
      • 2024年 3月 17日

      ISRT関係だと来年度は中域UAVの能力強化と輸入USVの試験運用と国産USVの研究で、どれも必要とは思うけど遅い、足りない感も拭えないですね。
      目標観測弾は試作中で試験はR7〜8かぁ。これこそ前倒し配備して欲しいとこだけど。

      4
      • バーナーキング
      • 2024年 3月 17日

      ISRT関係だと来年度は中域UAVの能力強化と輸入USVの試験運用と国産USVの研究で、どれも必要とは思うけど遅い、足りない感も拭えないですね。
      目標観測弾は試作中で試験はR7〜8かぁ。これこそ前倒し配備して欲しいとこだけど。

      1
    • 折口
    • 2024年 3月 17日

    日本に関して言えば、この問題は複数の論点と目標があるので単に「遠くの敵を撃てるのか」という視点で捉えては片手落ちだと思います。確かに日本は複数の長射程兵器を前例のないペースで大量調達しようとしており、紛らわしい事に予算成立に前後して敵基地攻撃能力の議論を政治レベルで行っていました。実際、敵基地攻撃能力で想定されていたようなシナリオでの火力投射を行おうとすれば日本のISR能力は質量とも足りていないでしょう。しかし敵基地攻撃能力の議論は今忘却の彼方です。にも関わらず長射程兵器の調達計画は予定前倒しで進められています。これは長射程兵器が外国のものを攻撃するだけでなく、領土領海の縦深を活かして侵略部隊をスタンドオフ/アウトレンジで攻撃する時にも使えるからです。

    日本が射程10000kmを超すICBMを調達していたらその意図は間違いなく諸外国への攻撃に限定されるでしょうが、今般調達される兵器は国内から国内(に踏み入った敵)を撃つという従来の防衛力運用の枠内で利用されるものと現時点ではされています。日本は国内要部にはレーダーがあり、航空基地を基盤とする警戒機や情報収集衛星も運用されています。つまりこの点、日本は最低限の運用基盤は持っていると自分は考えています(索敵能力の靭性や代替・早期の能力回復はまた別)。敵基地攻撃能力の議論は国内政治の都合で今は下火ですが、何事もトップダウンで進む我が国の制度の例に見れば、外国の軍事拠点や施設を攻撃する必要を政治が認めない限りこの問題では米軍との協業も独自のターゲッティング衛星網の構築も前に進まないのではないでしょうか。

    26
    • あいうえお
    • 2024年 3月 17日

    スタンドオフ/アウトレンジで撃ちたいだけなら長射程化ニーズもそこそこで済むでしょう。
    尖閣を北海道から撃てるようにしても実効性は?でしょうし。
    長射程化をするならやはりターゲットは海外の敵基地等となると思います。

    4
      • 海軍スキー
      • 2024年 3月 17日

      》尖閣を北海道から撃てるようにしても実効性は?でしょうし。

      国土奪還を意図するならば安全圏から撃ち込める長射程装備は有用でしょうから、ターゲットが国内になる可能性も十分あるかと思います。
      中国を相手に考えた場合は南西諸島では縦深を確保出来ない為、九州から発射する事を想定して射程1500km、本州からの発射を想定して射程3000kmは必要かと思います。

      尖閣−宮古 210km
      尖閣−那覇 410km
      尖閣−由布院 1120km ※MLRS配備先
      尖閣−東京  1880km

      10
        • バーナーキング
        • 2024年 3月 17日

        射程だけでなく到達速度も考慮する必要がありますね。
        亜音速だと1000kmでも1時間以上掛かりますから状況の変化に対応するのがなかなか難しい。
        離島での有事に迅速かつ柔軟に対応するにはやはり極超音速兵器が是非欲しいところです。
        島嶼防衛用高速滑空弾(早期配備型)は量産に入ってるはずですが、迎撃突破力を考えると同能力向上型や極超音速誘導弾の実用化が待たれますね。

        5
    • 匿名
    • 2024年 3月 18日

    まず国民が無関心だからな。核ミサイル10発くらい撃ち込まれたらさすがに気にはするんじゃね?

    1
    • 匿名
    • 2024年 3月 18日

    まず国民が無関心だからな。核ミサイル10発くらい撃ち込まれたらさすがに気にはするんじゃね?

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