米国関連

国防総省が海軍に警告、テストをスキップしてMQ-25Aの生産を行なうな

国防総省監察官は11月に発表したレポートの中で「海軍がMQ-25Aの主要テストをスキップして生産に関する重要(マイルストーンC)な決定を下そうとしている。テストをスキップすれば最終的にプログラムコストの高騰を招くだろう」と警告した。

参考:Navy delays unmanned MQ-25A Stingray timeline after IG warnings

F-35もKC-46も主要テストを省略してどうなったのかを思い出せば自ずと正解が見えてくるだろう

米海軍の空母航空団に配備されているF/A-18の約3割は空中給油任務に従事しており、これを解放して本来の任務に戻すことを目的に開発されているのがMQ-25Aで、同機は空中給油以外にも限定的な情報・監視・偵察(ISR)任務に対応し、米海軍はMQ-25Aについて「2040年までに空母航空団の約60%を無人化するのに欠かせないファーストステップであり、できるだけ早くMQ-25Aを空母に配備するのが重要だ」と主張しているものの開発遅延の影響でプログラムコストは上昇中だ。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Brandon Roberson

米海軍はMQ-25Aの開発と7機のプロトタイプ納入のため8億500万ドルの固定契約を締結したが、ボーイングは開発遅延で既に2億ドル近い損失を被っており、同機のプログラムコスト(開発費用や75機調達にかかる費用を含む)も当初見積もりの130億ドルから165億ドルに高騰中で、まだ量産段階に進むための審査=マイルストーンCにも到達しておらず、2024会計年度内に初期作戦能力を宣言するのは絶望的と見られている。

国防総省監察官は11月に発表したレポートの中で「海軍がMQ-25Aの主要テストをスキップして生産に関する重要(マイルストーンC)な決定を下そうとしている。事前テストをスキップすればMQ-25Aの信頼性が低くなり、同機の空母配備も影響を受け、最終的にプログラムコストの高騰を招くだろう」と警告し「適切なテストをパスするまでMQ-25AのマイルストーンC宣言を延期するべきだ」と勧告。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Brandon Roberson

米海軍も勧告を受けて「年内のマイルストーンC宣言や低率初期生産の契約を行わない」と回答したが、空母航空団にとってMQ-25Aの必要性は「緊急だ」とも主張している。

因みにMQ-25とF/A-18E/Fの機体サイズはほぼ同じで、空母から500海里/926km先に約15,000ポンド/約6,800kgの燃料(機内タンクと増槽×2本構成)を届けることができ、空中給油任務に従事しているF/A-18とパイロットが解放されて作戦コストと戦闘効率を高めることができると期待されているのだが、F-35もKC-46も主要テストを省略してどうなったのかを思い出せば自ずと正解が見えてくるだろう。

関連記事:米海軍、開発を進めている無人機MQ-25がF/A-18Fへの空中給油に初成功
関連記事:米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は19.3億ドル
関連記事:ボーイングが陥った固定価格の悪夢、KC-46Aの損失が70億ドルを突破

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by Petty Officer 3rd Class Noah Eidson

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コメント

    • 寧々
    • 2023年 11月 27日

    まだマーベリックは活躍するってことか

    • 朴秀
    • 2023年 11月 27日

    ボーイングが
    テストを
    省略する

    悪い予感しかしない
    国防総省頑張れ

    49
    • 58式素人
    • 2023年 11月 27日

    時間があるのかな。
    C-2を仮使用して繋ぎの給油機にした方が良いのでは。
    近日来るかも知れない中共との戦争に、
    新鋭機(おそらく、定着するまで時間が掛かる)を
    あてにして良いものだろうか。

    4
      • 名無し
      • 2023年 11月 27日

      なにゆえアメリカが日本の、そもそも輸送機を空中給油機として使う必要が?

      4
        • 58式素人
        • 2023年 11月 27日

        米海軍にもC-2はあります。
        空自のC-2とは別物ですが。

        24
        • あばばばば
        • 2023年 11月 27日

        この場合のC-2はE-2艦上早期警戒機をベースに作られた米海軍の艦上輸送機のこと。
        ただし、このC-2は1966年に生産されその総数は58機と割とレアな機体な上、現在現役なのは近代化改修された機体は38機ほど。来年から退役が始まるらしいが改修するにも年寄りが過ぎて、空中給油機への手術に耐えきれるかどうか……

        16
          • 58式素人
          • 2023年 11月 27日

          実現したとして。
          最後のご奉公でしょうか。
          そう思います。

          5
            • 戦略眼
            • 2023年 11月 28日

            V-22にも空中給油ユニットがありますよ。

            1
    • 折口
    • 2023年 11月 27日

    空母が水上艦艇に大して優位なのは、艦載機による長駆での対艦攻撃能力があるからです。艦上給油機はその艦載機の航続距離やソーティー数を決定する重要な要素で、実質的に米海軍の空母航空部隊の攻撃力に直結します。それだけにMQ-25の開発遅延それ自体が好ましくないですが、遅れてしまった以上はしっかり作って欲しいですね…

    12
    • 猫宮
    • 2023年 11月 27日

    テストを一部省略していいよと言われるとアレコレ理由を付けて重要なテストを省略するのがエンジニアだからこれは仕方ないね。

    9
      • VRTG
      • 2023年 11月 27日

      大規模プロジェクトほど、テストは細かく、多くやりたいですね。
      問題発覚が遅れるほどに修正項目が増えてデスマーチになるんですから。
      現実は予算や納期との兼ね合いで・・・・・・

      7
      • 来栖
      • 2023年 11月 29日

      担当範囲は異なりますが、買うものがコストになるので金かかるのは早く言ってほしいですね。。。

    • のー
    • 2023年 11月 27日

    とはいえ、軍備は必要な時に無ければ何の意味もないですから。判断は難しいところです。
    問題だらけでボロボロで稼働率が低く、コス上昇に泣いても、それでも無いよりははるかにマシですわな。

    0
      •  さ
      • 2023年 11月 27日

      とは到底言い切れないよ
      致命的な問題を持っていたりしたら、何の意味もない

      極端な話、格納庫内で突然爆発するとかだったら、無い方がましでしょ

      11
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2023年 11月 27日

    テスト省略、ダメゼッタイ
    炎上…デスマ…クソ品質バグだらけで納品…再炎上…うぅ、頭が割れるように痛い!

    「軍用品だからテスト省略しても大丈夫」な訳ないと思うのですよ

    15
    • 名無し
    • 2023年 11月 27日

    こいつらいつも試験せずに取り敢えず生産しようとしてるな

    14
    • hoge
    • 2023年 11月 28日

    しかしなんだろう、当初の予定通りに開発完了した兵器って最近何かあるんだろうか?
    (まあ兵器に限らず遅延がデフォなのが世の常とはいえ)

    3
    • けい2020
    • 2023年 11月 28日

    議会にボーイングの空約束を信用するのが居なくなったって事だろう
    (ボーイングの犬になってる議員は相次ぐやらかしで発言力皆無になってるだろうし)

    米軍にはボーイングの手下がまだまだ居そうだが、言えば言うほど信用力がなくなる

    4
    • おにぎり
    • 2023年 11月 29日

    海軍さんは自前の新型空母で痛い目にあってる最中じゃありませんでしたっけ?

    2
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