L3ハリスはドバイ航空ショーで「VIPER SHIELDが2025年第四半期の量産開始に向けて12月に開発マイルストーンをクリアする見込みだ」と明かし、F-16 Block70/72(V仕様)向けのEWシステムが2025年頃に登場すると予告した。
参考:L3Harris plans next electronic warfare Viper Shield ‘drop’ in December
台湾がAN/ALQ-184を更新するには「ポッド式のVIPER SHIELD登場」を待つ必要があるのかもしれない
ロッキード・マーティンは台湾からの投資を引き出してF-16 Block70/72(通称:VIPER=V仕様)を開発、同機に採用されたAN/APG-83(通称:SABR)は「AN/APG-81に近い能力を持っている」と言われており、米空軍関係者もSABRを採用したF-16C/D(Block40/42及びBlock50/52)のアップグレードについて「AN/APG-68では1度に2つ以上の移動目標を追尾出来ず、敵が使用する巡航ミサイルの検出能力も0に等しかったかった」と述べて「SABRへの換装でその辺りの問題が解消している」と示唆した。
このBlock70/72には台湾、スロバキア、モロッコ、ブルガリア、バーレーンから発注が入り、台湾(F-16A/B Block20)とギリシャ(F-16C/D Block50/52)は既存機のアップグレードを行なう予定で、2022年12月時点で台湾はV仕様にアップグレードされたF-16を100機受け取っているのだが、ここには落とし穴が存在する。
米空軍が実施しているF-16C/DのアップグレードパッケージとF-16Vへのアップグレードパッケージは基本的には別物(SABR換装など重複する部分もある)で、新規製造のBlock70/72と既存機からのアップグレードも完全な同一仕様ではなく、最大の違いは採用する電子戦(EW)システムが異なる点だ。
米空軍はAN/APG-83に統合された内蔵式のAN/ALQ-257(IVEWS/ノースロップ・グラマン製)を、新規製造のBlock70/72=輸出仕様も内蔵式のAN/ALQ-254(VIPER SHIELD/L3ハリス製)を採用する予定だが、既存機からのアップグレード機は従来通り電子戦ポッドを携行する必要があり、ノースロップ・グラマンは輸出向けに開発したALQ-131Cについて「SABR上で問題なく作動する」と主張しているものの米空軍はBlock70/72のEWシステムとして認定していない。
そのため台湾側は「ALQ-131CやAN/ALQ-254をポッド式に変更して量産準備を整えるのに10年ほどかかると米空軍が通知してきた」と主張、しかしL3ハリスは「もしポッド式のAN/ALQ-254に発注があれば5年後に量産品の納品が可能で月産2~3セットを供給することができる」と抗議、この状況について台湾側は「アップグレード機向けのEWシステムが決まらないのはALQ-131Cの完成を待っている=L3ハリスとノースロップ・グラマンにBlock70/72の需要を均等に配分するためではないか」と疑っているのだが、ALQ-131Cの動向は2021年6月から途絶えている。
一方のL3ハリスはドバイ航空ショーで「VIPER SHIELDが2025年第四半期の量産開始に向けて12月に開発マイルストーンをクリアする見込みだ。5ヶ国が発注したBlock70/72をVIPER SHIELDを受け取ることになる」と発表、つまり量産段階に進むための審査=マイルストーンCを年内に達成するという意味で、Block70/72を発注した5ヶ国とは台湾、スロバキア、モロッコ、ブルガリア、バーレーンのことだ。
VIPER SHIELDはF-15EX向けのEPAWSSと同じようにAIと機械学習を応用した統合型EWシステムで、予め収集された信号に基づいた警告や妨害にしか対応していない従来のEWシステムとは異なり、未知の信号に対しても瞬時に解析を行い使用された無線周波数を特定、その情報を元に機上で再プログラムが可能なデジタル無線周波数メモリ(DRFM)やデジタル周波数技術ジェネレーターを同時に駆使して広範囲に自機の位置や速度を偽装した誤信号をばら撒きF-16を保護することができる。
問題は既存機からBlock70/72にアップグレードしたF-16向けのVIPER SHIELD(ポッド式)が設定されていない点で、この問題が解決するまで台湾空軍はアップグレードしたF-16Vで旧式のEWシステム(AN/ALQ-184)を使用しなければならず「戦場での生存性」に大きな課題を抱えている状態だ。
RTX(旧レイセオン)もSABRに対応したALQ-184のアップグレードバージョン開発を示唆していたが、SABR搭載のEWシステムは米空軍機向けのAN/ALQ-257、Block70/72向けのAN/ALQ-254(VIPER SHIELD)でほぼ確定しているため、台湾がAN/ALQ-184を更新するには「ポッド式のVIPER SHIELD登場」を待つ必要があるのかもしれない。
因みに内蔵式のVIPER SHIELDをポッド式に変更するには相互干渉やAN/APG-83の影響を避けるため「電波暗室での格闘」から始めなければならず、L3ハリスが言及したとおりポッド式への変更には「発注から5年程度の時間」が必要なのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:L3Harris Technologies
ご、5年?間に合わなくね?
これはいざ一新したタイミングでまた新商品売りつけられるやつですね間違いない
過去記事で、台湾のアップグレード版F16Vの機体寿命は2028年頃とあったのでEWに新開発など間に合わないように思えますが果たして…
さりげなく旧タイプの電子装備が役立たずって書いてありますけど、これモロにウクライナに供給されるグレードじゃなかったでしたっけ?
日本のF-2にも積んで欲しいな
改修開発途中でお役目ごめんになりそうだし無理かな?
空自の電子戦は、F-35頼みですね。
F-22とか間違って採用されていたら、悲惨なことになっていました。電子戦能力は一世代は違いますから。