約1年に及ぶ戦争はウクライナや西側諸国に様々な問題を引き起こしているが、ロシアでも軍とワグネルの対立が悪化しており、ワグネルの創設者は「軍上層部が意図的に我々への弾薬供給を止めて敵を助けている」と非難した。
ロシア軍上層部は敵のために働き、敵がロシアの背骨を折るのを助けている
ウクライナ軍はロシア軍の猛攻に押し切られセベロドネツクやリシチャンシクを昨年7月に失ってしまったが、これはリシチャンシクの南に位置するポパスナを失いバフムート経由の兵站ルートを失ったのが原因で、このポパスナを激しい戦闘の末にウクライナ軍から奪取したのが民間軍事会社「ワグネル」だ。
ロシア側が現在成功を収めているバフムート周辺の戦いも正規軍ではなくワグネルが主導しており、ロシア軍上層部は「このままワグネルが軍事的成功を収めて立場を強化すると競合組織に成長する恐れがある」と危惧し、ワグネルが人的資源を補充するため活用していた「囚人募集」を中止するよう圧力(2月9日に募集を停止)を加えて注目を集めていたが、ワグネルのプリゴジン氏は20日「軍上層部が意図的に我々への弾薬供給を止めて敵を助けている」と告発した。
プリゴジン氏は「この種の制限がどこから来たのか、この制限下で弾薬を入手するにはどのような手続きを踏めばいいのか、提出する書類をどのように書けばいいのか誰も理解していない。私と軍上層部が不仲なので頭を下げてくればワグネルに弾薬をやると言っているようなものだ。弾薬が不足しているためワグネルの兵士や『我々がカバーできない他の部隊』の兵士が毎日2倍も死んでいる。いい加減我々に対する嫌がらせを止める良心はないのか。ワグネルの戦いを妨げる者は敵のために働き、敵がロシアの背骨を折るのを助けている」と批判している。
つまりバフムート周辺の戦いで異常に高い死傷率を叩き出しているのは「ロシア軍が意図的に弾薬供給量を減らしているからだ」という意味で、弾薬が不足しているワグネルは作戦範囲を縮小するしかなく、その影響で「我々がカバーできない他の部隊の兵士=正規軍の兵士も沢山死傷している」と訴えているのだ。
プリゴジン氏は「我々は誰かを訴えたい訳ではなく、ただ気まぐれを止めて主義主張を捨てて、我々が必要とする弾薬を与えてくれと言っているだけだ。前線で兵士が沢山死んでいる時にあなた方が黄金の食器で食事を摂り、子供やペットをドバイに送って休暇を楽しませていることを非難するつもりない。ただ我々に弾薬を提供してくれと言うだけだ」と付け加えており、このまま軍上層部との対立が続けば正規軍よりも結果を出しているワグネルは機能しなくなるだろう。
ロシア軍主導のヴーレダー攻略は第155海軍歩兵旅団が壊滅するほどの損害を被り、逆にウクライナ軍の反撃にあってヴーレダーに伸びていた突出部を正面から潰された(潰した地域をウクライナ軍が保持しているのか一時的な前進なのかは不明)ので、弾薬供給を減らされてもバフムート周辺で前進を続けるワグネルとの内部対立が激化してくれれば、ウクライナ軍にとっては最高の展開だ。
因みにロシア軍元大佐のイゴール・ガーキン氏も「ワグネルは弾薬不足に悩まされているので火力で戦場の優位性を獲得するのが困難で、囚人募集を止められたため予備戦力にも問題を抱えている。国防省とワグネルの対立は国に大きな損害を与えることになるだろう」と指摘しているが、他にも興味深い事実に言及している。
プーチン大統領はドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)が保有する軍をロシア軍に準じた待遇(供給する武器や装備など)に引き上げろと命じていたが、ガーキン氏は「DPRとLPRの将校の道徳レベルはロシア軍以下で腐敗や汚職が酷く、縁故採用も横行しており、階級や地位を金で買うのも簡単だ。しかし前線で戦い続けている下級将校は(実務的な観点から訓練を受けていないもしくは経験の浅い)ロシア人将校よりもプロフェッショナルである場合が多い」と述べており、DPRとLPRの軍を現在の地位のままロシア軍に統合すれば混乱を招くと警告している。
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出世欲が高くプーチンに気に入られたいプリゴジンとカディロフだけがやる気に満ちていて
ロシア軍は最高指揮官である大統領の命令だからやってますっていう感じなんですよね
関わっても作戦が上手くいかなければ更迭か粛清される
カディロフもPMCを持っているが
国軍に忠誠を誓うとか言い出したみたいですね。
以前はプリゴジンと一緒に軍上層部批判をしていたが
いまはプリゴジンがプーチンに疎まれて干されてるのが見て取ってるんだな。
カディロフは意外とと機を見るに敏なんだなと思う。
たしかカディロフは上級大将で外様なのに階級が高かったような。
ワグナーはロシアが間接的に軍を投入するための組織として作られましたが、ウクライナ侵攻以降は正規軍との対立が酷くなっていますね。
ドイツ国防軍と武装親衛隊もこんな感じだったのかな?
意識的には似たところがあるでしょうね。
親衛隊はナチス庇護のイケメンエリート意識、一方のワグネル社員は実戦経験豊富で、当初から正規軍兵士を下に見ていたようですし。
膠着状態の戦場におもむろにやってきたかと思えば、指揮系統を無視して現地兵士を捨て鉢として無理な突撃をさせて自分たちが戦果を挙げる。ワグネルが動員兵らしき人を足蹴にする様子がドローンで撮影されたりしてます。
こんな事やってれば現地でちょっとした撃ち合いに発展してもおかしくない。
まだロシア側が攻勢になっているからこんな事していられると見ることもできますが、問題の根が深いだけに、終戦まで解消されないでしょうね。
>我々は誰かを訴えたい訳ではなく、(中略)前線で兵士が沢山死んでいる時にあなた方が黄金の食器で食事を摂り、子供やペットをドバイに送って休暇を楽しませていることを非難するつもりない。
全部露骨な皮肉で笑ってしまいました。正規軍と私設の武装組織が争ってくれるなら好都合ですが、装甲火力も砲兵火力も兵站業務も制空や防空も幹部人材教育までも全部正規軍に依存している軽歩兵の集団が連邦軍を踏みつけにして政治的躍進を狙っているというのは実際面白いですね。プリゴジンとワグネルのタッグがロシア政界を席巻できるならいよいよロシアも終わりでしょう。
プーチンに疎まれだしたのに批判を続けて
この人粛清されないかな ?
プーチンに疎まれだしたプリゴジンが、身の安全のために、逆に、プーチン政権の転覆、あるいは、来年の大統領選挙への出馬、極端な言い方をすれば、プーチンの暗〇という強行に及ぶ可能性もあるかも。
プリゴジンは政治的に失脚しつつあると言う観測が出ていましたが現実だったようですね
兵士の命を焚火にくべて限定的な戦果を挙げている事と正規軍が殆ど戦果を挙げられない事で何とか命脈を保っていますが
そりゃあ誰がワグネル社への弾薬補給を減らしているかといえば、当然ゲラシモフ参謀総長であり、それが参謀総長の特権でしょう。
今、クレミンナ方面では、ゲラシモフ参謀総長が長く指揮官や、師団長をしていた赤旗親衛自動車化ライフル歩兵師団、赤旗親衛空挺師団を主力とするゼレベツ川、リマンに向かう攻勢が大規模に行われて、戦車隊指揮官であったゲラシモフ参謀総長がそっちの方面への弾薬補給を最優先とするのは当然です。
週刊誌の記事では、ゲラシモフ参謀総長は、ワグネル社に、長髪を切れとか、髭をちゃんと剃れといったことに対し、プリゴジンがそんな暇はないと口答えしたのに、ゲラシモフ参謀総長が激怒したという話もあります。
そういう話はパットン大戦車軍団でもあり、やはりゲラシモフ参謀総長は髪をちゃんと切るとか、髭をちゃんと剃るというような日常的な規律を重視する赤旗親衛部隊の指揮官、司令官ということなのでしょう。
プリゴジンは実際に囚人兵で懲罰大隊、シュトラフバットのようなのを編成して、実戦に投入していますが、そんな部隊の損害が多いのは別に不思議でもなんでもありません。
プーチンがプリゴジンではなく、ゲラシモフ参謀総長を作戦総司令官に任命したのは、もちろんプリゴジンよりゲラシモフ参謀総長の方を信頼しているからでしょう。
ここでゲラシモフ参謀総長がプーチン閣下の期待に副えるだけの成果をだせるか?
どこまでの損害が許容されて、どこまでの戦果が求められているのか?
正念場ですな
ゲラシモフは経歴を見ると有能なんでしょうが
ショイグとお友達のムラドフ大将(最近中将から昇進)が
無能だとイゴールガーキンが批判していたと思う。
ムラドフ被害者の第155海軍歩兵部隊の兵士たちからは
失敗した同じ作戦を繰り返し指示されたと不平がもれている。
それに対して超絶ブラックだけど
ワグナーは戦況図で前進する成果をだしてるんだよね。
国軍は同じ囚人兵に対しても
一人ひとりにちゃんと銃を支給して
特戦隊で無理に突撃させることをしないし
砲弾で後ろから撃つこともしないと言って
募集しているらしいですね。
ワグナーに比べると超絶ホワイトだけど
戦況図では戦果はあまりでていないですね。
意図的なのか戦時中の混乱なのか知らんが命懸けで参加した予備役が追加の手当貰えてない話もあるけどな。あんな安い給料で命かけろとかどこの最貧国だよと。
バフムトでのウクライナ側の反撃に、こんな裏話があったのであれば、笑えない話。
紛争も1年が経過し、軍事的にもさまざまな問題点が双方出てきて興味深いですが
今回の件はロシア軍内部の権力争いでしょうね。
ワグネルは元々昨年まで公に存在を認められておらず、戦功をあげるにつれ知名度
・存在感が高まったわけですが、当然ロシア正規軍の幹部は「新参者が」あるいは
「ワグネルが力を持つと自分の立場が危うい」などと疎ましく思い、足をひっぱり
功を焦る愚か者が出るのは世の常です。
プーチンとしても、ワグネルやカディロフの私兵やドンバス民兵などが影響力を
持ち過ぎると軍の統制が取れなくなると懸念して、ゲラシモフに直接の指揮を
命じたのかもしれませんね。ただプーチンもゲラシモフも、プリゴジンの存在を
疎ましく思っているとしても「勝利」が第一の目標なので足をひっぱることはない
と思いますが。
今回の件はおそらく、武器兵站を管理するロシア正規軍の、無能な中間管理職の
嫌がらせでしょう。
CIAの長い手がワグナーまで伸びると良いですね。
それって長い腕じゃないのか・・・
やっぱりウクライナ軍の最大の敵はロシア軍であり、最大の戦闘支援はロシア軍ではないか。
今やバフムト周辺のウクライナ軍の損耗した武器弾薬も西側諸国の支援により再度の回復傾向にあるようだし、ロシア軍のサボタージュによってワグナーの部隊は最大の攻撃機会失っただろう。