インド太平洋関連

豪海軍が海洋自律システム部隊を創設、対潜戦対応の無人潜水艦や無人水上艇を配備

豪海軍は正式に海洋自律システム部隊を創設し、構成戦力はAndurilと豪海軍が共同開発した超大型無人潜水艦のGhost Shark(数十隻)、豪C2 Roboticsが開発した大型無人潜水艦のSpeartooth(不明)、豪Ociusが開発した無人水上艇のBluebottle(55隻)になる。

参考:Navy names autonomous systems unit
参考:Sea Archer USV prototype begins trials as Leidos Australia advances ambitious manufacturing plan

重要なのは実際に作って試すことで、それを企業が自社資金でチャレンジできる環境=それだけのビジネスチャンスが期待できる環境が素晴らしい

豪国防省は14日「豪海軍が正式に海洋自律システム部隊=Maritime Autonomous Systems Unitを命名した」「これは海軍がより統合され、高度なテクノロジーを駆使した未来戦力に移行する上で重要なマイルストーンになる」「MASUは海洋自律システムの開発、統合、および作戦運用を加速させるためのProject SEA 1200を通じて創設され、これらのシステムは持続的かつ長距離にわたるISR(情報・監視・偵察)および打撃任務に最適化されている」と発表。

出典:Australian Defence Force/Kym Smith

MASUの自律型無人戦力はAndurilと豪海軍が共同開発した超大型無人潜水艦(XLUUV)のGhost Shark、豪C2 Roboticsが開発した大型無人潜水艦(LUUV)のSpeartooth、豪Ociusが開発した無人水上艇(USV)のBluebottleで構成され、Ghost Sharkは世界初の量産型XLUUVで最大航続距離は3,700km以上、最大積載量は約11.4m³、魚雷用弾頭や各種センサーなど搭載ペイロードを変更可能な自律型水中エフェクターのCopperhead、自律型海底監視ネットワークシステムのSeabed Sentryといったペイロード・モジュールを最大3つ、もしくは1つの特大ペイロード・モジュールを搭載できる。

要するにGhost Sharkは有人潜水艦の代わりに軽魚雷や重魚雷を使用した対潜戦が可能な無人潜水艦で、この分野の研究・開発で先行していたはずの米国、英国、フランス、日本、韓国は対潜戦が可能なXLUUVの実用化や量産化の域に達していない。

コンロイ国防産業相は2025年9月「Andurilは予算超過なしに3隻のプロトタイプを予定よりも早く納品した」と、マールズ国防相も「海軍向けにGhost Sharkを数十隻調達する」「最初の1隻目は2026年1月に納入予定だ」と述べていた。Andurilも「未だに世界中の海軍は自律性が海中戦にどのような変革をもたらすかを模索中だが、我々はGhost Shark構想を3年未満でやり遂げた」「既にオーストラリアでGhost Sharkの量産は始まっている」と述べ、量産型のGhost Shark初号機は2025年11月に完成して期限内に納入された。

米海軍は開発中のXLUUV=Orcaが開発遅延を繰り返し、2020年12月までに納入予定だったプロトタイプ5隻の引き渡しが完了したのは2026年3月で、国防総省の国防イノベーションユニットと米海軍は2025年4月に競合環境における作戦の有効性を最大化する新たな無人潜水艦(Combat Autonomous Maritime Platform=CAMP)の調達を発表、このCAMPにGhost SharkのベースとなったDive-XLの採用を発表している。

出典:Anduril

ここまでAndurilの開発スピードが早いのは「議会承認が必要な国家予算による開発費用」や「軍事技術や特注部品」に依存するのではなく、とにかくアイデアを早く形にしてみせるため「リスク覚悟で自社資金による開発」を行い「デュアルユース技術と市場で入手可能な商用部品」を採用しているからで、さらに言えば「完成度が80%でもいいので早く試して改善点をフィードバックしてもらう」という開発体制も伝統的な防衛企業にはない発想だ。

国防総省や米軍関係者らもAnduril(というよりスタートアップ企業全般)の開発手法を絶賛して「完璧でなくていいのでアイデアを早く試させろ」「修正がきかない完成されたシステムではなく一緒に作ろう」「アイデアを形にしたプロトタイプを持ち込めばテストに協力する」と述べており、M1E3開発にもデュアルユース技術や商用コンポーネントが採用され、地上戦闘システムの開発責任者を務めるハウエル大佐も「もう構成部品を全て軍用規格の特注品で作る必要はない」と言及し、誰もが「スピードこそが勝利をもたらす」と考えている。

豪C2 RoboticsのSpeartoothも全長8m、航続距離2000km、長さ2.7mのペイロードベイを備え、長時間の水中作戦に対応し、大量生産と大量配備を可能にする革新的なコスト(推定25万ドル)を実現しているらしいが、Ghost Sharkほど情報が公開されていないため対潜戦が可能なLUUVなのか、ISR向けのLUUVなのかは分からない。

ただし、Speartoothは船体に追加のペイロードベイセクションを挿入できる設計も存在し、C2 Roboticsは「2つ目のペイロードベイにバッテリーを搭載すればより長い航続距離を実現できる」「1つ目のペイロードベイと連結して1つの大きなペイロードベイとしても使用できる」と述べており、一部の報道では武器も搭載可能だと言われている。

出典:Ocius

MASUの中で唯一の水上戦力となるBluebottleは米海軍(第5艦隊)が採用しているセイル型USV=Saildrone Explorerに近い存在で、状況によって太陽光発電による電気推進、波力発電による電気推進、セイルによる風力推進を使い分け、指定された海域での平均作戦時間は約75日(最長記録は184日)で、ハリケーン級の波の高さ(20メートル超)にも耐えて指定された海域に留まることができ、豪海軍は2026年3月に豪Ociusと追加調達契約(40隻)を締結したためBluebottleの保有数は55隻になり、基本的にISR向けUSVだが曳航式音響アレイを使用した対潜戦への活用も提案されている。

ちなみに、Leidos Australiaはレジャー向けのアルミボート製造業者の能力を活用した「消耗可能な無人水上艇=Sea Archer」を提案中で、同社は自社資金でSea Archerのプロトタイプを建造して今年5月に海上試験を実施するらしい。Leidosの提案は「軍事用艦艇は専門の造船所で作るもの」という既成概念に囚われず「民間産業能力を活用した戦力増強プラン」で、オーストラリア人アナリストも「Sea Archerに徘徊型弾薬や対艦ミサイルを搭載するというアイデアには懐疑的だが、重要なのは実際に作って試すことだ。それをLeidosが自社資金で行っているのが素晴らしい」と称賛した。

2024年に発表した国家防衛戦略の中で「全領域の無人化技術に今後10年間で100億豪ドル=約1.1兆円以上を投資する」と発表したため、豪企業は無人航空機分野だけでなく無人水上艦艇分野や無人水中機分野でも積極的なシステム開発に取り組んでおり、MASUの構成戦力が3種類から拡張されるのは時間の問題だろう。

結局のところ米国、欧州、オーストラリアで防衛市場への新規参入が相次いでいるのは「特注品で構成された従来兵器だけでは消耗戦に必要な量を確保できない」「そのため量という質を担保する低コスト兵器への需要が高まっている」「実際に同分野への投資が始まって将来の需要見通しも大きい」「大量生産を前提にしているため民間の生産能力活用が期待されている」「低コスト兵器はデュアルユース技術と市場で入手可能な商用部品で構成されるため開発コストも小さい」「自社資金を投資してでもチャレンジする価値がある」となり、軍事産業を疎む風潮が強い日本にとって本当に分が悪い分野だ。

関連記事:豪州が無人機分野への投資を最大1.7兆円まで増額、低コストドローンにも2,000億円以上
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関連記事:XLUUV開発の遅れを挽回したい豪海軍、3年でプロトタイプ完成を狙う

 

※アイキャッチ画像の出典:Anduril

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コメント

  • コメント (9)

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    • SB
    • 2026年 4月 15日

    大型(8m)、超大型(推定12m)に対して海自の小型UUV(8.9m以下)に思想の違いを感じる
    前者は専門のドローン部隊が扱って後者はもがみとかに載せるからなんだろうけど

    海自はR10に納品予定の小型UUVとか、なんか試験されてた20~30m級のUUVとかいたりしていまいちよく分からん
    納品されたUUVも機雷戦は出来るらしい…?

    2
      • nachteule
      • 2026年 4月 15日

       どう思うかは個人にもよるけど、来年納入予定のモジュール式長期運用型UUVとか民間でも適用可能なオープンプラットフォームで色々な物を組み合わせ可能、メインモジュールの間にミッションモジュールを挟む構成が日本らしくない柔軟性があって気味悪く感じる。運搬、水中敷設、観測、情報収集、警戒監視とか多様な任務を想定。攻撃の項目無いけど恐らく12式魚雷を格納するモジュール位開発元の三菱が作るんじゃないかと思うんだよね。
       間に挟むミッションモジュールのサイズ限界が分からないけど、大型化と重量増は推進効率と機動性の悪化問題があるので公表されている16m位が限界だろうか。

       開発中のUSVには潜水し推進機能も付与するらしい、これも変わり種だが水密を考えるとRWSとかのむき出しで水圧の影響受けそうな精密機器搭載は積極的にしない感じかな。潜水機能に拘るなら通常のUSVみたいなセンサーとかは無理でより高価なセンサーが必要になる感じがする。

       小型UUVは河川や浅海での情報収集で攻撃能力は恐らく無い、より大型になって攻撃能力の付与とか離島への輸送とか多様な任務の付与をする感じじゃないかな。
       各種サイズに役割があるのは当然だがステルス機のように保有しない事には知見が得られないから開発しているだろうし、恐らく対UUV対策の確立も目的にあるはず。探知出来るのかどうなのかのテストは絶対にするはずで、ヤバい結果が出たなら護衛艦のソナーの追加か更新があるかもしれない。

      5
    • YF
    • 2026年 4月 15日

    >軍事産業を疎む風潮が強い日本にとって本当に分が悪い分野だ。
    日本の場合最終的にここに行きついちゃうんですよね。
    CCAや大型UUVなどの大物は大手企業がやるでしょうけど、問題は低コスト部門ですよね。
    政府が強い方針を示してこの風潮を変えるよう、官民協力して投資、スタートアップ支援をやっていくか。
    あるいは、スッパリ諦めて海外で優秀な物を購入、またはライセンス生産するか。

    少子化の日本で定員割れの自衛隊にはドローンを含めた省人化無人化は絶対に必要な物で国産がベストだと思いますが、限られた予算で何に投資するかを考えた場合、海外産という割り切りも必要なのかもしれません。

    7
      • ドゥ素人
      • 2026年 4月 15日

      おっしゃる通りで、日本の場合は議論すら出来ない雰囲気が強いですよね…

      少子化もそうですけど、人的被害を少なくするにも防衛コストを下げるためにも無人化は重要課題なんですけど、こと兵器の話になると途端に一律ダメにされるので

      国産化は哨戒や早期警戒、掃海辺りのあまり言われない分野で進めながら、多用途化でこっそりと…くらいでしょうか。
      ライセンス契約とかで製造ラインの創出や維持でもできれば御の字かな、と思います。

      1
        • 無印
        • 2026年 4月 15日

        >無人機はダメ
        アニメとかでもそうですよね
        結局有人機、それもエースの一騎当千を美学に描く
        無人兵器は悪、ザコ、エレガントではない、色々…

        無人機を格好良く肯定的に描けるクリエイターはいないのでしょうか

        2
      • ドゥ素人
      • 2026年 4月 15日

      おっしゃる通りで、日本の場合は議論すら出来ない雰囲気が強いですよね…

      少子化もそうですけど、人的被害を少なくするにも防衛コストを下げるためにも無人化は重要課題なんですけど、こと兵器の話になると途端に一律ダメにされるので

      国産化は哨戒や早期警戒、掃海辺りのあまり言われない分野で進めながら、多用途化でこっそりと…くらいでしょうか。
      ライセンス契約とかで製造ラインの創出や維持でもできれば御の字かな、と思います。

      1
        • ドゥ素人
        • 2026年 4月 15日

        ごめんなさい。
        ボタン押し過ぎてしまいました

        1
      • nachteule
      • 2026年 4月 15日

       大手にしても防需部門が全体収益の2割を切るのが実情ではないか。昨今の株価対策考えると自社開発をバンバンすると言うのは難しくなるかもしれない。三菱も川重も大株主にそんな口を出すような所は無い感じだが。

       各種サイズほぼオールジャパン体制にするなら三菱がF-2の炭素繊維複合材技術をデュアルユースしたように、そして開発している長期運用型UUVのように民需も考慮してって言うのは一つの解決策でもあると思うんだよね。軍需色が強かろうがその需要はそこだけには留まらないと言う掘り起こし出来れば各種サイズ作る可能性はある。

       勿論、優秀な物を買うのも選択肢だが長期的に見て何が国益になるかの対応はすべきでしょうね。ハードは作るけどソフトウェアは海外産とか色々とやりようはある。

      1
    • たむごん
    • 2026年 4月 15日

    日本も、無人化できるものは、金使ってドンドン進めていきたいですね。

    海上自衛隊・海上保安庁の方々、海上での長期間の任務が、あまりにも過酷だなと思う時があります。

    無人化を進める事で、海上での負担を減らしつつ、海上自衛官・海上保安官が海上任務につくときは『1日当たりの手当て・待遇よりよくする』これにも繋げて欲しいものですね。

    3

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