米海軍を悩ませ続けるフリーダム級沿海域戦闘艦の建造も遂に最後を迎え、4月15日に16番艦「クリーブランド」が約3,000人の関係者や招待客の前で進水したのだが、タグボートと派手に接触して損傷していしまい注目を集めている。
参考:USS Cleveland Damaged After Crashing Into Tug During Launch, Navy Admits
普通なら期待されていないフリーダム級の進水式を取り上げるメディアはないのだが、、
米海軍が調達中の沿海域戦闘艦はロッキード・マーチン設計のフリーダム級とジェネラル・ダイナミクス設計のインディペンデンス級があり、どちらも冷戦終結後の環境下=低度紛争の沿海域で使用することを目的にした艦艇で、多様化する任務を単一設計の艦艇に全て詰め込むとサイズが大きくなり調達コストが高騰=数が揃えられない問題を解消するため「任務に応じてコンポーネント化されたミッションパッケージ」を交換することで柔軟性と調達コストの両立を目指していた。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication 2nd Class Aaron Burden/Released フリーダム級
沿海域戦闘艦向けのミッションパッケージは対水上戦、対潜戦、対機雷戦が予定されていたものの、対潜戦と対機雷戦のミッションパッケージ開発に失敗、もう大国間の戦争=高度紛争は発生しないという前提も中国の軍拡で破綻し、ミッションパッケージが欠けた沿海域戦闘艦の固定武装は貧弱過ぎて中国海軍との戦闘に適さず、米海軍は方針を転換して対艦ミサイルなどの固定武装の搭載を計画したが沿海域戦闘艦はサイズが小さいため設置場所を確保するのに苦労している。
さらに深刻なのは米海軍が要求した「最大40ノットを実現するための推進システム」や「安定性や高速性に優れた三胴船(トリマラン)構造」といった未成熟な技術群で、フリーダム級の推進システムは設計が未成熟だっためギアボックスのクラッチベアリングが想定以上の摩耗を引き起こして同艦の信頼性や運用に深刻な影響を及ぼし、インディペンデンス級は三胴船が及ぼす船体構造への影響を過小評価していたため亀裂問題(Sea State4での速度制限)に悩まされ、米海軍は両艦の早期退役を進めている最中だ。

出典:Public Domain インディペンデンス級
米海軍は未成熟な技術をプロトタイプで検証することなく大量に発注したため調達を中止することが出来ず、次々と引き渡される沿海域戦闘艦を前に海軍長官が「この艦は役に立つ的なこと」を述べるのが通例だが、沿海域戦闘艦の年間運用コストは約7,000万ドル(海軍は5,000万ドルと主張)でアーレイ・バーク級駆逐艦(約8,100万ドル)に匹敵し、議会の公聴会で海軍作戦部長が「役に立たないフリーダム級とインディペンデンス級の早期退役を認めてほしい」と要請するためメディアのネタになることが多い。
とにかく米海軍は「一刻も早く沿海域戦闘艦と手を切りたい」と考えているのは確実で、16隻も発注してしまったフリーダム級の最終艦=クリーブランドの進水は「無駄なポジショントークをこれ以上しなくて済む(厳密にはインディペンデンス級の進水が2隻分残っている)」という意味だが、4月15日に約3,000人の関係者や招待客の前で進水したクリーブランドは牽引していたタグボートと派手に接触してしまった。
米海軍はクリーブランドが損傷したと認めたものの「損傷箇所が喫水線よりも上の部分だったので浸水は発生していない」と主張したが、メディアは「クリーブランドの修理にどれだけの時間と費用がかかるのか分からないが、今回の事故は沿海域戦闘艦計画の脚注に加えられる可能性が高く、この計画の問題を示す悲しい事実だ。一方で計画に批判的な人々は『事故を引き起こした進水方法がフリーダム級の最後を締めくくるのに相応しい方法だった』と評価するかもしれない」と自嘲気味に伝えている。
普通なら期待されていないフリーダム級の進水式を取り上げるメディアはないのだが、同級の最後を飾るクリーブランドは別の意味で注目を集めてしまい、何とも言い難い、、、
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※アイキャッチ画像の出典:Tristan Heitkemper
コツンですんで良かったやんけ
万年ドック入りのクズネツォフよかマシやんけ
オワコンロシア海軍と比較された時点でオシマイなんよ……。
実は損傷が重大だったて事で早期退役させると、みんな幸せになれる
現場の人もやる気が出なかったんでしょうね。
浸水式って言葉が思い浮かんだけど、浸水はしてないのか(笑)
まあ、時代に取り残された、このクラスらしい最期ですね。
元々は似たようなコンセプトだったけどもがみは今ん所順調そうで何より
船底に浸水するとかいう噂もあるが、少なくともコンセプトとしてはフリーダムインディペンデンスの課題をしっかり取り込んでいるように見えるね
調達を分けたことによって発展型の導入に遷移することができたことも素晴らしい
後発の利点を活かすのは良いことだ
短胴式のフリーダム級はさておき。
三胴船のインディペンデンス級は、
船体強度の問題もあるけれども、
艦内スペースに不足があるとは思えないのだけれど。
ずっと不思議に思っています。
>米海軍は未成熟な技術をプロトタイプで検証することなく大量に発注したため調達を中止することが出来ず
中国海軍とは真逆ですね。
中国海軍はプロトタイプを少数生産して部隊運用し、その後改良して量産するという流れですが、米海軍だけが先走っているのか。
というかそれが普通というか定石のはずなんだけどねぇ…
海自でも機関含めて新装備は大抵あすかに乗せてテストしてるし…
どうしてああなった
海自の違法建築船あすか()
巨大プロジェクトは一度動き出すと方向転換しづらいということでしょうね。
真珠湾攻撃以降、戦艦より空母と認識して建造中の大和3番艦を空母に、4番艦を中止にした我が国は意外と柔軟であったのでは?
日本は後世で言われてるような大艦巨砲主義じゃなくて艦隊決戦主義なので…
ミッドウェー以降気が狂ったように5500tの川内型にまで空母化案が出るぐらいにはヒステリックになってたんだ
実はフリーダム級とインディペンデンス級のLCS2種も、当初プロトタイプを2隻ずつ建造してテスト運用してから何方かを採用して量産する予定だったので、ハッキリ言って中国海軍よりも酷いとしか……
これ発注させた大本は米議会や
いつぞやの「ミサイル万能論」とか、声(物理だけではない)の大きい人が徒党を組んで何か始めると止まらない傾向があるのでしょうか。
CAD/CAM全盛期に「デジタルモックで全部OK!」と夢を見たツケを、もうしばらく祓い続ける事になるのだとしたら、やはり「現場百回」は正しかったのですね……
未熟というだけでデジタル化が悪というわけでもなし…
で、あったらこんなデジタル隆盛時代になってない
マクナマラが草葉の陰で泣いてるよね
こいつらの事があるから、最上型のギアボックスに関しては、正直ちょっと不安がある
逆にCODAGのギアを物に出来たのであれば、コスト的に便利そうではある
就役して暫く経つし、問題あると聞かないなら大丈夫かな…
ナショナルジオグラフィックで、「これぞ次世代の戦闘艦」って特集組まれてたのが懐かしい
今は取材されたフリーダムもインデペンデンスも退役してしまった
あの番組に登場した乗組員は今何をしているんだろう…
と言うか、これって船台式の進水じゃなくてドック式進水なら起こり得なかった事故でしょ……
日本では1905年に呉海軍工廠で後の大正天皇(当時は皇太子)臨席の下、装甲巡洋艦(後に巡洋戦艦)筑波の進水式が挙行中、船台に異常が起きて進水式が延期されたと言う事故が有って以降、大型軍艦の多くはドック建造へ向かって行ったのだけど、それでも戦艦武蔵等は船台で進水したし、米国だと川沿いに在る造船所はドックでは無く船台式進水だから切り替えるのは難しいか
真っ直ぐ出せるように川幅広げるより、造船所移転する方が簡単だったりして
川幅を広げるのは非現実的な部分が多いですが、造船所の移転だって簡単じゃ有りませんからね……
Google Map等で造船所を検索すれば分かると思いますが、造船所ってああ見えて製鉄所・製油施設と並ぶ製造用巨大インフラの典型の一つですよ
ドックや船台だって作れる海岸や川岸は限られますし、それに各種製造・組み立て施設も要るから広大な敷地が必要です
理由は不明ですが、クリーブランドの場合は真横しかも十分に距離を取っていなかったので起きた接触事故のようです。
同型艦の進水式の映像ではあんなところにタグボートはいない。艦体の進水方向の外側にいます。
いずれにしても、唖然とするほど豪快な進水方法ですね。
アメリカさん、我が国にはもがみ型ってのがありましてね…
米海軍「こっちは既にコンステレーション級をLCSの後継艦に決めて建造中だから要らん」(尚、コンステレーション級の設計のベースはイタリアのカルロ・ベルガミーニ級)
艦齢15年も行かずに退役するような200t以上ある艦船を両級併せて30隻を超える数を建造してる不思議。結局は建造打ち切りだけど早々に違約金払ってまで辞めるぐらいの方がマシだったと思うが。もがみ型の10隻建造で改良型への移行ですら遅い気もするのに、どこかで排水量増やした重武装型の改良型へのスイッチ出来なかったんかね大手術になるから再度の検証が必要だろうけど無駄な戦力増やして苦労するよりマシなはずなのに。
>早々に違約金払ってまで辞めるぐらいの方がマシだったと思う
あれよ、組織や責任者の権威を考えると退くに退けない事なんてよくある事よ
町内会や中小企業でもある事なんだから、国レベルならもっと当たり前にあることよ
ワイは都合2兆円をドブに捨ててるプロジェクトにおるけど、これ円満着地なんてできんでマジで
フリーダム級はこの手のアレだとまだマシな終わり方だと思うでー…
ズムウォルトの近未来シルエットとインディペンデンスのトリマランはSFみがあって好きだったんだけどなぁ…
ズムウォルトくんの見た目だけは好き。
浮かべて人を乗せてしまった船を遊ばせとく余裕は今の米海軍にはないでしょう。じゃあ全部スクラップしてコンステレーション級などで置き換えたいといっても今度は造船余力が足りないでしょう。遠回りでも割高でも不完全でも個艦防空とSSMと対潜水雷あたりは一通りつけて、使える船に仕立てないことにはしょうがない気がするんですよね。
おっしゃる通りではあるんですが、改装でもドックを占用する事になるので今の米にドックが用意出来るかが問題ですね
ピケット艦の様に使われる可能性も有るのではないかと思います
入力する場所間違えました。一つ上のコメントに対する返信です
現場の人間からすると、太平洋と大西洋の荒波長で船の揺れが少なくて快適なタイコンデロガ級の改良版が欲しいのではと思います。
ズムウォルト級は波にぶつかると船首が海中に潜り込んでいく船としての致命的な欠陥がありますし、フリーダム級は小さ過ぎて使い勝手が悪い。アーレイバーク級は改良するたびに大きくなる。
初めから少し大きめに作るのが、将来的に拡張性があり結果として安くなるのでは?
本邦のもがみ型、中途半端な大きさで使い勝手が悪いと乗組員から不満出ていますし。
結果としてタイコンデロガ級排水量のアーレイバーク級に落ち着く気がします。
東南アジア辺りで哨戒艦として使えばまだ戦力とならないか?
ガスタービン×2、ディーゼル×2のウォータージェット×4推進
ランニングコストが…
レーダーとVLSは十分に使えるのだから日本に鈍足洋上ミサイル母艦扱いもしくは停泊地係留の防空設備扱い、いっそ地上用として売り払ってしまうという手も…w
それなら要員も大幅に減らせて維持費低くなるかも?
アメリカの
フリーダムは
終わった
煽るにはいいな
まあポンコツ認定はしょうがないからなあ
西洋的な効率的考え方というのは逆に大いなる非効率を招く事があるっていう矛盾を生む事がちょくちょくあるからねえ…
そもそも、観点がちょっとズレていたりもする。一発で大成功させなきゃダメなバクチになってる事が結構ある。維持費も異様に低く見積もって誤魔化されていたりだとか…
本来製品ってのは難産が当たり前だし、追加コストも当たり前なんだけど、効率を言い張り過ぎる系の人たちはそこを表面上誤魔化そうとする事が往々にして見られる。
なぜなら、そうしたリスクを加味してしまうと既存の製品に対して大して効率的な話ではなくなるからだ。で、行き当たりばったりでやり始めて、問題が積み重なると責任を取りたくなくて計画を放置して逃げ出し巨大な穴を開けてしまう。調達が止まるので相乗りしようと期待してた人たちも大変酷い目にあう。
当初は問題があっても将来的に改善されるならまだ良いんだが、計画自体が放り出されちゃうとほんとどうしようもないよね…改善もコスト削減も進まなくなって高止まりして本当に問題児になる。
サムネイルが「大型艦艇の沈没から脱出するフリーダム級」かと思ったら、フリーダム級の進水でポカやってタグボートに接触した瞬間なんですね。
撮影位置的には進水直後を撮るつもりだったのでしょうが、想定外のものが撮れてしまったんですね