米国関連

バイデン政権、クラスター砲弾を含むウクライナ支援パッケージを発表

ウクライナは再三「クラスター爆弾を提供して欲しい」と要求してきたが、バイデン政権は7日「155mm榴弾砲や自走砲で使用できるクラスター砲弾(DPICM)」を含むウクライナ支援パッケージを発表した。

参考:Biden Administration Announces Additional Security Assistance for Ukraine

バイデン政権がDPICMの移転を決断したのは「塹壕戦対策」だけでなく「砲弾不足」も影響しているらしい

米メディアは「バイデン大統領がクラスター爆弾のウクライナ移転を承認したため、明日発表される支援パッケージにクラスター爆弾が含まれる」と報じていたが、国防総省は7日「非常に効果的で信頼性の高いDPICM(155mm榴弾砲や自走砲で使用できるクラスター砲弾)を含む追加の砲兵システムと弾薬を提供する」と述べてウクライナ支援パッケージを発表した。

出典:U.S. Army photo by 2nd Lt. Gabriel Jenko, 1st Battalion, 82nd Field Artillery Regiment, 1st Armored Brigade Combat Team, 1st Cav. Div クラスター弾頭タイプの砲弾(DPICM)

このパッケージにはパトリオットシステム向けの追加弾薬、AIM-7、スティンガー、HIMARS向けの追加弾薬、155mm榴弾砲×31門、DPICMを含む155mm砲弾、105mm砲弾、ブラッドレー×32輌、ストライカー×32輌、地雷除去装置、TOW、ジャベリン、対戦車兵器、精密航空弾薬、無人機、装備を回収するための戦術車輌×27輌、装備を牽引・運搬するための戦術車輌×10輌、障害物を排除するための弾薬とシステムなどが含まれており、ウクライナは再三要求してきたクラスター爆弾を手に入れた格好だ。

ただバイデン政権がDPICMの移転を決断したのは「塹壕戦対策」だけでなく「砲弾不足」も影響しているらしい。

出典:Department of Defense

ウクライナでの地上戦は砲撃戦と塹壕戦が主体で、地形を利用した塹壕は単一弾頭を使用する伝統的な間接射撃に対して耐性が非常に高く、戦車砲のような直接射撃は更に攻撃効果が低いため、ウクライナ軍が犠牲者を最小限に抑えつつロシア軍の防衛ラインを突破するには間接射撃による膨大な火力投射が必要で、これに使用する155mm砲弾は供給量に問題を抱えている。

この手の塹壕は「単一弾頭タイプの砲弾」ではなく「複数の子弾を内包したクラスター弾頭タイプの砲弾」が効果的で、DPICMが制圧できる範囲は通常砲弾の5発分以上と言われており、米軍在庫には300万発近いDPICMが保管されているため、塹壕戦でDPICMを使用すれば単一弾頭タイプの155mm砲弾の使用量を抑えることができるという寸法だ。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

因みにホワイトハウスのサリバン補佐官は「まだ通常型砲弾の生産量が十分でないことを考慮すると(クラスター爆弾の)必要性を認識している。仮にクラスター爆弾をウクライナに提供することになっても、これは通常型砲弾が十分に供給されるまでの一時的な措置になるだろう。さらにキーウ政権は民間人へのリスクを最小限に抑えながらクラスター爆弾を使用すること、特に民間人が居住する場所では使用しないことを我々に保証している」と述べている。

追記:ウクライナへのF-16提供で主導的な動きを見せていたオランダのルッテ首相が難民問題で辞任した。

関連記事:バイデン政権、まもなくクラスター爆弾が含まれるウクライナ支援を発表
関連記事:ダメなものはダメ、ウクライナが要請したクラスター爆弾提供をNATOが拒否
関連記事:エストニア、ドイツにクラスター爆弾のウクライナ移転を承認するよう要請

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • MAX
    • 2023年 7月 08日

    ようやく決まりましたね
    遅きに失したとはいえ良かったですね
    「不発弾で非人道的!と騒いでいる御仁たちは
    戦に負けてロシア軍のような無法集団に征服されることの方が
    遙かに非人道的であるという単純な事実を認識して頂きたいです。

    60
      • バーナーキング
      • 2023年 7月 08日

      全然違う事柄を「非人道性」なんて曖昧な基準で比較しても「ウクライナの非ナチ化」なんつーお題目を真に受けてる方々には無意味かと。
      それより露軍が地雷だらけにした戦場にちょっとばかり不発弾が混ざったところで何も変わらん、
      露軍は最初っからしかも市街地向けて使ってる、みたいな直接的に比較できる要素の方がまだしも効果…はないかなぁ。

      21
    • msd
    • 2023年 7月 08日

    DPICM弾が強固に防護された陣地に効果があるという説はとても興味深いですね!

    確かに、3日〜1週間以上陣地構築された、上に防護物をつけた掩蓋陣地は既存の砲弾からの防護を基準に作られているので、当然砲撃に対して高い防護力がありますが、多くの軍隊の陣地構築マニュアルにDPICM弾に対する防護が十分に配慮されているかというと、難しいと思います。DPICMがどこまで効果的かは分かりませんが、通常弾頭との比較であればマシかも知れませんし、そもそも米軍でさえそういうデータを十分に持っていないかも知れません(本来なら発見されたX日準備された陣地に対してYkg/平方メートルの火力投射が必要、それによって投射火力の種類・量を選定するという自動的なプロセスがあるのですが)

    本来なら実の防御構築物に対してDPICMやサーモバリックなどの新世代の砲弾を投射して、どういう形状、どういう土厚の構築物が弱く、強いかという実験データがあれば分かりやすいのですが、昨今テロ戦主体となっていた列国軍隊では、意外とそういう検証データがないかもしれませんね。そういう意味でも本戦争はさまざまな兵器の有用性の検証となる、貴重な戦訓です。

    100年前の一次大戦で日本は観戦武官を送り様々な警鐘を受けましたが、それを十分に活かしきれませんでした。今回そういう武官を送っているかは分かりませんが、たとえ戦後にウクライナ軍戦訓収集部隊に10億円払ってコンサルティングしてもらっていいくらい、この戦場の教訓は重要になると思います。

    10
      • ネコ歩き
      • 2023年 7月 08日

      在ウクライナ日本大使館には防衛駐在官1名(1佐、モルドバ管轄兼務)が常駐し軍事分野の情報収集に努めています。
      それら収集情報は防衛研究所等で分析が行われているはずです。勿論限界はあるわけですが。

      22
      • 鼻毛
      • 2023年 7月 08日

      自衛隊はこのサイトの管理人さんを雇うべき
      たぶん1番詳しいから

      5
      • nachteule
      • 2023年 7月 08日

       強固に防護された陣地に効果があると書いてあるかな。

       明確に効果があるのは厚みの有る天蓋が無い塹壕相手の話でしょう、耐榴弾砲なり破片防御を考えた掩体や要塞等の陣地に効果が有るとは言ってないと思う。提供される子弾の貫通力はRHA7cm未満でそれも垂直に当たった時の話でしかなく掩体以上の天蓋に砕石・軟鋼・土嚢・コンクリ等のどの素材を使いどれだけの厚みが有るのか分からない事には有効性すら検証出来ない。
       オープンソースの情報から考えるに子弾の威力に関しては並みの対人地雷や手榴弾以下で普通に致死が狙えそうなのは4m未満で上手く破片が飛ぶならそれ以上が狙える位でしかない。榴弾砲の破片拡散データなんて二次大戦レベルから有る物だし、だからこそ破片を有効に使うために落角や起爆タイミングとか決められている。破片の散布パターンを考えると敵陣地が横に広がっているなら正面から最適のタイミングで空中炸裂しないと効果が薄いのは明白。クラスター弾は相手塹壕上方で炸裂すれば塹壕にかなりの範囲飛び込む事が期待出来ると思っているだろうけど実際の塹壕なんて壁も床も泥だらけのような気がするし単純な衝撃信管がどこまで成果を発揮するのか気になる。不発率考えると効果を最大限にするため堅い地形の都市部に使ったロシアってまともな判断している気はするな。

       通常弾やサーモバリックの効果に関して言うなら戦訓が無くても実験は出来るので危機感があるなら進んでやるべき。通常弾の破片がどのように拡散するかなんてデータは幾らでも転がっているし、どの高度で炸裂させ角度によって破片がどのように飛ぶのかのデータも有るだろう。
       サーモバリックも気化爆弾のデータがあるから酸欠・爆風とかどんな影響が出るのかは分かると思うんだけどな。正確な事は言えないけど地表で爆発した場合は水平以上の上方向に90%程の威力が拡散とかのデータだって取っているはずだし。

      3
    • XYZ
    • 2023年 7月 08日

    ATACMSは提供されないようですね。
    バイデン政権はまた逐次投入ですか・・・。

    7
      • bbcorn
      • 2023年 7月 08日

      正直西側から見たら ウクライナは小ロシア、本質的にロシアとあまり差がない。
      スラブ人同士でずっと削りあいをやってくれた方がいい。
      もしウクライナの大勝ちでこの戦争が終わったら
      ロシアの手前に飢えた手負いの軍事大国が出現することになる。
      それはそれでやっかい。

      10
    •  
    • 2023年 7月 08日

    やっぱり平時に掲げる理想なんて戦時の現実の前には脆く崩れ去るものなんだなあ
    次は毒ガスかな?
    ドローンとの相性よさそうだし運用法が劇的に進歩するかもね

    8
    • リック
    • 2023年 7月 08日

    クラスター爆弾の供与はいつかはなされると思っていたので驚きはないですし、「そりゃそうだよね」っていう感じです。

    飛躍しすぎと言われるかと思いますが、私は紛争継続中のウクライナNATO加入はいずれは承認されるものと考えています。
    西側諸国はこれまでのウクライナから継続的に挙げられる要望に対し、無理難題と一見思えるものはその場ではやんわり拒絶しつつも決して選択肢から排除せずに議論を続けました。
    そして時間をかけてでも実現可能な状況を整えてきました。
    クラスター爆弾の供与も、NATO加入の要望も、そう言う意味では同じ地平の上にあるものといえます。

    「じゃあロシアとの全面戦争問題はどうなるんだ」と言う疑問は当然湧いてきますが、そこは規約を変更するなり、根回しするなりしてNATO諸国が落とし所を見つけるものと考えます。これまでもそうしてきましたし。
    そこが停戦への道筋の繋がるきっかけになるのではないかなとも考える次第です。

    3
    • zoea6
    • 2023年 7月 08日

    ブラッドレーとストライカーも更に追加供与されるんですね。
    総合計で100両近く追加供与されるのか。

    6
    • くらうん
    • 2023年 7月 08日

    前の記事でクラスター弾=ゲームチェンジャー?が話題になりましたが、正直「ゲームチェンジャー」って、特に定義が定まってないから言葉だけが独り歩きしている状態ですよね。
    マスコミやアームチェアウォリアーが使いたがる事は多いけど、当事者同士が使う事はあまりありません。
    過去にメディアが「ゲームチェンジャー」として報道した武器も活躍の程度はバラバラで、ジャベリンやHIMARS等はある時期においては敵が戦術を変更せざるを得ないほどの影響を与えたという点では「ゲームチェンジャー的」だったと言えるかもしれない。が、彼我の戦況と戦術が有機的に変化している状況では、単一の兵器がいつまでも・どの場所でもゲームチェンジャーとして猛威を振るうなんてことはない。
    つまり「これはゲームチェンジャーか」という議論自体あまり意味が無い。

    義勇兵も言ってましたが、ゲームチェンジャーか否かはユーザーからしたら心底どうでもよくて、自分たちが今いる状況に少しでも役に立つならいいということでしょう。

    19
    • 停戦
    • 2023年 7月 09日

    ミリタリー関係者はゲームのような感覚でロシア討伐戦を楽しんでいるようだ。
    自分が戦場に送られたらどう感じるのか真剣に考えてほしい。

    2
      • k.ziro
      • 2023年 7月 10日

      ロシアに制圧されたウクライナで何が起こるかも合わせて考えてね

      1
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